第2話 みゆきにとっての働く意義
秋田が姿をくらましてから、半年ほどが経ってから、すでに恭子こと「みゆき」はすでにエレガンスでは、毎日、彼女の人気で賑わっていた。彼女も幸い身体は丈夫にできているようで、少々の「鬼出勤」であっても、へっちゃらであった。
「みゆきちゃん、そんなに頑張らなくてもいいよ。女の子にも余裕があるから、もう少し余裕のあるスケジュールにしてもいいんだよ」
と店のスタッフから言われるほどであった。
店に入った頃は、ちょうどキャストに余裕がなく、嫌でも過密スケジュールになっていたが、それでも平気だったのは、
「とにかく早く借金を完済すること」
という大きな目標があったからだ。
その目標を達成するまでは、少々の鬼出勤でもいいと思っていた。最初に彼女を精神的に助けてくれたのは、彼女がデビューの時に来てくれたお客さんだった。
サラリーマン風の彼は、エレガンスではすでに顔が知られた常連さんだったようだ。人当りもいい好青年というイメージが強いだけに、男性スタッフからも信用を得ていた。みゆきを彼にあてがったのも、そのあたりを見越してのことで、
「今日は新人の子が入ったんですが、お客さんどうですか?」
と、受付で推してくれたのが、指名に繋がった。
「今日はご指名ありがとうございます」
と言っても、最初、彼は何も言わなかった。
本当に最初だったので、
――こんなものなのかな?
とあまりにもあっさりとした流れに拍子抜けはしていた、それならそれでよかった。煩わしい会話をしないでいいなら、それに越したことはないと思ったからだ。
女の子の方は、教えられたとおりに、一回一回、断りを入れるが、彼は何も言わない。何を考えているのか分からないところが気持ち悪かったが、見ている限り、悪い人には思えなかった。
一通り、サービスを終えて、まだ少し時間が余った。それは、みゆきの考えの中にあったことで、
――時間を余らせれば、彼だって手持無沙汰で何かを言ってくれるに違いない――
という思いがあったからだ。
ただ、その時間配分がこれからの彼女のペースとなり、それが絶妙なタイミングであったことで、彼女は客の人気を博していくことになるのだが、それは、一種の後日談ということであろう。
「お客さんは、このお店に、よく来られるんですか?」
ベッドで仰向けになっている彼の右側にしなだれるように身体を預けたみゆきは、そう聞いてみた。
「ああ、よく来るよ。女の子と二人きりになる時間が嬉しくてね」
「私も嬉しい」
と、みゆきは、今まで男というと、あのロクでもない秋田しか知らなかっただけに、この客の落ち着きが信じられなかった。
いい意味でも悪い意味でも、熱い体質だった秋田に比べて、明らかにいい意味でクールなこの客が、自分にとって最初の客でよかったと思ったから出てきた言葉であった。
「みゆきちゃん」
「はい?」
「みゆきちゃんにとっていい悪いは別にして、きっと君はこの仕事が向いていると思う。きっと輝けるんじゃないかって思うんだ。だから、これからもちょくちょく指名させてもらおうと思う」
という嬉しい言葉をかけてくれた。
今までの恭子であれば、そんなことを言われて嬉しいなどと思うはずなどないような淑女であったが、今は嫌であっても自分から足を踏み入れた世界。すでに後戻りはできないことは分かっているので、この言葉は素直に嬉しかった。
そもそも嫌な仕事でもなかった。人に望まれて何かをすることは嫌いな方ではなかった。そのために、好きな人の頼みということであっても、そんな気持ちが少しでもなければ、借金の保証人になどなるはずもなかった。
「相手が悪かったんだ」
と思うしかないと思って、諦めていたが、こんな仕事を紹介してもらい、決して幸せな飛び込み方ではなかったが、自分の天職ともいえるべき仕事ができるのは嬉しかった。
しかも、人に尽くしても、それで損をすることはない、一生懸命に尽くせば相手の男性は喜んでくれるし、しかも、お金迄頂ける。尽くしたことで相手を甘えさせ、最後には自分が傷つく道を選んでしまったちょっと前までの自分に、今の自分が教えてあげたいくらいである。
ただ、逆にいえば、こんなショッキングなことでもなければ、垣間見ることのできなかった世界。どんなに口で言われても、この世界に対して偏見を持っていたので、踏み入れることはなかったはずのこの世界を覗かせてくれたのは、逆にあの男に礼の一言もいってやりたいくらいだった。
もちろん、いい意味ではないのだが、今の自分の幸せそうな顔を見せつけてやり、逃した魚の大きかったことを思い知らせてやりたい。今の自分のように、金のタマゴを生む鶏になったことを、身をもって知らせてやりたいと思うのだった。
これは復讐心なのかも知れない。
だが、今の自分にそんな意識はあっても、気持ちはなかった。復讐などして、せっかくの今の生活を壊したくないという思いもある。これは現実的な意識ではなく、隠し持っている気持ちとでもいうべきであろうか。ゆっくり考えれば、意識緒気持ちは逆になっていたのである。
自分の性格を、
「相手に合わせて自分は誰にでもなれるんだ」
と、みゆきは考えていた。
みゆきという女は、明らかに恭子とは違う。みゆきの中に恭子はいるのかも知れないが、恭子の中にみゆきがいるのかどうか、恭子には分からなかった。
誰にでもなれるという気持ちが強い中、それでも、自分が好きな性格がないわけではなかった。
それは、みゆきという女が、ちゃんと人格を持った女だということを意識させるものであり、決して性格を裏返しているというわけではないことを意識していた。
「どんな性格になれる」
というのは、毎回違った客を相手にすることで、相手が好きな女性になることで、決められたその時間を、恋人のように過ごせるという気持ちから生まれたものである。
快楽は肉体だけではなく、感情からも生まれてくると思っているみゆきは、いくら決められた時間とはいえ、恋人同士のような気持ちになることが、心身共に快楽を得られる時間だと信じている。それは自分だけでなく、相手も同じだった。そういう考えを持っていることが、彼女の人気を押し上げる一番の理由だったのかも知れない。
サービスが終わったあとにこの店では客にアンケートを取っていたが、いつもみゆきは満足度が百パーセントに近かった。皆最後の要望、感想欄に、
「恋人気分を満喫できた」
というようなことを書いてくれていた。
それを見るとみゆきは、
「お客さんと気持ちが一緒だったということを思い知らせてくれるアンケートなんですよ」
と言って、喜んでいた。
こういうお店にいて一番嬉しいのは、
「お客さんが満足して帰ってくれること」
というベタな答えをいつも言っているが、まんざら営業トークというわけではない
心底そう思っていた。だからこそ、借金が返せても、続けていくことを自らで望んだのだし、もっともっと、男性を知りたいと思うようになっていたのだ。
彼女にとっての半年前と今とでは、まったく世界というものの見方が変わっていた。ただ、見えていたものに違いはないはずで、気が付くか気が付かないかの違いだけである。みゆきが復讐を考えるようになったのは、借金を完済した痕であったが、それも、後から思えば、最初の計画通りだったように思えてならなかった。
みゆきは、焦ることはしない。だから人に彼女の考えていることが分かるということは絶対になかった。それでも、
「みゆきは、分かりやすい性格だ」
と言われるのは、心底嬉しい毎日を送っているからであって、彼女の本心を知る者は、この世のどこにもいないだろうと思われた。
そんな思いを隠して日々客にサービスを施しているみゆきだったが、彼女の中で、好きになるような男性があらわ得ないかどうかという危惧は当然あった。元々尽くしたいタイプなので、好きな人が現れれば、どうなるか分からないと思ってもいた。そういう意味で、頭の中で復習の二文字が残っているのは、好都合なのだ。
復讐したいという思いがあるからこそ、好きになりそうな人が現れても、その人に本気になることはないだろうという思いがあった。逆に、
「そんな人を利用できないか?」
とまで考えている自分がいて、さすがにそこまで考えていると、自分が怖くなってくるのであった。
そこまで考えていくと、
「もし、本当に復讐を思い立った時に利用できそうな人間を、今のうちに物色しておくこともできないだろうか?」
とも思えてきた。
もちろん、復讐などというのは、絵に描いた餅であり、真剣に考えているわけではない。好きになる人が現れないようにするための予防措置だと思っていただけであって、意識の奥に閉じ込めておくだけのものであった。
そんなことを考えていると、どんなタイプの男性が、女として扱いやすいタイプなのかということを考えるようになった。
こんなお店にいると、いろいろな男性に合わせて、相手の好きなタイプを模索してそういう女性を演じることに長けてきたが、実際に自分が演じる女性を、男性がどのような目で見ているかというところまでは言及して見たことはなかった。一度だけの客であれば、それ以上は考えるのも難しいのかも知れないが、リピーターになってくれて、何度も顔を合わせていれば、お互いに気心も知れてくるというもの、要するにそこまで考えるか考え内科の違いだけである。
今までのみゆきは、
「相手が何をすれば喜ぶか?」
ということを中心に考えていた。
プレイに関してはそれでいいのだろうが、何度も来てくれるお気に入りの客に対しては、相手がどれだけを求めていないというのも分かっている。
もちろん、彼女にしたいなどと考えている人はそれほどいないと思っていた。他の客は分からないが、自分のところに来てくれる客は、その時の癒しをお金で買っているという意識があるようで、口には決して出さないが、だからこそ、お互いに痒いところに手が届くというものである。
もし相手を彼女のように考えてしまえば、必ず相手に何かを求めてしまうはずである。こういうお店なのだから、求めるものは決まっているのだが、それ以外のこととなると、もっと深く相手を感じることでないと求められないものを求めてしまうというのは、ルール違反なのであろう。
それは、みゆきも客の方も分かっているはずだ。だから、主背のお客さんと深い仲になることは難しく、
「復讐に利用できる男」
を探すなど、土台無理なことであろう。
何しろ、お客様というのは、確かに中には、女性にモテないので、お金で癒しを買いたいと思ってやってくる人もいる。逆にそんな人たちは、自分に少なからずのコンプレックスを持っている。お店では営業から恋人気分になってくれるが、お金が絡まない対等な立場になると、自分が圧倒的に不利だということを認識できるはずである。それが自分に対するコンプレックスであり、今まで何度そのコンプレックスのせいで損をしてきたのかを分かっていればいるほど、自らコンプレックスをほじくるようなマネはしたくないだろう。
実際にみゆきの客の中で、そういう話をしてくれた人もいた。
「高嶺の花だからこそ、お金が出せるんですよ。モテまくっていて、女性に困らない立場であったら、ソープにはこないでしょうね。でもね、それは最初からそういう人間だったらという意味であって、僕がということではないんだよ。もし、僕が何かの変異でもあって、モテまくるようなことになっても、きっとまたこのお店に来て、みゆきさんに逢いに来るんだと思いますよ」
と言っていた。
「どうして?」
漠然とではあるが、何が言いたいのか分かってはいたが、聞いてみた。
「だって、僕はこのお店の、そしてみゆきさんの魅力を最初に知ってしまいましたからね。だから、自分がモテることと、このお店でお金を出してまで貰える癒しとは違うものだと思っているんですよ」
と言っていた。
「皆が皆、そんな気持ちになるとは思えない」
ときっと他の人は言うだろう。
それはなぜか分かっている。その理由としては、
「自分一人が幾人もの人を相手にしている」
と感じているからである。
みゆきのように、相手によって、相手が好きになりそうなキャラクターになりきれる人であれば、相手はみゆきに対して、同じ立場で見ていることになる。つまりみゆきから見れば、客は皆公平なのだ。
他の人は、自分の性格だけで見ているから、客に対して好き嫌いが生まれてくる。そんな好き嫌いが偏見になったり、贔屓目になったりしてしまうだろう。相手にもそんな気持ちは伝わるもので、一度嫌だと思った客は、たぶん二度と彼女を指名することはないだろう。一緒にいた時間の中で、きっと自分が嫌われているのが分かるからだ。
相手をお客としてしか見ていないのは、みゆきも同じであるが、みゆきのように、
「せっかくだから、客と一緒に楽しみたい」
というくらいの気持ちがあれば、そこに余裕が生まれ、お金を払う意義をお客も持てるのではないだろうか。
客の中には、
「最初の頃、風俗に行くとね、帰りに店を出るでしょう? その時に何ともいえない気持ちになるんだよ。それがお金がもったいなかったという気持ちであったり、変な罪悪感であったりするものではないんだけど、まったくそうではないと言い切れないんだ。それらのやり切れない気持ちをどこに持って行っていいのか分からずに、気が付けばお金が財布からなくなっていることに違和感を覚えるだ。別に悪いことをしているわけでもないのに、どうしてなんだろうな?」
と言っている人もいた。
「それは、割り切った時間を過ごした人にしか味わえないものなんじゃないかしら? 例えば好きになった人がいて、デートするとするでしょう? その時には自分からお金を出しても、別に違和感はないでしょう? それはきっとあなたが、男が出すのが当たり前と思っていて、それこそ付き合っている人とのデートだという思いがあるならなんですよ。だから、気になる女性がいて、その人に告白する。そして相手も了解してくれればデートくらいにはいくでしょう? それが普通の恋愛ですよね? 思春期になるまではそんなことを嬉しいとも何とも思わなかったのに、思春期のある時からそれを感じるようになる。恋愛というもののフォーマットが頭に刻まれているんでしょうね。当然、ドラマや映画、それに小説やマンガでも、恋愛に対しての知識は詰め込まれる。でも、基本的には皆同じ経路を通るわけですよね。それが円満に終わっても、失恋で終わっても、その経路は決まっている。こうでないといけないというようなね。その思いがあるから、それとは違った欲情が先にくるような行為には抵抗があるんですよ。一緒の免疫のようなものがないから、そして風俗でお金を出して女性を買うということが悪いことのように思いこまされているから、そんなやり切れない気持ちになるんじゃないかしら? 私はそんな風に思うんだけど、違うかしら?」
と、みゆきは話した。
「ああ、そうかも知れないな。思い込みというのがあったのは分かる気がする。でも男に限らずなのかも知れないんだけど、欲望を一度吐き出してしまうと、その後に残るのは虚脱感であったり、憔悴感しかないんだよ。きっとその生理的な感覚がたまらないいたたまれなさを感じさせるんじゃないかなって思うんだ」
と、その客は言った。
「そういう意味でも、恋愛と欲望とはまったく違うものだって考えてしまうのかも知れないわね。でもそうしてしまうと、性風俗を商売にしているような人たちは、そんな人間の感情を巧みについてくる。騙すわけではないんだろうけど、性風俗という業界が場合によっては、「社会の敵」とでも思われるような場合に、逆に儲かる時があるようなのよ。社会操作とまではいかないけど、人間の心理や生理現象を商売にしていると、気持ちの反対部分に意外とその人の本心が隠されていることもあるので、そこを狙っている商売もあるということを覚えておくといいわよ」
と、みゆきは語った。
「僕には難しいことは分からないけど、今ここでこうやってみゆきさんと一緒にいることは間違いのない真実なんだから、帰りにたまらない気持ちになることはないと思うんだ。それはあくまでももっと若い頃のことであって、今のように三十歳も後半になると、少し考えも変わってくるというものだね」
と、客は言った。
いつも来てくれる彼は、みゆきがこの店に入るようになってからは、結構な頻度で来てくれているようだ。
ある時、
「いつも来てくれるのは嬉しいんだけど、他の女の子にも相手をしてもらってもいいじゃないの?」
と訊いたことがあった。
彼がいうには、
「今までに何人かに相手してもらったことだってあるんだよ。でも、今の僕はみゆきさんがいいんだ」
と言ってくれた。
その後彼が言うには、
「せっかく二人きりでいるのに、他の女の子の話題を出すのっていけないことのように思っていたけど、みゆきさんは、そのあたりを気にしないんだね?」
と言われた。
「あら、そう? 私はあまり気にならないわ。逆にいろいろと訊けるのは面白いかも知れないわね。でもね、あなたの言っている、他の女の子のことを話題にしないようにするというのは、少し意味が違っていると思うの。どういうことかというとね、問題は話をする人と訊く人の心構えだと思うの。こういうお部屋で二人きりになると、お互いに恋人気分になる人だっていると思うの。それで恋人相手だと思って、普段なら絶対に話さないようなプライベイトな話をしてしまわないとも限らないでしょう? その時に話をする人がどういうつもりで話してくれたのかを見極めていないと、本当に他の人に話してはいけないことであっても、やはりこういう場所という意識から錯覚を起こして、相手が話してくれたんだからという思いも手伝ってか、自分も他の人に広めてしまう。そして、今度はそれを聞いた人も、広めていい話だと勘違いして、また広げてしまう。そうなってくると、収拾がつかなくなって、結局尾ひれのついた何の根拠もないデマが、独り歩きしてしまうことになるのよね」
とみゆきがいうと、
「うんうん、その通り。そういう意味ではこの場所って、解放的になれそうで、気を付けなければいけない場所でもあるんだよね」
と、彼も言った。
客とすれば、普段一緒にいられない女の子と一緒にいられることを喜びとして、お金で繋がっているという意識があるせいか、異様な雰囲気を感じることだろう。
だが、お金で繋がっていると思うことが、却ってこの雰囲気の異様さを現実に引き戻すことができる感覚なのであろう。
そういう意味では、若かりし頃、風俗に行くことに罪悪感を感じたという感覚は、子供のようであり、一度は通らねばならない関門のように見えるのだ。
みゆきと、恭子が同一人物であるということは、なかなか見分けられる人は少ないだろう。店のスタッフですら、街中で恭子を見て、それがみゆきだと分かる人は少ないような気がした。
「世の中は広いようで狭い」
と言われるが、毎回、お店の出勤が被っている人がいるのに、一度も会ったことがない。店舗系ではないデリバリー系の風俗であれば、待機する場所が、会社の事務所の一室にあったりするので、女の子たちが顔を合わせることも少なくないだろう。
店舗系の店よりも、デリバリー系の店の方が、顔出しが多いような気がするのだが、気のせいであろうか、顔も分かっているので、顔見知りになることも多いだろうが、店舗系の店だと、その日の勤務時間は、その部屋はその子のものである、つまり、待合室など最初からなくてもよく、待合室を使うのは、むしろ客の方である。
客の中には待合室で待たされるのも一つの快感のように思っている人もいる。まるでマゾのようだが、待っている時間がドキドキするという気持ちも、女の子たちには分かっている。
店によっては、客が少ない時間帯であれば、女の子が待合室迄迎えに来てくれるというサプライズもあったりした。基本的には、部屋の前で女の子が待っているか、階段の途中に女の子がいるなどという程度のパフォーマンスにすぎないが、多いのだろうが、この店は高級店という触れ込みにおごれることなく、客を楽しませようとするところは、実によくできている店であると、感心させられるところであった。
みゆきは、店舗系に所属しているので、今までに何度か待合室に迎えに行ったことがあった。
この常連客に対しては、、毎回待合室でお出迎えをしている。
彼の来店時間が、いつも客の少ない時間帯だからであって、どうやら、仕事が不規則なシフトの中に組み込まれているということであった。
「僕がみゆきちゃんをいつも指名するのは、いつも待合室迄来てくれるだろう? それが嬉しいんだ、今までだったら、待合室に誰もいなくても、待合室迄来てくれない人もいたからね。そういう意味で、みゆきちゃんは特別なんだ」
と彼がいうと、
「そんなことで特別なの?」
と笑いながらみゆきがいうと、
「何言ってるんだよ。言い方は語弊があるかも知れないけど、僕はお金を払っているんだよ。だから、ちょっとした小さなことでも、大切に思う。それはねお金を払って大切な君との時間を買っていると思っているから、お金を払ってでもソープにくることに対して違和感や罪悪感を感じないのさ」
と、彼は言ってくれた。
――やはり、このお客さんは特別な存在なんだな――
と感じたのだ。
そして、これがみゆきにとっての、
「ソープで働く意義」
となったのだ。
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