第16話帆南ちゃんを助けて‼︎

 新葉だって、思いは同じだ。海斗君の事も心配で堪らない。音葉の声が聞きたい。岩爺や椛婆ちゃんの声も聞きたい。第一自分の置かれている立場からして自分が生きて帰れるかどうかすらわからない。これで声を聞く最後のチャンスかもしれない状況の中、ただ只管順番を待った。直ぐにでも、変わって僕にも話をさせて声を聞かせてと、そんな思いばかりあった。けれど、新葉はそうはしなかった。と、言うよりそうは出来なかったのだ。 早葉の只事では無い心配の電話に僕に変わってと言った言葉は掛ける事は出来なかったのだ。水葉だって想いは同じだろう。 早葉の心が落ち着くまでは電話に出る事は断念する他無かった。


 新葉がそんな想いをしてる中、


「何の音だ。どうした」


 スマホに呼び掛ける早葉の声を聞いて新葉は不安を覚える。思わず、“どうしたの”と、声を掛けてしまいそうになる口を手で押さえて耳を澄ます新葉。海斗達が乗ったトラックから下を覗いて見ると濁流が見えた。こんなに高い所まで水位が上がって来るとは予想もして居なかった。


「見て見ろ。岩ちゃん。こんな所まで水が上がって来て居たぞ。街は大丈夫なのか。この水の水位で流れたら、西組まで流れ込んで行くぞ。他の住人は逃げたとしてもあそこの住人は高い場所だから、避難して居無いかも知れないな。あそこまで上がら無いと良いが」


 加瀬の爺ちゃんはトラックを止めて言った。隣で聞いて居た岩爺は、


「何。大丈夫だ。あの辺の住人は皆んな東京の方にさ行っとる。じゃから大丈夫じゃよ」


 岩爺は胸を張って言った。


「ダメ。帆南。帆南ちゃんがいるの。お婆ちゃんと一緒に居るはずよ。私が風邪移しちゃって帆南ちゃん今日幼稚園休んでるよ。電話したら帆南ちゃんのお婆ちゃんが言ってた。今日は誰もいないから私が見るって言ってたもん。だから、ね。絶対に帆南ちゃん。お婆ちゃんと一緒に居るよ。お家で寝てるよ。お爺ちゃん。音葉どうすればいいの。音葉のせいだよ。私の私のせいなんだよ。どうしよう」


 音葉は泣きそうな顔になる。

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