第12話メモリが少ない。

 結愛は 早葉と目線を合わせる様に姿勢を低くして行き、グーのまま両手を 早葉の膝の上にちょこんと置き、


「私もだよ。私も同じだよ。心配でどうにかなりそうになる。不安で不安で胸が張り裂ける程だよ。ここに居る皆んなだって、一緒だよ。 早葉だけじゃ無いんだよ。きっと、無事にいてくれるよ。ね。 早葉。 早葉」


 言って、結愛は起き上がらせようとする。一度は沈んでいた様な頭を持ち上げ、思い出した様に 早葉は立ち上がり、今度は水葉の所へと向かった。


「なあ水葉。お前はスマホを持って無いのか。あるんなら貸してくれ。なっ。なっ」


 早葉は言って、水葉にスマホを強請る。


「無理だよ。お兄ちゃん。スマホなら音葉に置いて来ちゃったから、スマホを持って無い音葉にママからいつでも電話出来る様に私が音葉に置いて来たから持って無いのよ」


 水葉は視線を逸らして言った。


「ちっ」


 一部の望みも空しく、ただ、諦めの宣告を受けて居た。佇む早葉は、


「誰かお願いだ。オレにスマホを貸してくれ。誰か居ないのか。スマホ持っている奴」


 言って、騒いだ。ここでは学校にスマホを持って来る子はほとんど居ないのだ。だから、探しても元々難しい事だった。生徒からは誰も持って居る子が居なかったのだ。


「これを使いなさい。ただし、メモリが少ないの。連絡出来たとしても直ぐに切れちゃうかも知れない。それでも良いんなら、それであなたの気が済むんなら使いなさい。ただ、この辺一帯は停電している所があるから、繋がるかは分から無いわ」


 言って、川井未来先生が 早葉にスマホを差し出してくれた。こうなっている今、川井先生に取っても大事な連絡ツールだ。それを 早葉に渡そうとしてるのだ。 早葉はそれを奪い取る様に差し出されたスマホを手に取った。


「有難う。川井先生」


 早葉は早速スマホを使い電話した。なかなかスマホは繋がらない。焦り始める早葉。沈黙が続く。


「 早葉君出無いんなら僕に変わってよ。爺ちゃんが心配なんだ。ヤーもメーもローもボーロも無事なのか知りたいんだよ。お願いだよ」


「「「僕らも」」」


 他の生徒達も一斉にスマホを強請る。


「ちっ」


「……!」

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