第9話早葉の現実か幻かはたまた夢かの狭間で……。

 学校屋上。強風だった風も風向きも変わり、少しは弱まって来て、普通に歩ける状態になって居た。しかし、未だにゴーゴーと音がして川から流れ出して来た泥水は濁流となったまま引く気配は無かった。


「講堂(体育館)が濁流に呑まれている」


 伊藤大和は屋上から、講堂(体育館)を見下ろして青ざめた。このままではこの屋上まで呑み込まれそうな勢いで濁流の水位が増して居た。


「ゴー。ゴー。ゴー」


 見渡す限り濁流の渦と押し寄せる泥水ばかりだった。四方八方激流に呑まれていて逃げ道は無かった。ただただ、待つしか無かった。屋上まで水位が上がら無い事を祈るしか無かったのだ。雨風はまだ、あるのも事実で二台のボードを頭上で雨風避けにして居た。その中に入り込んで皆んな体温をあまり下げ無い様に固まって居た。それでも夕方近くもなって来ると冷え冷えとし始めて来た。まだ、三月になる前の時、冷えるのも当然と言えよう。そんな中、ボードの中には 早葉もいた。両足を伸ばし、頭を下げ背中を壁に押し当てたまま座って居た。


 意識は無く、眠った様な状態になって居た。 早葉は現実か幻か将又夢かの狭間で海斗を見て居た。海斗が家に取り残されている子供達を救って居る所をだ。そして、今は音葉や家族、山羊達をも救っている所をだ。しかし、本人の顔は真っ赤で、顔色も悪く、今にも倒れそうな程ふらついて見えた。


「海斗ダメだ。よすんだ」


 寝言の様に言っている 早葉。先生が早葉の体を揺すって居る。他の生徒達も同じく 早葉の体を揺すった。


「林。起きろ。起きるんだ。目を覚ましてくれ。寝たまま死んじゃうんだぞ。おい林」


 先生は激しく早葉の体を揺すって起こそうとする。まだ、体は暖かい。


「おい。 早葉起きてくれ」


 悠人も同様体を揺すって起こそうとする。他の子も同じだ。


「お兄ちゃん。聞こえてる。お兄ちゃん起きてよ。このまま眠ってたら死んじゃうんだよ。起きてよ」


 新葉は懸命に早葉に声を掛け続けて居た。長い時間を感じた。


 

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