第8話もう助ける余裕は無い。

「ゴー。ゴー。ゴー」


 強風豪雨が容赦無く打ち付けて居た。牛は牛舎が倒壊し山に逃げて行った。残った牛も加瀬家のお爺さんがトラックで何度か上へと運んで行った。この辺の山でも一番高い所だ。トラックにボーロを乗せた。ボーロは山羊のヤーメーロー達と同じ頃に生まれた時の子牛で凌太と広平の可愛がっている一番小さな子牛だ。バフン、バフンと音を立てて、トラックに乗った。


 ヤーメーローも乗せた。ヤーはやんちゃな男の子の子山羊。メーはおとなしい女の子の子山羊。ローは我が道を行く、のんびりとした男の子の子山羊。ママ山羊から生まれた三匹の子山羊だ。凌太と広平がボーロ同様可愛がって居る子山羊だ。


「メヘヘェェェェェェ」


 鳴き声をあげて、トラックに乗った。ママ山羊を乗せようとするもパパ山羊の側から、離れようとはしなかった。しかし、もう助ける猶予は無かった。


「ゴー。ゴボゴボ。バシャ。ゴー。ゴー。ピカッ。ゴロゴロゴロゴロ」


「ザバーン。バシャ。ゴー。ゴー。ゴー。ドブーン。バシャーン。ザブン」


 ここにも濁流が流れ込んで来ていて今にも呑み込まれそうな程に泥水が上がって来ていたのだ。人間もトラックに乗り込みトラックは走り出した。押し寄せて来る泥水との戦いだった。少し、トラックが進むと、


「あー。山羊さんが。ママ山羊さんが追いかけて来る。止めて」


 音葉が叫んだ。


 子山羊をトラックに入れられ連れて行かれて仕舞うと思ったママ山羊がトラックの後を追っ掛けて来たのだ。ママ山羊をトラックに乗せて大急ぎで逃げた。ここでも、間一髪で濁流に呑み込まれる難を逃れた。

 トラックは高台に向かって走って行った。加瀬家のお爺さんは安堵した。パパ山羊は板に角が突き刺さっている為、身動きが取れ無い。ママ山羊だけでも子供達の為に助けてやりたいと思った。しかし、間に合わ無い。逃げるんだ。と、岩爺ちゃんに促されて断念していた。ママ山羊は子山羊達が連れて行かれると思って、後を追って来た為、ママ山羊を救う事が出来た。

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