第3話

0.

皆んな、馬鹿なのか?ペンより剣の方が強いに決まっているだろ。


1.

その日は世界が終わる日だった。テレビやラジオのニュースは大慌てで報道をし、人々は焦り、逃げ、諦めた。

突如飛来してきた巨大隕石。それが人類の歴史に終止符を打つ。

誰もがそう思っていた。

しかし、そうではなかった。

巨大隕石が大気圏に突入した時、表層が剥がれ、なんらかの物質、または成分を撒き散らした。

そしてそれはどんどんと剥がれ落ちていき、想定より何倍も小さくなって地球に激突した。

死者は約三十億人。

人類は多大なる犠牲を払いながら、運良く、たまたま、助かった。

ただ、それは隕石被害の第一波でしかない。

剥がれ落ちた物質は衝撃で粒子状になり、生き残った人類を襲った。

目から、耳から、鼻から。

あらゆる経路で人体に入り、そして、

〈新しい力〉に目覚めさせたのだ。

不遇な少年、本木一〈もとぎ はじめ〉を除いて、、、

彼は鬼の鎧を纏い、突如として人が変化したバケモノ達と戦うことになる。失意、恐怖、絶望。その全てを乗り越えて覚悟を決めた彼の前に立ちはだかるのはどんな壁なのだろうか。


2.

夏もいよいよ本格的に始まり、外に少しでもでたら溶けてしまいそうなほど気温が高くなってきた中。俺はとても外に出る気持ちにはなれず、居候中である天才小学生のラボの居間でゴロゴロしていた。

色々あって、学校も休学させてもらってるけど、ラボで特にやることもないしなぁ。最近、バケモノの発生も抑えめだし、本当に暇だ。

ラボの居間には大きい茶色い革製のソファが真ん中に鎮座しており、その前には大きなテレビがある。その大きさと言ったら、映画館のスクリーンのようだ。壁にはカウンターが設置され、湯沸かし機や、マグカップにグラス、コーヒーの粉やココアの粉、ウォーターサーバーが配置されていて、本当に至れり尽くせりという感じだ。ドアの近くには火気厳禁と書かれた札が見える。おそらく隣人がなんかしたのかな、、、

まあ、何はともあれ俺はやる事もないので、壁際のウォーターサーバーで冷水を汲んで、ソファに腰掛けた後、ボケーっとテレビを付けて、そのまま惰性でテレビを眺めていた。

流れているのは情報番組だ。人気のアナウンサーが最近のトピックを時には面白く、時には真面目に報道している。

しかし、報道されていたのは、「最近話題のチョコレートパフェ、若き歌姫のフェス開催決定、恐怖!街中に出ると言う雪男。」テレビ局も暇なのかと思うほど内容が薄いニュースばっかりだった。

そんな中、気になるニュースを見つけた。

火事のニュースだ。

いや、正確にいうと、火事はもう鎮火されているのだが、犯人の捕まっていない放火事件として報道されている。場所はこのラボから近所の路地裏。午後4時頃に突然火災が発生したらしい。原因は不明。現場にいた少女の話によると、金色の龍がなんとかかんとかと事件から2日経った今日でも錯乱している模様、、、

おっと、、、この事件は見覚えがある。実際俺は事件当時その場所にいたのだ。隣人の金色の龍と共に。

いやぁ、ニュースになっちゃったか、そうか、、、困ったなぁ。いや、そのあれは、半ば事故みたいなもので、、、

、、、ダメだな。言い訳できない。俺の隣人である亮を警察に突き出そう。そうしよう。

俺がそう新たに覚悟しようとした時に居間の入り口であるドアが突然、勢いよく開く。


「おお、モノ君!ここに居ったんじゃな!自分の家だと思うてゆっくりしてくれてもかまわんぞ!その代わり、実験には協力してもらうがの。フォッフォッフォッ」


犯人のひぃおじいちゃんである天才小学生が部屋に入ってきたのだ。ひぃおじいちゃんの小学生ってもう意味わかんないけど、なんか若返りの技術を発明したすごい爺さんらしい。その割にはちょっと抜けている。


「フォッフォッフォッって今日日みない笑いかただな。サンタクロースかタレン。アンタくらいのものだろ。」

「そうかのぉ?まあ一世紀生きとるからもうしょうがないような気がするがの。」


そんな適当な会話をしながら、タレンは湯沸かし機を手に取り、インスタントコーヒーを入れ始める。

テレビは変わらず、放火犯の話を流している。軽傷者が数名いるらしいが、死者はゼロ。本当に誰か死んでたらどうしようと思ったものだが、心の底から良かった。その命を背負える覚悟は今の俺にはなかった。

しかし、死者がゼロという点。良かったには違いないが違和感がある。だってゼロなはずがないのだ。俺が、バケモノになってしまった人を殺してしまったはずなのだ。

他にも違和感がある。そのバケモノの事がニュースで一切触れられていない。ただ、亮がセカンドで燃やしてしまった事象だけがニュースになっている。


「、、、タレン?ちょっといいかな?」

「何じゃ?」


タレンはコーヒーが入ったカップを持ちながら、俺の隣にちょこんと座る。


「いやさ、タレンも知っての通り、2日前に戦ったじゃん。あの事がニュースでやってるんだけどさ。これ、バケモノに関する事が一切やってないんだよね。なんでだろう。」

「あー、これかぁ。ここまでの報道規制ができるのは恐らく、セカンドの力じゃろうのぉ。」

「あー、やっぱり?でも、こんなことまでできるなんて凄いねぇ。セカンドは。よく分かんないけどね。」


なんとなく、言った言葉に対し、隣のタレンの目の色が変わる。


「分かんない、、、じゃと?」

「え、ああ。俺、セカンドないし、感覚がよく分かんないっていうか、、、」

「この、天才異能学者、タレンの前でセカンドについて分かんないと申すのじゃな?」

「まあ、はい、、そうですね、、、」

「けしからん!!!」

「ひぃ、ひぃぃい!!なんて迫力のある小学生だ!」

「儂の若いころは分からない事があったらそのまにせず、直ぐに辞書を引いて調べておったというのに、おぬしは分かんないままにして放っておいておるんじゃな!なんて不届きものなんじゃ!」

「はい、すみません。」

「ぬぅ!仕方あるまい!こうなったら!」

「こうなったら?」


タレンはソファから立ち上がり、ポージングして言う。


「タレン先生の!セカンド学の授業!開講じゃー!!!」


3.

急に始まったタレン先生のセカンド学。

タレンは意気揚々と授業の準備をし始め、別の部屋からホワイトボードをガシャガシャ言いながら運んできた。しかし小さい身体では大変だったようで、息が上がっている。


「ハァ、ハァ、では始めよう。」

「タレン、取り敢えず休憩したら?」

「うるさい!一度決めたらやり切る。そうやって儂は実績を積んできたのじゃ!」

「それは素晴らしい事だけど関係ある?」

「それと!今から儂の事はタレン先生と呼ぶんじゃ!分かったか!」

「はぁ、分かりました。タレン先生。」

「よし!じゃあまず最初に!今日は七月十一日だからー。モノ君!」

「先生。俺しかいないです。」

「ええい、気にするな。やってみたかったのじゃ。モノ君!おぬしはセカンドとはどんなものだと思うておるんじゃ?」


タレンは問うてくる。


「、、、そうだな。俺がまだ小さい時に降ってきた隕石のせいで俺以外の人が手に入れた異能力?かな。」

「あー、やれやれ。そんな程度の知識しかないとは雑魚じゃな。雑魚。海に帰ってお魚さん達とお遊戯会でもしとったほうがいいんじゃないか?」

「タレン先生。早退します。」

「あー!!!すまない!言い過ぎた!」

「しかも、別に俺が言った事間違えてないでしょ!」

「まあ、そうじゃな。100点のテストでいったら、45点くらいかのぉ。」

「あー、平均以下なのね?」

「ああ。そもそもセカンドという名前は儂が命名した事はしっておるだろうが、この名前も隕石による二次被害セカンドという意味なんじゃよ。」

「へぇ。」

「そしてな。その二次被害はおぬしを除いた、全ての人類に与えられた。まるで持ち主の願いに応えるかのようにの。」

「、、、願い?」

「そうじゃ。これは世界各国でも、儂レベルの天才しかまだ知らない大発見なんじゃが、セカンドはその持ち主の願いを叶えるかのような能力になっているのじゃ。」

「マジで?それは凄いな!、、、でも、あれ?」

「ん?どうしたんじゃ。モノ君よ。」

「でもそれだったら、お金とか暴力とかの能力が多いはずじゃない?でも、現実は結構地味な能力の人も結構いるじゃん。」

「ああ、それに関しては想像力が関係しておると儂は推測しておる。」

「だれもお金が欲しくないって事?」

「あー、違う違う。生徒の物分かりが悪いと、先生が困るんじゃよねぇ」

「じゃあ何なんだよ!」

「はいはい、そう慌てなさんな」

「、、、うぜぇ」

「ここで言う想像力とは具体的に想像できる力の事を指しておる。実はセカンドにはある程度の具体性のある願いが必要なんじゃ。お金が欲しくても、何円くらいをどういう風に手元に得るか、そこまで具体的に想像している人は多くなかろう。仮に世界征服したい馬鹿者がおっても、まるで具体性がないと言う訳じゃ。」

「なるほどねぇ。」

「ここで応用問題じゃ!」

「おお。」

「今日は七月十一日だからぁー。1×1でぇー。」

「先生。もうお腹いっぱいです。」

「、、、じゃあ。モノ君。」

「はい。」

「影響力の高いセカンドを持っているのは、子供でしょーか!大人でしょーか!シンキングタイムは10秒!さあ!答えるんじゃ!」

「え?えっーと。大人?」

「ブッブー!正解は子供でしたー!」

「はぁ。そうですか。」

「子供の方が大人の萎れた想像力じゃ出来ないアイデアを生み出せるからのぉ。よって突拍子もない。危険な能力も子供が持っている率が高いんじゃ」

「へぇーーー」

「おぬし。飽きてきたじゃろ。」

「、、、だって。俺。セカンド持ってないし。」

「じゃあ。無能なモノ君にも興味がある話をしてやろうじゃないか」

「俺が興味のある話?」

「そうじゃよ。じゃあその話に行く前に第二問じゃ。」

「はいはい。」

「セカンドは身体のどの部分に宿ると思う?」

「、、、え?そりゃ、なんか。そういう臓器とか、あるんじゃないの?」

「ブッブー!」

「そのブッブー止めろや。」

「正解はセカンドが影響する場所に宿るでした。例えば亮は両手にセカンドが宿っておるし、儂のセカンド地球の本棚ジョーカーインザパックは知識や知能を底上げする力があるんじゃが、このセカンドは脳に宿っておる。」

「へぇ。でもそれが何?」

「もし、このセカンドが宿った部分を他者に移植したらどうなるかのぉ?」

「あ!まさか!セカンドが使えるようになるのか!」

「今日初めてのピンポンピンポーンじゃ!」

「つまり、俺もセカンドが使える可能性があるって事だよね!」

「ああ、それは無理じゃな。無理無理。」

「、、、え?」

「だって、セカンドが染み込んでるパーツじゃぞ?ほぼほぼ確実に酷い拒否反応がでるだろうのぉ。最悪死ぬレベルものがの。」

「えぇ。」

「まあ、死ぬ前に一回試したいっていうならしてやらん事もないが、やめといた方がいい。」

「、、、そ、そうか。そうだよな、、、」

「よし、話したい事も終わったし、これにて儂の授業は終わりじゃ!起立!気をつけ!ありがとうございましたなのじゃ!」


タレンは落ち込んでいる俺を無視して、挨拶を済ませ、結局使わなかったホワイトボードを片付けようとする。


「あ、タレン先生!質問あるんだけどさ。」

「ん?どんな質問じゃ?」


タレンは振り返ってこちらを見る。


「俺さ。小さいころから、テレビの変身ヒーローに憧れてさ。ノートとかに書いてみたり、ヒーローごっことかした事もあるくらい、ずっと具体的に願っていると思うんだけどさ。」

「うん。」

「なんでセカンドないの?」


タレンはしっかり俺の目を見て、こう言った。


「儂にも分からん。」


4.

街の端っこ。薄汚れたボロアパートの一室で話し声が聞こえる。部屋の中には少年と少女が一人づつ。それに縞々の服を着た、セールスマンが一人。


「なあ、アンタ。約束は守って貰えるんだよな。」


どうやら揉めているようだ。


「落ち着いてよ。ウサちゃん。ちゃんと守るって。ボクって信用がないねぇ。」

「、、、そのウサちゃんってのを止めろ!右左切 一葉(うさぎり いちば)だ!2度とふざけた名前で呼ぶなよ。」

「はいはい。で結局どうだったんだい?なんか分かったかい?」

「、、、妹が調べてくれた。湊(みなと)説明してくれるか?」


右左切が呼ぶと、湊がゆっくりと喋り出す。

彼女はどこかで見た事がある風貌をしていた。


「うん。お兄ちゃん。みてきたよ。あたらしくでてきたのは龍の格好をしている人だった。それで、火をね。めっちゃボォォォ!ってしてたんだよ。」


そう、彼女は火の海の中、亮が無理矢理救った少女だったのだ。


「へぇ、ミナちゃん。偉いねぇ。ボクも誇らしいよぉ」

「チッ、適当言いやがって。」

「じゃあ、ミナちゃんの情報に免じて、今回は特別に報酬をあげちゃおうかなぁ?」

「本当か!」

「本当も本当。ダァーイ本当。ウサちゃーん。じゃあ診察するねぇ?」

「、、、ああ。」

「病気の様子はどうだい?」

「、、、よくない。」

「へへへ、どういう風に?」

「知ってるくせに、面白がりやがって!見てろ!」


右左切が苛立って立ち、深呼吸をし始める。

すると、身体がみるみる内に大きくなっていき、全身に透き通るような白い体毛が生え、頭には長い耳が伸びてきた。足はより、強靭になり、特徴的なギザ歯はより鋭くなっている。

そして、変化が終わると、右左切は筋骨隆々なウサギの獣人のような見た目に変化していた。


「グルルルル、、、やっぱりダメだな。抑えてないとこうなっちまう。」

「ねぇ、身体は痛くなぁい?苦しくなぁい?ボクは楽しい!」

「痛えし、苦しい。」

「へぇ、そうなんだ。じゃあいつもの出しとくねー?」


そういうとセールスマンはゴソゴソ鞄の中を漁る。そして何かを掴み、ニッコニコで取り出したのは拳銃だった。


バンッ!


拳銃から発せられた弾は右左切の胸の辺りに命中する。

撃たれた右左切はそのまま意識を失ってしまった。


「はい!投薬かんりょー。じゃあ、また今度、仕事お願いするからよろしくねえー。バイバーイ。」


セールスマンはそういって、部屋から出ていった。

部屋に残ったのはウサギのバケモノと一人の少女。ウサギのバケモノはゆっくりではあるが少しづつ縮んできているようだ。


「湊、、、ごめんな。こんな、事に、付き合わせてしまって、、、兄ちゃんが、変な病気にかかるから、、、」


寝言のように、右左切は気絶しながらも喋っていた。

打って変わって、アパートから出たセールスマンはあいもかわらずニヤニヤしていた。


「フヘヘへへ、ウサちゃんはバカで助かるよねー。バケモノになる病気なんてある訳ないのに。桃太郎が鬼を倒して得た財宝は元々は誰のものなのか。本当に全部、鬼が村人から取ったものなのか。今となっては誰もわからない!」


鼻歌を歌いながら笑い、身体をくねらせている。


「さっき打ちこんだ薬も、本当にバケモノ化を抑えるものなのかな?そんなムカァーシムカシな事はさっぱりだけれど、直ぐに楽しいことにはなりそうだぁ。」


鼻歌はどんどん大きくなってくる。


「しかし、適当に能力を使ったらさぁ。適応できるやつだったよ。イヤァ困ったねぇ。いや、便利かも?、、、どっちでもいいか!」


鼻歌はヒートアップし、佳境に入る。


「と♩り♪あ、え、ず🎵、、、桃ちゃんに報告だけしとこうかなぁ🎶」


セールスマンはそのまま歌いながら、暗い暗い闇に溶けて消えていった。


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