第2話
0.
後から出てきた物の方が性能がよい事が多い。
しかし人々は古いものに好意をよせる。
1.
その日は世界が終わる日だった。テレビやラジオのニュースは大慌てで報道をし、人々は焦り、逃げ、諦めた。
突如飛来してきた巨大隕石。それが人類の歴史に終止符を打つ。
誰もがそう思っていた。
しかし、そうではなかった。
巨大隕石が大気圏に突入した時、表層が剥がれ、なんらかの物質、または成分を撒き散らした。
そしてそれはどんどんと剥がれ落ちていき、想定より何倍も小さくなって地球に激突した。
死者は約三十億人。
人類は多大なる犠牲を払いながら、運良く、たまたま、助かった。
ただ、それは隕石被害の第一波でしかない。
剥がれ落ちた物質は衝撃で粒子状になり、生き残った人類を襲った。
目から、耳から、鼻から。
あらゆる経路で人体に入り、そして、
〈新しい力〉に目覚めさせたのだ。
不遇な少年、本木一〈もとぎ はじめ〉を除いて、、、
彼は突如として現れた化け物に対し無能力でないと使えない対化物決戦兵器、クロームを身に纏い、失意の中戦う。
2.
機械の動く音、嗅ぎ慣れない薬品の匂い。
真っ白な天井を見上げて俺は目覚めた。
「あれ、ここは?」
天井は見覚えのないものである。
どこだろう、寝てる間にどこかに連れ去られたのか?犯罪者に誘拐された?いや宇宙人に研究対象にされたのか?
そんなありもしない妄想をしていると次第に寝ぼけた頭が冴えてきて思い出す。
あー、そうだ。ここはラボだ。
あの日、クロームを渡されたラボだ。
小学生ジジイ、タレンの持つ超ハイテクなラボの一室だ。
「ん、モノ君。起きたかい?おはよう。」
「ああ、おはよう。タレン」
ジジイ小学生に話しかけられて身体を起こす。
視界に入るのは、壁も床もテーブルも真っ白い空間。テーブルには鬼面が置いてある。
視線を動かすと白衣をきた、かなり幼く見える男子児童がドアから出て行くのが見える。
しかし家とは全く違う風景を見ると嫌でも実感してしまう。
俺は家がなくなったんだ、と。
いや無くなったといえば語弊がある。
正確にいうと現在俺の家は住める家ではなくなったのだ。
先日の戦いの跡として、血塗れの部屋や破られたガラス。所々に貫いた跡や引っ掻き傷。
そして、両親がもう二度と帰ってこないという悲しみが襲ってくるのだ。
俺の家は俺の住める場所では無くなってしまった。
どうするか悩んでいた所をクロームからの情報で俺の状況を知ったタレンが「じゃあ儂のラボにくるかのぅ?余っている部屋があるんじゃよ」と部屋を渡してくれた。
それからトントン拍子で引越しをした。引越しと言っても、服や貴重品をバッグに入れて持ってきただけだが。
まあ何はともあれ、飯も洗濯も機械が全部やってくれるおかげで不自由なく生活している。
学校には最近行ってない。家での一件後、両親が事故で亡くなった事、学校に行く元気がない事を学校に連絡したら、あっさり休校にしてもらえた。
まあ、いいんだ。家や学校の事は。他に話すべき事がある。
実は先日の戦いで無くなってしまったものは家だけでは無い。俺は戦えなくなってしまった。
、、、今でも、父さんが弾ける様子が瞼の裏に染み付いて取れない。一日にして二人、手にかけたという事実。その恐怖と後悔から俺は戦う事に恐怖を感じてしまうようになったのだ。
「装着、はもう出来ないかもな、、、」
そんな弱音を聞き、ベッド横の白いテーブルの上の同居人、もとい同居鬼が反応する。
「おい!モノ!!!なんでオレ様を装着しねーんだ?ア?バケモノ共がまた出やがったらどうするつもりなんだ、テメェは!」
「、、、いいじゃんか。クローム。どうせタレンの兵器でなんとかなってるんでしょ?」
「なんとかなってるだぁ?俺らが戦う何倍ものエネルギーを使ってギリギリ倒している、今この状況を見て!なんとかなってるって言ってんのかよ!舐めてんじゃあねぇぞ!ガキが!」
「だって!、、、だって戦いたくないんだよ。」
「戦いたくないだァ?」
「そうだよ!戦いたくないんだよ!俺らがバケモノと呼んでいるアイツらは、元々人間なんだって、俺と同じように生きてたんだって、分かっただろ!?誰が好き好んで戦って倒したいんだよ!」
「じゃあどうする!お前が戦わないことでバケモノに殺される人達は黙って殺されていれば良いって事かよ?大した正義だなァ!鬼畜ヤローがよォ」
「それは!、、、そうだけど、、、」
「装着しないのは勝手だが、そのせいでどれだけ犠牲がでるか考えてから物を言いやがれ。本当にガキだな、テメェはよ。」
分かってるんだ。クロームの言うことは正しい。俺が装着して戦わなければいけないんだ。
でも、それでも、人の命を刈り取るという事はとても俺の手には負えない。怖くて仕方がない。
静かになった白い空間にノックもせず、いきなりタレンが入ってくる。
その表情は喜びに満ちたものだった。
「モノ君!クローム!なあ。帰ってくるぞ!儂の助手であり最愛のひ孫!火ノ浦 亮(ひのうら りょう)が!!!」
3.
彼は不思議な男だった。金髪赤眼。まるで絵本の中から飛び出してきたかのような美少年。背丈も大きくスラっとした体型でアイドルになったら人気絶頂間違いなしというような男だった。彼とはタレンに連れて行かれたラボ内の大部屋で出会った。タレンの説明では、どうやら年齢が近いらしく、タレンは「若い二人で話す事もあるだろう」と部屋から出ていってしまった。なにが若い二人だ。見た目だけならアンタが一番若いだろうが。
だだっ広い部屋に二人きり。何を話そうか考えいると彼の方から話しかけてきた。
「君が本木君かい?話は聞いているよ。」
彼は握手を求めて左手をこちらへ向けている。差し出された左手の親指には眩しいくらい綺麗な黄金の指輪が嵌められていた。
俺は彼の手を握り、言葉を返す。
「あ、うん。そうだよ。そっちは亮君だね。」
「亮でいいよ。同年代なんだからさ。」
「そう?じゃあ俺もはじめでいいよ。」
「ああ、分かったよ。じゃあ改めて、初めましてはじめ君。本当に、君にはお礼を言いたかったんだ。」
「初めまして、、ってお礼?」
「そうさ、僕はね、クロームをもらってくれて感謝しているんだ。僕も何度もクロームを纏い戦おうとしたんだけれどもね。彼のセカンドを暴走させる力にどうしても耐えれなくてね、、、実際無理をして、大火傷。今日まで病院暮らしだったんだよ」
「なんでそこまで無理をして?」
俺がそういうと亮は渋い顔をした。
そして重々しい表情で切り出す。
「、、、三年前の新見事件を知っているかい?」
「なんだっけ、局所的な台風かなんかが急に発生した事故だっけ?」
「そうだね。メディアではそういう事になっている。だが本質は全くもって別物だ。」
「というと?」
「この事件はね。初めて僕らが戦っているバケモノが現れた事件でね。この街を中心に何体ものバケモノが出現し、大きな被害をだした。」
「、、、そんなことが」
「ああ。凄惨な事件さ。、、、実はね、この事件の時期に僕達家族はこの街に帰省していたんだよ。」
「まさか。」
「そのまさかさ。僕達はこの事件に巻き込まれることになった。突然奴らバケモノが現れ、家族を蹂躙していった。父はバケモノに貫かれ、母はバケモノに踏み潰され、姉はバケモノに捩じ切られた。次は、僕の番だ。そう思った。ただの肉になった家族達を見て、僕は悲しみよりも怒りよりも絶望感が湧き出してきた。だけど僕は助かった。何故かは分からない。ただ急に奴らは踵を返して帰っていった。僕はたまたま生き残ってしまった。」
「、、、」
「ただこの事件にはね特筆すべき点があってね。ひぃおじいちゃんが調べた情報の中に付近の監視カメラの映像があってね、そこには首謀者と思われる男が写っていたんだよ。」
「それはどんな男なの?」
「シルクハットに縞柄のスーツを着た、長身の男さ。」
「それって!」
俺は俺の家から出て行ったイカれたセールスマンの事を思い出していた。俺のうちだけじゃなくてずっと、ずっとあんな事を繰り返しているのか?、、、
「どうしたんだ。はじめ君?何か知っていることがあったのかい?」
「その男に、会った事があるかも、、、」
「本当かい!?それはどこでだい!?」
亮は身を乗り出して、聞いてくる。
「、、、俺の家に上がり込んでいたんだ。やつは少し話をしたら出て行った。」
そういうと亮は少しガッカリしたような顔をして、元の位置へ戻り言う。
「、、、そうか。まあ君も知っての通り、新見事件の犯人は捕まっていない。腹立たしい事に。それが、僕には許せない。シルクハットの男もあのバケモノ共も、何も出来ず、怒りすら湧かず諦めてた自分も全部全部許せない。」
「、、、だからクロームを使いたかったんだ。」
「ああ、そうだね。僕はクロームを見た時からクロームの力が欲しくて欲しくてたまらなかった。実際にこの身を焦がすほど、僕は強くなりたかった。」
亮は遠くを見つめている。
「でも、、、でもね、もういいんだよ。はじめ君。僕は新しい力を手に入れたのさ。」
「新しい、力?」
「ちょっと申し訳ないけど、クロームを連れてきてくれないかな?」
「、、、あー、うん。分かった。」
俺は部屋に戻り、机の上の鬼面を手に持ち、広間へ戻る。
「クローム、亮が来てるよ」
「あ?亮だァ?」
「久しぶり。クローム。その節は世話になったね」
「うおッ!本当に亮じゃねェか!生きてたのかお前!」
「なんとかね。」
「マジか。死んだと思ってたぜ。ジジイが朝来た時もついにボケちまったのか?って思ったくらいだ。お前は馬鹿みてえに燃えながらバケモノと戦ってよォ。見てる分には最高に面白かったんだけど、よく生きて帰ってきたよなァ!」
「ハハハ、そのせいで何日、病院で寝てたと思っているんだい?」
「ア?オレ様のせいじゃねェだろ。お前のセカンドが暴走したのはオレ様の知った事じゃねェよ。お前が俺を使える器じゃねェのに無理するからだろ?」
「、、、ふぅん。まあいいけどね。」
亮は含みのある笑顔を浮かべる。
「で、オレ様を呼んだのは何でだ?亮。」
「あー、そうだね。はじめ君も聞いてくれ。」
「あ、俺も?なんだい?」
「そうだね。単刀直入に言うよ。」
亮はこちらをじっと見て、言う。
「なんで君達は戦わないんだい?」
彼の言葉からは、若干の不満が感じ取れた。
「、、、怖いから戦えないんだ。」
「怖い?あのバケモノがかい?」
「もちろん、奴らも怖いけど違う。命を扱う事への怖ささ。亮は知っているかどうか分からないけど、バケモノも元は人間だったんだ。その命を自分が終わらせてしまう事が怖くて仕方がない。」
「は?何を言っているんだ?君は。奴らはもう他人に危害を加えている。どんな事情があれ、殺すべき敵だ。違うかい?」
「、、、それでも。怖いものは怖い。」
「君が臆する事で被害者が増えてもか?」
「、、、」
「ああ、そうかい」
亮は俺とクロームの方を向き、突然叫ぶように言い放つ。
「僕は憤慨している!!!」
亮の顔は先程の美しい顔とは打って変わり、目は吊り上がり怒りをあらわにしている。
「はじめ君!君は一体どこまで馬鹿でいれるんだ!君は何でそんなに甘い考えで生きていけるんだ!僕が扱えなかった素晴らしい力をもってして、何故戦おうとしない!馬鹿なのか?脳が足りないのか?クロームを扱えるのは君だけなのにうじうじうじうじ、気持ち悪いんだよ!少し話しただけで分かるよ。君はただの中学生だ。学校でも行って、好きな女子とでもキャッキャウフフしてろよ。腰抜けが!!!」
「、、、亮?」
「もういいよ。君達に僕の力を見せてあげるよ。おい!スイエン!準備はいいか!」
「もちろんッスよ!アニキ!」
どこからともなく声が聞こえる。
[system all green,装着準備OK]
亮は左手を真横に突き出し、叫ぶ!
「「装着!!」」
[装着開始します]
亮が叫ぶと左手に嵌っていた指輪が溶けて広がっていく。黄金は指を覆い、掌を覆い、腕を覆った。流れる黄金は逆巻き形を変えていきながら固まっていく。次第に黄金は鋭い爪、堅牢な鱗をもつ龍のような小手となった。
[mode drago arm,装着完了]
亮は左手の肘まである黄金の龍小手をこちらに向けて挑発をする。
「君たち相手だったら片手で十分だ。全身装着するまでもないよ。」
「え?なんでいきなり装着したの?その姿は?俺たち相手ってどうゆう事だい?亮?」
「あー、分かんないんだったら結構だ。だったら大人しく気絶でもしといてくれ」
亮は龍小手の掌を開いてこちらに向ける。そしてニヤッと笑って呟いた。
「
亮がそういうと開いた掌の真ん中から炎が湧き出してくる。それは渦巻き、火球となりこちらへ勢いを増しながら飛んできた!
「オイ、オイオイオイ!!!!ヤバいぞ!モノ!装着しろ!」
「え、でも!」
「早くしろ!死ぬぞ!」
「、、、あーもう!!」
強く鬼面を掴むと音が聞こえる。
[system all green,装着準備OK]
「いくぞ!モノ!」
「「装着!」」
[装着開始します。]
鬼面を顔に当てると、鬼面の裏側から液体金属が溢れ出す。それは身体をつたって流れ、畝り、固まっていく。
[mode monochrome,装着完了]
鬼面は刺々しく荒々しい、鬼鎧へと形を変えた。
「避けろ!!!」
「言われなくても!」
俺に向かってくる火球を跳んでよける。
避けた火球は後ろの壁に当たり、パチパチと音を立てて燃えている。
「何すんだ!亮!テメェ!!!」
「なんでこんなことをするんだ?!亮!いきなりこんな乱暴な!」
目線の先の亮はこちらを侮蔑の目で見ながら言う。
「なんでこんな事をするか?はぁ、君は本当に甘いよ。甘すぎるよ!ファミレスのバレンタインフェアのパフェより甘すぎる!!!」
「なにを言っているんだ?」
「君の考えはこうだ。「僕は他人に優しくしているから、他人からも優しくされる。僕は他人に嫌な事していないから、嫌な事をされる心配はない。」頭がおかしいのかい?笑ってしまうよ。」
「別にそんな考えじゃ、、」
「じゃあなんで乱暴なんて言葉が出てくるんだい?いつもの僕を知らないはずなのに、いつもは違うみたいな言い方をして。嫌ってないから嫌われてないなんて虫が良すぎる。殴りたくなるよ。」
亮はまた龍小手の掌を向ける。
「龍闘堕火」
再び、半径1メートルくらいの火球が発射される。
俺はそれをジャンプで避けようと脚に力を入れ、空中に跳び出す。
「おい!モノ!前を見ろ!」
「え?」
火球を避けた先。空中。あまりに無防備な俺達の前には、龍小手をつけた左手を振りかぶる亮の姿があった。
ガチンッ!!!
頭に閃光が走る。
殴られた衝撃で俺はバランスを崩して、床に激突するかのように落ちる。
「ぐがっ!!!」
「「ぐがっ!!」だって!面白いね、はじめ君。ダメだよ同じ避け方しちゃ。そりゃ、やられちゃうよ。「ぐがっ」ってねw」
亮は倒れている鬼面に対して、龍小手を握りしめ、殴りかかる。
「喰らわねェぜ!ガキが!コラァ!!」
振り下ろされた龍小手をクロームが手で握り、受け止める。
しかし、亮の攻撃は止まない。受け止められた左手で何度も何度も拳を振り上げる。
「やめてくれ!俺に戦う理由なんてない!」
俺は祈るように亮に言う。すると亮は直ぐに攻撃をやめて言う。
「いいよ。分かった。」
「え?いいの?やったぁ」
あまりにすんなりいって驚いてしまう。
俺は立ち上がり、よくよく話を整理するが、何故すんなり言ったのか分からない。
棒立ちでポカンとしていると、亮が続けて言う。
「やっぱりルールがないと良くないからね。」
「ルール?」
「ああ、そうさ。この喧嘩を僕は続けるつもりだけど、君は甘いからね。理由がないとかなんとかいって戦わないだろう。喧嘩だとすら思ってないのかもしれない。」
「はあ。」
「だからね。ルールさ。僕が降参したら君の勝ち。僕に降参させられたら君の負け。敗者は勝者の言う事をなんでも一つ聞くってのはどうだい?」
「、、、」
「もちろん、ハンデもあげるよ。どうやら君は僕より圧倒的に弱いみたいだしね。僕は今、左手の肘まで装着をしているわけだけど、これ以上僕が装着したら負けでいいよ。あとお互いに殺したら負け。どう安心したでしょ?」
「相当舐められてんなァ」
「そんな遊びやらないよ。」
「あ、もう一つルールがあるよ。」
気づいたら話しているうちに離れていた亮がこちらを向いていう。
「このゲームに拒否権はない。」
亮の言葉を皮切りに亮は掌をこちらに向け幾つもの火球をこちらに打ち出す。
「チッ!モノ!本気をだすぞ!」
「なんでこんな事になってるんだよ!」
「いいから黙ってやれ!!!どうせあっちは問答無用だ!」
「あー!分かったよ!」
俺は右手を思いっきり空中に突き出す。
[アタッチメント要請受理。metal rodを作成します。]
掌から液状金属が流れだし、空中で金棒の形に変わる。
「オッシャァ!やってやるぜコラァ!!」
俺達は向かってくる無数の火球を全て金棒で弾く。
火球は辺りに飛び散り、壁や床で燃え広がっていく。辺りは火の海だ。煙もどんどん上がっていく。
「どうだ!亮!」
「すごいすごい。良く頑張るね。」
「舐めてんなァ?カスがよォ!よーく見ていやがれよ?!」
俺の右手が勝手に金棒を亮の方にビシッと音が鳴るような勢いで向ける。
「モノじゃないな。クロームかい?、、、それは?」
「亮、テメェをブッ飛ばす!ホームラン宣言だ!!!」
クロームがそういうと身体が亮へと走る。それに俺も合わせて走り出す。
「馬鹿だね、君達は。「龍闘堕火」」
亮は再び、掌をこちらに向けて火球をだす。
しかし、途中で降ってきた水によって火球が消えてしまう。
「な、スプリンクラーか!」
そう、燃え続ける床や壁の煙が上がり、スプリンクラーを作動させたのだ。
「オウオウオウオウ!!!ラッキー!!!!この部屋にスプリンクラーがある事は知ってた!こんなに燃えているんだからな!そろそろだと思ったぜェ!!」
俺達の勢いはもう止まらない。そのままの勢いで亮に突っ込んでいく。
「クローム!」
「ああ!分かってる!いくぞ!」
「「うおおおおおおおお!!!!」」
金棒が高速で回転し、速さと重さを乗せて、亮へ叩き込む!!!
「「ashen out !!!!!!!!!」」
全力を込めた一撃!
「威力はあるね。でも、それだけさ。」
しかし、亮には当たらなかった。
いや、当たらなかったのではない。
俺達二人の一撃は、亮の龍小手に掴まれてしまっていたのだ。
「なんで?!」
「単調で単純。考えてもみなよ。真っ直ぐ突っ込んできてそのまま叩くだけの攻撃。避けるのも守るのも、簡単にできると思わないかい?」
降ってくる水が鬱陶しそうに亮はそう言い、続けて龍小手の付いてない方の素手を俺達の腹に当て、呟く。
「
亮の掌と鬼鎧の間が一瞬光る。
「ぐあああああああ!!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
腹が焼けるように痛い!実際に焼けているのかもしれない!燃える!焼け死ぬ!何をされた!?
痛みで暴れ、床に転がる。
「いくら水が撒かれていたって、至近距離じゃどうしようもないよね?」
「がっ、ぐぅぅ、、、」
声などだす余裕はない。
「フフッ、あーそう。言ってなかったけど、龍闘堕火はスイエンの力じゃないんだ。僕のセカンド。だから、装着してない方の手でも、もちろん使うことができるんだよね。」
転がった俺に向かって亮は再び手を当てる。
柔らかく、慈しむように手を当てる。
「龍闘堕火」
燃える。耐えきれない痛みがやってくる。
「があああああああ!!!!や゛、や゛め゛ろぉぉぉ!!!!死゛ぬ゛!!じぬ゛!!!」
「大丈夫だよ。はじめ君。安心してよ。ルールは守る。殺しゃしないさ。だから弱火にしてるじゃん。ほらもう一回ね。」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!
地獄。クロームの痛覚軽減でもどうしようもないほどの痛み。
「もうやめるんじゃ!!」
鎮火し始めた大部屋内に入ってきたのは、タレンだった。亮は俺に添えた手を離し、タレンの方を向く。
「何だい?ひぃおじいちゃん。邪魔しないって言ってなかったけ?」
「ここまでやると知っていたら、許可せんかったわ!」
「ひぃおじいちゃんがはじめ君を戦えるようにしたいから頼むって言ったんじゃないか。僕の考えだと力づくで戦わせる。これがいい方法だと思うんだけどね。」
「何が良い方法じゃ!下手したら死んでしまうぞ!」
「だから死なないようにやっているってば。」
「おい!スイエン!お前もじゃぞ!」
タレンが叫ぶと龍小手が溶けて、指輪に戻る。
「スイエン!聞いておるのか!」
すると、指輪が光り、声を出して弁明し始める。
「さーせん!!博士!でも、兄貴の言う事、為すことは絶対なんで、、、止められなくてっすねぇ」
「何を調教されておるのじゃ!お前には亮のストッパーとして役割もあるのじゃぞ!」
「でも、止められないっすよ!」
「止められないじゃない!大体、おまえは、、、」
ビービービービー!!!!
タレンの説教中に急にけたたましく、警報のような音が鳴り響く。
「あー!!なんでこんな時になるんじゃ!」
「ひぃおじいちゃん。これは?」
「バケモノセンサーじゃ!奴らが現れた時の為に作ってみたんじゃが、なんとタイミングの悪い!」
「ふぅん。どこに現れたの?」
「ん?えっとー、、、ここじゃ。ここからかなり近いのぉ。」
「そこね。」
「いやぁ、モノ君も直ぐには戦えそうにないし、また超高燃費兵器でたたかうしかないかのぉ。、、、あれ、亮はどこじゃ?」
見渡しても、亮の姿はない。
「おい!亮!亮!!話はまだ終わっとらんぞ!!」
4.
俺はベッドで目を覚ました。あの後、気を失っていたらしい。全身が痛み、腹は特に火傷があるようで動かすとチクチク痛く、起きるのが辛い。装着していたクロームはテーブルに置かれ、俺はベッドの上で横たわっていた。なんでベッドに運ばれているのか、よく覚えていないが、クロームから聞いた話によると、クロームが鎧モードになって頑張って運んでくれたらしい。俺が入ってなくても多少は動けるんだ。知らなかった。確かに、初めて会った時動いてたなぁ、、、まあ、何はともあれ、本日2回目の真っ白な天井を見ることになった。
時計を見ると、亮と会った時刻からそこまで経っていないようだ。亮は今、バケモノと戦っているのだろうか。
「なあ、クローム。負けちゃったな。」
「ああ、そうだな。」
クロームはこちらを向いて返す。
「大体よォ、オレ様のスペック的によォ?負けるわきゃねェと思っていたんだがなァ。」
「ん?なんだよそれ。俺が悪いって事かよ。」
「ああ、そうだ。俺は腐ってもあのジジイの最高傑作だ。最高で最上の失敗作なんだよなァ。だからよォ。あのスイエンとか言うズベ公に普通に戦って負けることはありえねぇんだよ。」
「、、、」
「敗因はお前の甘さだ。分かってんだろ?」
「ああ。」
「最初にバケモノと戦った時のテメェはもっと覚悟が決まってたぜ。」
「そうだな。」
「それに比べて今日は、詰めが甘い、踏み込みが甘い、間合いが甘い、脇が甘い、考えが甘い。亮の言う事は何も間違っちゃいなかった。ハンデありでも負けるほどに甘かったんだ。」
「、、、分かってるよ」
「あ、モノ。そういえばなァ。ジジイがなんか置いてったぜ?」
「、、、何?」
クロームが乗っているテーブルの上にタブレット端末が置かれている。
手にとってみてみると、動画が再生されているようだ。画質が悪くてよく見えないが、金色の小手をつけた人が蜂のバケモノと戦っている映像だ。
おそらく小手をつけているのは亮だろう。
四方八方に火球を放ち、恨みを込めた拳を振るう。そんな少年の映像だ。
映像を見ているとまたノックもせずにタレンが部屋に入ってきた。
「モノ君!身体は大丈夫かのぉ?」
「ああ、うん。まだ痛みはあるけど。」
「そうか、まあ、痛みがあるか、、、困ったのう、、、」
タレンは露骨にもじもじしている。
「、、、どうしたの?タレン。」
「その、そのタブレット端末は見てくれたかのぉ?」
「見たけど、これが?」
「それは、元々あった動画じゃなくて今、LIVEでドローンで撮影している映像なんじゃ。」
「へぇ、凄いねぇ」
「そう、それでその映像なんじゃが、おそらく、もう少しでな?」
「うん。」
「亮は死ぬレベルのピンチになるんじゃ」
「え?」
「だからのぉ、亮を助けにいってやってくれんかのぉ?」
「は?」
「いや、そのな?儂の龍型対異能生成物兵器、スイエンはまだ試作品の段階での?まだ欠点があるんじゃよ。」
「欠点?欠点なんて感じなかったけど?」
「あー、性能は別に変わらんからのぉ。」
「じゃあ何が欠点なのさ。」
タレンは申し訳そうにして答える。
「、、、時間じゃ。」
「時間?」
「活動時間に限りがあるんじゃ。その証拠に亮は全身装着をずっとしてなかったじゃろ?全身装着は特に活動時間を減らしてしまうんじゃよ。」
「だから、ずっと小手のまんまだったのか!」
「ああ、そうじゃ。、」
「なるほどね。でも、別にあの強さなら俺がいっても変わらないと思うけどね。ほら亮はセカンドもあるじゃんか」
「何じゃと?!今なんと言った!一体何のために儂が兵器開発しとると思っている!セカンドがあるだけで奴らが倒せるなら、クロームやスイエンを作る訳がなかろうて!」
「え、そうなの?」
「あれ、儂の説明し忘れかの?だったらすまないんじゃが、奴らバケモノの身体はとても硬く固く堅い。並大抵のセカンドじゃ太刀打ちするのは無理じゃ。亮のセカンドだって一体どこまで効くのやら。」
「へぇ、知らなかった。」
「それなのに、時間だって先程のモノ君との戦いでそんなに残されていないのに、あのバカひ孫は戦いに行っちまったのじゃ。」
「だから、助けに行ってほしいと」
「ああ、そうじゃ。もちろん君に戦って欲しいとはいえ、亮とお主を戦わせるように仕向けたこと。それについてはなんと言われようが仕方がない。でも、、、」
タレンは懇願する。
「モノ君!どうか亮を助けに行ってくれ!」
5.
街中の入り組んだ路地裏。辺りは血や肉片で赤く染まり、火を上げて燃えている。匂いは鉄臭く、焦げた匂いもする。
ブブブブブ。
あちらから。こちらから。奴の羽音が聞こえてくる。まるでこの辺り全体が揺れているかのように響く震える羽の音。どんどん近づいてくる。
黄色と黒の警戒色。長く歪なハリ。先端からは液が垂れている。顎は鋭く尖っている。
目の前に熊ほどの大きさのスズメバチのバケモノが飛んでいた。
「兄貴、時間ないっすよ!どうするっスカ?!」
「静かにしなよ。スイエン。時間が無い事は知っているさ。」
「はい!すみませんッした!静かにします!!!」
「それがうるさいよ。」
「はッ!すいません兄貴!!」
「しかし、どう倒そうかね、このバケモノ。僕の龍闘堕火が効かないならまだしも避けてしまう。そのせいで辺りは火の海だ。近隣住民にバレずにさっさと倒すつもりだったのだけれどね。」
龍闘堕火が効かず、龍小手の一撃もあの速さならば、恐らく避けられてしまう。
「これは、まずいかな。」
シュンッ
スズメバチが針をこちらに向けて突っ込んでくる。
亮は余裕をもってヒラリと避ける。
「お互い決定打にならないね。もう、使ってしまおうか。いや、それで仕留めきれなかったら?、、、ふむ。どうしたものか」
「あ、兄貴、、、」
「なんだ、スイエン」
「兄貴も知ってのとおり、兄貴の炎があちらこちらで燃えているっすよ!このままじゃ身動きが取れなくなってジリ貧ッス!!」
「黙れ、お前程度の考え。なんの足しにもならない。そんな無駄な事にエネルギーを使うな。活動時間を減らしたいのか?」
「す、すいませんでした!」
しかし、スイエンの言う通り、どんどん状況は悪くなっていく。ただでさえ狭い路地裏は大きな炎で退路を防がれ、避ける事が難しくなってきた事に加え、時間も限界に近い。
「仕方ない、スイエン!準備しろ!」
「え!兄貴使うんすか!?」
「ああ、やるよ!」
「り、了解っす!!」
[system all green,装着準備OK]
「「龍装!完全装着!!」」
[装着開始します。]
左の肘までだった龍小手の間から金色の液体が溢れ出す。液体は肩に這い上がり全身を包んでいく。しだいにそれは形を変えながら固まり、小手と同じような強靭な鱗を作っていく。牙が、角が、爪が。鋭く液体は変化し、炎に照らされて輝く金色の龍鎧の姿がそこにあった。
「一瞬でケリをつけるぞ。バケモノめ。」
金色の龍は飛び上がる。
「
亮は掌から出した火球をそのまま握りしめる。
すると火は拳に移り、燃え続ける。
「後悔しろ。」
燃える拳をスズメバチに叩き込む!
、、、その瞬間。
「うぇえええええええん!!!ママー!!!」
子供の泣く声が聞こえる。
泣き声の方を見ると、周りを炎に取り囲まれ、座り込んで泣いている小さい女の子の姿が見えた。今にも身体が炎に包まれそうだ。
亮は迷う。
僕はあの子を助ける時間があるだろうか。すでに時間はもう限界。このままバケモノを倒してその後にあの子を救う時間はあるのか?、、、
いや仮になかったとしても!バケモノを倒す方が大事なはずだ!コイツを生かしておいたら、更に僕のような被害者がでる!だから、あの子が助けられなくても、、、仕方がない。全体の為には仕方がない。
亮は迷いながらも覚悟を決める。
「、、、うおおおおおおおお!!!!」
亮はバケモノに背を向け、着地し踵を返す。そして!女の子の方へ向かっていく!
「大丈夫かい?」
「う、うん、、、グスッ」
「ほら、あっちに行くんだ。まだ火が付いていない」
「ありがとう。お兄ちゃん」
「、、、ああ」
女の子を逃がし、亮はバケモノに向き直る。
[活動時間限界。装着解除します。]
龍鎧は溶け、指輪にもどる。
何故だ。頭ではバケモノを倒した方がいいと思っていたはず。身体が勝手に?、、、
カチンカチンッ
スズメバチが顎を鳴らしてこちらへ飛んでくる。
、、、ハハハ、はじめ君の事言えないな。知らなかった。大概、僕も甘いんだ。また目の前で人が死んでしまうのが怖かったんだ。
ブブブブブ
スズメバチは目の前で羽音を立てて飛んでいる。
獲物を見るようにこちらを睨んでいる。
、、、スイエンも解除。セカンドも当たらない。そうか。これで終わりか、、、
しかしタダでは終わらない。最後まで醜くても戦ってやる。一度飛んだ龍は簡単には地に付さない!
「龍闘堕火!!!」
掌をスズメバチに向け、火球を乱射する。
スズメバチは左右に羽根を羽ばたかせながら避ける。
「当たれぇぇえ!!!!」
ボンッ
火球が一発。避けきれなかったスズメバチに当たる。
「ざまぁないね!バケモノめ!」
カチンカチンッ
しかし当たった所で大きなダメージにならない。むしろ顎を鳴らして怒らせてしまった。
スズメバチは羽を鳴らし、針をこちらに向ける。
そしてスズメバチは容赦なく刺しにやってくる!迫り来る毒針!針の先端は眼の前にある。
これが、刺さる刺さる刺さる刺さる刺さる。
これから訪れる痛みに備えてどうしても、目をつぶってしまう。
針は亮に勢いよく、刺さる。
ガキンッ!!!
「亮、大丈夫か?」
「カカッ!オレ様の出番ってことだよなァ!」
刺さるはずだった針は、根元から折れている。鬼鎧がもつ金棒によって。
「おい!スイエンとか言うやつ!オレ様の方が上だからな?見とけよ、ズベ公がよォ!」
「クローム、喧嘩売らないで!」
「かっこよく決めろモノ!」
「ええ、やんの?」
「当たり前だろうが!」
鬼鎧は怒り狂う、バケモノを指すように金棒を向ける。
「「ホームラン宣言だ!」」
6.
俺はタレンに助けを求められ、迷いを残したまま、亮のもとへ向かっていた。
「なあ、結局よォ。答えは決まったのか?」
そんな俺の心情を見抜いてか鬼鎧は語りかけてくる。
「、、、どの話の事?」
「お前分かって言ってんなァ?お前がバケモノを殺したくねェ話だよ!」
「、、、答えなんか分かんないよ。」
「じゃあどうすんだ?今から死にに行くのか?」
「違う、亮を助けにいく」
「はいはい、そう言うと思ったぜ。でもよ。なんの覚悟もなしにこの先は進めないぜ。そんな考えだから亮に負けたっていったよな?」
「、、、うん。」
「じゃあよ。たとえば目の前で人がバケモノに襲われてたら助けるだろ?」
「そうだね。」
「どうやって?」
「そりゃ、その、、、」
「無理だよ。奴らを殺さずに助ける方法なんてない。もちろんお前が気にするのも分かるぜ、オレ様は。」
「、、、」
「だけどよォ。仕方の無いことだろ。人間は肉を食うんだろ?それと同じだ。牛や豚を積極的に殺したい訳じゃないし、申し訳なく思っている。けれど生きていくためには仕方がない。後はどう、その現実と付き合うかだ。」
「いただきますとか?」
「カカッ!例えに引っ張られ過ぎだ。」
燃える路地裏が見えてくる。
消防車の音も聞こえる。
「あ、あれは!クローム、あそこ?」
「ああ、そうみたいだな!急ぐぞ!」
加速し、できる限り最高速度をだす。
到着した路地裏の真ん中。火の海の中。
そこには、今にも刺し殺されそうな亮の姿があった。
「急げ!クローム!!!」
[アタッチメント要請受理。metal rodを作成します。]
手から金属が溢れ、形を成していく。
それをそのまま、バケモノの針にぶち当てたのだった。
7.
「さあ、覚悟の時だ、モノ。目の前のコイツを倒さなければならねェぜ。」
「、、、ああ。」
そうだ。ここでやらなければ、亮も俺も死んでしまうかもしれない。コイツを、この人を、倒す。それしかないんだ!
「モノ!やるぞ!」
「ああ!やってやる!」
鬼鎧は飛び上がり金棒を叩きつける!
だが、、、スズメバチは簡単にそれを避けてしまう。
「まだだァ!!!」
何度も何度も金棒を振るが悲しいかな、カスリすらしない。
ブブブブブ
スズメバチは余裕そうな様子で俺たちと亮の前を飛んでいる。
「クソ蜂が!舐めやがってよォ!」
「ああ、どうにかして当てれないか?って、なんて言った?」
「ア?別に変な事言ってねェだろうが。舐めやがってって言ったんだよ!聞こえてたろうが。」
舐めやがって、、、そういえば、、、
「クロームナイス!」
「何がだ!」
俺は亮に向かって言う。
「亮、亮!ちょっと龍闘堕火撃てるか?」
「ああ、撃てるが、どこに撃てばいいんだい?どうせ当たらないよ。」
「大丈夫!どうせ囮だ!」
「、、、なるほど、いい考えだ。」
「真っ直ぐ、最大級にデカいやつ!合図したら出して!」
「了解。やるだけやってあげるよ。」
亮は真っ直ぐ前に掌を向ける。
俺たちは金棒を起動させ、高速回転させる。
「今だ!亮!」
「ああ!
亮の掌から巨大な、路地裏の横幅ギリギリの火球が発射される。
火球は速度をつけて、スズメバチの方向へ進んでいく!
しかし、さも当然かのようにスズメバチは上空へ逃げる。
鬼が待ち構えているとも知らずに。
「オイ、蜂ヤロー。空中に避けるときは前をよく見た方がいいぜ。これは経験談だ。」
スズメバチは避けようとしたが間に合わない。回転する金棒はすでに炸裂していた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
金棒はめり込み、スズメバチの身体を削り、進んでいく!!
「「ashen out !!!!!!!!!」」
金棒はスズメバチの身体を両断した。スズメバチの身体は塵となって消えていく。
「ごめん。殺しちゃってごめんなさい。」
炎の海の中、俺はそう呟いた。
消防車のサイレンの音がやけにうるさく感じた。
8.
白い壁に白い床。俺はスズメバチを倒した後、自室に帰り身体を休めていた。実際のところ、亮に焼かれた火傷もまだヒリヒリ痛むので療養が必要なのだ。無理は体によくない。
そんな中。空気を読まない来訪者が現れる。
いきなりノックもせずにゆっくりとドアを開け、彼は俺の目を見て言った。
「さあ、はじめ君。続きをしようか。」
タレンと同じように部屋に押し入ってきた亮はニコニコ顔で、そんな事を言った。マジでこの血族にはノックをしてほしいところだが、そんなことはどうでもいい。
まるで話が飲み込めない。
「ん?え?続きって、なんの?」
亮はニヤリと笑って言う。
「続きは続きだよ。ゲームやってただろう?さっき、戦ってた部屋の掃除をひぃおじいちゃんに命令されてね?それで思いだしたんだ。ね?やろうよ。ゲーム。」
「あー、あの俺が亮にボコされてた時の、」
「オイオイ!亮!テメェ助けてもらったくせにまだやろうってのか?」
亮の身勝手な言葉に同居鬼が反応する。
「勘違いしないでくれよ。クローム。別にバケモノに勝てなかった憂さ晴らしがしたいわけじゃない。僕は彼に興味を持ったんだ。甘く、弱かったはじめ君が心持ちでどれくらい変わったのかがね。」
「興味だァ?テメェの事情なんか知らねェよ。ぶっ飛ばしてやろうか?ア?」
「怖いならそういえばいいのに」
亮はクロームを嘲笑っていう。
「ア?なんだと亮。いいぜ、やってやるよ!なァ!モノ!こいつをぶっ倒してやろうぜ!」
「なんで、そんなに沸点が低いんだよ。クローム、、、」
「そう来なくっちゃね。はじめ君もやるだろ?」
「、、、ああ。拒否権はないんだろ?」
「ああそうさ。続いている訳だからね。ルールもまんま同じだよ。殺したら負け。僕は小手以上装着したら負け。君たちは降参したら負け。」
「カカッ、クソルールだな。」
「よし、じゃあ行こう。すぐに行こうじゃないか。」
そう亮がいうとグイグイと俺の手を引っ張り、壁が所々焼けている、今日敗北を喫した、大部屋に連れてこられた。
「よし、準備はいいかい?2人とも。」
「アア!殺ってやるよ!」
俺達と亮達は目を合わせて、相棒と共に叫ぶ。
「「「「装着!!!!!」」」」
互いに面と指輪から液体が流れ出す。
俺は鬼鎧を亮は龍小手を装着し、それが戦いの合図となった。
「最初から全力で行くよ!クローム!」
「もちろんだァ!」
俺たちは真横に手を伸ばす。
掌から液体が流れ、直ぐに金棒が生成される。それを握りしめ、走りながら振りかぶる。
「喰らえ!亮!」
俺たちは亮へ金棒を叩きつける!
「甘いよ、はじめ君。」
ガキンッ!
2人の一撃は受け止められ、亮達は金棒を龍小手で弾き飛ばす。
遠くでカランカランと金棒の転がる音が聞こえる。
それでも俺達は攻撃を止めない。拳を握り、亮へ叩き込む!
「炎は出させないぞ!亮!」
「少しは前回と変わったかな?」
亮はそう言うと、亮も龍小手で殴りかかってくる。
拳同士ぶつかり凄い音が響くがお互い気にしない。
俺はすかさずもう一方の手で殴る。
それをまた亮が防ぐ。
何度も何度も拳を繰り出すが俺の攻撃を防ぐように、亮は拳を合わせてくる。
「クソッ!埒が明かない!」
俺は一旦、バックステップで距離をとり、チャンスを伺うことにした。次、拳がぶつかったら後ろに跳んで距離をとろう。そう考えていた。
ガシッ!!拳がぶつかり金属が震える。
よし、今だ!後ろに跳ぶ!
しかし、そう簡単には上手くいかない。
「すまないね。はじめ君。読めてしまったよ。」
亮のそんな声が前から聞こえてくる。俺が視線を声のする方に移すとすでに火球は俺の目の前に放たれていた。
俺の身体はまだ空中。
避けることなど、できない。
ボンッ!
火球は空中にいる俺の身体を焼きながら吹き飛ばす。
「カハッ!!」
俺はそのまま吹き飛ばされて、黒焦げになった壁に燃えたままぶつかる。
だが、炎を出されてしまった時の対処も俺たちは考えていた。
なんだか、叩き付けられる事が最近多い気がするなぁ、なんて考えながら、燃えた身体で壁に引火し、燃え広がっていくのを見ていた。
燃えていく壁は煙を上げ、パチパチ音を鳴らしている。
俺たちはヒソヒソ声で話す。
「これでいいよな!クローム!」
「ああ!これでやつは火球を使えねェ!」
「何をブツブツ言っているんだい!ぼーっとしている場合かい?」
亮はすでに掌をこちらに向けてきている。
煙は上へ上へと登り、天井に到達する。
煙に目をやっていると大変な事に気づく。むしろその為に、燃えてしまった身体を壁に押し付けていたというのに。
「あ、あれ!?スプリンクラーは?なんであんなボロボロになってんの?!」
「そんなもの、戦いの前に壊しておくものだろう?掃除の時にすでに壊しておいたさ!まさかそんなものを頼りにしていたのかい?」
「ヤベェな!モノ!俺たちのスプリンクラー作戦が!」
「ぐ、やばい、、、」
「龍闘堕火」
亮は火球を乱射する。沢山の火球が俺目がけて飛んでくる!
「クローム!どうしよう!」
「ああ、ヤバいな!どうしようもこうしようも取り敢えず避けるしかねェだろ!」
まるでマシンガンのように近づいてくる火球を、俺たちは壁沿いに全力で走って避ける。
何とかスレスレで避けれてはいるが、俺たちの真後ろで火球が炸裂していて、恐怖しかない。壁にぶつかった火球は壁一面を燃やし、部屋を火のリングへと変えた。煙が凄く、視界が悪い。
俺は、スプリンクラーが無い部屋で部屋でこんな事したらダメだろと思ったが、亮は特に止めるつもりがないようで、火球を打ち続ける。
ついには、煙たすぎて辺りが見えなくなった。
見えるのは亮が放つ炎の明かりと、燃える壁の明かりのみ。
「どうするよ。モノ。スプリンクラーはもうダメだ。ほかの作戦なんかねェか?」
「ごめん、何にもない。」
「チッ、せめて金棒があれば、必殺技を食らわせられるのになァ!」
「必殺技を食らわせちゃダメでしょ!あんなん食らったら亮、死んじゃうよ?てか、どうせ防がれるだろうし!」
「ア?そんなもん当てるように考えればいいじゃねェか。蜂ヤローに当てたみたいに。」
「、、、なるほど。クローム。俺とお前は天才だ。」
「ああ、今さらかよ。」
2人はコソコソと準備を始める。
「あれ?はじめ君達はどこいったんだろうね?」
壁際に炎に照らされ映る、鬼鎧の影が見える。
「そこか!龍闘堕火!」
亮は影に向かって火球を放つ!
そしてそれはそのまま鬼鎧にぶつかる!
「グッ、き、効かねェなあ!」
「効かない?強がりはよしなよ。クローム。ほら!ほら!」
亮は火球を鬼鎧に当て続ける。
鬼鎧に火球は当たりよろめくがそれでも真っ直ぐ進んでくる。
「まだまだァ!!!亮!テメェをぶっ飛ばしてやるぜ!!!!」
「な、なんで避けない!ダメージは確実に入っているはずだ!」
鬼鎧はもうすぐそこまで来ている。
火球を受け、火を纏いながらも近づいて来ている。
「おいおい、ダメージだァ?バカ言っちゃいけねェぜ。」
「バカは君たちだろ?!僕の火球が熱くないわけが無い!なんて捨て身の作戦!狂ったのか?!」
クロームは金属製の口角をニヤリと上げて言う。
「ただの鎧に熱さは感じねぇよ。」
「、、、何を言って、、まさか!」
「そう、囮だ。蜂ヤローを倒した時のような事を、中身のないオレ様でやっているのさ!」
「じゃあ、はじめ君はどこに?!」
「今頃、金棒をもって向かっている頃だろうよ!こい!モノ!やっちまえ!!!」
ウ゛ィィィィィイイイイイン!!!!!!!!
何かが高速で回転する音が聞こえる。
煙を晴らしながら、突っ込んでくる音が聞こえる!
回避を回避をしなければ!
音のする方から逃げようと走ろうとするが何かに引っかかって逃げれない。いや、これは。
「おいおい、オレ様を置いてどこに行くってんだ?」
クロームが腕をつかんで離さない!これでは防御する事もままならない!
「おい!離せ!クローム!!あんなもの生身で食らったら死ぬぞ!!!ルール違反だ!」
「バカかテメェは。やつは甘く無くなった。お前が死んだら、ルールなんていくらでも踏み倒せる。そうだろ?」
「本気で言ってるのか?!」
「ああ、鬼は嘘つかない。ここだ!やれ!」
目の前の煙が晴れる。そこには既に金棒をふりかぶっているモノの姿があった。
「おい!待て!止めろ!!!!」
「ashen !!! out !!!!!!!!!」
高速回転する金棒を亮の身体にぶちかます。
ギャリギャリギャリギャリッ!!!!!
削るような音を立てて、亮の身体をかち上げる。
そのまま、吹き飛ばされ、天井に穴を開けた。
煙がそこから抜けていき、煙が晴れていく。
「、、、よくもやってくれたね、、、」
煙が晴れた部屋にふわりと亮が降りてくる。
その身体は全身、龍装で包まれていた。
「一瞬でケリをつけてやる。」
亮は光のような速度で動き、俺に一撃を食らわせようとする!
「待って!待って!待って!!!亮!!!」
「、、、なんだい?」
「亮さ。ルール思いだして?ね?」
「ああ、お互いに!殺してはいけない!君が犯しそうになったルールさ!」
「違う違う。それじゃなくてさ。もう一個の方。」
「、、、あ。小手より上を装着したら、負け。」
「分かってくれた?」
「いやいやいや、納得いかないね!だって僕が完全装着をしなかったら死んでたんだよ?」
「亮ほど、戦闘センスがあるんだったら大丈夫かなって思ってさ。」
「、、、君、甘くなくなったねぇ、、、」
俺は、亮の方を真っ直ぐ向いて言う。
「甘く無くなった訳じゃないよ。ただ今日、分かったんだ。覚悟の仕方が。俺達はどうしても戦わなきゃいけない。これからもそうだろう。だから罪や行いを背負って戦う。それが正しいって思ったんだ。」
「覚悟か。はじめ君はバケモノの命も結局大事に思ってしまうんだね。」
「そう、だね。」
「ところではじめ君は何をお願いするんだい?」
「ん?お願いって?」
「勝ったら何でもお願いをひとつ聞く約束だっただろ?」
「あ、そうか!それじゃあえーと、、、」
俺は悩んでから言う。
「俺の部屋入ってくる時はノックして?」
天井の穴から見る空は雲ひとつない、美しい夕焼けだった。
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