第102話 面会

天上院家と椿さん芽衣ちゃん。そして、俺達で俺の夕食に付き合ってもらった。というか、無理矢理付き合いに来られたという方が正しいのかな。ともあれ、皆でミノタウロスのステーキとダンジョン産の野菜を使ったサラダである。全員、まずはミノタウロスのステーキに手を伸ばす。俺達は、当然、味を知っているのでそこまで驚きはしない。だが、他の面々はというとフリーズしていた。


「あの~、皆さんどうですか?」


俺の問いに1番早く復帰したのは芽衣ちゃんである。


「このお肉、今まで食べてきた中で1番美味しい。ねぇ、お姉ちゃん。」


「えっ、ええ。そうね。」


芽衣ちゃんの問いかけに我を取り戻す。そして、他の面々も我を取り戻し、皆、「美味しい」と言って食べてくれている。


「神月。美味かったぞ!それで、これはどこでドロップしたんだ?」


玄羅が質問をしてくる。その質問にグラム達以外の全員の視線が俺に向く。


「勿論、企業秘密だ。」


「まぁ、そう言うと思った。…………では、話題を変えよう。このミノタウロスとやらと儂が戦ったらどうなる?」


「そうだな。まだ、少し足りないかな?」


「何だとっ!やはり、まだまだ、強い奴等が沢山居ると云うことか。フッフッフっ、ハーハッハッハッハ。楽しい、楽しいぞ!」


「お爺様がまた戦闘狂の顔が出てますね。」


朔夜が呆れたように言う。


「まさか、この歳になって、主人の新たな一面を知ることになるなんて、分からないものですね。それと、神月さん。とても美味しかったですよ。それに、何か若返ったような気がしますね。」


「そういえば、家の親が毎日ダンジョン産の野菜とか食べてますけど、見た目は随分と若くなってしたね。肌も瑞々しくなったとか言ってましたね。」


俺が、その話をすると、女性連中が食い付いてくる。どうやらというか、やはり女性には興味というよりも執念のようなものを感じる。俺は、言ったことを後悔したが、何とか玄羅と朔夜がダンジョンに行った際に、食べ物を採取したら持って帰るということに落ち着いた。そもそも、この家庭はダンジョンで得たものを売るよりも、普段手に入らない物を持ち帰る方のが重要なようである。食事の後は解散し、俺達は与えられた部屋に戻り就寝する。因みに、椿さんと芽衣ちゃんは、玉兎さんが部屋へ案内していた


そして、翌日。7時半に目が覚める。グラム達も起き始め、俺は、準備をして部屋を出る。そして、昨日のメンバーと朝食を食べる。椿さんは、自分達はここに居てもいいのかと言っていたが、玉兎さんが大いに賛成していたので問題はないだろう。ただ1つだけ不可思議なことが1つある。


「何でじいさんそんな格好してるんだ?」


そう。玄羅がスーツを着ているのである。


「うん?似合わんか?」


「似合うか似合わないかで言ったら似合うけどさ…………。」


「そうだろ、そうだろ。いやなに、今からある人物に会うんでな。ちょっと、気合いをいれてみたんだよ。」


「そうなんだな。」


「うん?何故か他人事だな。」


「???実際にそうだからな!」


「うん?神月も一緒に行くんだぞ!言ってなかったか?」


「全く聞いてない。」


「そうか!じゃあ、今言ったぞ。」


どうやら空気的に断るわけにはいかないらしい。


「…………仕方ない。会うだけだぞ!」


「それで構わん。」


「でも、その前に、俺はスーツなんて持ってないぞ。元々の仕事柄、スーツなんて無縁だし、友達の結婚式に着ていく位で後は全く着てないぞ。」


「神月は、そのままでいい。」


「えっ?いいの!?」


「仕方なかろう。急な申し出なんだ。そのくらいは大目に見てもらう。」


「そうか。それは、良かった。…………それで、相手は?」


「内緒だ。会ってからのお楽しみだ。」


「まぁ、いいけど、手早く終わらせてくれよ。今日はダンジョンに行く予定なんだから。」


「それは、当然だ。儂も、ダンジョンには付いていくからな。」


「でも、スーツだろう?」


「そんなもの着替えれば何の問題もない。」


「そうか。」


その後、朔夜が自分も行きたいと言ったが、学校があるからそっちを優先するように言うと渋々だが学校に行くようである。そして、朔夜が学校に出発した直ぐ後に俺も玄羅と一緒に車に乗り込む。後は運転手さんが勝手に連れていってくれるので俺は、居眠りをすることにする。


幾らか時間が過ぎ


「…………ぉぃ!…………ぉきろ!」


と、遠くから声が聞こえ、体を揺さぶられる。俺は、眠たい目蓋を擦りながら目を開ける。


「おいっ、着いたぞ!早く目覚めろ!」


玄羅が、そう言う。徐々に頭を鮮明になっていく。そして、周りを見渡し、


「着いたのか?」


「そうだ。降りるぞ!」


玄羅に促されるまま車を降りる。すると、そこには見たことのある景色が広がっていた。いや、正確に言うとテレビで見たことのある風景だった。そこは、首相官邸である。


「…………、おいっ、じいさん。これはどう言うことだ?」


「ん?…………ああ、ここに今日会う相手が居るんだよ。」


「おい、まさか、総理大臣なんて言うんじゃないだろうな?」


「その、まさかだ!」


「帰る!!」


踵を返そうとすると、玄羅に肩を捕まれる。


「もう、ここまで来たんだから諦めろ。」


「んぐぅ、仕方ない。でも、フォローはしてくれよ。」


「それは、任せろ。」


仕方ないので玄羅の後に付いていく。そして、ある部屋に通される。そこは、所謂応接室である。絵画がかけてあり、調度品も見た感じ結構なお値段するような感じのものばかりである。俺達はソファーに座って少し待つと、ドアが開き4人の人物が入ってくる。1人は玄羅と同じくらいの男。そして、俺よりも一回り位上の男。そして、女性が2人だが1人は20代位のとても美人な人と、ちょっと歳は重ねているが大人の色香のある女性である。4人がソファーに近づくと玄羅が立ち上がろうとするので俺はそれに習って立とうとするが、1番最初に入って来た人が、手を前に出し


「そのままで。」


っと言われたのでそのままソファーに座わる。1番上座に玄羅と同じくらいの男が座り左右に俺よりも一回り位上の男と大人の色香のある女性が座る。若い女性は、玄羅と同じくらいの男が座っている斜め後ろに控えている。そして、玄羅と同じくらいの男が話し始める。


「まずは、自己紹介をしよう。私はこの国の内閣総理大臣をしている本堂昴だ。」


「次は私ね。私は、防衛大臣を任されている三枝真実子です。」


「自分は、ダンジョン庁長官をしている御堂蒼真です。」


3人が自己紹介をしてくれた。後ろの人は、本堂の秘書だと教えられた。そして、次は俺達の自己紹介である。


「儂は、天上院玄羅だ。元天上院グループの社長で今は顧問をやっておる。」


「じっ、自分は、しっ、神月サイガといいます。ど、どうぞよろしくお願いします。」


緊張して少し噛んでしまった。まぁ、こんな面子に普通の一般市民が会うんだから緊張して当たり前なんだけど。すると、総理秘書と呼ばれた人が口を開く。


「総理。その人は偽物、若しくは詐欺師です。」


えっ?この人、美人なくせして何言ってるんだろう。と、鳩が豆鉄砲を喰らったようになる。そして、緊張感よりも苛立ちの方が強くなった瞬間である。


「ほう?その理由は?」


総理が秘書の女に訪ねる。


「明らかにステータスが低すぎます。これなら、自衛隊の人の方が全然高いです。むしろ、天上院さんが今回の件を解決してくださった方が納得できます。」


まぁ、それは、そうだろう。何せステータスを隠蔽しているんだから。


「天上院。まさか、私を騙すつもりなのか?」


少し場の空気が冷たくなっていく。すると、玄羅は小声で


「おいっ、どうなっている?」


「多分、あの後ろの秘書って人が俺達を鑑定したんだろ?俺は、自分のステータスを隠蔽してるから奴等にはそれが分からないんだろう。面白そうだからもう少しこのまま様子を見よう。」


「どうなっても知らんぞ!」


っと、玄羅との内緒話をする。


「儂は、言われた人物を連れてきただけだ。」


「そうは言うが、明らかにステータスの低い者を連れてきているだろう。まさか、私には会わせたくないのか?」


「誰もそんなことを言っておらんだろう。…………、ほら、お主もそろそろ本当の事を言わんか?」


っと、玄羅が、いい加減にしてほしそうな感じて言ってきているので種明かしをすることにする。


「じいさんは何も悪いことなんかしてないぞ。今回の東京駅のダンジョンの件に関わったのは俺だ。」


「だから、それが嘘だと言っているんです。貴方のステータスで報告のあったモンスターを倒せるなら、自衛隊員の誰もが倒せるはずです。」


女性秘書が俺にそう言ってくる。そして、目の前に居る3人の大臣・長官も俺の方に目線が集まる。


「さっきからステータス、ステータスって言ってるけど、あんた、鑑定のスキル持ってるだろ?」


「うっぐっ、それは…………。」


「別に答えなくてもいいよ。それに、3人の大臣さんも頭が固い。」


「それは、どういう意味ですかね?」


御堂長官は穏やかな表情を浮かべてはいるが、言葉にはトゲがある。本堂総理と三枝大臣の目も鋭くなる。


「簡単な事だ。世の中、表と裏の様に相反するものが存在するって事だよ。」


「言っている意味は分かりますが、それとどういう関係が有るんですか?」


「はぁ~。例えば、そこの秘書さんが鑑定のスキルを保有していたとする。それに対し、こっちはステータスを隠す又は偽造出来るスキルを持っていたとしたらどうします?」


俺が、例え話をすると秘書の女の人が、


「それは、あり得ません。」


「何故?」


「それは、私がこの国で、いえ、世界でもトップレベルの鑑定を使えるからです。」


俺は、その言葉を聞いて呆れてしまう。自分の手札をわざわざ敵にさらすようなことをするとは思わなかったからである。


「井の中の蛙大海を知らずか。」


俺が、ボソッとそう言うと秘書に聞こえていたのか怒りで顔を真っ赤にする。


「それで、総理。さっき言った通り、そこの秘書さんは鑑定スキルを持っていると自ら言っちゃいましたからこちらも1つだけ教えますけど、俺もあるスキルでステータスを隠しています。」


「ふむ。それでは、君は、本当に神月サイガなのか?」


「そうです。」


「なら、その隠しているステータスを見せて貰う訳にはいかないのか?」


「それは、プライバシーですよ。それに、ステータスを相手に見せるもんじゃないですよ。」


「そうか。それは残念だ。」


すると、また、秘書が割り込んでくる。


「総理。騙されちゃいけません。ステータスを見せられないのは本当はないから見せられないんです。」


「あんた。いい加減、五月蝿いよ!…………総理。ここで、少しだけ力を出してもいいですか?」


すると、総理は、少し悩むが


「良いだろう。但し、部屋のものを壊さないでもらえると有難い。」


「分かりました。じゃあ、哮天犬頼むな。」


「わん!」


そうそう、ここには哮天犬も一緒に来ている。ちょっと前までは大人しくしていたんたが、俺が嘘つき呼ばわりされている辺りから顔を上げて秘書の方をずっと見ていた。


「ふんっ!そんな犬が何だって言うんです!」


「コイツには、俺のステータスが反映されてます。黙って見ていて下さい!」


そう言うと哮天犬は、自身の体に雷を纏わせバチバチと電気が視認できるようになり、部屋の中を高速で移動する。これには当然、4人には全く見えていない。玄羅は少し見えていたようである。そして、哮天犬は俺の横に戻ってくるので、俺は、良くやったと頭を撫でてやる。勿論、哮天犬も嬉しそうである。


「本堂!どうだ?」


玄羅が、総理に聞く。


「あっ、ああ。どうやらそちらの方が正しいようだな。君は下がっていていいぞ!」


本堂は、秘書に退出するように促す。


「っですが!」


「別に君が悪いと言っているわけではない。君が優秀で在ることは変わりない。今回の事を次に活かせるようにしなさい。」


「……………………。はい、わかりました。では、失礼します。」


そう言い、秘書の女性は出ていった。


「えっと、いいんですか?」


俺が、たまらず聞くと、


「ああ。彼女は、優秀だが自分がエリートだという気質が強すぎる。だが、今回の事で彼女が更に成長することを願うよ。」


「そういうものなんですね。」


「そうだな。それよりも、初めに話が反れてしまったな。まず、今回の東京駅ダンジョンの件、助かった。ありがとう。」


そう言うと、総理は立ち上がり俺に頭を下げる。そして、横に居る2人も総理と同じ様に俺に一礼をする。


「いやいや、やめてください。総理に頭を下げさせたなんて国民が知ったら俺、殺されちゃいますよ!」


「ははははは、それ程までに君には感謝をしているということだよ。それに、君なら簡単には殺せたいだろ?」


「まぁ、そうですけど。」


「もし、あの場に君達が居てくれなかったら今頃どうなっていたと思う?」


総理のその質問に、玄羅が答える。


「率直に言うと大惨事確定だな。」


「やはり、そう思うか?」


「ああ、今回の件でブラックゴブリンにダメージを与えられた奴等居なかった。まず、あの場に居たものは全滅、よくて、何人かが死ぬ覚悟で足留めをして生還するって方法もあるが、足留めした奴は確実に死ぬし、逃げた方も追ってこられたらほぼダメだろうな。それに、外には野次馬がこれでもかと言う程居るんだ。そんな野次馬にあのモンスターをどうにか出来るとは思えん。一方的な虐殺が起こっていたのは確実だと思うぞ。」


玄羅が冷静な分析をする。それを聞いて俺は、ぶるっと震えが来てしまった。それは、前に座る3人も同じ様であった。


「そうなるよな。」


と、総理は頭を抱えるのである。

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