第92話 宴

玄羅の家に到着すると、外から車のドアを開けられ車を降りる。そこには、執事風の40代くらいのイケメンが立っており、その後ろにメイド服を着た4人の女の人達がいた。1人は少し年齢を重ねているようだが、今までの人生がその人を綺麗に見せているような人と俺よりも少し年下で30代前半っくらいの綺麗な女性。後の2人は20代前半くらいのモデル顔負けの美人さんである。


「お帰りなさいませ、玄羅様。朔夜様。」


執事風の男が、頭を下げて出迎えを行うと、後の4人のメイド達も、「「「「お帰りなさいませ。」」」」と、一斉に頭を下げる。


「うむ、ご苦労。」


「いえ、それでそちらの方はお客様ですか?」


「そうじゃ。儂の大切な客人じゃ!粗相のないようにな!」


「承知致しました。」


「神月。今日は急なことで儂は疲れたから少し休ませて貰うぞ。食事の方は、藤堂準備を頼む。藤堂後の事はた揉むな。じゃあ、儂は先に行くぞ。」


「承知致しました。」


藤堂と言う人に一言言うと玄羅は奥へと行ってしまう。


「申し遅れました、私、藤堂銀一といいます。よろしくお願いします。」


「そして、私がこの家の家政婦長の新堂詩織といいます。」


と、深々と頭を下げられる。


「あっ、どうも。自分は神月サイガと言います。少しの間ですがお世話になります。」


「神月様。我々には敬語は不要ですので普段通りにしてください。」


俺は、神月様と言われて寒気がした。なぜなら、産まれてこのかた「様」付けで呼ばれたことなんてないからだ。


「藤堂さん。様付けで呼ばれたことないんで、何かこそばゆいんですよね。なのでやめて貰えませんか?」


「わかりました。では、神月さんと呼ばせてください。それ以上はつかえている身なので御勘弁願います。」


「わかりました。」


「では、神月さん。お食事が準備できるまでどうなさいますか?」


「でしたら、師匠。お風呂に入ってくるといいですよ。」


朔夜がそう提案してくれたので、その提案に乗ることにする。


「グラム達も入っていいのか?」


「もちろんですよ。それに、うちのお風呂は大きいですから満足していただけると思いますよ。」


「そっか。じゃあ、先に風呂に入ろうかな。」


「かしこまりました。では、案内は新堂の方からさせていただきます。」


「了解です。」


「では、神月さん。こちらにどうぞ。あなた達は神月さんのお部屋の準備をお願いします。」


「「「わかりました。」」」


俺は、新堂さんに案内されて風呂場にいく。風呂場に到着すると俺はグラム達に声かけをする。


「みんな、風呂に入るぞ!」


すると、グラム達は指輪から出てくる。


「わーい!お風呂なの!」


「ここの風呂は大きいって言ってたから楽しみだぞ!」


「楽しみなのです!」


「わん!」


哮天犬は、指輪には入れないので俺にずっと付き従っていたが静かにしていた。


そして、俺達は、風呂に入る。脱衣所ですらかなりの大きさがあったので風呂も期待できると思っていたら、期待以上の風呂であった。中は、銭湯ですか?と言うくらいに広く、風呂も何種類かあった。グラムとスノウ、ウルが体も洗わずに風呂に飛び込もうとしていた。


「ストッーープ!!」


3人は、浴槽の前で止まりこちらを見る。


「どうしたの?」


「風呂入る前に体を洗ってからな。」


「む~!仕方ないの。」


「わかったぞ!」


「しょうがないのです。」


3人は渋々ではあるが俺の言うことを聞いてくれた。そして、俺たちは体を洗い風呂を堪能させて貰った。ちょっと、長居をしすぎて逆上せてしまった。

俺が、風呂から上がると若い家政婦2人が待っていた。


「あっ、どうも!」


「お待ちしておりました。私は、渡辺可奈と言います。よろしくお願いします。」


「私は、浜崎神楽と言います。よろしくお願いします。」


「こちらこそお願いします。」


「では、お部屋に案内しますね。」


渡辺さんがそう言うと部屋に案内してくれる。


「では、何かありましたら部屋にある電話で連絡してください。直ぐに伺います。それと、お食事の準備が出来ましたらまた伺います。では、失礼します。」


2人は、そう言うとお辞儀をして部屋から出ていく。部屋は、和式の部屋で20畳はありそうな部屋であった。


「わーい!広いお部屋なの。」


「広いぞ。」


「広いのです!」


「わん!」


各々、思うままに過ごしている。それから、1時間位経過すると部屋のドアをノックする音が聞こえる。


「どうぞ!」


「失礼します。お食事の準備が出来ました。」


渡辺さんが来て食事の場所まで案内してもらう。部屋に入るとそこには天上院家全員揃っていた。宗吾と結衣、玉兎、さくらがいるのは理解できる。何しろ初めて宗吾達と会ったと時は引退して田舎でのんびり暮らしている玄羅の所に遊びに来ていた。もちろん、宗吾達の生活している場所は、日本でも大都市である大阪か東京であることは理解していた。おそらく、ここにいると言うことは、宗吾達が暮らしているのは東京であるのだろう。そこのところは理解できる。理解できないのは、玄羅の奥さんである飛鳥がここにいると言うことだ。


「えーっと、どうして飛鳥さんがここにいるんだ?」


俺の疑問ももっともである。何しろ俺が玄羅の家に行った時に飛鳥は、玄羅の家に居たからである。


「フフフフフ。それは、あなた達が慌てて出ていったものだから私も心配になってつい来ちゃいました。」


「でも、どうやって?」


「それはね。ちょっと時間がかかったけど新幹線でね。」


「あっ、それでね。………それで、今、夜の10時過ぎですよね?何故、ここに天上院家全員が集まってるんですか?」


俺は、飛鳥の回答に納得する。だが、何故、ここに全員が揃ってるんだ?


「それは、儂から説明しよう。」


と、玄羅が説明をかって出てくれた。


「頼む!」


玄羅は説明の前に手をパンパンと叩く。


「その話は夕食を食べながら話そう。」


そう言うと、食事が次から次にと運ばれて来て、グラム達は、嬉しそうである。


「ご主人、食べていいの?」


「ああっ、いいぞ」


「やったの!いただくの!」


「いただきますだぞ!」


「食べるのです!いただきますなのです!」


3人は、勢いよく食べ始める。グラム達の食欲を知らない宗吾、結衣、玉兎、さくら達は少し目が点になっていたが他の人は見慣れた光景であった。


「それで、さっきの話だが、神月も食べながら聞いてくれ。」


「わかった。じゃあ、いただきます。」


俺も、食事を食べることにする。味に関しては、とても美味い。


「何故、全員ここにおるかと言うと、飯を食っとる奴以外は、興味本位じゃよ!」


因みに夕食を食べてるのは俺と玄羅、朔夜、後はグラム達である。


「興味本位?」


「そうだ。儂が急に上京したのを飛鳥の方から聞いたみたいでな。それで、話が全員に行き渡ってしまって、興味を持ったと言うことだ。」


「そうなんだな。だけど、俺からは特に言うことはないぞ。俺よりも、今回は朔夜の方が武勇伝で面白い話が聞けると思うけど。」


「そんなことはないですよ、師匠。最後の大物なんかは私達では敵わなかったですよ。そいつを一瞬の内に決着を着けるなんて感動しました。しかも、その敵があんなものを落とすなんて。」


「朔夜。あんな物とは一体なんなんだい?」


玉兎は、興味津々である。


「それはですね、空間魔法です。」


朔夜は自信満々に話す。


「「「「空間魔法???」」」」


「そうです。」


「朔夜。そんなにいい物なの?」


さくらが疑問に思っていると朔夜が説明をしてくれる。


「姉さん。空間魔法はレアですよレア。」


「そっそうなの?」


朔夜の圧力が強く、さくらはちょっと引きぎみである。


「朔夜。どの辺りがレアなんだ?」


宗吾が朔夜に説明を求める。


「お父様。空間魔法の1番の使い道は空間を繋げられる事ですよ。」


「「「空間を繋げる?」」」


「そう言うことか。」


「父さんはわかったの?」


玉兎が宗吾に質問する。


「簡単なことだ。空間と空間を繋げると言うことは距離を短縮させると言うことだ。つまり、転移ということだな。簡単に言うとこの家と父さんの家を一瞬で行き来できると言うことだ。」


「マジか?」


「そんなことが?」


「可能なんです?」


「さぁな?だが、可能だと思うぞ!ですよね、神月さん?」


さくらとの問いに宗吾が答えるが、宗吾も自信が無いようで、俺に振ってくる。


「多分、宗吾さんが言ったような事は出来ると思うよ。ただ、まだ、空間魔法のレベルは1だからなんとも言えないけどね!話せることはその位しか無いけどな。」


グラム達は俺達の話には興味がなくて食事に夢中であった。俺も話せることは話したので食事に集中させて貰う。そして、時間も良い時間になったので今日はお開きと言うことになった。俺は、宛がわれた部屋に戻って来るとそこには既に布団が敷いてあった。だが、布団は1組しか敷いてなかったので、家政婦さんに頼んで人数分敷いて貰った。グラム達は大喜びで布団の中に入って就寝する。


翌日、7時に目が覚める。それと同時に部屋をノックする音が聞こえる。「どうぞ!」と言うと浜崎さんが入ってきた。


「おはようございます。もう、起きてらっしゃたんですね。」


「おはようございます。今、目が覚めたばかりですよ。」


おれは、今日、9時までに東京駅に行かないと行けないので朝7時に起こしてくれるように頼んでいたのである。


「そうなんですね。お食事の準備が出来ていますけどどうされますか?」


「いただきます。けど、ちょっと待ってくださいね。おいっ、お前ら起きろ。」


「………う~ん!もう、朝なの?」


「おはようだぞ。」


「むにゃむにゃ、おはようなのです。」


「わん!」


皆、目が覚めたようである。


「ご飯が出来たようだけどどうする?」


「食べるの!」


「勿論だぞ!」


「食べるのです!」


「どうやら皆食べるみたいです。」


「そうですか。そちらのワンちゃんは良いんですか?」


「コイツは、いいんですよ。」


哮天犬の頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振っていた。だが、何か浜崎さんの視線が冷たくなった。多分、犬にご飯を食べさせない虐待に思われたのかもしれない。なので、弁解はしておこうと思う。


「哮天犬は、いいんですよ。コイツは、ダンジョンから出てきたアイテムなんですよ。だから、コイツの食事は俺の魔力なので物を食べなくても平気なんですよ。」


「えっ!?そうなんですか!それは、失礼しました。」


「そんなに気にしなくても良いですよ。」


「ありがとうございます。それで、お食事は和食と洋食どちらになさいますか?」


「和食とか洋食とか何なの?」


スノウとウルもうんうんと頷ている。どうやらわかっていないようである。


「簡単に言うとご飯かパンかってことだな。俺は、和食かな。」


「じゃあ、グラムもご主人と一緒なの!」


「じゃあ、洋食だぞ!」


「ウルも洋食が良いのです!」


「っと言うことで、お願いしてもいいですか?」


「はい!かしこまりました。」


「場所は昨日、夕食を食べた所でいいですか?」


「はい!」


「じゃあ、俺達は準備してから行きますね。」


「分かりました。では、失礼します。」


そう言い、浜崎さんは戻っていった。そして、俺は着替えを済ませて、昨日、夕食をとった場所に向かう。そこには、玄羅と飛鳥、結衣、朔夜、玉兎、さくらが既に食事をしていた。


「おう、おはよう。やっと起きたか!」


玄羅が、俺にそう言う。


「おはよう。っと言うか、皆、早すぎだぞ!」


「これが家では普通なのよ!」


と、さくらが言いはなつ。


「そうなのか!」


「それよりも、神月。今日はダンジョンに行くんだろ?」


「ああっ、昨日の約束があるからな!じいさんはどうするんだ?」


「儂は、今日はパスだ!」


「どうしたんだ?戦闘狂のじいさんらしからぬ台詞だな。」


「今回は1階層から見て廻るのだろう。1階層の敵など面白くも何ともないわ!」


「じゃあ、グラムもパスなの!」


「俺も、パスだぞ!」


「ウルも行かないのです!」


「えっ?マジで?」


「楽しくなさそうなの!」


「歯応えのない奴らと戦いたくないぞ!」


「もっと面白い方がいいのです。」


「わかった。じゃあ、今日はどうするんだ?」


「たまにはのんびり過ごすの!」


「良いアイディアだぞ!」


「ウルは漫画読みたいのです!」


「はぁ、わかった!じゃあ、暇潰しにゲームとか漫画とか色々置いていくから好きにしていいぞ。」


「ご主人、ありがとうなの!」


「ありがとうだぞ!」


「ありがとうなのです!」


と、3人とも今日は行かないらしい。


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