第67話 決着
少し戻って、天上院玄羅が俺に木刀を渡した時に、角で見学していた遙が焦ったように言う。
「あっ、不味いっす!!」
「確かに!」
遙の言葉に朔夜が焦ったように同意する。
「朔夜!どういうことだ?たかが木刀だぞ?」
玉兎の頭の上には?が浮かんでいた。
「ねぇ、遙。言っても大丈夫かな?」
「いいんじゃないっすか?師匠も私達に見せたくらいっすから!!」
「それもそうね。玉兄、実はね、私達が今日、ダンジョンに言ったのは知ってるわよね?」
「ああ!聞いてるぞ。」
「なら言わなくてもわかると思うけど私と遙は師匠と一緒にダンジョンに探索に行ったの!」
「朔夜。勿体ぶるな!」
「まぁ、いいから聞いて!それで、私達は、師匠が予め弱らせた敵に攻撃を加えて倒すと言う経験値稼ぎ、つまりパワーレベリングと言うやつをやらされたの!」
「ほう!それで?」
玉兎だけでなくさくら、結衣、飛鳥も興味ありげに話を聞いている。
「それで、私と遙は驚くほど早くレベルを上げることが出来たんだけど、今日の最後に戦ったモンスターがとんでもなかったの!」
「どんなモンスターが出てきたんだ?」
「サーペントって名前のモンスターらしいわ。名前の通り蛇のモンスターでね。体長は10メートルを越える大蛇だったの。」
「「「えっ?」」」
「まぁ、そんな大きな蛇、是非見てみたかったわ!」
「「「「「えっ?」」」」」
朔夜のサーペントの話しに吃驚したのは、さくらと玉兎、結衣であるが、蛇を見てみたかったと言うのは飛鳥である。その反応に、この場にいる皆が反応してしまった。
「あら、どうかしたの?それで、続きは?」
「あっああ、そうですね。それで、師匠はその大蛇を一刀のもとに真っ二つに切断して倒しちゃったんです!しかも、武器は木刀を使って!」
「はぁ?木刀でそんなデカイ蛇を切断できるわけないだろ!」
玉兎は否定するが、
「それは、私も見たっすから間違いないっす!」
「マジ?じゃあお爺様ヤバイんじゃないの?」
「多分、師匠は手加減してくれるハズっす!」
「「「「……………。」」」」
「うっ、多分大丈夫っす!多分!」
本当だろうな?と言う4人の視線が遙を射ぬかれタジタジになっている。勿論、俺は手加減する気満々である。だって、本気でやったらあっという間に上半身と下半身がお別れしちゃうかもしれないからね。
話しは戻って、俺が天上院玄羅の攻撃を回避し、天上院玄羅が引いて、再び正眼に構えたところである。
「じゃあ、次は俺の番でいいですよね?」
「ふんっ、かかって来い!」
「じゃあ、遠慮なく!」
俺は縮地を使い一気に天上院玄羅の胸元に飛び込み、俺が懐に入ったのを認知させる。
「なっ?!」
そして、再び縮地を使い天上院玄羅の周囲を一瞬だけ姿が見えるようにしてから再度縮地を発動させる。その際、わざと足音を大きくして四方八方縮地で飛び回る。天上院玄羅は、必死に俺の姿を捉えようとするが捉えられないでいる。
「小癪な真似をしおって!」
さて、そろそろ潮時だと思う。俺は、天上院玄羅の真横から接近し、先ずは上段から木刀を振り下ろし、天上院玄羅の木刀を真っ二つに斬る。斬ったあとは地面スレスレで刃を返し、木刀を跳ね上げ、天上院玄羅の首に触れるようにする。
「はい。チェックメイト!…………なんちゃって!!」
ちょっと格好付けて見たかったけど、俺はそう言うとタイプでは無いなと思い、ちょっとふざけてみたが、天上院玄羅は勿論の事、他の面々も驚いた表情をしている。
「えっーと、あの~、勝負は付きましたよね?」
すると、皆が徐々に頭が稼働し始める。
「そうだな。俺の完敗だ!」
天上院玄羅が敗北を認めた。すると、俺の方に向かってくる足音が聞こえる。
「スゴいですね。さすが、師匠です!」
「師匠!スゴすぎっす!」
朔夜と遙は、少し興奮気味に言ってくる。
「さて、あなた!これは、認める他に無いですね!」
「飛鳥。ああ、認める他あるまい!」
「やったー!」
「やったっす!」
朔夜と遙は、2人して抱き合いながらピョンピョンと跳ねている。
「そんなに喜ぶな。確かにお前達の師匠は続けられるかもしれないが、その前に学校の問題も有るだろ?俺は、今のところ東京に行く気は無いぞ!」
「「えっ?!」」
「取りあえず、お前達は、学生だから学業が最優先だからな。もし、学校行かずにダンジョンに行くようなら速攻で師匠なんて辞めるからな。」
「そっ、そんな~!!」
「殺生っす!折角楽しいダンジョン探索ライフを満喫出来ると思ったのにっす!」
「まぁ、1つの案としてだけど、お前ら2人は月曜から金曜まで学校に行く!そして、金曜日の夕方にこっちに来て、土曜日の丸一日一緒にダンジョンを探索するって言うのはどうだ。その場合は、俺の休みを土日から日月にシフトするようにするぞ!休みは出来たら週休2日は欲しいからな!」
「わかりました。では、当分の間はそれでお願いします。」
「私もいいっすよ!だけど、1つお願いが有るっす!」
「何だ?」
「祝祭日と長期休暇の時は、師匠とダンジョンに行きたいっす!」
「仕方ない。オッケーだ!」
「やったっす!」
と、朔夜と遙は、パチンとハイタッチをする。
「すみません。宗吾さん。只の案だったんですけど、何か本決まりになってしまったんですけど、これでいいですか?」
「私は、娘達が良ければいいですよ。但し、交通費は自分で持つこと。これが、条件だ!まぁ、山口の県内は東京よりも電車やバスの数が少ないから予め言っておけば車の手配はするぞ!」
「ちょっと、お父さん。それは、厳しいよ。」
すると、遙が携帯を取り出し操作を始める。
「朔夜!心配しなくってもいいっすよ!」
「えっ!どういう事?」
「私達、今日の稼ぎスッよ!あれが有れば余裕で交通費は出るっす!」
「あっ、そうだよね!今日、1日だけであんなに稼げたんだから交通費なんて余裕だね!」
「そうなのか?」
「そうだよ玉兄。今日だけで10万円以上稼げてるしね!」
「マジか?なら、俺も本気で探索者の資格取ろうかな!」
「玉兎まで、そんなことを言い出すなんて!!」
と、天上院宗吾はため息が出る。一番したの娘だけでなく、後継者の玉兎まで危険な探索者になろうとしているのだから、親の立場になって考えれば納得がいく。まぁ、俺はまだ独身だから子供はいないんだけとね!
「そう言えば、神月。ダンジョンには、魔法もあると噂があるが本当か?」
「何だ?爺さんも魔法に興味があるのか?」
「おっ、おいっ!儂のことを爺さんと、まぁ、確かに朔夜達の祖父であるから爺さんでも構わんが、こんな呼び方をするのはお前だけじゃぞ!……それよりも、さっきの答えだな。勿論、興味があるぞ!逆に、興味がないなんて信じられんわ!」
「それなら、朔夜と遙に見せて貰えばいいですよ。」
「何?」
玄羅の目が輝き、朔夜と遙の方を向く。
「それで、朔夜と遙はどんな魔法が使えるんだ?」
「えっーと、実際にまだ使ったことは無いんですけど、私が風魔法で遙が水魔法です。」
「ちょうどいい機会だから2人とも使って見ればいいんじゃないか?」
「えっ?いいんですか?」
「言ったろ?使うことによってスキルのレベルは、上昇する。それに、自分の魔法くらいキチンと使えないと恥ずかしいだろ?」
「そうっすね。やるっす!」
「やります!」
「じゃあ、爺さん。何か的になるもん無いか?」
「的か?…………っお、ちょうどいいものがある!」
すると、刀の試し斬り等に使う巻藁を持ってきた。
「確かに。風と水だから問題ないか。じゃあ、2人ともやってみていいぞ!」
「わかりました。じゃあ、私からやります。」
魔法の試射は、朔夜から始めるようである。朔夜は目を閉じ魔法を発動しようとする。すると、朔夜の目の前に風が集まっていく。そして、朔夜が目を開き「行け!」と声をかけると風は巻藁にポスッと音を立てて当たった。
「「「「「おおおーーー!」」」」」
初めて見る魔法に周囲も驚いているようである。
「じゃあ、次は私っす!」
遙は手を前に出して集中する。すると、何処からともなく水が出てくる。遙は、「飛んで行け!」と、言うと水は巻藁に飛んでいき、巻藁を濡らした。
「おおっ、私にも出来たっす!」
「後は、どんな魔法にしたいのかのイメージと魔力の扱い方かな?」
「確かに、魔法を作るときに体の中の何かが出ていった気がする!」
「それは、私も思ったっす!」
「多分それがステータスにあるMPだと思うぞ!その、体から出るものを最小限にして最大の効果を発揮する事が大事だと思うぞ!魔法の練習と体の中にあるもの、つまり俺は魔力と呼んでいるが、それを効率的に使えるようにすることが当分の課題かな!」
「わかりました!」
「わかったっす!」
「でもよ、朔夜の風魔法は分かるけど、遙の水魔法は地味じゃね?」
「玉兎、儂の孫ともあろうものが、そんなことを言いよるのか?」
「えっ、でもよ爺ちゃん、水なんてどうもしようがないだろ?」
「そうよ。私も玉兎兄さんの言う通りだと思うわ!」
「はぁ、孫2人ともどうしようもないな!…………宗吾、お前はどう思う?」
「私ですか?………………私なら取得するでしょうね!」
「えっ!どういう事だよ、親父?」
「まず、水がどんな役割を果たしているのか考えれば分かることだと思うよ。」
「「役割???」」
「まず、人間に取って1番に必用なのは水だよ。人間の体重の60%は水で出来ていると言われている。人間、水を飲まなければ3日と持たないだろうね。それ程大切なものだよ。それを、魔法で作れるとしたら途轍もない画期的な事だよ。」
「そっ、それは、まあ、そうだな。」
「それに、まだ、メリットはある。」
「まだ?」
「ダンジョン内には水道なんて施設はないだろ?だが、人間水分補給は必用になる。長い時間ダンジョンを探索するには多くなる。そして、一緒に探索する仲間が多いほど水は必用になる。」
「あっ、そうか。水を大量に持って行くと、途轍もない重さになる。水魔法を使える奴がいることで、その分の荷物が減るわけだ。」
「そうだね。だけど、それだけじゃないよ。攻撃の魔法としても使うことが出来ると思うんだよ。」
「攻撃?さすがに、それは、無理だろ?」
「はぁ~!玉兎は、何のために大学に行ってるのか?もう少し、見聞を広めてほしいよ。」
「ちょ、親父!それはないんじゃないか?」
「そう言いたくなったんだよ。玉兎、ウォータージェットって言葉を聞いたことが無いかい?」
「聞いたこと無いな。それがどうしたんだよ?」
「ウォータージェットって言うのはね、水を圧縮することにより色々な物を切断や加工をする方法なんだよ。世界で1番固いとされているダイヤモンドでも切断可能なんだよ。まぁ、ダイヤモンドなどを切断するときは研磨剤なんてのを混ぜる必要があるんだけどね。」
「そんな技術があったんだ!知らなかったぜ!」
「玉兎さん。それだけじゃないよ。もっと単純な方法があるんだよ!」
ちょっと一段落付いたようなので俺が、口を挟む。
「もっと簡単な方法??」
「そう!例えば、玉兎さんの口と鼻の部分を水の玉で塞ぐとどうなるか………………もう分かるよね?」
その瞬間、玉兎は、背筋が冷たくなった。人間、呼吸を塞がれたら、待っているのは確実な死のみである。
「そうだな。俺の発言は取り消すよ。」
「まぁ、でも、どの魔法も要は使い方次第で、強くもなり弱くもなるってことだよ。」
「そうだな。勉強なったよ!」
「いえいえ、お安いご用で!」
玉兎から手を差し出してきたので、俺は笑って手を差し出し握手をする。
「よし、俺も探索者の試験を受けるぞ!」
「玉兎!その件については、後で俺と母さんとでじっくり話をするぞ!」
「そんな~!!」
情けない声を出す天上院家の長男である。
「さて、話しも終わったことですし、そろそろ帰りたいんですがいいですか?」
「すみません。ちょっと待っていただけませんか?」
天上院飛鳥が、待ったをかける。
「何かまだあります?」
「いえ、私には無いのですが…………あなた、何か言いたいことがおありなのでしょう?」
「いっ、いや特に儂には何も………………。」
「あらあら、じゃあ、これは、処分しても構わないんですね?」
飛鳥の手の中には1枚の紙があった。
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