第66話 天上院玄羅との対決

現在、天上院家の別荘の一室に居るのだが、突然部屋の扉がドーンと大きな音を立てて1人の男が乱入してくる。


「と、父さん。もう少し静かに入ってくること出来ないんですか?」


「がはははは。宗吾、イチイチ細かいことを気にするな。」


「全くもう!」


どうやらいきなり乱入してきたのはどうやら朔夜の祖父のようである。


「なぁ、あの人が朔夜達の祖父なのか?」


「そうっす!ちょっと危ない爺さんっす!」


「マジか!」


「マジっす!」


俺は小声で遙から朔夜の祖父の確認を行っていると、


「ほう、そいつか?朔夜のお気に入りは?」


「ちょ、お爺様。お気に入りではありません。私と遙の師匠です。」


ガバッとその場に立ち声を荒げる。祖父は、朔夜の方を見ると


「どもっす!」


と、遙が祖父に向かって手を振っている。


「何だ。遙も来ておったのか?」


「そうっす!朔夜とは一緒に探索者をやってるっすからね!」


遙は、祖父に向かってピースをしている。


「それよりも、そこのお主。話しは宗吾から聞いておろう?」


辺りを見回すが、全員が俺の方を見ているので、俺は自分を指差して


「えっーと、俺ですか?」

は下げる


「他にはおるまい!」


「ですよね~!」 


「それで、話しは聞いておるだろう?」


「俺を試すとか言うやつですか?」


「そうだ。わけのわからん奴に、可愛い孫を預けられるか!」


「わっ、わけのわからんって、まぁ、実際そうなんですけど……!それで、何をするんですか?」


「なーに、簡単なことよ。俺と手合わせをして貰うだけよ。」


「そんなことでいいんですか?」


「ちょと、神月さん!お爺様は本当に強いわよ!何たって剣道や柔道、合気道なんかを修めた武道の達人なのよ!」


と、さくらが語ってくれる。


「スゴいんですね!」


正直スゴいと思ったのでこの言葉が口から出た。


「ふんっ、舐めておるのか?」


「あっ、いえいえ。舐めてないですよ。ただ、感心しただけですよ。世界有数の企業の元トップの人が武道の達人なんて誰も思わないじゃないですか?」


「そうかの?」


「そうです!」


すると、朔夜の祖父の後ろから着物を着た綺麗に年来を重ねた女の人が立っていた。


「あなた、若い人を虐めるんじゃありませんよ!それに、あなた、まだ、名乗っていませんよ?喧嘩を吹っ掛ける前にキチンと挨拶をしたらどうなのですか?」


女の人は、笑顔でそう言うが、その笑顔が何故だか物凄く冷たく怖い。祖父も、慌てており、始めから部屋に居た天上院家の5人も顔が強ばっている。すると、遙がこっそりと


「この家で1番怖いのはあの人っす!怒らせたら血の雨が降るっすよ!」


やっぱり俺の勘は当たっているみたいである。すると、女の人が俺の方に歩みより、


「初めまして。私は朔夜の祖母の天上院飛鳥あすかと言います。よろしくお願いしますね。私のことは飛鳥と呼んで貰えると嬉しいわ!ほら、あなたも自己紹介して!!」


「ああっ、俺は天上院玄羅げんらだ。朔夜の祖父で、現在は天上院グループの顧問をやっている。」


と、2人が自己紹介してくれる。なので、俺も立ち上がり自己紹介をする。


「俺は、神月サイガと言います。現在は、探索者をやらせてもらってます。」


「よし、これで自己紹介も済んだことだし、そろそろお前の実力を見せてもらうもするか!ここでは、無理だから付いてきてもらうぞ!」


俺は、マジでやるのと言う顔で周りを見渡すが皆、俺に視線を合わせないようにしている。これは、自分達が言っても無理ってことだよな。すると、飛鳥さんが、


「私も神月さんの実力には興味がありますの。是非、見せてもらえるかしら?」


俺が少しどうしようか思っていると、


「貰えるわよね?」


と、声のトーンが1つ下がって、飛鳥さんの顔がさっきの天上院玄羅を抑えた時のような顔をしており、本能的にこの人には逆らったらダメだと思い、


「分かりました!」


と、渋々了承する。俺は、部屋を出て、先頭を天上院玄羅、次に飛鳥さん、そして俺の順番で家の中を歩いていく。気が付くと俺の後ろには朔夜と遙も付いてきており、その後ろには、天上院夫妻と兄妹が付き従っていた。


暫く進むと、そこは普通の体育館位の大きさの建物に到着する。家にこんな施設が有るなんて金持ちの考えることは解らんなと思う。いや、ここは、家じゃなくて別荘だったな。じゃあ、本邸はどうなってるんだろう?ちょっと興味があるな。


「さて、ここは我が家の武道場だ。ここで、お前の実力を見せて貰おうか。」


天上院玄羅が武道場の最奥の真ん中に立ち、俺以外の人達は、武道場の角にて観戦している。


「仕方ないですね。それで、相手は玄羅さんでいいんですか?」


「ははははは、生意気な奴だな。それでもいいが、その前のテストだ!」


そう言い指をパチンと鳴らすと入り口から20人位の黒スーツにサングラスをかけたいかにもボディーガードですといった人達が入ってくる。それぞれが警棒を握っている。


「まずは、こやつらを相手にしてもらう!こやつらは、ボディーガードの連中じゃ!」


「ちょっと、父さん。幾らなんでもやりすぎじゃないのか?」


「宗吾。ちょっと黙って見てましょう!」


「飛鳥の言う通りだぞ!」


どうやら今ので止めてくれる人は居なくなったのでやるしかないのかな?だけど、その前に幾つかの確認をしておかないとな。


「すみません!質問があるのですがいいですか?」


「ん?何だ?言ってみろ!」


「じゃあ、お言葉に甘えて。俺がこの人達を倒しても問題無いんですよね?」


「ああっ、倒せればな!」


「そこで、倒したときに怪我をした場合は、きちんと労災は出ますよね?」


「労災とは言わず天上院グループで全責任は取るぞ!」


俺は、天上院宗吾の方を見ると首を縦に降り頷かれる。


「あと、もう1つ質問なんてすけど、守秘義務はキチンと守って貰いますよ!」


「それは、当然だ。こやつらもその辺は徹底されておるから心配はいらん!」


「分かりました。じゃあやりますか?」


「では、用意、始め!」


ここで、時間を少し遡って俺が、質問を始めた頃に戻る。やはり、一方的に倒す事になるのだから怪我が心配である。それに、ここでの闘いを広められても困るのでその辺の確認をしておかなければならない。ついでにこの時間を使い、哮天犬を念話で読んでおこうと思う。

俺が、質問をしている時、哮天犬は玄関の横でうつ伏せていた。俺が、『来いっ!』と念話を送ると、哮天犬は、ムクッと起き上がり、俺の気配を探し走り始める。


そして、現在に戻る。天上院玄羅が始めの合図をするが、まだ、誰も俺に向かってこない。因みに俺は今現在素手であり、しかも俺はまだ構えを取っていない。それに、警戒したのかジリジリっと近づいて来て、全方位から一斉に飛びかかろうとした時に、武道場の入り口から白い塊が飛び込んでくる。そう、哮天犬である。哮天犬は俺の前に出て


「ワォォォォォォーーーーーン!」


と、大きく一吠えするとボディーガードの人達は俺に飛びかかるのを止める。さくらは、哮天犬の一吠えに尻餅をついていた。角で見ていた他のさくら以外の4人も冷や汗を流している。哮天犬の実力を知っている朔夜と遙は涼しい顔をしている。


「おいっ、朔夜!あれはなんだ?」


「玉兄には、あれがライオンにでも見えるの?」


「朔夜。それはヒドイっすよ!ワンちゃんがかわいそうっすよ。でも、ライオンの方がまだましっすけどね!」


「それは、どういう意味なんだい?」


「お父さん。まぁ、見てればわかると思うよ。」


俺は飛んで来てくれた哮天犬にの頭を「よしよし!」と撫でてやる。


「よしっ、じゃあ、あの黒い服着た人達を倒してきてくれるか?」


「わん!」


「だけど、出来たらあんまり怪我をさせずに無力化してくれると嬉しいぞ!」


「わんわん!」


「じゃあ、行ってこい!」


「ワォーン!」


小さく吠えてから哮天犬は相手に向かって走り出す。すると、10秒もかからない内に黒服のボディーガード達は、宙を舞って壁や床に叩きつけられており、1人も立ち上がって来ることはなかった。どうやら、全員息はあるようで一先ず安心である。さて、ここで、哮天犬が、どうやってボディーガードの連中を倒したのかと言うと、パンチである。パンチといっても4足歩行なので前足と後ろ足と呼ぶのが普通なのであろうが、ここは、比喩的な表現を使ってパンチである。ネコパンチならぬイヌパンチである。しかも、哮天犬は、爪を出さずにパンチを繰り出した為、哮天犬の爪で怪我をした人は皆無である。でも、爪を出さずにパンチをしたと言うことは、肉球だけが直接当たるのだ。何か気持ち良さそうである。まぁ、この現状を見ればやって欲しいとは思わないけどあとで、哮天犬に頼んで肉球を触らせて貰おうと密かに思うのである。


「なっ!」


天上院玄羅は、驚愕の表情をしている。それは、当然、武道場の角で見学していた面々も同様である。


「なっ、何よ!あの犬、出鱈目じゃないの!」


「さくらの言う通りマジで出鱈目だな。なぁ、親父!」


「そうだな。まさか、あんなものまでいるとは………!」


「スゴいですね!ねぇ、お義母様!」


「あの毛並み。是非、撫でてみたいわ!」


皆に驚いているが、何故か1人だけ違う感想を言っているが気にしないでおこう。


「まー、当然ね!」


「あのくらいは朝飯前っすね!」


「「「「えっ!?」」」」


「なぁ、朔夜。この光景になるって2人には分かってたの?」


「当然ですね。ただ、あのワンちゃんが突入して来るのは予想外でしたけど、こうなることは分かりきっていました。でも、思ってたよりも建物に被害がなくて良かったと思いますよ!」


「そうっすね!師匠にしては穏便に済ませた方じゃないっすか?」


と、2人は、さも当然と言わんばかりではある。


「これでかよ……………!俺も探索者資格取得して弟子入りしようかな?」


「玉兎!お前は天上院家の後継者なんだから何にかあってもらったら困るぞ!」


「でもよ、強さは男の憧れだぜ!」


「むっ、…………そこは否定しづらい。」


「でも、可愛い子には旅をさせよ。と、いいますし、玉兎さんももう子供ではないのだから自分の事は自分で決めさせ方がいいんじゃないかしら、宗吾さん?」


「母さん。……………はぁ~、仕方ない。但し、キチンと神月さんには許可をもらうこと。」


「サンキュー!親父!」


何故か外野で勝手に話が進んでいるが、取りあえずは聞かなかったことにしておこうと思う。さて、ボディーガードは、全員、哮天犬が始末してくれた。天上院玄羅ただ一人である。


「ガハハハハ………!面白いな。」


「余裕じゃないですか?」


「そうでもないぞ。これでも驚愕しているんだがな。」


「それで、どうするんですか?」


「勿論、俺の相手をしてもらうぞ。」


「わんっ!」


哮天犬が、俺の一歩前に歩み出る。すると、天上院玄羅が手を上げる。


「ちょっと待て!その犬の実力は今見せてもらった。なら、次はお前の力を見せて貰おうか?」


「だってさ。やる気だしてるところ悪いけどちょっと下がってな!」


「クーン!」


少し尻尾が下がったが、大人しく言うことを聞いてくれ入り口まで戻り、お座りをしている。


「それで、やるんですよね?」


「勿論」


そう言い、天上院玄羅は俺に向かって木刀を放る。俺のの足元にある木刀を見ていると、


「それを使え!」


と、天上院玄羅がそう言う。そして、天上院玄羅は、壁に掛けてあった木刀を取る。その間に、倒れていたボディーガードの人達は、自分で動ける人は動けない人を助けながら武道場を後にする。


「さて、始めようか?小僧!」


「どうぞ!」


「では、行くぞ!!」


天上院玄羅は正眼に構えを取る。対して俺は、何の構えも取らない。普通に立ち、木刀を右手で持つ。


「ほう、無形の位か!」


「無形の位?」


「何だ知らないのか?」


「無形の位とは、柳生新陰流の構えだ。無防備な構えだが、敵の攻撃に対して千差万別、自由自在に対処が出来ると言う構えのことだ。」


「詳しいんですね。」


「武道家ならこの位知ってて当然だ。」


「そうですか。じゃあ、かかってきてください。」


「生意気な!!」


そう言うと、天上院玄羅は、すり足で俺に接近して来て間合いの2歩程前で、静止するが、そこから一気に踏み込んで上段から木刀を一気に振り下ろす。だが、レベルが上がったことにより目も良くなったのだろう天上院玄羅の動きが良く見える。俺は、余裕で片足を引き半身にって回避する。天上院玄羅は、渾身の一撃だったようで必ず決まると思って木刀を振っており、攻撃の最中は薄ら笑いを浮かべていたが、俺が、回避したのを笑みは消え、その場から後方に飛び、正眼に構えを取ってこちらを睨んでいる。

俺は、天上院玄羅の打ち終わりに攻撃を仕掛けることが出来たが、敢えてしなかった。この爺さんには、俺との実力の差を見せつけてやらねばと思ったので、決着を付けずにわざと逃がしたのである。

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