第65話 天上院家
さて、漸く到着した朔夜の家だが、門は自動で開くようになっていた。そして、そのまま敷地内に車を乗り入れ、家の玄関先で車が止まる。すると、きちんと正装した人が車のドアを開けてくれた。俺達は車を降りると朔夜が
「師匠、紹介しますね。この人は、家で執事をしてくれている藤川さんです。」
「この家で、執筆をさせていただいております藤川隆晴といいます。お嬢様がお世話になってます。」
と、一礼をする。
「あっ、俺は、神月サイガと言います。よろしくお願いします。」
仕事柄だろうけど丁寧な対応をしてくれるよな。俺も頭を下げて礼をする。やはり、礼には礼をもって接しなければならないだろうと思う。それにしても、正直言って滅茶苦茶でかい。家の何倍あるんだか。建物は典型的な日本家屋である。俺が、家の大きさに圧倒されていると、執筆の藤川さんが
「どうぞこちらに。」
どうやら案内してくれるようだが、俺の耳には入ってこない。何故なら家の大きさに圧倒されていたからである。
「師匠、大丈夫っすか?行くっすよ!」
遙に声をかけられ「はっ!」と、正気に戻る。
「分かった。」
「クーン!」
そう言えば哮天犬を置いて行く訳にもいかず、一緒に連れてきてしまったのである。
「あの、すみません、藤川さん。コイツはどうしたらいいでしょうか?」
俺は、哮天犬の方を指差すと藤川さんは少し困った表情になる。
「申し訳ないんですが、家に入れるのはちょっと………。」
「ですよね。じゃあ、玄関先で待たせておいてもいいですか?」
「ええ。それは構いませんが………大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。コイツ、頭いいですから!」
「そうっす。舐めちゃいけないっす!」
「ワン!」
そうだ。と、言わんばかりに返事をする
「はぁ、そうですか。では、その子にはこちらから何か餌になるものをご提供させていただきたいのですが?」
「そのお話はありがたいんですが、食べないんで大丈夫ですよ。」
「???そうですか。分かりました。」
藤川さんの頭の上は???で溢れているようだった。
「じゃあ、ちょっとここで待っててくれよな。」
「ワン!」
分かったと言わんばかりに返事をしてくれる。その後は、入り口の横に伏せて座っている。
「随分と賢い犬ですね。」
「ははははは、ありがとうございます。」
「では、そろそろ行きましょうか?」
「ええ、藤川さんお願いします。」
「はい。お嬢様。では、こちらにどうぞ!」
先頭を執事の藤川さんが歩きその後ろを朔夜と遙が続き、最後に俺が続く。それにしても、改めて思うがやっぱり、この家デカ過ぎだろうと。途中で庭を通ったが滅茶苦茶綺麗に手入れされている日本庭園があった。やっぱり、金持ちのやることは違うなと思う。
通された部屋は、奥に大きな机が置いてあり、その手前に真ん中にテーブルが置いてあり、そのテーブルを囲うようにソファーが用意されていた。
「どうぞ、こちらにかけてお待ちください。」
俺は促されるままソファーに腰を掛ける。すると、女の人がカートを押しながら入ってくる。年齢は50台位のおばちゃんでエプロンを付けている。すると、カートの上には紅茶のティーセットが置かれており、おばさんはそこで紅茶を淹れ始めた。紅茶はなんともいい匂いをさせている。流石、超有名企業の家だなとつくづく思ってしまう。紅茶が目の前に置かれる。
「どうぞ!」
「ありがとうございます。」
すると、女性は会釈をしてニコッと笑ってくれた。そして、紅茶を飲む。凄く香りが高く今まで飲んでいた紅茶が霞む位美味しかった、まぁ、そんなに頻繁に飲んでいたわけではない。前の仕事をしていた時の、休憩中や夜勤の眠気覚ましに飲んでいた程度である。俺が、紅茶を味わっている間に藤川さんとおばちゃんは部屋を後にしていた。その後、少しの時間紅茶を楽しんでいると、ノックをされ執筆の藤川さんがドアを開ける。藤川さんがドアを開けた後に中年の男女と朔夜と同じ様な顔だが少し年上な感じがする美人とイケメンが入ってくる。俺はそれに気がつき経とうとすると、中年の男の人が
「どうぞ。そのままで。」
と、言ってくれたので再度座り直す。4人が席に着くと俺達と同じ様に紅茶が運ばれる。すると、中年の男性から話を切り出される。
「初めまして。私は、朔夜の父で天上院宗吾と言います。娘達を助けてくれたそうだね。どつもありがとう。」
大企業の社長さんだから、もうちょっと強引な人かと思ったけど意外と優しそうな人だなと思う。まぁ、腹の中は何を考えているのかは分からないけどね。
「次は私ね。私は宗吾の妻でこの子達3人の母親で、結衣って言います。どうぞよろしく。」
「次は、俺か。俺は、朔夜の兄の天上院玉兎ぎょくと。大学生をやっている。」
「最後は私ね。私は、朔夜の姉で玉兎の妹の天上院さくらよ。一応、私も大学生をやっているわ。」
と、天上院家の皆さんが自己紹介をしてくれる。なら、次は俺かな。
「俺は、神月サイガと言います。今は、探索者をさせて貰っています。」
一応、超簡潔ではあるが、自己紹介をする。
「そんなに改まらなくていいんですよ。何しろ娘達を助けてくれた恩人なのですから。」
天上院結衣がそう言ってくれる。
「いえいえ、偶々通りかかってしまって。それで、ああいう輩が居ると気分悪いですからね。」
「だが、俺達にとっては大事な妹だからな。」
「そうね。朔夜に何もなくて本当に良かったわ。」
天上院玉兎と天上院さくらは、妹が無事でホットしているようである。
「あの、つかぬことを聞きますが天上院グループって世界でも有名な企業ですよね。そこのお嬢様が何故危険な探索者なんてやっているんですか?」
俺の問いに4人は少し苦い顔をする。
「えっと、何か変なこと聞きました?」
「いや、そんなこと無いよ。実は、朔夜は最近小説にハマっていてね。どうやらその小説では異世界に転生して冒険したり、現実世界にダンジョンが出現して、文明崩壊した中で生きていくといったものを読んでいてね。今回は文明崩壊には至らなかったがダンジョンが出現してしまったからね。それに、君も知ってると思うけど、1月の初めの総理のダンジョンが出現し、それを一般に開放すると言う放送があったのは知ってるよね。」
「はい。生で見ましたから。」
「そこから、朔夜は、「私もダンジョン行く!」と言い出したんだよ。勿論、私達はもう猛反したけど、結局は押し切られてしまってね。」
「あの時の朔夜はスゴかったな。なにしろ「ダンジョンに行けなかったら死んでやる!」とか、「もう、お父さんとは一生口聞かない」って言ってて、最終的に親父か根負けしたんだもんな。」
「ちょっと、玉兄ぎょくにい!恥ずかしいでしょ!」
朔夜の顔は赤くなっていた。
「ホント、お父さんは、朔夜には超が付く程の甘いんたから。」
「私は、貴方の意見に従いますけど、確かに朔夜には甘いわよね。」
「2人ともそれはなくないか!!」
奥さんと天上院さくらに攻められて、宗吾はタジタジである。
「へぇー、そんなことがあったんだ。じゃあ、遙は、どうして探索者になったんだ。」
「よくぞ聞いてくれたっす。私は、朔夜ほどじゃないっすけどダンジョンには興味があったっす。けど、なれたらいいな位にしか思ってなかったっす。そこを、朔夜に強引に説得されて探索者になったっす!」
「つまり、朔夜に巻き込まれたんだね!」
「そうっす!」
「まっ、まぁ、そんなことはどうでもいいじゃないですか!それよりも、これからの事を話しませんか?」
朔夜は焦ったように話を強引に変えようとする。まぁ、この状況を作り出したのは朔夜の様なものだし。
「その前に、もう1つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「いいよ。私達で答えられることなら何でも答えるよ。」
天上院宗吾は、にこやかな笑顔を向けてそう言うが、内心何を考えてあるのか分からない表情である。
「じゃあ、お言葉に甘えて………!何でこんな田舎に貴方達みたいな人達が居るんですか??」
「「「「?????」」」」
「ふふふふふ………!師匠笑えるっす!!」
「ふふふ、確かに!」
「いや、そんな笑えるような質問はしてないつもりなんだけどな。」
「師匠がそんなこと聞くとは思ってなかったんすよ。」
「そうなのか?」
「そうっす!」
「ははははは、確かにそうだね。まさか、そんなことを聞かれるとは思ってなかったよ。」
「そうですかね?俺は、こんな田舎に世界有数の人達が居ることの方が不思議ですけどね!」
「そうだね。君の質問に答えよう。私達が、今、ここに居る理由は、簡単に言ってバカンスだよ。」
「バカンス?」
「そう。玉兎とさくらは大学生で、朔夜は高校生で春休み中だ。私達、夫婦も家族と一緒に過ごす時間が欲しくてね、頑張って仕事をして休みを取ったんだよ。」
「そうなんですね。でも、ここに居る意味とは少し違いませんか?」
「そうでもないさ。ここは、別荘なんだよ。本邸は、東京にあるんだけどね。たまには都会を離れて自然の多いところでゆっくりとしたかったんだよ。それに、ここには私の両親、つまり、朔夜達の祖父母がここに住んでいるから孫の顔を見せに来るのにもちょうど良かったのさ。」
「そうですか。」
「元々は、私の父親が天上院グループのトップだったんだけどね数年前に私にその座を明け渡して自分は悠々自適の隠居生活を始めちゃったんだよ。今は、天上院グループの顧問って言う立場で協力はして貰ってるんだよ。ほら、最近はインターネット関連が凄く普及してて田舎に居ても、色々と出来るようになってるしね。私も父みたいに田舎で仕事が出来たらいいんだけど、流石に1番上の者がそんなことを出来ないけどね。」
「じゃあ、ここには朔夜の祖父母も住んでいるんですか?」
「そうだね。」
「そうなんですね。………っあ、ここには休暇で来ているということは、朔夜達の学校はこっちじゃないってことじゃん!」
「そうですね。」
「そっ、そうっすね!」
2人とも俺から目をそらしている。
「じゃあ、今日は4月の3日で、明日は休みにするって公言しちゃったし、大体学校が始まるのが7日だから一緒に行けるのはあと1回か多くても2回になるわけだ。」
「そんな!最初は最悪だったけど、折角楽しくなってきたのに………!」
「そうっす!最初はあんまり乗り気じゃなかったっすけど、やっと楽しくなってきたのに、あと1、2回なんて殺生っすよ。それに、まだ、私達のスタイルも決まってないっすよ!!」
「でも、学校は大事ですよね??」
俺は、正面に座っている4人に話を振る。
「そうだな。俺は、大学まで行ったほうがいいと思うぞ。」
「私も、玉兎兄ぎょくとにぃに賛成よ。」
「そうね。天上院の家の者なら大学までは出て欲しいわね。ねぇ、あなた!」
「そうだな。この家の者なら大学までは出て欲しいと思うよ。幸い、朔夜の成績は良い方だから問題なく大学に行けるしね。」
「っと、言うことは、学校には行くと言うことで決まりだな。」
俺は、世話をしなくてもよくなったので、ちょっと嬉しくなり、意識せずにニヤニヤしていると、
「師匠、何ニヤニヤしてるっすか?もしかして、私達を厄介払い出来たと思ってるんじゃないっすか??」
「えっ、いや、そんなことはないぞ!」
少し顔に出ていたようである。
「怪しいです!」
「怪しいっすね!」
正面の4人も頷いている。
「まぁ、その話しは、また、あとでしようか。そう言えば、父が君の事を試したいと言っていたよ?」
「試す?」
「ああ。それは私達も同じ気持ちなんだよね。大切な娘達を預けるんだから実力を知っておきたいんだよね。」
「それで、俺は何をしたらいいんですか?」
「さぁ?父がする事は分からないですね。」
全員がウンウンと頷いている。すると、部屋の入り口がドーンと開いて1人の男が乱入してくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます