第64話 支部長

さて、俺達は今、支部長が来るのを待っている。と、言うのも俺が、ダンジョンでドロップした宝石のことでちょっとした問題が起こったのである。副支部長が、鑑定をしてくれたまでは良かったのだが、買い取りが億を越えそうなので、副支部長ではそこまでの権限がないようなのである。なので、この支部で一番偉い人に相談しようということになったのである。そう、この支部の1番偉い人、それは、支部長である。


5分程待つと部屋のドアが開き葵さんが入ってくる。


「遅くなったね。呼びに行くついでに今までの経緯について粗方話してたら思ったよりも時間がかかってしまった。」


「それで、その支部長さんは?」


「ああっ、もう来るよ。」


すらと、ドアがバーンと音を立てて開き人が入ってくる。


「やぁ、真季ちゃんが僕に相談があるなんて珍しいこともあるもんだね!!!」


「五月蝿い。良いからとっとと自己紹介をし仕事をしろ!!」


「もう、真季ちゃんも冷たいな。さて、皆さん初めまして、僕がこの支部の支部長の御手洗渉です。よろしく。」


「「「よろしくお願いいたします!」」」


「そうだ。君達の自己紹介は大丈夫だよ。その辺は把握してるから。それで、本題に入るけど正直言って僕の手にも余るんだよね。」


「はぁ~!じゃあ、これはどうしましょうか?」


俺は少し不安になりつつ支部長に聞く。


「まぁ、慌てないで僕の話を最後まで聞いてよ。あくまで僕の手には余るってことだよ。っと、言うことは色んな人を巻き込んじゃえば良いんだよ。」


「「「「「??????」」」」」


この場にいる全員の頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。


「いいね!その反応!!面白いよ!」


「たちが悪いぞ!早く教えろ、渉。」


「ごめんごめん!今から説明するよ。まず、国が何故、一般にダンジョンを開放したのかだよ。」


「何で今さらそんなことを言ってるんだ?要は国は魔石を次世代のエネルギーと考えたからだろ!」


「そうなんだよね。まぁ、他にも国民の要望とかダンジョンに勝手に入って行方不明になるなんてのを避けるためとか色々とあるけど国の1番の目的は魔石だよ。但し、ダンジョンには魔石以外にも色々な物が出てくるよね。そして、それらを国が全部有効利用することは不可能とは言わないけど難しいんだよ。それに、ダンジョンで国だけが利益を得るのは公平じゃないからね。だから、国は一般企業にダンジョンからドロップした物を有効活用出来るようにしようとしてるんだよ。勿論、一般企業もダンジョン関係の仕事に参加したい所は腐る程あるんたけどね。」


「おいっ、話が見えてこないぞ。」


「まぁまぁ、話の核心はここからだから!企業が欲しいってことは個人でも欲しいと思う人が居ても可笑しくないだろ?それで、そう言った人、又は企業向けにオークションを開いて見たらどうかと話が上がっていたんだよ。」


「ほう、つまりは、神月が持って帰ってきた宝石を使ってオークションを開くと言うことか?」


「そうだね。これは目玉商品になること間違いなしだよ。」


「確かに面白いかも知れないな。神月はどうだ?」


「俺は、別に何でも構いませんよ。」


「そう!そう言ってくれると嬉しいよ。僕はこれから上の人達と話を纏めなくちゃいけなくなったから、今日はこの辺で失礼するよ。オークションについては今月中に開催したいと思うからそのつもりでいてね。あと、宝石の方はこちらで厳重に管理させますのでご安心してくださいね。まぁ、何かあれば葵か真季ちゃんを便りにしてくださいね。それと、オークションまで、まだ、時間があると思うので、ダンジョンで何か面白いものや珍しいものがあったら教えてくださいね。オークションの出品は幾らあってもいいですからね!」


「分かりました。また、何かあれば持ってきますよ!」


「じゃあ、よろしくお願いしますね。」


そう言い支部長は、部屋を出ていく。


「じゃあ、神月。この宝石はオークションまでこちらで預かるということでいいか?」


「俺が、持っててもしょうがないですからね。いいですよ。」


「では、今日の買い取りは以上でいいか?」


「そうですね。」


「では、支払方法だがどうする?」


「全部カードに入れてください。」


「わかった。……葵、頼むぞ。」


葵さんが俺からカードを受け取るとドロップ品を持って部屋から出ていった。


「それで、神月。明日もダンジョンに潜るのか?」


「いえ、明日は休みにするつもりですよ。本当は週休2日で土日を休みにしようと思ってたんですけど、2人に頼まれちゃったんで、今日は偶々探索しただけですよ。」


「何か、すみません。私達のために………。」


「そんなの気にしなくても大丈夫だよ!」


ちょっと口が滑ってしまったかな。


「そうか!それは良かった。」


「何が良かったんですか?」


「お前の相手をするのに平の職員では手に余るだろ。だから、ある程度、上の職員じゃなきゃ対応させられんからな。」


「あっ、何かそれ、わかる気がするっす!」


「同感です!」


「とっ、言うことは、神崎さんも結構上の人なんですか?」


「そうだぞ。知らなかったのか?」


「はい。」


「まぁ、いい。神月が来ないなら私達も何も気兼ねをせずに休むことが出来るな。ははははははは!」


やっぱり俺の扱いって酷くないって思っていたら葵さんが入ってくる。


「終わりましたよ。カードを返却しますね。」


俺が、葵さんから探索者カードを受け取ると、


「喜べ葵!神月は、明日は休むそうだぞ。しかも、基本は土日は休みにするようだぞ!」


「えっ、本当ですか?」


何か葵さんの表情が明るくなった感じがした。


「何ですか?葵さんまで嬉しそうな顔をして………。」


「えっ!?………実は、まだ、2日しか経ってないんですが、サイガさん担当、みたいな感じになってたんですよね。サイガさんが、持ってくるものには興味がありますが、休みが無いのはしんどいですからね。神崎もその辺りを気にしていましたよ。まぁ、神崎の場合、今回は四ノ宮さんが神崎の代わりをするってことで安心して今日は休んでますが、サイガさんが定期的に休みを取ると知ったら大喜びしますよ!」


「えっーと、何か俺の扱い酷くない?」


「それは、仕方ないですね!」


「そうっすね!今日、1日一緒にいたっすけど、常識外れな事を色々とやってたっすから!」


「ほう!それは、興味があるな!」


「あっ、でも、これは企業秘密っす!」


「何だ、つまらん。」


四ノ宮さんは本当につまらなそうな顔をしている。とりあえずは遙が口を滑らさなくて良かったと思う。


「じゃあ、今日はこの辺で失礼します。」


「ああ、また、面白いものを期待しているぞ。それと、オークションの件は後日、進捗状況を伝える。」


「ありがとうございます。」


俺達はそう言い部屋を後にする。

さて、支部の入り口に着いたところで遥かに釘を刺しておく。


「遙!俺の秘密はバラすんじゃないぞ!」


「わっ、わかってるっす!誰にも言わないっす!」


「頼むぞ!じゃあ、今日はこれで解散するぞ!明日はさっき言った通り、休みにするからゆっくり休めよ。それと、今日、覚えた魔法は使ってある程度理解しとけよ。使うことによってどんなものか理解できるし、魔法の特徴を知るのは大切だからな。俺が思うに魔法は創造力だと思う。どんな魔法になるのかイメージする事が大切だと思うぞ!頑張って練習しろよ。あと、魔法を使うときはバレないように使うように!じゃあ、また明後日の月曜の9時にここに集合な!」


「了解っす!」


遥は元気良く返事をしてくれるが朔夜は何か思い詰めたような顔をしている。


「どうした?朔夜?何か言いたいとこがあるのか?」


「えっーと、もし、宜しければ今から私に付き合って貰えませんか?」


「付き合うって何に?」


「実は、両親に師匠の事を話したら一度お目にかかりたいとしつこく言われまして………。」


「まぁ、親としてはそう思うのが普通だよな。」


「えっ、では、会っていただけますか?」


「仕方ないだろ?俺も朔夜の両親なら同じ事を考えただろうし………。遙の両親は何も言ってないのか?」


「えっ、あっ、特に何も言ってないっす!」


「うん?」


何か少し挙動不審になる遙であるが、まぁ、放って置いていいだろう。


「じゃあ、送って行ったほうがいいか!」


「いえ、それには及びません!」


「どういう意味だ?」


すると、朔夜は携帯電話を取り出して電話をかけ始める。電話は直ぐに終わり


「さぁ!行きましょうか!」


そう言うので、俺は朔夜の後ろについては支部の入り口を通過する。入り口を出たところで朔夜が歩みを止めるので俺もそこで止まる。すると、黒塗りの車が朔夜の目の前に止まり、運転席から運転手が降りてきて左後方のドアを開ける。よくドラマとかで見る偉い人達やお金持ちがする光景を目の当たりにする。朔夜は表情を変えずに何時もの事だという顔をしており、車に乗り込み遙もそれに続いて車に乗り込む。俺は、頭の中が整理できずに棒立ちの状態で突っ立っていると、


「師匠、早く乗るっすよ!」


「ああ、わかった。」


俺は、遙にいわれるがまま車に乗り込む。俺は、頭の中の情報を整理できずにいる。


「なぁ、俺にはこの状況が理解できないんだが………。」


すると、一瞬ではあるが運転手がルームミラー越しに俺の方を見た気がした。特に俺に危害を加えようという考えはないようである。


「何言ってるっすか?さっき、朔夜の両親に会いに行くって言ったじゃないっすか?」


「言ったけど、それとこの状況とはどういう関係があるんだよ?」


「えっ?知らないんすか?朔夜って超が付く程のお嬢様っすよ!!」


「知るわけないだろ?何で知ってると思うんだよ??」


「何言ってるっすか?朔夜の名字に気がつかなかったっすか?」


「朔夜の名字って天上院だろ?」


「えっ!?本当に知らないんすか?天上院と言えば世界的にも超有名な企業ですよ。」


「へっへ~、そうなんだね!………朔夜が超お嬢様ってのは分かったけど、そんなお嬢様と友達な遙は何者なの?」


「遙はですね。私の父の会社の専務の娘なんですよ。それで、私達、年齢が同じだってことで仲良くなったんですよ。」


「つまり、遙もそれなりのお嬢様ってわけだ。何かとんでもない2人の師匠になっちゃったな。」


「そんなこと無いっすよ。師匠の方がすごいっすよ。」


「私もそう思いますよ。」


「そうなのかな………?」


何か妙に納得してしまう俺がいるが、まぁ、細かい事は気にしないようにしようと思う。それにしても、朔夜と遙がお嬢様なんて信じられないな。本人達が言うんだから間違いはないだろうし、この車を見れば納得してしまう。車は黒塗りでピカピカだし、車内は広くてゆったりしており尚且つ座席の座り心地がハンパなくいい。俺が、乗っている車とは段違いにいい。しかし、そんなお嬢様達が、何故、こんなところに居るんだろう。世界有数の企業のお嬢様とそこの専務のお嬢様なら東京の有名な学校に通っていても可笑しくはないだろう。それに、1番の疑問はそんな大企業のお嬢様が探索者なんて危ないことをやっているのかである。そー言えば、何故、探索者をしているのか志望動機を聞いていなかった気がする。それに、よく、それぞれの家族が許したと思う。普通なら温室育ちの世間知らずや取り巻き達が沢山いてしたの奴らを見下して虐めたりするのが力を持っている奴らのすることだと思っていた。まぁ、この場合の力って言うのは親の権力や財力、あとは、喧嘩が強いとか言う直接の力も含むんだが。かくいう俺もそう言った関係で面倒に巻き込まれたことがある。高校のとき、同年代に嫌な奴がいたが、そいつが不良であったので極力関わらないようにしていた。俺は当時少し太って大きかったが、そいつは何が気に入らなかったのか分からないが、上級生の不良どもを連れて俺を囲んで暴力を振るってきた事があった。そいつらにとっては只の暇潰しや憂さ晴らしにやった事なんだろうがやられた方はたまったものじゃない。まぁ、こんなことがあったりして、力を持っている奴を、俺は余り好きになれない。ただ、力を持っている奴が、まともな奴なら軽蔑はしないが、大抵の場合は、力に溺れている奴が多いと俺は思っている。朔夜や遙を見ていると、俺が、思っているような奴ではないのは分かる。本性を隠していれば別だか。そんなことを考えていると、車がゆっくりと減速を始め敷地内に入り停止する。


どうやら、やっと到着したようである。

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