第53話 鑑定
242番の方どうぞ!」
アナウンスが聞こえたので、リュックを持ち上げ、哮天犬に「行くぞ!」と一言言うと「わんっ!」と尻尾を振りながら付いてくる。カウンターに到着すると整理券を買取スタッフに手渡す。
「お待たせしました。」
「あっ、よろしくお願いします。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。では、ご説明させていただきます。」
「はい。」
「まず、ここはダンジョンでモンスターを倒して得た品物や宝箱から得た品物を鑑定して に必要な物を選んで頂きます。そして、必要ないものはこちらで買い取りをさせて頂きます。」
「分かりましたけど、その前に1ついいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「さっき、品物を鑑定すると言われてましてけど、鑑定が出来るんですか?」
「はい。どこのダンジョンなのかは明かされてませんけど鑑定が出来るアイテムがドロップする所があるみたいですよ。」
「へぇ~そうなんてすね。因みにどんなものでも鑑定出来るんですか?」
「いえ、それが、生物に対しては出来ないみたいなんですよ。どうやら、物に関しては出来るみたいなんですけどね。興味おありですか?」
「そうですね。ファンタジー系の小説で鑑定のスキルは定番中の定番ですからね!」
「そう言われる方はよくいらっしゃいます。」
「ですよね。」
何か怪しまれないで良かったな。まぁ、自意識過剰な気もするけど気にしないでおこう。
「では、こちらの方にお願いします。」
そこには百均で売っているようなプラスチックの箱が置かれるが、俺が登山用のリュック一杯に持っているので、職員が準備してくれた箱に入り切らない。俺がどうしようかと考えていると、
「あの、どうかされましたか?」
「あっ、いえ。まぁ、いいか。」
「?????」
俺は足元に置いてあるリュックを持ち上げ、カウンターの上に置く。
「え~っと、あの、これは?」
「これですか?ダンジョンのドロップ品ですけど?」
「えっ、こんなに沢山?」
「ええ、そうですよ。あとお前もだろ?」
「お前???」
「くぅ~ん。」
と、哮天犬は下を向き悲しそうな声を出し、尻尾も力なく項垂れる。俺は屈んで、
「お前を売るわけないだろ?」
「わんっ!」
哮天犬は顔を上げ嬉しそうな声を上げる。
「じゃあ、お前もココな!」
俺はカウンターを指差す。
「わんっ!」
哮天犬は一飛びでカウンターの上に登り、職員の方に向かってお座りをする。もちろん尻尾は左右に大きく振られている。
「いったい何の冗談ですか?」
どうやら受付の職員は怒っているようである。まぁ、気持ちは分かるが、哮天犬もダンジョンの宝箱から出てきたんだもの仕方ない。
「あっ、いえ冗談ではなくてですね。本当にダンジョンの宝箱から出てきたんですよ!」
「そんなこと信じられる訳なじゃないですか!」
「だからっ、」
と、周りを見てみると俺達は皆の注目の的であった。只でさえこんなところに犬を連れてきている時点で既に目立って居るのに更に職員と言い争いになっては余計に目立つに決まっている。どうしようかと考えていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「おい。どうした?トラブルか?」
「あっ!」
そこには見覚えのある人が立っていた。
「あっ葵先輩どうしてココに居るんですか?」
「ちょうどさっき交代要員が来てね。今、戻ってきた所だよ。それで、どうしたんだい?」
「それが、」
職員は横目で俺の方を向く見る。
「あぁっ、彼か!」
「先輩。知ってるんですか?」
「知ってる。というか今日、知り合った。」
「はい??」
「彼が1階層のボスに挑戦しに来たときに出会ったんだよ。」
「そうだったんですね!」
「それで、彼が何か問題を起こしたのかな?」
「カウンターに乗ってるあの犬ですよ。」
「やっぱり、その事か。」
「やっぱりってどういうことですか?」
「彼さ、始めてあったときは犬なんか連れてなかったんだよね。でも、帰りに通った時にはその犬を連れていた。」
「そんな………。」
「ここは人の目が多いから彼を別室に連れていくよ!」
「はい。わかりました。」
葵さんは俺の方を見て、
「じゃあ、ついてきてくれますか?」
「わかりました。ところで、荷物は?」
「もちろん全部持ってきて貰っていいですよ。」
「わかりました。」
そう言うことで俺は葵さんに就いて行く。葵さんについていくと個室に案内された。
「神月さん、少しここで待って貰っていいですか?今から買取の担当を連れてきますね。」
「わかりました。」
そう言うと部屋を出ていく。特にする事もないので哮天犬をモフモフして待つことにする。哮天犬も嫌そうではなく嬉しそうにしているので撫でてやる。10分位哮天犬とじゃれていると入り口の扉が開かれる。
「神月さん、お待たせしました。」
葵さんが先頭で入ってきて、その後ろに黒髪で眼鏡をかけ、髪の毛を後ろで纏めている20代の女の人が入ってくる。
「初めまして、神崎栞と言います。どうぞよろしく!」
俺は席を立ち上がり、
「神月サイガと言います。こちらこそよろしくお願いします。」
「早速ですが鑑定に入らせていただきます。どれを鑑定すればいいですか?」
「じゃあ、このリュックの中の物とこの犬ですね!」
「犬ですか?」
「宝箱から出てきたんで鑑定をして貰えれば幸いです。」
「ですが、生物には今のままでは無理………いえ、取りあえずはやってみましょうか!」
「まっ、そう言うことです。」
「はぁ~。あなたも無茶したものですね。それと、スキルの書が2個ありましたが、これはどうしますか?」
「スキルの書の内容はどうなってるんですか?」
「鍛冶と水魔法ですね。」
「じゃあ、買取はなしでお願いします。」
「わかりました。」
「なぁ、神崎。金の方はどうだったんだ?」
「葵さん。金はダンジョン産のもので間違いありません。鑑定にそう出てました。合計で2キロありました。」
「それは凄いな。」
「それと、指輪なのですけど、鑑定した結果とんでもないものでした。」
「そんなにとんでもないものだったのか?」
「はい、葵さん。あの指輪は、鑑定の結果、転移の指輪であることが判明しました。」
「転移!?」
「はい。但し、転移と言ってもダンジョン内だけのようです。自分が行ったことのある階層なら転移が可能のようです。」
「それは大発見だね。そんなものがあると攻略がスムーズに進むな。」
「そうですね。こちらとしては是非とも買い取りをお願いしたいところなんですが………。」
葵さんと神崎さんは揃って俺の方を見るが、転移の指輪は俺にとっても必要なものなので、
「すみませんがそんなに便利なものなら是非とも自分で使いたいと思うんですが………」
「はぁ~。それが当然の判断だと思います。ただ、次に手に入ったらこちらで買い取りをさせて頂きたいと思うんですが、どうですか?」
「それはいいですよ。俺も現状1つあれば充分なので。因みに、パーティーを組んでいたらその時は使えるんですか?」
「大丈夫だと思います。但し、使用者の回りに居ることが必要だと思います。」
「わかりました。」
すると、葵さんが真剣な表情で俺に話しかけてくる。
「神月さん。その指輪は、他人には絶対に内緒にした方がいいと思う。その指輪があればダンジョンの探索は圧倒的に楽になる。まず、ダンジョンを探索する際に一気に現在攻略している階層に行けるということです。それにより時間の短縮が出来て、何より物資や体力の消費する事なく最前線に行くことが出来る。そして、帰還の際もイチイチ階層を1つずつ登って行かなくてもこの指輪があれば一気に地上に戻ることが出来るためギリギリまで探索をすることが出来る。それに、もし、負傷した場合でも一瞬で地上に戻れるなら助かる確率も段違いに上がる。」
葵さんが転移の指輪のメリットについて、熱く語ってくれる。
「そっそうですね。」
「それに、まだ検証は出来てませんが、もし、ボス部屋は基本的には相手をタオスカこちら側が全滅するかしないと扉が開くことはない。しかし、モンスターにどうしても敵わない時の逃げる手段として有効になるかもしれない。以上今すぐ思いつくメリットですが、検証すればもっと多くのメリットがあると考えられるのがこのアイテムです。もし、これを持っているとバレたらどうなるかわかりますか?」
「えっと、恐らく狙われますね!」
「その通りです。でも、それはまだいい方だと思いますよ。下手をするとどこかの国に拉致られたり、殺されて奪われる可能性だって否定できない。一応、自分達は公務員で守秘義務があるので他に話しませんが、上には報告をしなくてはなりません。」
「それは、仕方ないでしょう。」
「ご理解頂きありがとうございます。ですが、この情報が絶対に漏れないという保証はありません。」
「それは仕方ないですよ。」
「でも、そうなるとあなたの身に何が起こるかわかりません。」
「大丈夫ですよ。それまでにダンジョンで強くなって見せますから。」
「そうですか。ですが、何かあれば教えてください。全力で対応しますので!」
「ありがとうございます。その時は全力で当たらさせて頂きますよ!」
「はい。よろしくお願いします。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます