第52話 哮天犬

さて、俺は今、今日から解放された山口第3支部のダンジョンに来ている。そして、1階層のボスを倒し、今は2階層に向かって階段を降りている所だ。すぐに2階層に到着する。とりあえず氷室君達とはここでお別れである。


「あの。サイガさん。これからどうするんですか?」


「2階層は1階層より人が少ないので適当にモンスターと戦いながら下の階層を目指すよ。」


「そうですか。今回は色々ありがとうございました。」


そう言うと、俺に一斉に頭を下げる。


「イヤイヤ、そんなことしなくて良いから!」


「いえ、もし、俺達だけだとハイコボルトを倒せたかも知れませんが、ギリギリだったのは事実ですから。それに報酬は俺達がほとんどもらってしまって本当に良いんですか?」


「いいよ。じゃあ、俺は先に行くよ。」


「はい。ありがとうございました。」


「助かったわ。ありがとう!」


「また、一緒に探索しような!」


「また、会いましょう!」


俺は、氷室君達に別れを告げダンジョンの探索に向かおうとするが、1つ気掛かりなことを片付けておくとする。それは、俺達の後ろをトボトボと歩いてきている連中である。ロクに働きもせずに報酬だけは人一倍欲しがる馬鹿者共である。こう言う奴に限って自分達にとって都合の悪い人物が居なくなれば調子に乗り出す奴が多い、と、俺は思っているので、一言だけ注意と言う名の強迫を行っておく。


「おい、お前ら!」


「「「「はっ、ヒィィ!」」」」


「なっ、何か用か?」


全員が俺の事を怖がっているが、何とかリーダー格の奴だけは仲間に威厳を保たなければならないのだろう。何とか俺に返答をしてくる。


「俺は、今から氷室君達と別れて2階層を探索に行くけど、もし、俺が居ない間に彼等に因縁をふっかけたりしたり、報酬を横取りしたりしたら許さないからな!」


「わっ、わかってます。そんなことは絶対にしません。」


俺は、ちょっと殺気を込めて柄の悪そうな連中を脅すと、全員がブンブンと頭を縦に振って、「わかった。」と、言っている。


これで、思い残すことなく2階層の探索に乗り出せる。


「じゃあ。今度は本当に行くから!」


俺は氷室君達にそう言いダンジョンを進んでいく。氷室君達は、手を振って見送ってくれた。


俺は、氷室君達が、見えなくなって、回りに人が居ないことを確認してから走り出す。俺は、スキルを発動させて周りの気配を探る。思ったより探索者は2階層には居ないようである。まぁ、出くわすのも面倒なので探索者と会わないように進んでいく。出来たら、コボルトともあまり戦いたい相手ではないので、ここは無視するのが1番だが、どうしても遭遇する事になる時は、縮地を使い、一気にコボルトの懐に飛び込み抜刀術で一閃し、もう1匹のコボルともその勢いのまま一気に殲滅する。あっ、言い忘れたがこ、この2階層からは、コバルトは1匹ではなく、2匹同時に出現するようになっていた。まぁ、そんな戦闘を何度も繰り返しながら2階層を進んで行く。

1、2時間走り回ると大きな扉の前に来ることが出来た。どうやら、ボス部屋に到達したようである。幸いなことに中には誰も入ってはいない状態であり、職員も見かけない。ギルド職員が居ないわけは、恐らく初日にこんなところまで来れないというダンジョン支部の判断なのだろう。その判断はどうなのかと思うけど、俺にとってはラッキーである。まぁ、誰も来ないとは思うがサッサと入ってはしまおうと思う。

俺は扉を開けボス部屋に入る。ボス部屋には、1階層のコボルトよりも少しだけレベルが高いコボルが4匹とハイコボルトが1匹居たが、所詮今の俺の敵ではないので、どのくらいのレベルがあるのかだけを見てとっとと倒すことにする。

1階層のボス部屋では人の目がある程度、力を抑え気味で戦ったが、ここでは誰も見ていないので力を抑える必要がないので、気楽に行こうと思う。俺は、木刀を抜き、火王魔法を木刀に纏わせる。そのまま、モンスターに斬りかかり、一気に殲滅をする。ドロップしたのは魔石とコボルトとハイコボルトの毛皮、あと、コボルトが持っていた武器であるが、武器は嵩張るし、俺が背負っているリュックに入れるとリュックが破損する恐れがあるし、アイテムボックスに入れてもどうせ使わないものだから放置することにする。その後、宝箱が出現したので中身を確認すると、スキルの書が2個と金の延べ棒が入っていた。スキルの書は、鍛冶と水魔法であった。それと、金の延べ棒は、日本入っておりどれも1キロ位あった。これらは、今日の買い取りに回せば良いだろう。宝箱の中身も回収も済んだことなので、次の階層に行くとする。

さて、やって来ました3階層。一応気配を確認してみるとやはりこの階層にはモンスターの気配は沢山あるが人の気配は全くない。なので、この階層は遠慮なくモンスターを討伐できる。俺は、モンスターの気配を感知しモンスターを倒していく。出てくるモンスターは、ソードコボルトとアーチャコボルト、マジックコボルトである。ソードコボルは、普通のコボルトよりも立派な剣を持ち革の鎧を着ており、アーチャコボルトは弓を持っている。そして、マジックコボルトは魔法使いのようなフードを被り物し、杖を持っている。その3匹が大体1つのグループになっているようである。俺にとってそいつらを倒すのには特に苦戦を強いられることはなく、むしろ蹂躙?虐殺?みたいな感じである。ただ、倒すのには問題は無いのだが、魔石とドロップ品を回収するのが毎回面倒なのである。まぁ、それは仕方ないと思い早めに回収をして次のモンスターの所に向かい同じことを繰り返す。そして、ほぼ3階層のモンスターを全滅の状態にする頃にはボス部屋の前に立っていた。時計を見るともう午後4時前なので今日は3階層のボス部屋を攻略して、4階層に到達してから帰ろうと思う。

俺は、3階層のボス部屋を開けて中に入る。中は2階層と殆ど変わらず、少し待つとモンスターが出現する。この階層のボス部屋の魔物は、ソードコボルト、アーチャコボルト、マジックコボルトの各2匹ずつ出現する。でも、フロアに居た奴等よりも少しだけだがレベルは高い。だが、俺にとっては対して変わらないので速攻で仕留め、魔石とドロップ品を回収する。ドロップしたのは、ソードコボルトの牙とマジックコボルトの毛皮、後はコボルト達が持っていた武器である。武器は嵩張るので放置をすることに決めている。


ソードコボルトの牙

ソードコボルトからドロップする物である。


マジックコボルトの毛皮

マジックコボルトからドロップする物である。魔法耐性が少しある。


とりあえず、武器以外のアイテムを回収し終わると、宝箱が出現する。俺は、いつも通りに宝箱を開けると同時に白い物体が飛び出してきた。俺はビックリして尻餅をつく。まさか、宝箱から何かが飛び出して来るなんて思いもよらないからである。俺は、宝箱から出てきた《白い何か》の方に目をやるとそこには白い毛並みの大型犬が目の前にお座りをして尻尾をブンブンと振っていた。


「いっ、犬??」


「わんっ!」


犬は俺に近づき俺の頬をペロペロと舐め始める。


「何で宝箱から犬が出てくるんだ??まぁ、取りあえず、鑑定してみるか!」


俺は犬を鑑定すると、


哮天犬

自立型のアイテム。強さは主人によって異なる。唯一無二のアイテムである。


哮天犬って確か中国の封神演義に出てくる仙犬とか神犬とか言われてるあれだよな。今は俺の回りを尻尾をブンブン振りながら回っている。毛並みはとてもよくモフモフして気持ち良さそうである。


「なぁ、お前。俺がご主人で良いのか?」


哮天犬の頭を撫でながら意思確認をしてみる。


「わんっ!」


と、元気よく吠え、俺に飛び付いてくる。要は肯定の意味だろうと思う。


「じゃあ、これからよろしくな!」


「わんわん!」


それから、宝箱の中を見てみると、あと、指輪が2個入っていた。鑑定をすると、指輪の1つは転移の指輪であった。もう1つは生命の指輪となっていた。


生命の指輪

装着しているとHPが減少している時にHPを徐々に回復する。


生命の指輪は、初めて手に入れたけど今の俺にとっては「う~ん?」と思える品物であるがとりあえずはアイテムボックスに入れておくことにしよう。

宝箱の中身を回収が終わるととりあえずは階段を下りて4階層に行く。4階層に到着すると、今日はここで探索をやめることにする。さて、帰ろうかと思うが、いきなり俺が1階層の入り口に転移したら何か面倒なことになりそうである。でも、来た道を引き返すのも時間がかかるし面倒である。どうしようかと考えるがあまり良い答えが導き出せない。唯一浮かんだのは2階層の入り口に転移をして1階層は徒歩で戻るという物である。但し、これにも多少のリスクはある。1階層の入り口程ではないが2階層に進んだ探索者が居るということだ。そうなると、俺が転移したらそれを見ている探索者が居るかもしれないと言うことだ。さっき、宝箱で転移の指輪を、ゲットしたが普通はこの指輪が何の指輪なのかわからないが、俺は、鑑定というスキルを持っているからアイテムの名前や効果が分かるので使えるが、そんなことをすると周囲から怪しまれる可能性があるので取りあえず今はバレないようにしなければならない。だが、それよりも早く帰りたいので多少のリスクは仕方ないと判断し2階層の入り口に転移をすることにする。


「頼む。誰もいないでくれよ!!」


そう願いながら2階層の入り口に転移をする。周囲の様子を伺うと目に見える範囲には人はいなかった。少しホッとするが一応周囲の気配探知を行う。だが、周囲には人は居らずモンスターの気配しかしなかったので、俺は胸を撫で下ろす。どうやら賭けには勝ったようだ。俺は2階層から1階層の階段を上り、1階層へと戻っていく。俺が1階層のボス部屋から出るとそこにはまだ葵さんが居た。


「おやっ、誰かと思ったら、え~っと確かサイガさんでしたっけ?」


「あっ、そう言えばきちんと名乗ってなかったですね。俺は神月サイガと言います。よろしくお願いします。」


「これはご丁寧に!改めて、葵司と言います。よろしくお願いします。」


そう言えば、俺は葵さんに名乗っていなかったのを思い出し改めて名乗ることにしたら葵さんも改めて名乗ってくれた。


「ところで、その白い犬は何ですか?」


「さぁ?実は俺もよく分からないんですよね。宝箱を開けたら中から飛び出して来て何か懐かれたんですよね。はははっ。」


本当は鑑定をして哮天犬が何なのか理解しているが、内容は言えないため、それ以外のことは正直に話す。


「そっ、そうなんですか。そんなこともあるんですね。」


「では、この辺で失礼しますね。」


「ええ。お気をつけて。」


俺は葵さんに挨拶をすると出口に向かって歩き出す。葵さんの姿が見えなくなると走って入り口まで行こうと思う。俺が走り出すと 哮天犬も同じ速度で走ってついてくる。気配を感知しながら走ってはいるがやはり人の気配が多い。そんなこんなで何とかダンジョンの入り口まで帰ることが出来た。俺は入り口の階段を上っていく。辺りからは何か視線が痛いが俺というよりも皆の目線は俺というよりも少し下にいっているような感じがする。俺も皆の視線を追って下に下ろしてみるとそこに居たのは哮天犬である。哮天犬は、「わふっ?」と何?っといった感じで頭を傾げる。それはそうだ。皆からした何故ダンジョンに犬を連れてきてるんだって事になる。まぁ、そんなことは無視し、ドロップ品やアイテム等を査定して貰えるところに行く。

現在は午後6時頃でダンジョンに潜っていた人達が査定を待っている。まずは、整理券を貰わなければならないみたいなので整理券を発券機から取り、背負っているリュックを床に置き、椅子に座って待つことにする。哮天犬は、俺とリュックの間に入ってお座りをしている。その姿を見てみると無性にワシャワシャと撫でたくなってしまったので、それを実行してしまった。だが、哮天犬は拒否る事なく嬉しそうな顔をしてくれていた。

そうそう、発券機から出た整理券の順番は243番であった。現在は180番辺りを呼んでいるのでまだまだ時間がかかりそうである。

さて、整理券を取ってから30分経過すると漸く230番台に突入した。ここまで、他の探索者からは殆どが冷たい目で見られていた。「何で犬なんか連れてきてんだ。あいつ!」「こんなところに連れてきていの?」「あの犬(子)かわいそう。」等という視線や仲間内で話しているのが聞こえてきていた。だが、中には「あの子わかいい!!」「もふもふしたい!!」等の声が聞こえてきていたので何とかやり過ごすことが出来た。


「242番の方どうぞ!」


やっと俺の順番が回ってきたのである。

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