第58話 説明と買い取り

「おいおい。どうしたんだいこんなところで大きな声を出して?」


声のした方向に全員が視線を向けると、そこには葵さんが立っていた。


「あっ、葵さんちょうど良かった。」


「あなた、葵さんとお知り合いなんですか?」


「ええっ、といっても昨日知り合ったばかりですけど!」


支部の職員の顔が段々青くなっていく。


「それで、どうしたの?」


俺は葵さんに今までの事を話をする。葵さんは真摯に受け止めてくれる。


「それで、この子達がやったって言う証拠はあるのかな?」


「そうだ!証拠もないのに俺達にこんな目に合わせやがって!」


コイツら、証拠がないと思って意気がってやがる。


「まず、被害にあった2人。後は念のために撮っておいたスマホの動画ですかね。あっ、これを見せたら強姦だけじゃなくて殺人未遂でも捜査してくださいね。画像は撮れてないかも知れませんが音声は入っていると思うので!」


「わかりました。ては、その動画を私に送信してしただけませんか?」


「わかりました。」


俺は言われた通りに画像を葵さんに送る。その後、葵さんは携帯で電話をするとすぐに支部の警備の人達がやって来る。


「徹底的に取り調べて下さい。温情は一切必要有りません!」


少し怒気を強めて警備の人達に声をかけている。どうやら許す気はないようである。警備員の人達に声をかけ終えたら俺達の所に戻ってくる。


「じゃあ、そこの女の子2人も少し話を聞かせて貰いたいから女性職員と一緒に行って貰えるかな?」


「わかりました。きちんと証言したいと思います。」


ショートカットの女の子がそう言うとセミロングの女の子も横で首を縦に振っている。


「じゃあ、サイガさんは僕に付いてきて下さいね。」


「俺もですか?」


「さっき大体話は聞かせて貰いましたけど、何か他に補足があれば話してくださいね。後、これもあるでしょ?」


これと言われて俺のリュックを指差す。


「そうですね。わかりました。」


俺は葵さんに付いていこうとすると、


「あの」


セミロングの女の子が俺に話しかけてきた。


「後でお礼がしたいんですが………。」


「わかった。じゃあ、終わったら受付で待ち合わせでいいかな?」


「はいっ!わかりました!では後程!」


そう言うと嬉しそうに女性職員に付いていった。


「サイガさん。モテますね!」


「あんなに若い子にモテてもしょうがないでしょ?」


「そんなことないですよ!」


「まぁ、悪い気はしませんけどね。」


「はははははっ。じゃあ、行きましょうか?」


「そうですね。」


そうして俺達は昨日の個室にまた足を運ぶ。


個室に到着すると中には既に神崎さんが待っていた。


「呼ばれて来てみたけど、また、貴方ですか?」


「何かすいません!」


「ちょっとそれは言いすぎなんじゃあ!」


「それで、今日は何を持って来たんですか?」


「えーっと、これなんですけど………!」


「「………………。」」


2人とも沈黙して何も言わない。


「どうかしました?」


「あなたねー。魔石とこの皮はダンジョンのドロップ品だってのは分かるけど、これは何?トマト???ふざけてないでしょうね?」


「えーっと、トマトは採ってきちゃダメでした?」


「それよりもこれは本当にダンジョンで採れた物なの?」


「それは間違いなく。」


神崎さんはじっと見ている。どうやら鑑定をしているようだ。


「本当ね。ダンジョン産のトマトになってる。」


「マジか?それで、味の情報はないのか?」


「ないわね。」


「あっ、じゃあ、買い取りとは別に1つずつどうぞ!」


「「えっ!?」」


「差し上げますよ!」


「いっいいんですか?」


「サイガさん。本当に食べますよ!」


「どうぞ!だって食べて貰わないとどのくらいの価値があるのかわからないじゃないですか?」


「「たっ、確かに!」」


神崎さんと葵さんはトマトを手に持ちお互いを見て「「ゴクリ!」」と喉をならせた後でトマトにかじりついた。2人とも齧った瞬間に静止するが直ぐにガツガツと食べ始めて、あっという間にトマトは失くなってしまった。2人ともトマトを食べて満足そうな顔をしており、まだ、こちらの世界にかえって帰ってきていないようである。


「あの、2人ともトマトはどうでした?」


「「はっ!」」


やっと意識を取り戻し


「神月さん。これはすごいですよ。」


「確かに、凄く美味しいトマトでした。こんなのがあるなら休みの日にダンジョンに潜って見るのもアリだな!」


後半はボソボソと小声で何か言っているようだが俺には丸聞こえであった。もしかしたらレベルがあがることにより聴覚も強化されたのかもしれない。


「では、鑑定の続きをします………。これはサンドリザードマンの魔石に皮ですね。後はスキルの書が3つですか。これは、剣術と棒術、それと格闘術ですね。スキルの書の中身は以上ですがどうされますか?」


「じゃあ、剣術だけ売りであとは返却をお願いします。」


「わかりました。」


「あっ、あと、こんなのもドロップしたんですけど……。」


俺は、鞘に入った一本のナイフを神崎さんに差し出す。


「わかりました。鑑定します…………。」


「どうした神崎!固まってるぞ!」


葵さんが神崎さんに突っ込みを行う。


「もしかして、また、ヤバイもんを持ってきたんじゃないだろうな?」


疑いの目で葵さんが俺を見てくる。


「そうですね。ヤバイものの部類に入るでしょうね。神月さんはこれはどうやって手に入れましたか?」


「えっーと、6階層のボスを倒したらドロップしてました。」


「そうですか。」


「それで、神崎!何がヤバイんだ?」


「それは、この武器が斬った相手を毒の状態にしてしまうことでしょう。」


「そんなこと可能なのか?」


「不可能か可能かで言えば可能なのでしょう。何せ鑑定結果に出ていますから。ですが、これを直ぐに世に出すわけにはいかないでしょうね!」


「えっーと、それは何でですか?」


俺は何がダメなのかいまいち良くわかっていなかった。


「それはですね。この武器が斬った相手を毒の状態にすると言うことです。」


「それはさっき聞きましたけど…………。」


「つまり、毒状態になってもそれを治す解毒のポーションが圧倒的に足りていたいと言うことでしょう。この武器が適正にモンスターのみに振るわれるなら問題はないが、取り扱う上で誤って切ってしまうことや味方に当たってしまうことも考えられます。最悪なのはこれを悪用された場合でしょうね。」


「そうだな。解毒の方法を知らなければ助からないし、例え知っていたとしても値段が高くて手に入らなかったら意味はないしな。」


「そう言うことですね。まぁ、それは取りあえず売りますので後はそちらで判断してくださいよ。」


「えっ、良いんですか?これは結構貴重な物ですよ?」


「良いですよ。(もっとヤバイ物を持ってるなんて言えるわけないし……………。)」


「わかりました。では買取りさせて貰いますね。それと、品物は以上ですか?」


「そうですね。今日は以上です。」


「わかりました。査定をするので少々お待ちください。」


そう言い神崎さん計算のために部屋を出ていった。


「では、少し時間が出来たのでさっきの話を少し良いですか?」


「さっきの……?ああっ、強姦の話ですね。ですが、さっき葵さんに話したことが全てですよ?あとは、アイツらがきちんとした罰を与えてやって欲しいくらいですね。何でも親が議員って言う奴が居ましたし。」


「その辺は大丈夫ですよ。サイガさんの証拠の動画もありますし罪は免れないと思いますが変なちょっかいは出してくるかもしれません。」


「ちょっかい?」


「ええっ。あの河原田という政治家は色々と黒い噂が絶えない男でしてね。しかも、息子を溺愛していると言う奴なんですよ。」


「えっ、それって最悪じゃないですか?」


「それは普通の人の場合ですよ。サイガさんは普通じゃないから大丈夫ですよ!」


「それって大丈夫じゃないと思うんですけど…………。」


「何かありましたらこちらも対処するんで大丈夫ですよ!」


葵さんはニコニコしているが、逆にそれが少し怖い。ちょうど話の切りが良いところで神崎さんが帰ってくる。


「話はもう終わりましたか?」


「ちょうど終わったところだ。」


「そうですか。では、査定の結果を報告しますね。まず、ハイコボルトの魔石が5個で1つ700円で3500円、ソード、アーチャ、マジックコボルトの魔石がそれぞれ40個で1つ1500円で6万円、コボルトジェネラルの魔石が2個で1つが3000円で6000円、サンドリザードマンの魔石が60個で2000円で12万円、サンドリザードマンの皮が20個で1つ5000円で10万円、トマトが18個で1つ2000円で3万6000円、ポーションが4個で1つ3000円で1万2000円、ハイポーションが5個で1つ1万円で5万円、最後にデススコーピオンの魔石が1万円、デススコーピオンのナイフが100万円で合計が139万円7500円になりますが、宜しいですか?」


「えっーと、俺には不服はないんですけど、トマトをそんなに高値で買って貰ってもいいんですか?言っては何ですけど買い取ってもらった金額よりも高く売らないと利益にはなりませんよね?そんな金額で売れるんですか?」


「フッフッフッ!新月さんならそう言ってくると思ってましたよ。何と言っても今回の目玉はトマトですよ。あんなに美味しいトマトがダンジョンで採れるなんて知りませんでした。全部とはいきませんが、当然、自衛隊の人達がどんなダンジョンなのかを予めダンジョンを探索して調べてくれていますがモンスター肉以外の食べれるものがドロップしたとは報告が上がってきていないんですよ。それに、今の世の中1個5000円するマンゴーや1粒1万円なんてのも有りますし、そこにダンジョン産と言う価値を付ければ幾らでも売れますよ!」


神崎さんは熱く語ってくれる。


「そっ、そうなんですね。じゃあ、今度はトマトを沢山収穫してきますよ。そっちの方がモンスターを倒すよりも楽ですから!」


すると、2人の目がキラッと光る。


「サイガさん。それはどう言うことですか?」


「何ヵ所かトマトが成っている所を見つけたんですけど他の荷物が多くて結構な数々を置いて来てしまったんですよね!」


「それってどのくらいありましたか?」


「まぁ、この5倍はあったかな。」


「今度は是非採ってきてください。」


神崎さんは俺の手を両手で握り頼み込まれる。


「それに、今のところサイガさんにしか頼めないですしね。」


「そうですね。でも、その内他の人でもやれますよ。」


「「無理です!」」


2人が同じタイミングで否定する。


「えっ、何でですか?」


「簡単なことですよ。神月さんには転移の指輪があるじゃないですか!だから、採取しても最短距離で運ぶことが出来ますが、他の探索者は指輪を持っていませんのでわざわざ来た道を戻らなければならなくなるし、その間に傷んだり潰れてしまう可能性を考えると、効率は悪くなるんですよ。神月さんだけが今のところそこをクリア出来る事が出来るわけです。なので、くれぐれもよろしくお願いしますね。」


「わっ、わかりました。」


「では、今回の支払いはどうしましょうか?」


「カードに入れてもらって良いですか?」


「わかりました。では、カードをお預かりしますね。」


俺は探索者カードを取り出して神崎さんに手渡す。受け取った神崎さんは手続きのため部屋から出ていき再び葵さんと2人きりになる。


「そういえば、サイガさん。この後、あの彼女達と待ち合わせしてるみたいですね?」


「そうですね。どうしてもお礼をしたいと言われたので仕方なくですよ。」


「手を出したらいけませんよ!」


「フッ、何言ってるんですか?彼女達は見た感じ高校生ですよ。手を出すわけないじゃないですか!もしかしたら彼女達の父親でも可笑しくない年齢ですよ?」


「ほらっ、愛には年齢は関係ないって言うじゃないですか?」


「そう言う問題じゃないでしょ!」


「ははははは、冗談ですよ冗談!」


「冗談に聞こえないから怖いですよ。」


「すみません。」


「お待たせしました。」


神崎さんが入ってくる。


「では、こちらがカードですね。お返しします。」


「ありがとうございます!では、今日はこれで失礼しますね。」


「ハイ。お気をつけて!」


「頑張って下さいね。」


と、笑いながら葵さんと神崎さんが見送ってくれる。

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