第50話 ダンジョン解禁日

今日は、待ちに待った4月1日。ダンジョンの解禁日である。この4ヶ月早かったような遅かったような不思議な感覚である。ただ1つ残念なことがある。そらは、グラム達が俺と一緒に行かない事だ。初めからグラム達を連れていけば大騒ぎになるし、俺が国にダンジョンの件を報告していないことがバレてしまう。ここまでは俺の事情。

グラム達は、最初は、従魔の指輪の中での待機となる。これは、俺の事情のためである。それで、ダンジョンは1階層からの攻略となる。そうすると、当然、今(家のダンジョンの23階層)、戦っているモンスターよりの明らかに弱くなる。しかも、いいものはドロップしないので、家のダンジョンに潜ってた方がいいらしいのだ。これが、グラム達の事情である。

っと言うわけで、今日は1人で国が管理するダンジョンに行ってみようと思う。

まずは、持っていく物の準備をする。持っていく物は、ダンジョン探索者試験の合格証書。いつも使っている木刀、登山用の大きめのリュックサック。防具は基本必要ないので持っていくものはこのくらいである。自分でも思うが「少な」っと思ってしまう。とりあえず、準備は出来た。

ダンジョンの解禁は午前8時。どうせ、その時間は、混むだろうから俺は時間を遅らせて午前10時に着くように家を出る。俺の家からダンジョンまでは車で約30分の所にある。因みに、グラム達は、後輩たちを引き連れてダンジョンに潜って行った。俺は無事にダンジョンに到着することが出来たが、ここで俺はビックリすることが沢山あった。まずは、ダンジョンまでの道のりである。このダンジョンは、国道より少し車で走らなければならない。その、国道は、俺が勤めていた病院の通勤路であったが、今までダンジョンに行く道など無かった。ここ数ヵ月で用意されたものであろう。そして、バスの多さである。市内を走っている2社が同じようなタイミングでバスがダンジョンの停留所に停まったのである。バス停の時刻表を見ると30分に1回はバスが来ていた。今までなら、1時間に1本。しかも、2社が交互に来るだけであった。あと、駐車場の広さにもビックリした。色々とビックリしたことがあった。

ダンジョンの建物の入り口には、《ダンジョン庁山口3支部》と書かれていた。俺が住んでいる山口県には合計4つのダンジョンが発見されている。まぁ、家のを含めると5つなんだが。3という数字が見つかった順番なのか、何か理由があって3という番号を付けたのかはわからないが、4つある内の1つという意味だけはわかった。俺は、そんな入り口を通っていくと受付が並んでいた。受付には4人の受付嬢が居り、どこも7、8人並んでいた。まぁ、どこに並んでも一緒だと思い適当に並んで待つ。10数分待つと俺の番になる。


「おはようございます。」


「あっ、おはようございます。これをお願いします。」


俺は、リュックサックから合格証明書を取り出し受付嬢に手渡す。受付嬢の名前は、長谷川梨子。ロングの黒髪で、目鼻立ちははっきりしており、とても美人である。年齢は20才前半位だと思う。流石に、初対面の人を鑑定はしない。まぁ、怪しかったら別だが。


「少々お待ちください。」


俺は、言われた通りに待っている。


「すみません。身分証を拝見できますか?」


「わかりました。」


俺は、財布から運転免許証を取り出し受付嬢の長谷川さんに見せる。


「ありがとうございます。では、こちらが、ダンジョンの探索者証となります。」


俺の運転免許証を確認し返却した後に、ダンジョンの探索者証を渡してくれる。


「この探索者証があれば日本全国のダンジョンに潜ることが出来ます。また、探索者証にはそれぞれランクがあります。ランクによってカードの色なども違ってきます。詳しいことはこのパンフレットをお読みください。」


そう言うと、長谷川さんはパンフレットを俺にくれる。


「尚、パンフレットには建物の中の案内もありますのでご活用ください。以上になりますが何かご質問がありますか?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」


「では、お気をつけて。」


俺は、受付を離れ、パンフレットを開く。そこには、この建物内の案内がかかれていた。とりあえず一通り場所の確認を行う。まず、更衣室は俺には不要なのでどうでもいい。次に、ダンジョンの入り口の確認を行う。とりあえず、建物の中を見て回りたいので、今はダンジョンには行かない。その次に、フードコートに行ってみる。まだ、席はガラガラだが、うどんやラーメン、たこ焼き、スイーツなど等色々な食べ物屋さんがある。そして、最後は、装備品のフロアである。装備品と言ってもダンジョン産の物ではなく、既存の物が多かった。まぁ、それはいいとして俺はここで買いたいものが1つあった。帯刀ベルトである。今までは手で持ったり、ズボンのベルト穴に入れたりしており、中途半端の、状態だったのだ。なので、この際、買ってしまおうと思う。とりあえず、ナイフや剣等を売っている店(武器屋)に入ってみる。


「おう。いらっしゃい。」


店内には武器が並んでおり、奥にはガタイのいい大柄のオッサンがカウンターの向こう側に立っていた。 


「すみません。ちょっと探しているものがあるんですけど。」


「どんな物だ?」


「帯刀ベルトってありますか?」


「それならあるぞ。でも、その前に、どんな剣を帯刀したいのか見せてもらえるか?」


「わかりました。」


俺は自分の武器である木刀を手渡す。


「ほうっ、良い刀じゃないか。業物か?ちょっよ抜いてみていいか?」


「えっええ、いいですけど業物とかじゃないですよ。」


店主は、俺の木刀を抜いてみる。


「えっ、何だこれは???木?おい、これは何だ?」


「えーっと、木刀です。」


「お前、こんな武器でダンジョンに挑むつもりなのか?」


「そのつもりですが……ダメですかね?」


「いや、武器は探索者自信が決めるから俺がとやかく言うことではないがな。そんなことはどうでもいいか。どれ、これなんかどうだ?」


帯刀ベルトを出してくれる。俺は、その帯刀レベルを装着し、木刀を差してみる。装着具合はピッタリで木刀も良い感じに馴染んでいる。


「これ良いですね。」


「おっ、そうか?」


「じゃあ、これください!」


「おうっ、毎度あり。料金は3万円になるぞ。少し高いが素材が良いものを使ってるかな。mぁ、だけど、初めて来てくれたからサービスで2万5千円でいいぞ。」


「マジですか?」


「おうっ、その代わりにまた来てくれよ!」


「分かりました。ありがとうございます。」


俺は、帯刀ベルトを装着し、木刀を帯刀ベルトに差して店を出る。

これで、施設内を一通り見て回ったのでダンジョンに行こうと思う。ダンジョンの入り口には、人が沢山いた。俺は列に並び順番を待つ。5分程で俺の順番になったので、ダンジョンに入っていく。1階層を歩いていく。モンスターを探すため気配を探すが人の気配が多く、モンスターが出現してもすぐに刈られている。この階層に居てもモンスターを倒すことが出来ないと判断し、サッサと次の階層を目指す。俺は、早くこの階層を突破したいので走って行くことにする。ダンジョンの探索を始める前は体力は余りなかったが、ダンジョンの探索を始め、レベルが上がっていくと体力も結構付いてきた。しかも、身体能力は、以前より桁違いに向上している。なので、走るスピードもかなりのものになるので、こんな姿を他人に見られるわけにもいかないし、もし。人とぶつかれば、相手を怪我させかねないので、一般人が走る程度の速度で走る。だが、この速度なら1日中でも走っていられる。そんなこんなで、他の探索者からは「何コイツ走ってんの?」とか「馬鹿じゃないの?」等々白い目でジロジロ見られていた。がっ、そんなこんなで1時間半位でボスの部屋を見つけることが出来た。ボス部屋の前には誰も居なかったので扉を開けようとするが扉は開かなかった。恐らく、誰か中に入っている時は開かないようになっているみたいだ。でも、いつ開くようになるんだろうと考えてボーッと扉を見ていると、妙な違和感があった。それは、家にあるダンジョンのボス部屋と違うところが1つだけあった。それは、ボス部屋の扉の左右に松明の火が付いていたことだ。そもそも、そんなところに松明があったことすら知らなかったが、これが、中に人が入っていると考えると納得がいく。まぁ、確かなことは分からないので、少し待ちながら時々扉が開かないかチェックをする。そんな時、俺が来た方向より足音が聞こえてくる。


「ようっ、お前そんなところで何してるんだ?」


話しかけてきたのは、身長は170センチ位でスタイルが良く、手には剣を持っている典型的な主人公キャラのイケメンである。そして、その横には茶髪でロングヘアーの美女と黒髪で短髪のこちらも美女、身長はどちらも160センチ位である。後ろには、180センチ位で筋肉質のチョイイケメンの男。


「多分、ここがこのフロアのボス部屋だろうから入ろうと思ってるんだよ。」


「じゃあ、サッサと入ればいいだろ?」


「どうやら、先客が居るみたいで入れないんだよ。」


「そうなのか。」


俺とイケメンの話ごとりあえず一段落すると茶髪の美女の方が話しかけてきた。


「ねぇ、あなた、1人なの?」


「ええ、まぁ。」


「あんた馬鹿なの?」


「こら、美桜。」


「ぐぇ!」


っと、イケメンは美桜と呼ばれた茶髪美女の頭に拳骨を落とされ、変な声を出している。


「初対面の人にそれは、ないだろう?」


「だって、初日でボスに挑むのもどうかと思うのに、ましてやソロでなんて、自殺行為の何者でもないでしょ?」


「まぁ、そこは否定しないが実際どうなんです?」


「あっ、俺?別に自殺願望者じゃないよ。ただのソロ探索者なだけだよ。」


「じゃあ、良ければ一緒に行きませんか?あっ、俺は氷室恭矢で、大学3年です。」


「私はかさ、神崎美桜よ。私も大学3年よ。ここにいる4人は皆同期なの。」


「へぇ~。そうなんですね。」


「私は、松宮真利だ。よろしく。」


「よろしく。」


この、松宮さんって何か随分と男勝りな性格をしてるのかなっと喋り方で思ってしまう。


「最後は俺か。俺の名前は、火野昴だ。よろしくな。」


「あっはい。俺も名乗ってなかったね。俺は、神月サイガ。年齢は35歳。よろしく。」


「「「「えっ?」」」」


「どうした?」


「嘘ですよね?」


「うん。嘘だと思う。」


「私も。」


「俺もそう思うぞ。」


「そんなこと言われたの初めてだよ。ありがとね。そう言えば、君たちもこれからボスに挑むの?」


「そのつもりです。」


「そうなんだ。」


俺的には1人の方が気が楽なのだが、もし、この4人だけにして死なれても目覚めが悪い。なので、一緒に行くことにする。


「じゃあ、今回は一緒に行かせてもらおうかな!」


「そうですか、では、よろしくお願いします。」


「こちらこそ!」


俺は、氷室君と握手をする。


「おーい!君たち、ちょっと待って!」


「「「「「?????」」」」」


俺達は、声のする方を振り返る。すると、そこには、ここのダンジョン支部の職員が走って俺達の方に来ていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、良かった。まだ、入ってなくて。」


「えーと、あなたは?」


「はっ、申し遅れました。自分は、この支部の職員を勤めている、司葵といいます。」


名前的には女の人っぽいが実際にはスラリとした短髪の男の人であった。


「それで、どう言った用件ですか?」


「そうでした。あなた達、今からボス部屋に入るんですよね?」


「自分達は4人でパーティ組んでまして、部屋の入り口でサイガさんと出会いまして、前の人のボス戦が終わったら一緒に行こうと言う話になったところです。」


氷室君が、職員にいきさつを説明してくれる。


「そうなんだですね。ですが、今日、ダンジョンが解禁されて初日から死者を出すわけにはいかないんですよ。なので、人数制限をかけさせてもらっているんですよ。」


「人数制限ですか?」


俺は、元々ソロで挑もうとしていたのに、人数制限なんかかけられたら探索なんて出来ないじゃないか。


「人数は何人からなんですか?」


氷室君が質問してくれる。


「10人以上ですね。」



「え~。私達じゃ無理じゃないですか。」


「仕方ないな。」


「悪いね。しばらくはこのスタンスでいくみたいだよ。」


しばらく人数制限がかかるのならソロの俺は当分無理じゃないか。


「すみません。」


「ん。何だい?」


「俺は、ソロなんですけど、サッサと先に進みたいんですよね。特別に許可してもらえませんか?」


「それは無理だよ。一応規則だからね。」


「そうですか。」


「それなら、強引に入るってのはとうだ?」


松宮さんが物騒な提案をしてくる。


「それはやめといた方がいいと思うよ。」


「何故だ?」


「簡単ですよ。ダンジョン支部の職員の葵さんがここに1人で居ることが葵さんがそれなりに強いって言ってるようなもんじゃないですか。」


「ねぇ、恭矢、どういう意味?」


「さ、さぁ?」


「ここは、ダンジョンの中でモンスターがいて命の危険があるのにダンジョン支部の職員さんがここに1人でいる時点でそれなりの強さがあるということ。そして、もう1つは、ボス部屋に入っちゃダメって言っても強引に入ろうとする奴は必ずいる。そう言う奴は、最終的に力が必要だと思うから、それなりに強い人がここにいるのかと思ったんだよ。」


「正解だよ。分かったら引き下がってくれると嬉しいんだけど。」


「だ。そうですよ。どうしましょうか?」


「ここは、引き下がるしかないですね。」


俺がどうするか氷室君達に尋ねるとそういった答えが返ってくる。


「ちょっと待った!!」

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