第48話 ダンジョン解禁日

さてさて、今日は漸くの3月31日である。いよいよ明日からダンジョンの探索が解禁される。っと、ここで、1つ思い出したのが、今日まで一応病院に所属しているということである。有給を全て昇華するため2月の始めに少し働いてからそれからずっと休みだったのですっかり忘れていた。なので、今日が一応俺の退職日である。なので、挨拶には行かないとまずいと思うので今日の探索は急遽中止とさせて貰う。それを、グラム達に伝えると、


「えーっ、探索に行きたいの!」


「そうだぞ!」


「行きたいのです!」


「悪い。今日はどうしても行かないといけないところがあるからマジで勘弁して欲しい。」


「仕方ないの。」


「じゃあ、今日は後輩たちと一緒にダンジョンに行くってのはどうだぞ?」


「それはいいのです。ウルのカッコいいところを見せてやるのです。」


「それでいいけど、あんまり無茶はするなよ。」


「わかってるの。」


「じゃあ、すまないけど今日は休みを貰うな。」


「仕方ないの。」


「わかったぞ。」


「いいのです。そのかわり美味しいものが食べたいのです。」


「わかった。何か買ってくるよ。」


何とか休みをゲットすることが出来た。そして、グラム達は後輩を連れて意気揚々とダンジョンに入っていった。あまり無茶をしないでくれるといいけど。


一方の俺は、病棟や部長の所に行くのは昼休憩の時がいいと思い11時位に家を出て、病棟にはちょっと多めの菓子を買って部長には小さめの菓子を買って病院に向かう。病院に到着するし、まずは、病棟に向かう。病棟に到着すると丁度休憩している人が居たので休憩室にお邪魔する。


「すいません。お久しぶりです。」


「あら、神月君久しぶりね。今日はどうしたの?」


休憩室には主任さんと3、4人の職員が休憩をしていた。


「一応、今日で退職となるのでその挨拶に来ました。これ、どうぞ。」


俺は、さっき買ってきたお菓子を主任さんに手渡す。


「まぁ、ありがとね。こんな事しなくてもいいのに。」


「いえっ、今までお世話になったので。」


「今時、こんなことする人珍しいわよ。」


「そうですかね。」


「それで、明日からはどうするの?」


「一応、探索者の試験に合格したので、明日から探索者になろうと思います。」


「えっ、そうなの?危険じゃないの?」


「危険はあると思いますけどやってみたいんですよ。」


「そうなの!気を付けるのよ!」


「ありがとうございます。じゃあ、この辺で失礼します。」


「ええっ、頑張ってね!」


「頑張るのよ!」


「いつでも戻っておいで!」


と、見送ってくれた。あとは、部長の所に挨拶しに行かなければならない。俺は部長室の前には《いつでも声をかけてください。》と書かれているので、とりあえず俺は、まず、ドアをノックする。


「どうぞ。」


部屋の中から返事が返ってきたので、俺は部長室に入室する。


「失礼します。」


「あら、神月君。今日はどうしたの?」


「一応今日で最後なので挨拶を、と、思いまして。あっ、これどうぞ。」


俺は、買ってきた菓子を部長に手渡す。


「そうなの。わざわざありがとうね。」


「いえいえ、今までお世話になりましたし、それに、最後は有休まで全部消化させていただきましたしね。」


「今、話題の探索者ってのになるんでしょ?」


「そうですね。」


「危険なんじゃないの?」


「多分、危険ですね。下手したら死ぬこともあるかも知れません。」


「本当に大丈夫なの?」


「まぁ、何とかやってみますよ!」


まぁ、もう既にダンジョンに潜ってるなんて言えないよな。


「そう。決心は固いみたいね。けど、探索者を辞める時はいつでも戻ってきたいからね。」


「ありがとございます。じゃあ、この辺で失礼します。今までお世話になりました。」


「じゃあ、頑張ってね。」


「はい。」


俺は、一礼してから部長室を後にする。病院を出るとあることを思い出す。グラム達に美味しいものを買って帰ると約束していたのを思い出した。何を買って帰ろうかと考えるがいいものが思いつかないのでとりあえずケーキを買うことにする。別々の方がいいと思い、イチゴショート、モンブラン、チーズケーキ、ベリータルトを買う。あとは、グラム達以外の従魔にも何か買って帰ってやろうと思う。猫や犬達はいいが狸や狐、蛇はどうしたらいいんだろう?まぁ、猫や犬達と同じでいいか。猫や犬達は殆どが進化して猫又や魔犬に進化しているのでカロリーの問題とかよくわからないので市販のちょっと高めの缶詰を買って帰ってやろう。


病院には1時間も居なかったろう。因みに俺が買い物をしていたのはデパートである。俺は、買い物を終えて、他に何か買うものがないかとデパート内を彷徨っていると、突然声をかけられる。


「よう、サイガ。」


その声に振りかえると俺が会いたくない男がそこに立っていた。そう、白川大樹である。


「なんだ、白川か。」


「なんだとは何だよ。折角声をかけてやったのに!」


「別に頼んでないだろ?」


「そう言う連れないこと言うなよ。俺とお前の仲じゃん?」


「ただの幼なじみだろ。」


「まぁそうだな。そう言えば、明日からだな。」


「何がだ?」


「惚けるなよ。ダンジョンの開襟だよダンジョンの。」


「そうだな。」


「サイガはどうするんだ?」


「どうするとは?」


「明日行くのかってこと?」


「多分行くと思うぞ。」


「多分かよ。それより、探索する仲間は集めたか?」


「いや、俺はソロで行く予定だから集めてないぞ。」


「はぁ~。サイガ、お前本気で言ってんの?」


「俺は、至極真面目だが?」


「あのな、ダンジョンは危険な所なんだぞ。それをお前ソロって自殺行為だぞ。」


「危険なのは知ってるけど、他人と組むなんて気を使いそうで嫌だ。」


「それだけの理由なのか?」


「他にも理由はあるがそれが一番大きいかな。」


もう既にダンジョンに入ってるなんて口が裂けても言えないもんな。


「そんな理由なら俺達のパーティーに入らないか?」


「遠慮しとく。」


「即答かよ。俺達、今、丁度メンバーを募集してるんだけど仕方ないからサイガを入れてやるよ。」


「何度も言うようだけど俺はソロでいくから断らせて貰う。」


「お前、人が折角誘ってやってるのに断りやがって。今度、入れてくれって言っても入れてやらないからな。」


そう言うと、怒りながら去っていった。白川のパーティーは、恐らく俺が知っている先輩達である。白川は、元々その先輩達のグループに所属しており色々と悪さをしてきた奴らなのだ。白川もその先輩達も地元に残っているため今でも付き合いがあるようである。実は、一度、些細なことでその先輩達と関わることがあった。

俺が中学時代の頃に教室で小説を読んでいたのである。あの頃の学校では、朝の10分間に本を読もうという取り組みがあった。俺は、面白い本を読みたくて市の図書館で本を借りてきていた。その本を読んでみたところすごく面白い内容であったので、休憩時間や昼休みは読書に耽っていた。すると、同級生の一人がいきなり俺にいちゃもんをつけてきて俺を殴ったのである。俺も殴られたので頭に来て殴り返し、そいつと喧嘩になった。そいつと喧嘩をしていると俺の教室の入り口でニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる先輩達が居た。このとき、俺は嵌められたとと思った。喧嘩を売ってきた奴もその先輩に命令されて動いていたようなのである。それに気づいたら急に喧嘩をやる気が失せて喧嘩を止めたが、それを、面白く思わない先輩達が介入してきて「もっとやれ!」「中途半端で止めんな!」等と俺の胸ぐらを掴んで言ってくる。そこに、教師が介入しそこで終わり、事情聴取された。俺が被害者と分かると先生達は俺を先生達の休憩室に匿ってくれたが、どうやら先生達の休憩室に居ることが分かると休憩室の入り口で「出てこい!」「卑怯だぞ!」など言われたが、どっちが卑怯なのか考えてみろと言いたい気分だった。俺が先生達の休憩室に匿われている時に、白川大樹は、自宅に戻り俺を金属バットで殴ろうと持ってきていた。この後は、このまま教室に戻ると白川や先輩達に何をされるか分からないので、その日は家に帰るように言われ、その後、3日間は学校に行きたくなかったので休むことにした。4日目に学校に行くと何事も無かったような平穏な生活に戻ることが出来た。要は、暇潰しだったみたいである。こんなことがあって俺は白川やその先輩達が嫌いなのである。 


さて、白川も去って行ったのでとっとと家に帰るとする。

家に着いたのは2時過ぎであった。まだ、みんなダンジョンに籠っているようで、俺は特にしたいこともないので昼寝をすることにする。


どのくらい寝ただろうか、何か頬にペシペシ当たっている。


「うっう~ん。」


俺は、目覚めると俺の体の上にグラムがおり触手みたいに体を変形させて俺の頬を叩いていた。


「ご主人だけずるいの!」


「そうだぞ!」


「ウルも昼寝がしたいのです!」


どうやら皆の反感を買ったらしい。それはそうだろ。俺は、従魔の後輩たちをグラム達だけに任せて、当の俺は自室で昼寝をしていた。しかも、爆睡であった。そんな俺を猫や犬達も冷たい目で見られている。


「イヤっ、悪かったよ!その代わり美味いもの買ってきたからそれで勘弁してくれ。」


猫や犬達が羨ましそうに見ているので


「お前達の分もあるから心配しなくていいぞ。」


「本当ニャ?」


「とりあえず、ここじゃあ無理だからダンジョンの入り口の所に行くぞ。」


「わかったの!」


と、いうことで、ダンジョンの入り口に移動する。まずは、猫や犬達に買ってきた少し高めの缶詰を出してやる。その後、グラム達にケーキを出してやる。猫や犬達は好評であったが、ダンジョン産の肉の方が美味しいという意見が多かった。まぁ、それは仕方ないかなと思う。ただ、たまには味付けがいいのだろうと思う。そして、グラムはショートケーキ、スノウはモンブラン、ウルはチーズケーキを選んだので、俺は残ったベリータルトを食べることにする。ケーキは、美味しかった。


「ご主人、美味しかったの。そういえば、今日で5階層突破したの。」


「そうか。すごいな。これからは今までのダンジョンとは少し違うから気を引き締めて行けよ。」


「はいニャ!」


「わかったワン!」


猫と犬達が5階層を突破し、6階層に至れたことは嬉しいことである。が、無理をせずに気をつけてダンジョンの攻略をして行って欲しいものである。


さて、皆へのお土産もあげ終えたので風呂に入って夕食を食べることとする。さっき、間食したがきちんと夕食も食べる。きちんと食べないと作った人に失礼だからね。まぁ、この場合は母親なんだけどね。食後は自室でのんびりとする。


「なぁ、明日はどうする?」


「いつも通りにダンジョンに行くの。」


「そうだぞ!」


「あたりまえなのです。」


「まぁ、そうなんだけど,明日から他のダンジョンが解禁されるんだけどどうする?」


「グラムはいいの。最初は弱い奴しか出てこないと思うから行かないの。」


「そうなのかだぞ。じゃあ、俺も行かなくていいぞ。」


「ウルもなのです。」


「わかった。じゃあ、俺は明日1番近いダンジョンに行って、ある程度の階層を攻略してくるとしよう。その間、グラム達は家のダンジョンを探索してていいからな。ただし24階層は俺も行ってみたいからそれ以外で頼むな。」


「ご主人1人で行くの?」


「グラム達が行かないとそうなるな。」


「主、任せたぞ。」 


「頑張るのです。」


「わかった。」


本当は、一緒に行くと言うのを期待していたが、一緒に行ったとしても今はまだグラム達を人前に出すわけにはいかないし留守番をしてくれる方が都合がいいか。と、いうわけで明日は1人でダンジョンに行こうと思う。

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