十四、対の羽根
「――はぁ。少しばかり冷静になってくれ」
未だ微妙な表情を崩さない二人を前にして、少しばかり衝撃が強かったかと認識した私だったが、ため息は隠さなかった。
「……」
「……」
二人の静かな目線が突き刺さる。底抜けの明るさを持っていた少年の、ジトッとした半眼は落差もあって興味深い。しかし、面白がっているのがバレてしまえば今の感じがより悪化することは分かっている。
努めて表情筋を締め、次の言葉を投げる。
「何もお前に嫌がらせをしたいわけじゃ――こら、拘束を緩めるな。しっかり掴んでおけ」
少年が逃げ出そうとしているのを察知。すぐに少女が拘束を緩めたことが原因だと判断した私は少女に待ったをかける。
つくづく少年に甘いやつだ。
こいつには道理を詳しく説明してやらねばなるまい。
「
少女から少年の拘束を引き継ぎ、懐から取り出した麻縄で両手足をふん縛る。
これで大丈夫だ、逃亡の心配はない。多少強引にやった方が後が楽なのだ。
少女の何か言いたげな視線を受け流しつつ、少年を仰向けに寝かせると、再び糞入りの小瓶を掲げて見せた。
「糞も一緒だ。多くの物の怪が喰の糞を避けて行動する。簡単に言ってしまえば、喰は物の怪の生態系の中で上層に位置するってことだ。こいつはまずい、逃げなくては、と本能に恐れが刻まれている」
「私はその糞に忌避感はありません。少しも怖くはないですし、ただの粉末に見えます」
少女は数舜考えるそぶりを見せたのち、そう口にした。
「そんなことどうでもいいよ! いいからこの縄ほどい――むぐっ」
少女の思考の妨げになる。体の自由を奪われた代わりと言いたげに倍うるさくなった少年の口に、私は肌触りのいい真っ白な布を突っ込んだ。
少女は再び何か言いたげな表情を私に向ける。
それは少年に関することか、綺麗な布の使い道に関することか。さすがに言い訳した方がいいかもしれないと思った私がどちらかを思案していると、少女がさらに続ける。
「で、どういうことなのでしょうか」
良い。そう思った。
少年に甘いのは事実だが、道筋があれば考え込んでしまうその感じ。非常に好ましい。
少年の横に移動し、糞入りの小瓶の蓋を開ける。既に乾燥しきっているため、不快なにおいは一切しない。
「簡単な話だ。妖精という種において喰は取るに足らないということ。判断基準は色々あるが、妖精の場合は妖気で優っているからだと考える」
私も妖精にあったのは初めてだ。直に話を聞くことで、喰と妖精の力関係を図ることが出来た。
……糞の代わりに妖精の羽根とか使えないだろうか。こちらの方が圧倒的に聞こえがいいぞ。
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