十二、対の羽根

「先ほども言ったが、換妖の初期症状は大変に気が付きにくい。第二段階にきて初めて憑かれたことに気づき、処置をすることになる」

 繰り返しの言葉にも少女はしっかりと頷いてくれる。それを確認した私はさらに言葉を続けた。

「では、処置について話そう」

 そう言うとにわかに少女の雰囲気が固いものに変わった。顔が緊張で強張り、つばを飲みこむために喉を上下、首には筋が浮かぶ。

 始めの方で治ると言ったのだから安心しろと思わないわけではない。しかし、当事者の身内となると考えることも違うのだろうと想像できる。

 それに私は変なところで慣れてしまっているからな。あまりこういったことで口を出さない方がいいことは分かっているつもりだ。

「これに関しては簡単だ。お前が逆に不安になるくらいにはすぐに終わるだろう。まさに拍子抜けってやつだ」

「は、はぁ……」

 少女は何と返せばいいのかわからない、といった風に相槌を打つ。確かにその対応はもっともだろう。なので私は少年がいる部屋の扉を開けた。

「実際にやりながら説明しよう。後学のためにしっかりと見ていてほしい。次にどちらかが憑かれたら、実際に対処することになるだろう」

 少女の「はい!」というやる気に溢れた返事を背中に受けて中に入ると、少年が件の本を読んでいる真っ最中だった。

 少年に憑いた換妖で一、瓶に入れたのが二。他にも本の中に潜んでいるかもしれなかった。少年の処置を終えた後で確認する必要があるなと思い至る。

「よし」

 その一言ともに少年の前に胡坐をかく。しかし、少年は気づかない。いまだ本から目が離せていない。それもそのはずで、換妖の特性が少年にとってその本を必要以上に面白くさせているわけだ。

「おい、お~い!」

 耳元で呼びかけながら肩をゆする。するとすぐに言葉が返ってきた。

「――あ、どうしたの~?」

「突然だが、今から治療をするぞ。笑顔を取ってやる」

「え、ほんと!? やったぁっ。ありがとう、旅人さん!」

 喜ぶ少年。しかし、その表情からは感情の上下を読み取ることは叶わない。

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