八ノ五、蔓と花の少女
「こっちだ」
三吾に案内され、私は村長の家にやってきた。
あの後、三吾に他の村民の様子はどうだと尋ねたら、興味深い話が聞けた。
三吾が曰く、村長の娘の頭には蔓が生えているにも関わらず、意思疎通ができるのだと。
それは貴重な症例だろう。ぜひ面会をしたいと申し出た。
村長の娘となるとさすがに厳しいかとも思ったが、三吾の言葉に村長はすぐに了承したらしい。すぐに伺えることになった。
それにしても、三吾はずいぶん村で信頼されているようだ。村というのは閉鎖的な場合の方が多い。外から来た私を怪しんで追い出そうとする、なんてことはざらだ。だから村で物の怪の調査をするのは難しい。
三吾との飲み水と食料の下りを思い出し、あらためて閉口した。
村長の家といっても、他の家とほとんど変わらないようだ。三吾の家よりも少し大きいが、ただのかやぶき屋根の家である。遠目から見ればどれが村長の家かわからないだろう。
「ようこそいらっしゃいました。旅人殿。わたくしがこの村の村長でございます」
扉の前で立っていた老人が村長のようだった。服装も三吾と大して変わらない。しかし、年齢か積み重ねた経験か、長らしき風格と目をしていた。
「こんにちは。この度は急な申し出、申し訳ありません。村外の者が押しかけてのご息女との面会。不安はあるでしょうが、どうか安心をしていただきたい」
私は村長に頭を下げた。
「いえいえ、気にする必要はありません。わたくしも、娘がよくなるのであれば協力は惜しみませんとも」
力のある目が一瞬、不安定に揺れ動いた気がした。
「こちらです」
村長に連れられて部屋に入る。
「あら、お客様?」
座って本を読んでいたのだろうか、閉じた本を膝に乗せた少女がこちらを見ていた。キレイな子、それが第一印象。しっかりと生育された花のようである。しかし、頭に生えている蔓が少女を異様に見せていた。
「雪、こちらは旅のお方だ。お前の病気が治るかもしれないぞ」
「まぁ……じゃあ、お医者様ですね。ありがたいお話です。本当にありがとうございます」
雪は儚げな笑みを私に向けると、続けて父親に「父さま、ありがとう」と口にした。
「村長殿。申し訳ないのですが、外に出てお待ちになってはいただけませんか?」
「……そうはしたいのですが、さすがに雪と二人きりには」
村長は不審げに目を細めた。申し訳なさをにじませながら、怪しむように私を見る。
その気持ちもわかるが、ここは譲れない。
「村長、俺からもお願いします」
どうしようかと思っていたところ、三吾が助け舟を出してくれた。
「うむ……、三吾がいうならば」
「父さま、私もそれで構いません」
三吾と雪の言葉もあってか、村長は三吾と共に部屋の外に出ていった。
三吾と村長が出ていくのを見送り、雪殿の隣に腰を下ろす。続けて、先ほどと同じように右腕に水をかけた。
雪殿には目隠しをしてもらっている。
「雪殿、恥ずかしいと思うが、背中を見せてほしい」
私の言葉に雪は「構いません」と答えた。
私は雪の着物をはだけさせて首筋を確認する。やはり、蔓は首の付け根辺りで背骨と一緒になっていた。
「雪殿、ちょっと痛いかもしれないが我慢してくれ」
雪殿がうなづいたのを確認し、蔓をつかんで引っ張った。幸い、雪殿から痛いという声はない。安心してさらに力を込める。千代のツタよりは抜けそうな気がするが、先は見えなかった。引っ張るのをやめて雪の着物をもとに戻す。包帯を巻きなおし、雪の目隠しを外した。
「雪殿、診察は終わった。次は話を聞かせてほしい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます