第10話 壊れた魔法使い
斜陽が壁に立ち並ぶ試験管に反射して、視界の中でちらちらと存在を主張する。
鬱陶しく思った俺が窓の外に視線を逸らすと、庭ではリリィが燥いだ子供たちの相手を務めており、その光景の微笑ましさによって、テーブルの向かいに座ったガルダさんの表情は優しく溶けていた。
ダラクに流れる穏やかな時間は確かに心を癒してくれる。
しかし、会ったばかりの相手とただ黙って過ごすのは、どうしてもむず痒いものだ。
それもあって、俺がこの家について気になっていたことを尋ねたのは、極々自然な流れだった。
「…ただのインテリアってわけではないですよね?」
俺はテーブルの端に置かれたビーカーを指差しながら、ガルダさんに問いかけた。
この家を見渡すと、科学実験に使用する器具がこれでもかというほど視界に入ってくる。
当然一般家庭には不要な物である上、子育てに勤しむ母親の趣味にしては気合の入った陣容だ。
「私は国から依頼された魔法研究をして対価をもらっているの。今は属性を混ぜ合わせる合成魔法について研究しているわ」
渋ることなく答えたガルダさんが両手を胸の前で広げると、その手のひらの上には魔法によって水の塊が生成された。
水は瞬間的に現れた炎に熱されると雲へと変化し、更に電気を混ぜ合わされれば、ミニチュアの雷雲が出来上がる。
ガルダさんが細かい魔法を器用に操った結果、簡易的な天候の変化が屋内に生み出されたのだ。
「
「フフ、流石に何でもって訳には行かないわ」
「いや…メドカルテから依頼されるのも納得です」
微笑むガルダさんの手を離れた雷雲は五秒ほどテーブルの上を彷徨ってから、自然に消滅する。
一連の過程を見た俺は、驚きの余り瞬きを忘れてしまっていた。
彼女は謙遜こそしていたが、多彩な魔法を難なく操る上に、細かい出力の調整すらも完璧にこなして見せたのだ。
一つの魔法しか扱えないのにも拘らず、雨の中で炎の出力を維持できなかった俺からしてみれば、魔法使いとしての彼女は正に雲の上の存在だった。
「ありがとう。けどね、私に研究を依頼しているのはルーライトなの」
困ったように笑うガルダさんは、自らの技量については一切触れないまま、俺が起こした勘違いを訂正した。
メドカルテにあるスラム街で別の国に頼まれた研究をしているという彼女の状況を不思議に思った俺は、首を傾げながら聞き返す。
「…ルーライト?メドカルテに住んでいるのにですか?」
「そうね…理由を話すと長くなるわ。おばさんの長話って、本当に長いのよ?」
「聞かせてください」
おどけたガルダさんは話すことを躊躇しているようにも見えたが、俺は真っすぐに彼女の目を捉えて催促した。
日が暮れるまでにはまだまだ時間がある。
それに、素晴らしい魔法の技術を身に着けたガルダさんに対して、俄然興味が湧いていた。
結果的に、不快に思われても仕方がないような俺の図々しさを、彼女は優しく受け入れてくれた。
「…私はね、十五歳の時にダラクに転移してきたの。この街で苦しみながら息絶えていく子供たちの存在を目の当たりにした私は、いつか手の届く命だけでも救いたいと思ったわ。それから猛勉強して身に着けた魔法の技術が評価されて、十八歳になった日にルーライトの国立魔法学校に研究生として招待されたの」
過去を明かすガルダさんは、その時のことを思い出しているのか、窓の外を眺めていた。
温かい瞳に家族を映して柔らかく微笑む姿は、まるで俺が夢にまで見た理想の母親そのものだ。
しかし、注視すると瞳の奥には寂しさやそれに似た感情も潜んでいるように見え、手放しに羨む気にはなれない。
「私はそこから十年で、ルーライトで最上級の魔法使いとして認められた。努力の甲斐あって、ここで親を亡くしたあの子たちの世話をしながら、研究をする自由を貰っているわ」
積み重ねた努力やその結果への自信からか、経緯を語り終えたガルダさんは、堂々として見える。
誇るのも当然の経歴だ。
彼女は人道的な夢を直向きに追い求め、そして叶えたのだから。
そこには負の感情なんていうものが入り込む余地など、存在しないように思える。
先程感じた憂いのようなものは、きっと俺の気のせいだったのだろう。
さて、ガルダさんの話が本当であるならば、彼女は魔法の国でも有数の魔法使いだ。
俺はせっかくの出会いを生かさない手はないと思い、気持ち良く目を光らせる彼女を頼った。
「もしガルダさんがよければ、魔法についていくつか聞いてもいいですか?」
「もちろんよ!おばさんにいくらでも聞いて!」
嬉しそうに胸を張ったガルダさんの細い指から、黒髪が零れる。
正直に言ってしまうと、窃盗の被害者になったことでトップレベルの魔法使いである彼女に対して貸しを作った状況を幸運に感じていた。
その道のトップにものを教わろうとすれば、どれだけの金がかかるのかを、俺は知っていたからだ。
俺はケニーに感謝しながら、遠慮なくガルダさんに問いかける。
「火炎魔法を使うんですが、威力がその時々で全く違うんです。そのせいで、上手く加減ができなくて」
「火炎魔法というか、あれは転移者の特異魔法よね」
「特異魔法?」
初めて聞いた言葉に疑問符を付けて繰り返すと、すぐにガルダさんが腕を組む。
細い腕ではあるものの、どこか頼りがいのある腕だ。
「転移者は特別な魔法が使えるようになることがあるの。まだ科学的には解明されていないけど、それまで魔法を学んでこなかった人間に与えられる、保険のようなものだと言われているわ」
「じゃあ、俺が転移者だってことはバレてたんですね」
「そうじゃなきゃ、自分が転移者だなんて明かさないわよ」
言われてみればその通りだ。
この世界で転移者は差別の対象になっているのだから、自ら申し出るのにはかなりのリスクが伴う。
となれば、人前で安易に特異魔法を使うのは、控えた方が良いのだろう。
「魔法の威力は知識と感情の掛け算で決まると言われているわ。頭が良い人がイメージを固めて、思いを込めて撃てば強い魔法になる」
指を杖に見立てて説明するガルダさんの姿は、さながら教師のようだ。
彼女の様な先生が相手だったら、薄暗い屋敷での味気ない勉強も、もう少しは楽しめたかもしれない。
俺は下らないことを考えながら、彼女の言葉の気になる点を拾い上げる。
「知識と感情…だいぶざっくりですね」
「そう。ここで考えを止めるべきじゃないわ!」
掘り下げるように促されたのが嬉しかったのか、ガルダさんの声の高さがワントーン上がった。
知識人というものは、より深い知識をひけらかす事に快感を覚える生き物なのだ。
「重要なのはおそらく、『現象に対する仕組みを深く理解する』事よ」
「現象に対する仕組み…」
「例えば、火炎魔法を発現する際には、火が燃える仕組みや、そもそも火とは何なのかをどこまで理解しているかが重要になるの。だから一概に知識とは言っても、火にまつわる神話とか、そういった周辺知識は後回しってわけ」
ガルダさんは存在しない眼鏡のフレームをくいくいと押し上げる素振りをしながら語る。
確かにこの理論であれば、文化レベルの高い元の世界で徹底的に知識を付けた俺に、威力の面で優位性があるのも納得できる。
彼女の説明がかなり腑に落ちた俺は、もう一つの更に曖昧な要素に話題を進めた。
「あとは感情ですよね」
「感情に関してはまだまだ私も理解が及んでいない部分が多いわ。ただ一つはっきりしているのは、私たち転移者だけが発現する特異魔法だけ、感情が更に重要な要素になっていることよ。…感情が噛み合ってしまえば、人間なんていとも簡単に殺せるわ」
そう言ったガルダさんの最後の言葉に、またも複雑な感情を垣間見たが、無理に深くは聞かないことにした。
魔法の理解を進めてくれただけでありがたいのに、彼女の闇を穿り出すような不義理はしたくない。
「そういえば、ガルダさんも転移者なら、扉の中で『意思』と会ったってことですよね。あれは一体何なんですか?」
話が一段落したところで、俺は余談を思い出し尋ねた。
すると、俺の問いを聞いたガルダさんは、首を傾げる。
「『意思』?…ごめんなさい、何のことかわからないわ」
最早話が伝わる気配すらなく、困惑してしまう。
とぼけているのかと思ったが、ガルダさんの浮かべた表情は何の話をしているのか見当もつかないときのそれだった。
「いや…あんなの忘れようがないじゃないですか!あのクソむかつく態度の化け物ですよ!」
「私は扉に入った後意識を失って、次にはダラクで目が覚めたの。扉の中で誰かと話したりはしていないわ」
話が噛み合わないことに焦る俺を見て、ガルダさんは落ち着かせるように冷静に返答した。
やはり彼女が嘘を言っている様子はない。
だとすれば、俺が扉の奥で見たものは、一体何だったのだろうか。
魔法について理解が進んだ一方で、深まってしまった転移の謎に、思考がぐるぐると回転しながら落下していく。
そうして俺が暫くの間自分の世界に籠っていると、明るい声と手を叩く音に意識が引き戻された。
「さて、そろそろ日が暮れるわね。ご飯にしましょ!」
我に返った俺がガルダさんの視線に合わせて玄関を見ると、泥で汚れた子供たちと、くたくたになったリリィが帰ってきていた。
難しいことは後にして、先に済ませるべきことがある。
勿論、飯と風呂だ。
◇
「「「「「ごちそうさま!」」」」」
大家族の食卓というものは、非常に忙しない場所だった。
子供たちはテーブルに並んだ大量の料理を小さい体に全力で吸い込み、一瞬で食べ終わってしまうと、今度は風呂に入るためにどたどた足音を立てながら集団で屋外に消えていく。
俺とリリィはその勢いに圧倒され出遅れたが、その場に残っていたのは俺たちだけではなかった。
「………!」
テーブルの隅に座ったケニーが、腹を括ったような表情で皿の上に残った野菜を口の中に放り込んだ。
今までは残していたのだろうか、様子を見ていたガルダさんは感動して涙を流し、共感したリリィまで涙目になっている。
スラムの高台にとんでもない親バカ集団が出来上がっていた。
「先に風呂いただきます。…ほら、行くぞガキ」
ペースを合わせて食べ終えた俺は、口周りを汚したままのケニーを鷲掴みにして一緒に風呂場へ向かった。
子供たちが向かった扉を開けて裏口から屋外に出ると、水道管にも繋がれていない、独立した大きな湯舟が複数個並んでいる。
水を張り、熱を加えるという必要な工程はガルダさんが毎日魔法で行っているらしく、魔法の便利さとそれを応用する彼女の器用さには感心してしまう。
この廃れた街で風呂に入れることは、きっと当たり前の幸せではない。
それを思うと、湯船ではしゃぐ子供たちの笑顔は更に特別なものに感じられた。
俺はケニーと一緒の湯船から湯を掬い体を洗うと、同じ湯船に浸かる。
彼は相変わらず黙ったままだったが、何故か静かに俺の方をじっと見続けるため、彼の瞳の圧に押し負けた俺は渋々会話を始めた。
「お前、野菜嫌いなんだな」
「…美味しくない」
「でも食えたな。ガルダさん喜んでたぞ」
俺の言葉を聞いたケニーの表情は嬉しそうに綻んだようにも、やはり何も変わっていないようにも見える。
掴みどころの分かり辛い、不思議な奴だ。
会話が途切れたのをいいことに、視線を逸らした俺が湯気を吸って落ち着いていると、今度はケニーの方から話しかけてきた。
「…ほんとはガルダが凄い人だって知ってるんだ。でも、僕たちのせいでこんな街で暮らしてる」
幼い子供の口から湯船に張った湯に向かって唐突に零れたのは、自責の念だった。
少し驚いたが、きっと年下の兄弟と日々を過ごす彼の内面は多少大人びており、そのせいで早い自立を意識し過ぎているのかもしれない。
その結果蛮行に走ってしまうのはなんともお粗末だが、彼らの経験の中に生きる術がそれしか存在しないことを物語っているとも言える。
「どれだけ世話になっても大丈夫だ。お前が生きているだけで喜ぶ、そういう人だろ。ゆっくり大人になって、それから守ってやればいいんじゃないか?」
ぼんやりとした焦燥感への答えを探していたケニーに道標を立ててやりたかった俺は、できるだけ簡単な言葉を選んで言った。
人生経験の浅い俺の言葉に大した重みは無かったが、ゆらゆらと揺れる湯面に浮かんでしまう程ではないようで、聞き終えたケニーはもう少しだけ深く湯船に浸かって、自らの未来と向き合っていた。
じいちゃんは今どこで何をしているのだろう。
俺が見つけるまで、ちゃんと生きていてくれるだろうか。
そう思い湯気越しの空を眺めると、ケニーの焦る気持ちが少しだけ理解できたような気がした。
◇
深夜、子供たちと川の字で寝ていた俺は、少し汗ばんで冷たくなった素足の蹴りを顔面に喰らって起こされた。
子供という生物は、寝相が悪過ぎていけない。
起こされがてらトイレに行こうと、闇の中で階段を下った俺の視界に、僅かな橙色が映り込む。
こんな夜中に、玄関の明かりが点いていたのだ。
気になった俺が歪んだドアの隙間から覗くと、ガルダさんと紫髪の長身の女性が玄関先で話しているのが見えた。
訪れた女性は服とは思えない程に肌面積の多い、黒い服を着ている。
すらりと伸びた足を辿っていけば、何とも歩き辛そうな真っ赤なハイヒールを履いており、彼女の放つ独特な妖しさを更に強調していた。
あのふざけた服装でよくスラム街を出歩けたものである。
「私たちと共に行きましょう、ガルダ・ベイリー。賢者様はあなたの才能を高く評価しているわ」
聞こえてきた会話の中に賢者という名前が聞こえた瞬間、寝ぼけていた脳に一気に血が回り、強引に目が覚まされる。
愛されし者の構成員がこんな僻地にも足を伸ばしてくるとは想像もしていなかった俺は、寝間着のままその場で身構え、暫く様子を窺うことにした。
「…買い被り過ぎです。…今はもう、育児に追われるただの母親ですから」
「フフフ…そんな面白い冗談を言わないで。あなたの噂は聞いているわ。
「………!」
女性の言葉をきっかけにガルダさんを包む雰囲気が変化すると、その場に一気に緊張感が張り詰め、怯えた空気が振動する。
それと共に、薄汚れた薄い床やボロボロの壁は、軋んで嫌な音を立て始めた。
「凄い殺気…これが我楽多の魔術師…!この才能をちんけな場所で腐らせるべきじゃない。賢者様もあなたをきっと気に入るわ!」
これほどの殺気を前にしても、紫髪の女性は体を左右に揺らしながら楽し気に笑っている。
突如として生み出された異常な状況に気圧された俺の体は凍り付き、ピクリとも動かなくなってしまっていたのにも拘らずだ。
「私には守りたいものができたの。子供たちが巣立つまでは、ここに居たい。だから、あなたの誘いはお断りさせていただくわ」
声色を変えたガルダさんが再度断りを入れると、更に彼女の放つ殺気が増した。
見ると、大気中の魔素が光り輝き、吸い寄せられるようにガルダさんの周囲に集まってきている。
その様子は、彼女の圧倒的な力に怯えた魔素が、首を垂れているようにすら見えた。
「…フフフ、あなたの言い分はわかったわ。また会いましょう、我楽多の魔術師さん」
そう言い残した女性は恐れる様子もなく背を向けると、ハイヒールの音をコツコツと響かせながら、玄関を出て、そのまま遠ざかっていった。
扉の閉まる音が響いた瞬間、そこに張り詰めていた殺気が消え失せ、そして脱力したガルダさんが膝から崩れ落ちた。
「ガルダさん!」
やっと身動きが取れるようになった俺は、容体の分からないガルダさんの名前を呼びながらすぐに駆け寄った。
意識のあった彼女に肩を貸すと、気の抜けた彼女の体は、その見た目より少しばかり重く感じた。
◇
「ごめんなさい。怖いところを見せちゃったわね」
マグカップに入った二人分のホットミルクを持って、テーブルに戻ってきたガルダさんが疲れた微笑みを浮かべた。
動けるようになるとすぐに気を遣ってキッチンに向かったので心配したが、足取り自体はしっかりとしていた。
「愛されし者…俺も一度声をかけられました」
「虱潰しに転移者を当たっているのかしら。こんなおばさんに声をかけるなんて、余程人手不足なのね」
ガルダさんは冗談めかしてそう言ったが、最早この人がただ者ではないことは、火を見るより明らかだ。
そのため俺は上手く答えることができず、返事を待っていた彼女は苦笑いしてから続けた。
「私はルーライトにいた十年間、研究だけをしていたわけではないの」
諦めたように話し出したガルダさんの黒い瞳の上でキャンドルの炎が悲しげに揺れている。
極力淡々と話そうと努めた彼女が組んだ指には、少しだけ力が籠っていた。
「八年前、ルーライトは北に位置するアシュガルドと二年の間国境付近で争っていた。魔法が得意だった私にも、当然招集がかかったわ。…でも、私は初めての戦場で恐怖に支配され、特異魔法のコントロールができずに暴走してしまった」
「暴走…ですか?」
「周囲の敵を過剰な威力の魔法で殺し、更には味方さえ巻き込んで傷つけてしまったの。その結果、兵士たちはダラクから来た私を我楽多の魔術師と呼ぶようになったわ。大勢の味方を巻き込んだ皮肉を込めてね」
「反吐が出る…同じ国を守る仲間だろうが」
俺が吐き出したのは素直な気持ちだったが、ガルダさんは自らを甘やかすような言葉には耳を貸さず、長い睫毛を閉じた。
「いいえ、ぴったりなの。今思えば、確かに私の倫理観は壊れていたわ。スラムの子供たちを助けるという目的のために国の信用を求めた私は、命令のままに戦場に出て、アシュガルドの兵士の命を奪った。私は傲慢にも、命の選別をしたのよ」
「そんな言い方…!」
俺は言葉に詰まってしまった。
様々な相手に人道的であるべきだと口に出し訴えてきた過去の自分が、言葉を紡ぐ邪魔をしたのだ。
ガルダさんの孤児を育てるという望みは崇高なものだが、彼女が殺したアシュガルドの兵士にも幼い息子が居たかもしれない。
そう思うと、無責任に肯定的な言葉を並べてはいけないような、そんな気がした。
「でも、選んで辿り着いた道だからこそ、私はあの子たちを絶対に幸せにしてあげたい。私の全てを懸けてでも、彼らの未来と今をより良いものにするわ」
そう語るガルダさんの表情はまだ少し暗かったが、同時に幸せそうにも見える。
想像もできない過酷な経験を思い返す彼女に対して、年端もいかない今の俺に言えることはもうなかった。
「…明日の朝飯の支度は手伝います。こき使ってください」
「ふふ、ありがとう」
一階の自室に戻るガルダさんを見送った俺は、二人分のマグカップを片付け明かりを消してから、階段を上がって子供たちの寝室に戻る。
そっと扉を開けると、子供たちは天井にへそを向け、静かに寝息を立てていた。
何も知らずに幸せそうな子供たちの寝顔が、少しだけ羨ましかった。
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