第42話 ラウンド1

 四本の触手を補助するように、氷の粒を矢や剣、槍、礫にして、あちこちから放って行く。


『がはは!脳が3つくらいあるんじゃないか!?』

「くふふ、魔法を全種類同時に使うよりは簡単だよ?」


 触手に、それぞれ《七魔剣シチマノツルギ》を持たせ、雷神を斬り付ける。それを、槍を宙で操り、往なす雷神は、そのまま障害のないガラ空きの私の胴に、槍を突き出す。

 それを鋒で槍の先、点を打ち、受け止める。


「ハッ!」

『フンッ!』


 数秒、拮抗した後、同時に仕掛けた。

 発勁モドキをする私と、雷そのものになる雷魔法、《雷身》を腕のみに使い、膂力を引き上げ強く押し込む雷神。

 耐えきれなかった《七魔剣シチマノツルギ》と槍は、ピシッと嫌な音を鳴らし、砕けた。


『ふははははは!本当に多彩な奴だ!』

「くふふふふ、応用力の化け物だね」


 同時に魔法を撃ちながら、後方に飛び退いて、向かい合う。


「もっと、たのしもう!」

『そうだなぁ!!《雷纒》!』


 剣を創り、雷神の方へ走る。槍を作り構えた雷神は、私を迎えるように雷を纏う。

 《雷纒》は、《風纏》と同じように身体能力を上げ、触れるだけで攻撃を仕掛けられるもの、みたいだ。剣と槍は、斬り合う度、交える度に壊れ、その度につくり直していく。

 触手に持たせた剣と遠隔で操られた槍、変幻自在の氷の粒と《雷纒》で漏れ出された雷がぶつかり合う。


「きひ」


《すげぇ》

《神々の戦い?》

《ナナさん完全に目がイッちゃってるよ…》

《何だ今の笑い声》

《笑い声なんか…?あれ…》

《愉悦極まった声に聞こえた》


「きひっかははッ!くひははははは!!!」

『ぐわはははは!!』


 一振り毎に速くなる。一秒で千回、二秒で三千回、三秒で六千回と、増えていく。あぁ、でも残念だ。残念で残念で、ならない。


「ダメだよ、だめ。底を見せないで…まだ見せないで」


 思わず、小さく呟いてしまった。

 楽しくて、永遠にも感じられるこの時間は、私の気持ちを無視するように、終わりが見え始める。


 斬撃が、一秒間に一万回を超えた時、唐突に、終わりがやってきた。


『ぐふっ』

「あ…」


 私の一撃が、槍を切断し、雷神の懐に入った。そのまま、左下から右上への切り上げ、左上から右下への袈裟斬りが当たる。衝撃で、雷神は後ろに吹っ飛んだ。


「あぁ…おわっちゃった…」


 そう言うと同時、剣を握った触手が、宙にあった槍を粉々に砕いた。

 剣を振る技術が、雷神を凌駕してしまった。速さを、超えてしまった。


『まだ…じゃあぁ!!』


 今までにない程の速さでこっちに突っ込んで来る雷神。槍の数は十本に増えてた。けど…


「えい」


 私と触手の計5本の剣で、全てを切り落とす。飛んでくる雷神を躱し、すれ違いに切る。


「ああ、あぁ、ぁぁ…」


 もっと、楽しみたかったなぁ…

 心を淋しさが埋め尽くしている時、サントルトスさんの方から、言い表せない圧が噴き出てくる。思わず、振り返ると、サントラトスさんが宙を、空を見つめていた。


『がふッ、そんな、顔をさせてしまうか、ワシは…その程度だった、のか…?』

「………」


 何も言わず、見つめる。邪魔をしちゃいけない気がするから。声を出したら行けない気がするから。それをすると、後悔する気がしたから。

 静かに見ていると、空に手を伸ばし始めた。

 纏っていた雷はとうに霧散し、常に発されていた静電気のような、小さな雷も今は消えている。さっきの、最後の突進で全てを使い切ったんだろう。《雷纒》は出力が爆発的に増え、槍は果てし無く硬かった。最後の一撃なのに、二撃目がある様な言い方をしていたのは、私が様子見をする様に仕向けたんだろう。最後の一撃で、痛手を負わすために。

 まだ、一割ほども見せていない雷魔法があるだろうけれど、確実に全力で、更に小手先の技を用いたサントラトスさんは、全てが通用しなかった結果に絶望しているように、嘆いているように見える。


『……ダメだ…そんな事あってはならん…たった一人の戦士を満足させられず…何が神か…!』


 急激に、サントラトスさんの魔力が膨れ上がる。やがてそれは固体になって、サントラトスさんを覆い隠した。


「ふへっ」


《明らかにやべぇじゃん》

《静観してる理由はなんだ?》

《進化するの待ってんだろ》

《美少女がしていい顔と笑い方じゃ無い》


 バチバチとうるさかった雷の魔力が、静かになっていく。違うものに、変わっていく。

 楕円形だった魔力の繭は、球になり、宙に浮き始める。


「来るっ…!」


 光が膨れ上がり、霧散していく。

 光の中から現れたのは、2メートル弱の、綺麗と思えてしまうほどの筋肉を身につけた、若くなったサルサントスさんがいた。


『フハハハハハハハ!!これが、進化か!待たせたな戦友トモよ!!我の名は、雷神サルサントス改め、光神リュミエレル!存分に、楽しもうぞ!!!』


 光属性の魔力でできた剣、名付けるなら聖剣を作り出した光神が、それを片手に名乗り上げる。


「くふふっ、良いなー名乗り上げ…ま、いっか。ラウンド2、開始だね!!」


 触手をしまい、そして同時に構えて向き合う。

 第二ラウンドの、始まりだ。




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お久しぶりです。めちゃくちゃ期間空いて申し訳なく…新しい作品書いたり私生活が忙しいかったり戦闘描写心情描写背景描写諸々難しかったりと、色々重なりまして遅くなりました。

不定期極まっておりますが、もし『面白い!』等プラスの感情を少しでも抱いていただけたなら、応援、ハート等よろしくお願いします。引くほど喜ぶので、お願いします!

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