第13話 キンキンだぁ

「え、ほんと?」

「はい」


 ダンジョンを出る道中。そういえば今は何年経ったのか聞いてみると、今は私が多分死んでから40年も経ったのだとか。わ、私ってもうおばさん?いや、不形定まらぬカタチに年齢とか無いだろうから…違う…よね?


「それにしても、名無しさんはすごく強いですね!」

「ふふん、これでもダンジョンボスを倒してないよ」

「ほへぇ、すごいです!」


「………だってよ」

「………ギルマス胃にでけぇ穴開くんじゃね?」


 名無しさん、っていうのは、この探索者チームの紅一点の女の子の水無月咲みなつき さきちゃんが、私に名前がないから呼びにくいってことでつけてくれたあだ名。

 道中、片手間に全ての敵を薙ぎ払って吸収してると、きゃっきゃと褒めてくれる。うれしい。

 他の2人は、1人は木本拓きもと たくで、もう1人は高田元たかだ はじめ。咲ちゃんは魔法使いで、拓くんは剣士、元くんは盾使いなんだって。




「いや、でもほんとにすげぇな…」

「上層まで無双してるぞ、名無しさん」


 もっと褒めてくれても良いよ?嬉しいからね。頑張った甲斐があるってものだよ。

 後もうちょっとで地上だ。もう直ぐで、待ちに待ったあの地上だぁ。

 るんるんで、ダンジョンの入り口に辿り着いた。


「ちょっと緊張してきた…」

「手を繋ぎましょうか?名無しさん」

「お願いします…」

「はい!」


 咲ちゃんがすっごく優しい……!体に染み渡る……!

 深呼吸を二、三回して、気分を落ち着かせる。そして、扉に手を付けて、押す。

 ようやくの空だぁ!ご飯とか、いっぱい食べるぞぉ!


「んえ?」


 扉を開けた先には、綺麗な白い広々とした空間と、それなりに多くの探索者がいた。

 もしかしたら、私の時代と一番違うところかもしれない。私が知っているのは、放置された空間だけだったから。


「どうしました?名無しさん」


「いや………驚いただけだよ」


「なるほど?あ、この後ギルマスの所へいきますよ。一応、ここのダンジョンの管理者ですから」


 そっか。そういえば、ダンジョンって許可証なかったら入っちゃいけないんだった。

 あれ?もしかして私捕まっちゃう?いやいや、人じゃないんだし、大丈夫だろうな。多分。


 咲ちゃんに待ってるように言われ、適当に座ってると変な人たちが来た。


「おいおい、そんな軽装でダンジョン攻略しようってかぁ!?」

「もしかしなくても初心者だぜぇ!」

「俺たちが手取り足取り教えてやるよ!まあ、対価はもらうがなぁ!」


 わぁ、漫画で見たことあるやつだ!テンプレってやつでしょ?一回見てみたかったんだよな〜。


「おい!無視すんなよ!」


「まったく、うるさいよ?他の人の迷惑になっちゃうよ。静かにしなきゃ」


 口に人差し指を当てて、『静かに』っていうポーズをとる。

 ?顔が赤いけど、どうしたんだろ?怒ってるとか?


「その人から離れてください!」


 声の方を見ると、知ってる子がいた。


「咲ちゃん!他の2人は?」


「あいつらは今鼻の下伸ばしてます」


 そう言って指を指すと、その方向には綺麗な受付の人と、デレデレな2人がいた。

 まったく…咲ちゃんっていう可愛い子がいるっていうのに。


「そんなことより……ん?……うわぁ…」


 咲ちゃんが一瞬で軽蔑の眼差しになる。私に向いてないよね?向く理由ないもんね?

 視線を辿ると、変な人たち3人に向いてた。

 ずっと顔赤いじゃん。


「行きましょう名無しさん。こんな馬鹿どもなんておいて」


「え?あ、うん」


 咲ちゃんが手を取って引っ張る。さっきの3人はもじもじしてた。よくわかんないね。

 えへへ、咲ちゃんの手柔らかい。


「「あ、みなつ」」

「邪魔」

「「え、ちょどうし」」

「邪魔」

「「はい……」」


 2人仲良く萎んで受付さんの前から動いた。咲ちゃんをほったらかすからだよ。天罰だね。


「おかえり咲」


「ただいま、お姉ちゃん」


「今日はどうしたの?」


「実は、ギルドマスターに用事ができて」


「なるほど…少し待っててね?」


 わあ、綺麗な人と可愛い子が仲良く話す絵は最高だあ。これだけで地上に出た甲斐があるってもんだよ。

 ………姉妹なんだ。確かに似てるけど。


「あ、あのー…咲さん?」


「うるさいですよ?」


 咲ちゃんの眼から光が消えてる。ゴミを見る目ってやつだよね?初めて見たなぁ。

 冷め切った瞳を受けた2人は、面白いくらいに萎んでた。


「咲さん、どうぞ。部屋でギルドマスターがお待ちしてます」


「ありがとうございます!」


 手を引いて『行きましょ?』って笑いかけてくる咲ちゃん。

 私を落としたって何も出ないぞ……!咲ちゃん……!

 あ、2人は仲良く後ろからついてきてるよ。

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