第12話 敵じゃないよ?

 ゆっくり、一歩づつ登っていく。懐かしみながら、楽しみながら。今いるのは下層で123層。あのスライムは、普通に強かった。マグニュードラゴさんより強かった。……くふふっ。




 さんぽはたーのしーいなー。

 鼻歌を歌いながら歩いてく。すると、前から何かの気配がした。今まで感じたことのない気配。………もしかして?


「そっち、いったぞ!」

「ああ!わかって、る!」

「のいて!準備完了よ!」


 あれは、オーガと、探索者だ。探索者だ…探索者だ!すごいすごい!戦ってるところ初めて見た!なんるほど、連携はそう取るんだ。あのゴブリン3人組に似た感じだけど、練度が違うし、信頼し合ってるんだってのがよくわかる。

 1人は、男の人で、槍で牽制兼、誘導。もう1人も男の人で、大剣で牽制兼攻撃で、仕留められたら仕留めるって感じかな。あの火力なら、時間をかければいけるだろうけど、そんな事してたら周りをモンスターに囲まれるからね。そして、最後は、紅一点な女の人で、魔法でトドメを刺す兼サポートって感じだろう。


「《風刃》!!」


 風の刃が放たれる。でも、多分あれじゃ…


「ガァァァァァァァァァ!!!」

「な!」


 ほら、やっぱり仕留めきれなかった。これはきついな。周りにモンスターの亡骸が何個か落ちてるのを見るに、おそらく連戦をしてるんだろう。その疲労で、あの《風刃》で殺しきれなかったのは危ない。

 それに、あのオーガ。あの魔法を使った女の人に怒りの矛先を向けてる。


「ガァァァァァァァァァ!!!!」

「きゃあああああ!」

「くそ!」

「させるか…!」


 ……これはまずい。


「…え?」


「だいじょーぶですか?」


 間一髪。私が間に入って触手でオーガの斧を受け止め、女の人に笑いかける。


「このオーガは貰いますね」


 触手を薙いでオーガを弾き、薙いだ触手をオーガに向けて勢いよく突く。胸を貫く。オーガは、少しもがいた後、動かなくなった。

 いただきます。


 オーガを吸収したら、途端に探索者の男の人2人が私と女の人の間に入る。攻撃をしながら。

 私は別に敵対したいわけじゃないから、防がず離れるように後ろへ飛んで避けた。


「誰だ、お前」


 武器を構えながら、大剣を持った男の人が威嚇をしてくる。


「敵じゃないよ?それは確かだよ。あと、私に名前は無いし立場もないよ」


「………モンスター、か?」

「まさか、噂の、特異化イレギュラー化したモンスター…?」


特異化イレギュラー化してはないけど、モンスターではあるよ」


 答えると、一気に殺気をもって、敵対感をむき出しになった。

 敵じゃないって言ったのにー。


「くそっ…!俺らで足止めをする!咲はギルマスにこのことを伝えてこい!」

「でも…!」

「いや、敵じゃないよ?ほ、ほら、回復魔法かけちゃうぞっ!」


 やっぱり友好的だって言うのを伝えるには、癒しだよね!


「《慈しみの包いつくしみのほう》」


 神聖魔法、《慈しみの包いつくしみのほう》を使う。みるみるうちに、探索者の人たちの傷を癒やし、体力と魔力を回復させ、防具なども新品同様の輝きを放つ。


「な、これは」

「んふふ、ね。私は敵じゃないよ?攻撃なんてしないよ?」


 ん、目を見合って頷いてる…これが信頼と絆…!なんて感動してみたり。


「とりあえず、敵じゃないのは、わかった。ただ、目的がわからない。モンスターなのだろう?なら、何故俺たちを癒した?」

「目的は、地上に出ること!なんで回復魔法かけたのかは、私がもと人間の不形定まらぬカタチだから!嘘じゃなくてほんとだよ?」


 あ、困惑してる。そりゃね、いきなりそんなこと言われて簡単に信じる奴は馬鹿だもんね。

 まあなんでもいいや。


「そんなことより、早く地上に行こうよ!ほら、私べつに特異化イレギュラー化モンスターじゃないけど、おそらく探してたモンスターだよ!報告しなきゃじゃん!」


 とにかく、とにかく早く地上に出よう!さっきはゆっくり観光しながらなんで思ったけど、実際に人と会うと、今直ぐにでも地上に行きたくなってきた。


「とりあえず、害はないっぽいしいんじゃねぇの?」

「私も、それでいいと思う」

「はぁ、わかった。一緒にダンジョンから出るか」


 わぁい、楽しみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る