第9話 ラウンド2

「グギャアアアアアアアア!」

「うわっと!」


 触手を束ねた極太の触手と、炎龍皇の爪の少し長い鍔迫り合いを崩したのは、炎龍皇の咆哮だった。

 岩石が捲れ上がって、踏ん張りが効かなくなり、爪でかっ飛ばされた。


「《光線》」


 飛ばされながら体勢を整え、手を炎龍皇に向けて、魔法を放つ。光魔法、《光線》。

 物凄いスピードで炎龍皇に向かって伸びてゆく。炎龍皇は、その光線に向けて口を開け、極大熱砲ブレスを放った。

 私と、炎龍皇の中心で大爆発が起きる。床に触手で掴んでいたから、飛ばされずに済んだ。まあ、じっとはしないけど。

 床を掴んでいた触手を縮め、降りる。すぐ後に、私がいたところに炎龍皇が飛んで来た。ギリギリ当たるところだった、危ない危ない。


「《天翼ウィング》」


 床を離して、私の体に戻してく。そして、神聖魔法、《天翼ウィング》で天使の翼を創って空を飛ぶ。居た場所からさっと離れると、そこに超高熱の《ファイヤーボール》が飛んできた。地面にふれ、大爆発を起こした。爆発で起きた爆風を利用して、一気に飛び上がる。炎龍皇と同じ目線まで。


「グルルルル……」

「……うん、楽しいね。すごく」


 嬉しそうに、楽しそうに炎龍皇マグニュードラゴが笑う。それにつられて、私も楽しげに笑う。

 いいね、気分が。


「《がはは!面白いな、か弱き種族の強き者よ!》」

「ん!喋れるんだね」

「《ああ。まあ、龍語という物だがな》」

「龍語?私そんなの知らないよ?」

「《何も不思議なことはない。お主の種族は、何にも拘らないものだからな。種族名からもあるだろう?不形定まらぬカタチ。これは、まさにその種の特徴を捉えておる》」

「つまり、個体一つ一つに固有の物がない種族ってこと?だから、私は名前が思い出せないの?」

「《ああ、そういうことだ》」


 へぇ〜、そうだったんだ。

 なんて話が終わって。炎龍皇から《ファイヤーボール》が飛んできて、対して私は、触手を束ねた触手を出していた。《ファイヤーボール》と私の触手がぶつかり合う。

 《ファイヤーボール》は爆発で消えて、触手は弾け飛んだ。すっと、戻す。と同時にまた新しい触手を飛ばす。炎龍皇も、また《ファイヤーボール》を撃ってくる。なんの偶然か、さっきも、今回も、全く同じ数。……まあ、どっちも交互に迎撃してるから当たり前なんだけど。

 《ファイヤーボール》と触手の応酬が続く。このままじゃ埒が開かない、と思ったのか、炎龍皇が細い極大熱砲ブレスを10本、放った。


「《魔砲》」


 ならば、と無属性魔法、《魔砲》を10本放つ。細い極大熱砲ブレスと《魔砲》が、ぶつかり合い、爆発する。そして、あることに気づいた。


(あ、これ爆煙で前が見えない)


 相手が自分を見失ったら、そこを狙うよね。ということで、直感に従い上へ向かって触手を払う。私の直感は当たったみたいで、真上で衝突音が響いた。すると、炎龍皇は直ぐに離れて、また突撃してくる。それを触手で弾いて、防いで、を繰り返していく。

 途中で《ファイヤーボール》や細い極大熱砲ブレス、《炎槍ファイヤランス》などを放ちながら飛んでくるが、それらの一つ一つを冷静に、且つ確実に対処していく。

 ガッ!と一際大きな音を立てて、炎龍皇は少し離れた。


「《がははははは!よもやここまでとは!儂の全力をここまでいなしたのはお主が初めてだ!!だが、見たところ、余裕を持っておる!底が知れぬ強さだ!儂では、到底敵わんだろうが、せめて、少しでも底を見せてもらうぞ!!!》」

「うん、いいよ。最後の攻撃ってことでしょう?私も、全力で迎え撃つよ」


 炎龍皇が、口を開けて、極大熱砲ブレスを溜める。大量の魔力が、口に集まっていく。ただ溜めているだけなのに、空間が歪み、地は大きく捲れ、割れ、各地で小規模な爆発が起こる。

 私は、その様子を見ながら私の最大の攻撃を準備する。私の切り札の1つ。深淵魔法、《圧縮砲》。小さな、かつ大容量の黒穴ブラックホールに、私以外の全てが吸い込まれていく。空気も、魔力も、地面も、マグマも、光さえも。

 両方、共に準備が終わる。そして、何気なく笑った。

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