第7話番外 胃が痛い

 私は攻略者ギルド日本中国地方支部のギルドマスター、水田源示みずたげんじ。いま、とても面倒な案件に悩まされている。

 最近、あるダンジョンがおかしい、らしい。そのダンジョンが攻略者の中では最も嫌われている《第207号環境変化型ダンジョン》だ。なんでも、中層以降の階層でモンスターに異変が見られたのだとか。あるSランク攻略者が違和感を感じた、と報告が上がった。これがAランク以下なら、気のせいだで済むのだが…


「それで?何かわかったか?」


「まあ、多分な。まず間違いない情報からいくぞ、ギルドマスター?」


 勿体ぶらないでくれ……上から急かされてるんだ。


「まず、間違いないのは、あのダンジョンの、更に言うなら中層の前半に湧くモンスターが、特異化イレギュラー化している」


「な!……本当か?それは」


 《第207号環境変化型ダンジョン》は最難関ダンジョンだ。モンスターの一体一体が平均より高く、さらに世界でも上位に入るくらいにエンカウントが多いのだ。そこで、特異化イレギュラー化だと?


「ああ、本当だ。中層全体でゴブリンの武器が落ちていた。下層ではスライムの群れがないところを辿ると、全部一本の道になっていた。一直線に階段に向かってな」


「…………つまり?」


「多分、そのモンスターは下は下へ進んでいる。それも、明確な意思と、明確な目的をもって」


 それは、なんとなく分かる。簡単なクイズのようだが………


「ここからが確定していない情報、いわば推測なんだがな。特異化イレギュラー化したモンスターは不形定まらぬカタチだ」


「……あの?」


「ああ。最弱と名高いあの」


 そんなバカな…あのモンスターは謂わばプランクトンと同じだぞ?勝手に増えて勝手に減る、雑魚モンスター達に狩られるためのもののようなやつだ。それが、下層はおろか、最下層へ進んだだと…


「なんて報告すればいいのだ……恐らくまともに取り合わないぞ…」


 確実な証拠を出さない限り、報告のしようもない。はぁ……しばらく胃の痛い日が続きそうだ………






特異化イレギュラー化とは、通常よりどこかがずば抜けたモンスターを指す。モンスターは強さによってランクが分けられ、S〜Fランク、そしてSの上に特級がある。過去の特異化イレギュラー化では、Cランクが特級に限りなく近いSランクとなった。ちなみに主人公は今特級相当である。あと、探索者のランクはモンスターと同じ感じ。


《第207号環境変化型ダンジョン》のモンスターは、大体普通よりランクは1つ上と認識したほうがいいところ。例えるなら、Fランクモンスターの代表、ゴブリンはEランク相当、AランクモンスターのレッサードラゴンはSランク相当である。最下層は、雑魚モンスターに当たる物でさえ、最上位Sランク相当、特級相当である。環境変化型ダンジョンの最下層には、各層に主がおり、それらは《第207号環境変化型ダンジョン》では、最上位特級相当である。世界最難関は伊達じゃない。

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