第3話 魔法をただただ覚えたい

 最弱種族(詐欺だと思うんだ私)になって一ヶ月。興が乗りに乗りまくって、気がついたら生まれたところから10階降りていた。そして、今私の目の前にはボス部屋の扉がある。ボス部屋に当たったら帰るつもりでいたけど、上に行ったってどうせボス部屋に当たるんだし、正直に言うと、ここまで来たら1番下まで降りたくなってきた。

 あ、ちなみに私の今のステータスはこんな感じ。


—ステータス——————————————

名前 なし

種族 不形定まらぬカタチ

レベル 106

技術 《変形カタチツクリ

————————————————————


 レベルだけ見たら強いけど、悲しいかな、私の種族は最弱。レベルほど強くはない。でもまあ、人で表したら大体レベル53くらいっぽい。でも、不形定まらぬカタチのレベルでの力の上がり幅って、なぜか指数関数みたいな成長をしてるからあんまり比べる意味がない。でも、なんで指数関数みたいに上がってるんだろう?普通レベルの上がり幅ってあんまり変わらないらしいのに。確か、レベルが上がるまでの内容によって上がる幅が増えるって聞いたことあるから、多分それなんだろうな。


(ボス部屋に入ろうかな?どうせだし、このダンジョンを完全攻略してやろう)


 かいも〜ん!


 扉を開けると、それなりに広い空間に出た。高校の教室より少し大きいくらいの。奥には、ゴブリンが 3匹いた。1匹は棍棒、もう1匹は剣、もう1匹はローブを被って杖を、持ってる。


(いや、あれはゴブリンじゃない。ボブゴブリンと、ゴブリンソードと、ゴブリンマジシャンだ)


 ふむふむ。ここは中層と上層の境なんだ。

 とりあえず中に入る。すると、 3匹が一斉にこっちを見た。

 先手必勝とばかりに、ボブゴブリンとゴブリンソードが飛び出してくる。ゴブリンマジシャンは何か唱えてるみたい。


(私はスライムじゃないから、物理も魔法も効くの!!!)


 避けながら、そんなことを叫ぶ。実際には声は出てないけど。

 私だって強くなってる。2本触手を出して、1本は岩を絡め持ち上げて、もう1本は鞭のようにしならせて、飛んできた2匹に向かって打ちつける。牽制兼、掠りでもしたらラッキー感覚で。


(おら!)


 ちゃんと避けられた。想定内。狼狽えない。

 瞬間、嫌な予感がして、横に避ける。すると、さっきいたところにサッカーボールくらいの大きさの火球が飛んできた。


(なるほど、ボブとソードの2匹で仕留められたら仕留めて、無理なら時間稼ぎ。そしてマジシャンがトドメをさすってことかな?)


 …………魔法ほしいなぁ。すごく欲しいなぁ。でもスキルは《変形カタチツクリ》しか覚えられないもんなぁ。

 スキル至上主義みたいな風潮があるから、おそらく不形定まらぬカタチが最弱って言われてるんだろうと、今気がついた。《変形カタチツクリ》しか覚えられないから。生まれ変わって、自分のことになったからわかった。

 ぼーっとしてたら、ボブゴブリンがまた飛んできた。


(カウンター!!)


 両足が地面から離れたタイミングで、岩を絡め取った触手を、ボブゴブリンの顔に打ちつける。

 ボブゴブリンは、足が地面についてなかったから避けられなかった。ボブゴブリンの顔が弾け飛んだ。


(うわ…グロい)


 その直後、触手から痛みがやってきた。


(いたっ!なに?)


 見ると、ゴブリンソードが岩を持ってる触手を切り落としていた。

 痛みがすぐになくなっていく。多分塞がったんだろう。


(痛いじゃん…ねぇ?)


 むしゃくしゃする。すごいイライラする。このやろう、私に何した?今。

 意味がわからないくらい殺意が湧く。2本触手を出して、自分でも見えないくらいの速さでゴブリンソードの手足を絡め取り、宙に浮かす。

 抜け出そうと身を捩るから、強く強く手足を締め付ける。


「グギャ…」


 ゴブリンソードの苦しそうな呻き声が、やけに頭にこべりつく。


(鬱陶しいっ!!!)


 鋭利な触手が5本、ゴブリンソードに向かって飛び出して、串刺しにする。何の抵抗も感じなくなってから、触手を戻していく。


(スッキリした)


 ストレスを発散して満足していると、ゴブリンマジシャンが震えてこっちを見てた。


(?魔法、使わないの?)


 無防備だよ?私。ほら、そっち見てないよ?早く撃ってよ。


「ゴ、ゴブ…」


(やっと撃つ気になった)


 魔法の発動をよく見る。


(なるほど、ほへー、ほーん、ほうほう)


 にゃるにゃる、後は魔力がわかれば良いけど………あたるかなぁ。

 火球魔法が出来上がって、こっちに飛んでくる。


(うぐぅぅぅぅぅ!!あっっっついぃ!)


 でも、わかってきたぞぉ…!魔力ぅぅぅぅ!!


(ぬぅぅん!)


 触手を上手いこと振り回して火をかき消す。

 うぅぅぅぅぅ……こんなの二度としない…


(もう、ようずみだぁ…)


 ゴブリンマジシャンの首目掛けて触手を飛ばす。何の抵抗もなく、貫いた。


(るるるるぅぅぅぅ………)


 ゴブリンの死体を吸収しつつ魔石を食べながら、回復に専念。


(……あ、魔石食べると回復が早くなる…)

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