短編集―紅魔館は本日も平常運転 (小悪魔・フラン編) ―
「妹様」
「んあ?」
夕食後、わたしは珍しく妹様とご一緒になるお時間を頂いたので、妹様のお部屋に
足を運ばせて頂いた。
妹様のお部屋はこのお屋敷の地下室にあり、室内はどちらかといえば落ち着いた雰
囲気がある。そして、多少失礼ではあるけれど、妹様のその幼い容姿には見合わず、
かなり大人びたつくりとなっている。
――滅多に訪れないけれど、
妹様は今、ベッドに腰を落ち着けつつ、この方がお気に入りとしている絵本を読ん
でいらっしゃるところだ。
「ねぇこあ」
「あ、はい。何でしょう?」
妹様はゆらゆらと両足を揺らして遊びつつ、鼻歌をハミングしながら楽しそうに、
「いつもありがとうね?」と、不意を突くようにおっしゃった。「唐突にどうなさっ
たのですか?」と尋ねると、「何となく」お応えになった。
「今日だってこうして、もう寝る時間が近い時にまでわたしの面倒見てくれたから」
妹様はそうおっしゃって、しばしお口を閉じられた。
――やはりあのレミリアお嬢様の妹君。実に気品のあるお部屋ですね?
――所々に放置されてある……、
――これは伏せておきましょう。
――それより、
現時刻は9時を廻り、そろそろお嬢様も妹様も就寝なさるお時間である。
――今日もあっという間な1日でしたね?
妹様のお顔を窺いながら、わたしは内心でそう思った。
いつもお2人を中心に、他の皆様と一緒にお仕事をさせて頂いているのだけれど、
時折ドジを踏んでしまう度に、よくお世話になっている咲夜さんからのお𠮟りを頂い
たり、美鈴さんやパチュリー様 (勿論、前者で挙げた咲夜さんも含め) と共に、休憩
時間中にお茶を頂いたりなど、お仕事以外にも、毎日のように皆さんとの楽しいひと
ときを過ごさせて頂いている。
「妹様、そろそろ就寝のお時間です」
「あれ、もうそんな時間なんだ?」
妹様は、「もっと遊びたかったなぁ」とおっしゃりつつ、「それじゃあまた明日ね?」と、ご挨拶をくださった。
「それでは妹様、この小悪魔はこれで……」
「あ、こあ、ちょっと待って」
「はい?」
妹様は、何かお話があるような素振りを見せつつわたしのほうをじぃっと見つめて
いらっしゃる。わたしは、「いかがなさいましたか?」と尋ね、閉めかけていたその
ドアを再び開き、妹様の傍、枕元まで静かに歩み寄ってみた。
「あのねこあ?」
「はい」
チュッ。
「おやすみ」
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