短編集―紅魔館は今日も平常運転 (美鈴・フラン編) ―

「……」

 毎朝午前6時、このわたし、紅美鈴ホン・メイリンの職務が始まる。

 わたしの職務は、この紅魔館の門番である。

 けれど、

「……」

「……」

「……」

「ZZZ」

「美鈴はまた仕事サボってるんだね?」

 ――おやこれは、

 ――妹様のお声ですかな?

 ふあぁ。っと、大きなあくびを1つ漏らして、わたしは目の前にお見えになる妹様

へと視線を落とし、「おはようございます」とご挨拶を交わした。妹様は頭の後ろで両腕を組み、「うん、おはよう。美鈴」と笑顔をお見せくださった。

 ――おっと、またしても居眠りを。

 胸元に仕舞っておいた1つの懐中時計 (以前咲夜さんから頂いたものである) に、

視線を向けてみた。

 ――ふむ、どうやら少し寝すぎてしまったようですね?

 ――とは言え、

 現時刻は午前9時半ばを少し廻っており、わたしは何気なく空をあおいだ。

 ――今日もよい天気ですね?

 季節は7月半ば。そろそろ真夏も本番といったところである。わたしは手で日陰を

作り、両目を細めながら、「今日も暑いですね?」と言った。妹様も妹様で、「そう

だよね」とおっしゃった。

「今日も特にやることはないから、わたしも少しだけ、美鈴と一緒に門番のお仕事を手伝ってあげるよ」とおっしゃってくださった。

「ところで、ねぇ美鈴?」

「はい?」

「美鈴て、明日から夏休みが貰える予定なんだよね?」

「ええ、そうですね」

 妹様は、「じゃあその時はさ」と、前置きした後、「みんなで海にでも行こうよ」

とおっしゃった。

「海ですか」

 その年齢としにそぐわない幼く可愛らしい笑みを浮かべ、妹様はにこにこケタ

ケタと屈託のない笑みを向けてくださった。わたしはそんな妹様のお姿を静かに眺め

つつ、「ふっ」と口元で笑った。

 ――さてと。

「――暑いですね?」

「そうだね」

 ――どうせ、今日も誰1人おかしなお人は現れませんでしょうけれど、

「妹様」

「なぁに?」

 ――時間はまだまだ沢山あるけれども、

「あなた様は1度お屋敷にお戻りください。わたしは一先ずこの午前の残りの務めを

済ませ、お昼頃にいつものように広間へ向かいます」

 妹様は、「解った」とおっしゃり、門の奥、紅魔館の中へとお戻りになった。

「……」

 ――暑いですね。

 あと数時間、わたしはこの暑さの中で、明日からの休日の為、皆さんとの充実した

休日の為、

 そして、

「……」

「……」

「……ふっ」

「……ZZZ」

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