短編集―紅魔館は本日も平常運転 (咲夜・レミリア編) ―

「咲夜」

「はい、ただいまこちらに」

「咲夜」

「はい、こちらに」

「咲夜」

「はい」

 わたしの名はレミリア。レミリア・スカーレット (親しい相手の中には、愛称で、

レミィ。と言ってくれる人もいる) であり、普段から住処としているこの紅魔館の主

にして、500年の年月ときを生きてきた高貴なる吸血鬼ヴァンパイアでも

ある。

 さて、そんなわたしは、いつもわたしの従者及び使用人としてこの館のメイド長を

務めている十六夜咲夜いざよいさくやと、この館の門番 (いつもほとんど眠って

いるけれど) を任せている紅美鈴ホン・メイリン。わたしの友人であり昔からの知己である、この紅魔館で唯一の魔女であるパチュリー・ノーレッジ、パチェ。更に

そのパチェの小間使いとして使役されている小悪魔、こあ。最後に、わたしの実妹に

して、悪魔の妹の異名をもつ、フラン、フランドール・スカーレット。

 の、上記のメンバーと共に、こうしていつも、愉快に屋敷で暮らしている (時折は

日雇いメンバー (アルバイト組の子達である) も訪れてくれる)。

 ――さて、

「ところで、ねぇ咲夜? わたし、今1つ気になるものを見つけたのだけれど、いい

かしら?」

「はい、何なりと」

 咲夜からの了承を得たところで、わたしはその、『気になるもの』について尋ねて

みることにした。

「……それは、何かしら?」

 わたしは咲夜が頭に被っているについて指摘してみた。咲夜はそれに

ついては一切ごまかす素振りは見せず、単刀直入に、「魔が差しました」と言った。そして、「てへっ♪」と、多少わたしを小馬鹿にするような態度を見せたが、そこは

まずいいとする。ただ、今肝心なのは、

「――どうしてこのわたしの目の前でまで被っているの?」

「とても気に入ったので、肌身離さず持っておりました。何かご不明な点でも?」

「……そう」

 ――美味しいわね。

 現時刻は午後15時過ぎ。わたしは咲夜の淹れてくれた紅茶と大好きなクッキーを

口にしつつ、頭の中でくるくると渦巻く感想を、果たしてどのようにして、この子に

それを伝えようかと考えていた。

 ――いいえ、正確に言えば、

 考える。というのは語弊で、いつ、どのようにしてお説教をしてあげようか? と

思っていただけである。

「……」

「……」

 咲夜は上部面こそ真顔を装っているけれど、その反面、多少なりとも、「はぁ」と

という、小さく粗めの呼吸をしていた。

 ――わたしも本当に懐が広いわね?

 ――と、思いたかったのだけれど、

「ねぇ咲夜?」

「はい」

「どうしてそんなに近いの?」

「んなもんは関係ねぇっスよ。おぜう様はただ黙ってこのあたしが作ってやった菓子

でも食ってりゃいいんスよ」

 咲夜はいつの間にかわたしのすぐ目の前まで迫っていた。そして、更に吐息を荒く

しては、目一杯大きく両目を見開き、やはり「はぁ、はぁ」と、ほのかに甘い吐息を

漏らしていた。

 ――いったいこの畜生メイドは、いつからこのわたしに向かって意見出来る立場に

なったのかしら?

 ――けれどまぁ、別にこれといって仕事には害は生じていないのだから、一先ずは……、

 パサリ。

「……あ」

 ――訂正でもしようかしら?

 ――いいえ、やはりまだ様子を窺うことにしましょう。

 今わたし達が目にしているもの。それは、

「……ねぇ咲夜?」

「はい、お嬢様」

「……それは、何かしら?」

 咲夜のメイド服の懐から、わたしにとっては見憶えのある、そして本来であれば

この子が持っていてはあり得ないもの (この子が頭に被っているものとはまた別の

もの) がそこから零れ落ちた。

 ――一先ず手入れはしているようね? そういう部分だけは律儀なのだから。

「下着ですね」

「下着ね」

「……」

「……」

 咲夜が多少の沈黙を守った後、何事もなかったかのように、「おかわりはいかが

なさいますか?」と尋ねてきたので、わたしは、「お願いするわ?」と言った。

「畏まりました」

 その後も、わたし達の静かなひとときは続いた……。

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