東方友人録

三点提督

あたしと姫さんとあいつらと

「畜生、あのクソ巫女供が!」

 ――もう少しで勝てそうだったってのに、こいつのせいで全部水の泡になっちまったじゃねぇか!

 こいつというのは、以前このあたしが発端で起きた異変 (東方Projectシリーズのひとつである東方輝針城) において、あたしが自分のある目的を果たす為に利用した小人の人妖である少名針妙丸のことである。あたしはこの針妙丸を利用し、あたし達弱者を苔にしてきやがった野郎供に対して下剋上を果たす為、その異変を起こしたのだが、

 ――あいつら、あたし達のこと屁でもねぇような態度であしらいやがって。


 それ以来、あたし達は別にコソコソとすることはなかったが、そのことが原因で、これまでのような下手な行動ができなくなってしまっていた。そのせいで、それ以来毎日毎晩四六時中、あたしはいつでもどこでもイライラムカムカとしつつ、姫さんと2人で、妖怪の山奥にある炭焼き小屋で暮らしていた。そして、あたしもあたしで、姫さんも姫さんで、やはり定期的に腹は減るので、あたしは表面上では改心したように装って、人里でアルバイトをいくつか掛け持ちしながらあたし達2人分の生計を立てていた。

「――それでね正邪」

「あ?」

 姫さんは、普段から自分の寝床兼風呂代わりにして利用している茶碗の中に入って縁に手をついてあたしのほうを見つめていた。

「今日は久しぶりに2人でご飯でも食べに行きませんか?」

「……ちっ」

 正直とても面倒臭ぇってのが本音だったのだが、それでも、実はこんなあたしも、確かに久々に美味いもんが食いたかったってのもあるし、そのうえしばらくバイトで稼いできたお陰でそれなりに小遣いも貯まってきていたし、何より、

 ――こいつは、姫さんは、その見た目こそお子様そのものだが、その気になりゃ、このあたしにすらも平気で歯向かってきやがる。

 ってなこともあり、

「――んで、今日はいったいどこに行くんだ? 一応ある程度だったら好き勝手にさせてやれるけど、それでも少しくらいは遠慮しやがれよ?」

 あたしは姫さんの要望に沿って一先ずは2人で人里まで足を運んでみた。

 ――とは言え、

「……なぁ姫さん」

「何ですか?」

 あたしは周囲にいる奴らの様子をそっと目で追いつつ、内心でこう思った。

 ――やっぱあいつらもいやがるのか。

 人間供に紛れ込んで、そこにいやがったのはやはりあいつらだった。そう、それはいつもの面々であり、このあたしが1番嫌いな奴らで、尚且つ目障りこの上ない奴らだった。

 ――霧雨魔理沙、

 ――アリス・マーガトロイド、

 ――そして、

「博麗の巫女こと、博麗霊夢」

 そんな、いつもの3人組。

 ――よくもまぁ飽きずにホイホイと現れやがるぜ。

 ちっ。と舌打ちをした後、あたしはなるべくそいつらに関らないように目をそらしつつ、その場をやり過ごそうと試みることにしたのだが、

「あら、あんたは確か、鬼人正邪、だったかしら? 久しぶりね? あれ以来元気に

してたかしら? もう悪さなんてしないで、ちゃんと生活してるわよね?」

「……」

「何よ、せっかくこのわたしが挨拶してあげてるっていうのに、無視だなんていい度胸ね? ……喧嘩売ってるってんなら、少し不本意ではあるけれど、何やかんやの言い訳つけて今すぐここで締め上げてもいいのよ? どうせわたしは博麗の巫女だし、

ある程度はまるく済むはずだから」

「……うっす」

 ――クソ、本当に面倒臭ぇぜ。

 あたしはこれまでに数多くの奴らと対峙してきている。だがそんなのはこいつらに比べれば全然可愛いほうで、こいつらに出くわしちまったが最後、そんなあたし達の末路といえば、こいつらとドンパチやり合ったうえでボコられるか、またはガン無視決め込み切ったうえでボコられるかの二択しか考えられねぇ。

 ――もう本当に面倒臭ぇし、飯とか放っぽってこのまま帰っちまおうか?

「……よう姫さん? 悪い事は言わねぇから、今日のところはもういっそ、潔く諦めてほっともっととかで弁当でも買ってさっさと……」

「正邪」

 姫さんは、キッ! と、険しい形相であたしを睨みつけてきやがった。そして、「そろそろお腹がすいてきました」と言って、その小さな双眸にじわりと涙を滲ませていた。

 ――そこまで飯食いてぇのか? こいつ。

 あたしは目の前でふわふわと浮遊しているこいつをジト目で睨み返しつつ、再び、ちっ。と小さく舌打ちした。あたしの内心にあるのは、「何でもいいから、早くこの場から立ち去りてぇ」という苛立ちに加え、「飯ならいつだって食いに行けるだろうが」などの、いかにもあたしらしい捻くれた考えだった。

 ――自分でいうのもなんだけどさ?

 あたし達の前に立ちはだかるこの3人は、「それにしても、あの時は色々スケールデカかったよな」や、「わたしは別にこれといってどうってことはなかったけれど」や、「でも、その時の相手は、この鬼人正邪だったんでしょ?」などと言い、口々にあたしの悪口を言ってきやがった。

 ――人が黙ってりゃ平然と堂々とクソみてぇなこと抜かしやがって。

 あたしはもう1度、ちっ。と舌打ちした。

「よう巫女さんに魔理沙にアリス。悪ぃけど、そろそろ行っていいか? あたし達、

今から飯食いに行くところなんだよ。そうだよな針妙丸?」

「はい」

「……」

 ここにいるこのクソアマ3人供はあたしと姫さんをジト目でガン見しながら、多少異なりながらも、ほぼ同様のことを異口同音で発してきやがった。

 例えば巫女さんからは、

「食事代は?」

 で、

 例えば魔理沙からは、

「お前みたいな貧乏人風情が?」

 で、

 例えばアリスからは、

「こんな救いようのない下品の象徴かたまりで、尚且つゲスロリのかがみでもあるあんたが? その子と2人で? ……っぷ♪」

 など、散々な言われようだった。

 そしてとどめ且つ、ついでとばかりに、

「いいから早よ飯食わせろや」

 という、姫さんからの暴言までもれなくついてきやがった始末である。

 ――特に誰に向かっていう訳でもねぇけどさ?

「……あたし、そろそろマジでっちまってもいいか?」

「あ? 誰が誰に何をするって?」

 博麗の巫女は一字一句聞き漏らすことなく、ちゃっかりと、その地獄耳であたしの独り言を捉えていた。それに対して、あたしは最早癖にでもなってしまったレベルでた、ちっ! と、今度はそれなりに強めに舌打ちをしてみせた。

「……ふんっ、まあいいわ。ところで、ねぇ正邪? 唐突だけど、あなたに1つ質問したいことがあるんだけど、いいかしら?」

「……何だよ?」

 あたしはボリボリと軽く頭を掻きながら返答した。

博麗の巫女はあたしに対して、「あれ以来、その子と

は上手くやってるの?」と聞いてきたので、あたしは考える振りをし、「ぼちぼちか

な?」と応えておいた。

 ――そういや、今何時だっけ?

 そう思い、あたしは腕時計で現時刻を確認した。

「ちっ」

 とっくの昔に昼は過ぎており、午後1時近くを差し示していた。

 ――早くしねぇと昼飯が間食にシフチェンしちまうじゃねぇか。

 このクソアマ供と絡むと、マジでろくなことにならねぇ。あたしはどうにかこうに

かこの場を立ち去る策を考えていた。が、どうしてもいい案が浮かばない。

 ――流石に腹がヤベェかもな?

 飯はこれといって抜いてないし、むしろ毎日三食(おかわりあり、間食ありで)は必ず取っているが、

さっきの姫さんみたいに、あたしも時たまは外食なりなんなりしてみたいなとか思う

時もある。

「って、あれ?」

 ――何かこれ、いつの間にか話ループしかけてね?

「……なぁお前ら」

「あ?」

 ――3人仲良く声揃えて返答してくんじゃねぇよ。

「あたし達、今から飯食い行くとこだから、悪いけどそろそろここから消えてくれねぇか?」

 半ば苛立ちを露わにしつつ、あたしはいい加減今の胸の内を吐き捨てた。

「……そうね。確かにもうそろそろお昼時だしね?」

 あっさり事が済んだ。そう思ったのも束の間、

「それじゃあこれも何かの縁だし、みんなで食事でもしてみない?」

 そう口にしたのは、珍しい事に博麗の巫女だった。

「巫女さんが奢って……」

「そういう訳よ? だから魔理沙、アリス、どっちでもいいから自分の分含めて私達

5人分奢りなさい。いいわね?」

「え?」

「あ?」

「お?」

 ――はじまるな、これ。

 瞬間、あたしのその勘は的中した。

 ガミガミガミ、ガミガミガミガミガミ――(以下略)。

 ――はぁ、

「なぁ、姫さん?」

「はい?」

「そういや、この近所に美味い寿司屋があるって風の噂で耳にしたことがあった気が

するから、そこ覗いてみるか?」

「はい」

 姫さんは、ニパッ。と笑い、あたしの肩にちょこんと座った。そして、

「ふん、ふふん、ふふふん♪」

 そんなふうに軽快なリズムで鼻歌をハミングした。

「……ちっ」

 ――せいぜい腹膨らませて秒で黙りこくりやがれ。

 ――この……、

「……ちっ」

 ――もういっそ、

「……次のバイト代の支給日はあと数日後でそんなに遠くないし、残金全部ぶん投げてみるかな?」

 あたしの耳元で、「おっ寿司、おっ寿司♪」という姫さんのヘラヘラした笑い声が

延々と聴こえてきた。

 ――こいつにはウゼェってのが聴こえねぇのか? 小人の分際でよ。

 ――あのクソ巫女が。

 ――テメェのせいで。

「……おい針妙丸」

「はい?」

「……だな」

「……」

「……」

「……はい♪」

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