3.誕生!『文房具コーナーから始まる文通』

『帰り道』を投稿できたので私の目的は果たされたのだが、せっかくアカウントを作ったのなら他にも小説を書いてみようか、と考えた私は『文房具コーナーから始まる文通』を執筆した。元々、中学生の頃から文房具コーナーの試し書きの用紙から始まるやりとりを書いてみたいと思っていたのと、カクヨム甲子園創作合宿のテーマに「道」があったため、帰り道にちなんだ小説を書きたいと思ったからだ。

『文房具コーナーから始まる文通』はカクヨム甲子園2022ショートストーリー部門奨励賞の作品であり、私の受賞作である。

 2113字。この物語の字数はこれ以上もこれ以下もないと思っている。2113文字だから表現できる物語だっただろう。これを長編にしてしまったらこの物語の良さはきっとなくなってしまう。この短さと9話という構成には色んな人が驚いたと思う。なかなか攻めた構成だったな、と今になって私は思う。


 今回はこの『文房具コーナーから始まる文通』の解説をする。ここからネタバレを含むため注意してほしい。





 私は「一瞬の儚い出会い」が好きだ。このことは『雨虹みかんの日記帳』の『告白について』でも記しているが、とにかく好きなのだ。だからこの『文房具コーナーから始まる文通』という小説も、読者にとっての「一瞬の儚い出会い」にさせたかったのかもしれない。その出会いは一瞬だったけれど、その出会いは確かに自分と相手の今後の人生に良い意味で影響していて、生きる力にしてくれる。そんな出会い、今読んでくれているあなたにもあったのではないだろうか。もう会えなくなったあの人、頭の中に思い浮かびましたか? 


 なぜ花とマキを中学2年生の設定にしたのか。

 それにはちゃんとした意味がある。中学2年生は不安定な時期だからだ。少なくとも私はそうだった。

 あと、高校生になるとみんなスマホを持つようになるが中学生だとスマホを持っていない人も多い。2人にスマホを持たせてしまうときっとLINEやインスタを交換してしまうだろう。すると2人は放課後のあの時間以外でも関われるようになってしまい、放課後の時間が特別ではなくなってしまう。

 マキの漢字フルネームを登場させてないのも鍵である。自己紹介をする時に、花は「山本花です」と漢字フルネームを教えているが、マキは「私はマキ」としか言わなかった。漢字フルネームを知らないと、再会できる確率はぐんと下がる。こうやって書いていると、花とマキを再会しづらくしている私って意地悪だなあと思えてきた。

 この物語の最後に高校生になった二人が再会する。しかし元々私は二人を再会させるつもりはなかったのだ。


「マキが来なくなったということは、帰り道に遠回りをしなくなったということ。つまり、寂しくなくなったということ」


 物語中にもあるように、二人が会えなくなるということは、マキが生きる力を取り戻したことの象徴だからだ。だから、会えなくなって本当は寂しくても、立ち直れたマキを応援しなければいけない。花は複雑な心境だっただろう。

 二人が会えなくなって、この物語は終わるはずだった。しかし、私は物語の最後に二人にサプライズをしたくなった。二人を繋いだボールペンでまた二人を繋ぎたくなった。


 「それはあの黒のボールペンだった」


 「もしかして、と顔を上げると、そこにいたのはマキだった」


 このサプライズ、二人は喜んでくれたかなあ。


「感情が動かなくなっちゃったんだ。楽しい、とか嬉しい、とかを感じなくなったの。私のセンサーは麻痺したみたい。理由は分からないけど、毎日が苦しくて、じゃあもう何も見ないようにしよう、って決めたら、良いことまでも見失ってしまった」


 これはマキの台詞である。実はこの「毎日が苦しくて、じゃあもう何も見ないようにしよう、って決めたら、良いことまでも見失ってしまった」は私の中学2年生の時の日記を元にした文章だ。その文章がこれだ。


「もう、何も見たくない。でも目の前をふさぐのは良い事もみえなくなる。悲しみはなくなるけど、喜びも無くなってしまう。それってどうなんだろうね」


 この文章だけを見ると綺麗だな、と思えるかもしれない。しかしこの日記には続きがある。ここには書かないが、私は今その日記を読み返して泣きそうになってしまった。胸が痛くなる。後半につれて荒々しくなっていくあの殴り書きが、そう、「怖い」。中学2年生の私はこんなにボロボロだったのか。この『文房具コーナーから始まる文通』を書くことで過去の自分を救えたかなと思う。


 物語の中で、花は「好き」という気持ちを「明日も生きようって思わせてくれるもの」と表現している。これは私、雨虹みかんなりの「好き」の答えだ。「好き」は生きる原動力になる。私は今、創作をするのが好きだ。文章を書くのが好きだ。このエッセイを書いている今もすごく楽しい。私はこの時間が好きなんだ、って思える。


 私は花でありマキなのだ。


 私を形作っているエッセンスを散りばめて、そのエッセンスで登場人物を構成している。

 こうやって振り返ってみると、この物語は中学2年生の私と高校3年生の私の共同制作だったのだなと思う。私はこの物語を書くしかなかったのだ、きっと。賞を取るとか取らないとか、そういう次元じゃなく、私の人生に必要な物語だったのだ。その物語がたまたま評価されて、受賞できたのはありがたいことだが、もしもこの物語が受賞してなかったとしてもこの物語を書くことは私にとって意味があったと思う。


 私は『文房具コーナーから始まる文通』という作品が好きだ。

「好き」という気持ちは生きる原動力になる。

 その気持ちを忘れないように生きていきたい。





 次は応募してから受賞するまでのことを書こうと思う。


※『雨虹みかんの日記帳』の『制作秘話~文房具コーナーから始まる文通』より加筆修正




 

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