第52話
どうしてそんな事を言われるのか分からなかった。取り出して渡す。
シーは受け取ると不慣れな様子で操作し、微かに呆れ顔になると手を止めた。浅く嘆息すると傘を手放す。傘は水はけの悪いグラウンドへ転がって、上がった飛沫がシーの足にかかった。
シーはそれに一瞥もくれず、傘を離した手で取り出した自分のスマホを操作している。それを終えると、俺のスマホと自分のスマホをこちらへ向けた。シーのスマホには今し方の発信履歴が、俺のスマホには端末情報が表示されている。俺の端末情報の一覧に含まれている電話番号と、シーが今し方かけた電話番号は、全くの同一だった。
俺も呆れ気味になって笑う。
「普通ずっと隣にいた奴を疑うか? どういう神経してんだよ」
「この件について考えてる間思ってたって言ったでしょ。自分が当たり前だと思ってる事や、思考の支えにしてるものとは、余り役に立たないだろうって。たとえば、幽霊はいないっていう認識とか。でもそんなそもそも曖昧な存在より、もっと近くにある事から捉え方を改めなきゃいけなかったとも。いつも意識した事無かったけれど、この町のあちこちに貼られてる、私達の先輩に当たる行方不明者のあのポスター。あそこに載ってる当時の所有物の一つであるスマホと、あんたのスマホは同型だったのを思い出したのが決定打だった。検索したけれどこのスマホ、もう
所々で怒ってる時の言葉遣いが漏れてたのは、もうその時点で俺の正体に勘付いて
俺は呆れた笑みが治まらない。
「井ノ元達だよ。あいつらが部室に忍び込みさえしなけりゃこんな事になってない」
「一週間前からの一昨日まで、井ノ元のスマホに電話をかけまくってたのはそれに対する報復?」
「ああ。お前嫌いだったろ? 部室を幽霊屋敷扱いされるの。楽器だっていつも真面目に練習してさ」
「楽器じゃない。ベース」
「同じだろ」
「いつも真面目に練習してる所を見てるくせに、それを軽んじるような言葉が出るのはおかしい。なら本心ではどうでもいいって思ってる訳だ。私がどれだけ音楽が好きなのかも、私がやってるパートも正確にはボーカルとの兼任であるベースボーカルで、守谷はドラムで、藤宮さんが部室の鍵を探して私に電話をかけた時、守谷と私がまだ来ないという状況で私達のバンドは休みだろうかと判断しかけていたという事は、そもそも私と守谷とは二人組で活動していて、いつも私が真面目に練習をしてる様子を見る事が出来る相手も、守谷だけにならないと生じる矛盾についても。もし本当にいつも私の練習風景を見てたんなら、誰にも認識されていないだけであんたも私と守谷と同じバンドで活動してる三人組って事になって、昨日のあんたはギターかキーボードでも提げてないとおかしい。歌は私が出来るから、荷物が要らないボーカルだって言い訳は通らない。そもそも私ギター入れてやりたいし、二人体制は方針とズレてる」
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