第53話
「カッカすんなよ。バレるって思ってなかったから、そこの辻褄まで合わせる必要は
「つまり油断だ」
「ああ。油断だよ。お前の
「あんたこそが軽音部の幽霊なの」
「こそって事はやっぱりお前、昨日部室の周りで出た黒い奴も見えてたな」
「見えてた」
「何であの場で俺が尋ねた時は誤魔化した」
「その質問の意図が読めなかったから。それまで幽霊なんていないって態度だったし、あの写真も加工検出にかけようが本物だと信じなかったのに、藤宮さんが騒いだだけでその態度を改めようとするのはおかしいと思ったから。この学校の生徒なら軽音部の幽霊の噂なんて腐る程聞いた事あるんだから、もしそんな態度をされても、悪ふざけだって相手にしないのが大抵の反応。何か危害を加えられた訳でも無いのに騒がれただけで真に受けるなんて、キイやモトを笑えないぐらいの怖がりか、もし私がそれを見えていたら起きる、何らかの不都合を避ける為と考えた方が合理的」
「素直にお前を心配しての言葉とは思わなかったのか?」
「思わなかった」
「やべえよお前。口にしてなかっただけで
「人の心っていう目に見えないものを信じるって、神や幽霊を信じる事とどう違うの」
シーは呆れも、その内側で
何故ってその言葉とはこいつの口癖で、この人間不信なんてありふれた言葉では表し切れない
分かっていなかったんだ。こいつという人間を。こいつとは真実を得る為ならば、文字通りに全ての可能性を考慮し調べにかかった。その真実を得て、救おうとしている者すらも疑って。それによって、何を失う事になるとしても。
散々振り回された無茶な行動も、暴走した正義感でも友情でも無かったんだ。こいつとは最初から惨たらしい程冷静で、どこまでも一貫していた。人の心という目に見えないものを信じるとは、神や幽霊を信じる事と同義だから。だから俺という存在をあっさり認め、故にこうして暴いてみせた。友達は幽霊かもしれないなんて馬鹿げた思考を基に、大真面目に推理して。
止む気配の無い豪雨が、轟音を引き連れて降り注ぐ。
「……いつも正気なのは心臓ぐらい。寝ても覚めても一定のリズムで動いてくれる。脳はどう? 視覚情報で簡単に騙される。情に訴えられれば正しさすら軽んじる。常識も合理性もどうでもいい。何をどう見せられようと、自分が信じたい事を信じる心と似たようなものだから。私は自分に都合のいい現実を見つける為に日々ものを突き詰めて考えてる訳じゃない。今直面してる全ての物事を、なるべくありのままで理解したいと願ってるから考えてる。だから自分で出来る範囲で検証して、考え抜いて、それでも非現実な何かと出会ったら、そういうものなんだって受け入れる。常識じゃ捉えられないものなんて幾らでもあるし、技術が進めばいつか全てを理解出来る日が来るとも思ってない。錯視だの聞き間違いだの記憶違いだの言い間違いだの日々小さなミスを繰り返してるくせに、万物の霊長なんて傲慢な名乗りを続けて謙虚を覚えない人間という種に、私はそんな可能性を
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