第3話
シーはスマホを返しながらキイに尋ねた。
「軽音部の幽霊ってどういう事」
いつもの無表情だが、努めて冷静でいようと気を張っているのが声で分かる。
キイは不安そうに切り出した。
「ほ、ほら、あれだよ。うちの高校で昔から有名じゃん。軽音部の部室には幽霊が出るって……」
シーはあくまで静かに頷く。
「うん。でも、その噂とこの写真が撮れた理由は繋がらないと思う」
「そうなんだけれどここに映ってる人達、この写真を撮る前に軽音部に忍び込んだんだって」
軽音部の副部長で、部長の不在時は施錠確認を任されているシーは微かに目を見張った。
「うちの部室に?」
「うん。この写真を撮った日、肝試しに出かける前に暗くなるまで放課後居残りして、写ってる人の中の軽音部の人が、部室に忘れ物したから取りに行きたいって嘘ついて顧問から鍵借りたんだって。それで部室に幽霊が出ないか確かめようって皆で忍び込んだんだって話してたって、モトくんが。あっいや、モトくんは忍び込んでないよ!? 教室で適当に時間潰してたって!」
「モト? 何でビビりのモトがそんな事に関わってるの?」
驚くシーに、俺はキイの説明を補足する。
「加工はしてないそうだが、この写真を撮ったのはモトなんだよ。被写体の奴らに肝試しに誘われて行った先で撮ったんだ」
シーは怪訝になって俺を見上げた。
「モトは肝試しなんて行かない」
「それが行く事になったんだよ」
「何で」
俺は肩を竦めながら、キイがシーに言いたくなかっただろう言葉を肩代わりする。
「元々この被写体の連中は、お前を紹介して貰おうとモトに言い寄ったんだよ。モトがビビりなくせに肝試しに行く事になったのも、連中がお前をこの肝試しに連れて行こうとしてたのが見え見えだったから断る為で、要はお前に変な虫が付かないように守ってくれたって訳だ」
シーはこれ以上無いってぐらいに目を見張った。
途端スカートのポケットからスマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げると、凄まじい速度のフリック入力で文章を打ち始める。
被写体の中に部員は二人。どうせこいつらを呼び出す内容だ。この通り見かけによらず気性の激しい副部長様直々の命令とあれば、三年生の先輩方でも飛んで来る。
シーは作り終えたメッセージを送信しながら、無表情に吐き捨てた。
「あの二匹ぶっ殺す」
ほれ見ろ。
「落ち着けって。うちの部室に幽霊がーなんて噂、俺らが入学する前からある話だろ? そのくせ誰も実際に見た事無いんだし、真に受けなくていいって」
シーは乱暴にスマホをしまいながら俺を見上げた。
「その噂が注目される
俺は肩を竦める。
「ああ。忘れてないさ」
シーは心から音楽が好きで、だからその活動拠点となっている部室や部そのものを、冗談半分で扱われるのを本当に嫌う。その過剰な事もある思いの強さがあって多くの部員から推薦され、副部長もやっているのだ。ブレーキ役の俺としてはしょっちゅうハラハラさせられるが。
取り敢えずシーの気を落ち着かせなければと話を戻した。
「つか、この写真についてもうちょっと考えようぜ」
シーは即答する。
「これは無加工写真」
「いや信じるの
真顔でオカルト信じるな。
顔色が回復し始めていたキイがまた真っ青になって叫ぶ。
「そうだったつまりこれはっ、マジでガチの心霊写真ッ!?」
俺は手を振った。
「無い無い無い。確かに気色悪いけど、エラーだってきっと。やり直そうぜ。つかこのサイト全文英語だけど、本当に使い方合ってるか?」
「合ってる。なら今から英語の先生に読んで貰って、答え合わせしてからもう一回解析しよう」
「ああ。だからそれまでは、そんなにカリカリすんなって」
「でもそれだと、モトを強烈に疑うって事になる」
誰を責めるでもない、ただの事実としてシーは指摘した。
キイも青い顔のまま同調する。
「うん。こういう写真があるって時点でもう不自然なんだよ。本物だったら普通にヤバいけどさ、加工だったとしても、モトくんが苦手な肝試しに行ってまで庇ったシーちゃんを怒らせる為みたいに、シーちゃんの親友の彼氏を狙ってこんな怖い加工をしたって事になるんだよ?
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