第3話「スマホ大作戦」

 アタシは自分のスマホをいじりながらそいつの和室の部屋にあるロココ調の椅子に当たり前のように座る。


 アタシが買わせたアタシのお気に入りの椅子だ。


「ねー、スマホ買いなよ」


「……」


「メールしよ! メール!!」


 そいつは窓際にある古風な書道机の前に座布団をしき正座して宿題をしていたが、それを聞くと慌てて手をバタバタと振りスマホを否定した。


 そいつにとってはスマホなんて近代文明のさいたるもので、古式ゆかしい頭では使いこなせるとは思えなかったらしい。


 前にアタシのスマホを貸したときは使えもせず手汗べっとりで帰ってきた。


 でも、そいつは話すのが苦手だからメールならちゃんと私以外の人とも話せるかもと思ったのだ。


「メールは考えてから書けるから向いていると思うよ無言むごん


「――」


 そいつがアタシを指差す。


「えっ⁉ アタシだけでいい?」


「――」


 そいつは少し困り顔で笑った。


 アタシは急に恥ずかしくなり、思考がとまる。


 でも諦めたらダメ! メールしたい‼


「でもね無言、アタシ無言とメールしたいんだよ!」


 そいつは少しあせる。


 アタシは言い出すときかないと解っているからだ。


「――――」


 そいつは黒電話のダイアルを回す素振りを見せる。


「頑張って電話してみるって?」


 アタシはそいつの目を見つめる。


 そいつは目をそらす。


 絶対かけてこないやつ。


 アタシが電話したとしてもアタシだけが話すやつだ……。


「どうしてもダメ?」


 アタシはそいつの制服たるYシャツのそでをつかみクネクネと甘えてみる。


 色仕掛けである。


「――――‼」


 ウケる。


 そいつ、メチャメチャあせっていた。


「お・ね・が・い」


「――――――‼‼」


 アタシはそいつの腕にアタシの腕を絡ませ、そいつに対して急接近の構えをみせる。


 さあアタシの色香に迷うがいい‼


「――――――」


 そいつは耳まで真っ赤にしたあとすくみあがったように硬直し、そのあとゆっくりとアタシの手を解いてあきらめたように少しうなだれる。


「…………」


「お義母さんに聞いてくれるの?」


 勝った!


 男の子なんてチョロい。



 ◇◇◇



 しばらくたってから高校の教室でそいつがスマホ買ってもらったっことを知ることとなる。


 持ってこいよと思った。



 ◇◇◇



 タカコ:どうスマホ?


 既読ついてるから読んでるよね……。


 タカコ:下の文書欄を押すとフリックのキーボード出るよ。


 すぐ既読がついた。


 タカコ:最後に決定キーで送信だよ


 また既読……メールアプリつけっぱだ。


 タカコ:「こんにちわー」でも「もしもしー」でもなんでもいいよ


 ん? あれ? 既読つかない?


 どうしたんだろ、無言のママにやりかた聞いてるのかな?


 ちょっと待つか。


 ………。


 ………。


 ………。


 リリリリリリリリ‼


「は⁉ 電話⁉」


「『無言黒電話』?」


 画面には無口無言むくちむごんの自宅黒電話の表示があった。


 嫌な予感しかしない。


「無言、何?」


 アタシは通話を押し、無感情な声を出す。


「……………………」


「――わかった、ゆっくりれたいのね」


 何も聞かなくてもわかるアタシが怖い。


 そいつは一息ついて静かに電話を切った。


 負けた。


 スマホ大作戦の失敗である。

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