三日後の誘惑
藤泉都理
三日後の誘惑
三日後にこの手紙を開けてね。
先生は笑って、私に真っ白い封筒を渡した。
はい。
私は元気に返事をして、三日後に帰って来る先生を見送った。
きっと、この手紙には秘密の魔法道具の在処か、もしくは秘密の魔法道具そのものが隠されているに違いない。封を開いた瞬間、秘密の魔法道具が飛び出すんだ。
そう期待するのは、三日前に魔法試験に合格して、無事に五年生になれたからだ。
あ~何だろう。
もっと早く飛べる箒かな。
もっと強力な呪文が使える杖かな。
危険な森に行けるマントかな。
行きたい場所に連れて行ってくれる帽子かな。
竜と話せるマスクかな。
「いやいやそれとも一日に一回思い描いたデザートが飛び出す鼻眼鏡とか?あ~~~~~」
ごろごろごろごろごーろごろ。
ベッドの上で腕を伸ばし寝転んで手紙を持ったまま、何度も何度も転がり回る。
「何だろう何だろう何だろう」
見たい。
早く。
この手紙の中身を。
早く使いたい。
秘密の魔法道具を。
「三日後だろうが、今日だろうが、貰える物は同じなんだし。ねえ。別に今日開けたって。いやいやいや。ちょっと待って私!あの先生よ。三日後に開けなかったら、秘密の道具が消滅、なんてこともあり得る。うんうん。あっぶない。開けたらおしまいよ、おしまい。でも。だったら、今日じゃなくて三日後に渡せばよくない?今日渡されたら中身が気になって気になって、もやもやするじゃん。もう!先生め!忍耐か!私の忍耐を試しているのか!はっは!受けて立とうじゃない!三日間耐えてやるわよ!開かないでやるわよ!」
「あらあらまあまあ」
三日後。
怪しげな植物をいっぱい持って帰って来た先生から早速、手紙を開けていいと言われた私が、金庫から取り出した手紙の封を慎重に開く、と。
ほわわわわんと、白い煙が立ち込めたかと思えば。
「………石?」
しかも何の変哲もない、灰と白が入り混じって、片手で持てる少しごつごつした石が手に乗っていた。
「先生、これは何の石?」
「これはね。生物無生物この世のあらゆる物体が、食べられるか食べられないかを教えてくれる石よ。調理方法も教えてくれるわ。へええ。あなた、これが欲しかったのね?」
「え?私、これが欲しいだなんて思ってないよ」
「ええ。気付いてないだけ。あなたに渡した手紙はね、三日間かけてあなたが本当に欲しい物を探し出してくれる、魔法道具の一つだったのよ」
「え?私が本当に欲しい物?この石があ?」
「そうそう」
「えーーー。まあ。そう、かあ。食べられるかどうか知っておくのは大切だよね。調理方法も教えてくれるなんて超便利だし。うん。うん。先生ありがとう!」
「ええ。進級おめでとう。それでね、あともう一つお祝いの贈り物があるんだけど」
「え?」
「はい。先生の手作りベリーベリーベリーケーキ!」
「わ、わああい!ありがとう!先生!」
ちょっと戸惑ったのは、決して先生の手作りケーキが美味しくないわけではない。
美味し過ぎて、かつ、量が多いのが、とっても問題なのだ。
「お、美味しいよ先生。とっても」
「ありがとう。同僚に量が多すぎるって指摘されたから少なめにしてみたの。物足りないかもしれないけど、食べ過ぎはよくないから我慢してね」
「うん」
(先生の同僚、指摘してくれてありがとうでもまだ多かったよ)
いっぱい食べても体重が増えない薬を開発しよう。
今年二度目、誕生日以来の決意をまた強く新たにするのであった。
(う~手が止まらないよ~)
(2023.7.3)
三日後の誘惑 藤泉都理 @fujitori
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