034:戯れと朝食

………ぺろぺろぺろ


ん?なんだ??


顔中に感じる温かい液体のようなものと柔らかい感触で意識が目覚めてゆく。


ぺろぺろぺろ


って!!ホントになんだ、なにをするだァァァ!!!


体験した事のない不気味な感覚に、急いで重い瞼を上げ寝ぼけた頭でどうにか状況を理解しようと努めると、目の前には歓喜の表情を浮かべる手の平に乗せれる程の大きさである毛玉のようなものが目についた。


「 ……へ?? 」


やはり状況が理解できず素っ頓狂すっとんきょうな声を洩らしてしまうが、そんな俺に毛玉は「ハッハッ」と変わらずに満面の笑みのような顔付きを続け、勢いよくこちらの顔面を舐め始める。


「 ぶわぁっふ!!って正体はお前か!!?ちょっ、待て待て!!ステイ、止まって!!やめてぇぇぇ!!! 」


まるで無我夢中でアイスを舐めるように頬を襲うそれを両手で抱き上げるように優しく引き離し観察してみると、どうやらこの毛玉は昨夜プレゼントした肉塊に噛み付いていたワンガルドの子供のようであった。


手が埋まるほどに柔らかい毛並みに程かな温もりが心地よく、思わず顔を埋めて癒しを満喫したいという欲をどうにか抑えるが、そんな俺の事など気にせず癒しの塊とも言える手の中の毛玉は「キャン」とまた可愛らしい喜びの咆哮こえを上げている。


流石にこれは良いんですか!?と周りで昨夜と変わらず警護をしてくれている大人のワンガルド達を見てみるが、気にしないという風に呑気に欠伸をしている辺り、どうやら子供のじゃれあいと許されているようであった。


「 ハハ、凄い好かれようだなカイル 」


そんな中掛けられた声に反応し視線を向けてみると、そこにはリースがいたのだが……それは至る所に噛まれた跡と多少の出血を流しながらもとても良い、悟りを開いたかのような笑顔を浮かべている。


おい、どうした!?


「 俺は……ダメだったよ。その子を引き離そうとしてこの様さ 」


「 あぁ……あの、なんかごめんな。おはよう 」


どうやらリースはワンガルド達に好かれなかったようだ。それに思わず苦笑いを返すがそんな事など構わず手の中の毛玉は「きゃん」と吠え続けている。


強烈な目覚ましによりハッキリと意識が覚醒したので改めて視線を回すと既に片付けられている簡易テントが目についた。


そんな俺を傍目に感じたのか、夜を経て消え掛けている焚き火の管理をしながらもリースは言葉を投げてくる。


「 ルイスならさっき起きて川へ顔洗いに行ったぞ。カイルも行ってきたらどうだ? 」


「 そうだな。もう顔中べったべただ 」


毛玉の涎にまみれた顔を拭うが、それが面白かったのかまたしてもそれは「きゃん」と鳴く。


いや、可愛いのは可愛いのだがね?少し、手心というものを……


毛玉は変わらず「きゃん」と鳴いた。


「 ……川行ってくるわ 」


そして俺はそれを優しく下ろして顔を洗いに行くのだった……おい、付いてくるのかよキッズ!!!


ワンガルドの子供を連れて……ーーーー


ーーーーーー


「 あぁ、スッキリした!! 」


冷たい水でキリッとさえた顔をタオルで拭いながら野営地に戻る。その後ろには変わらず小さな尻尾をぶんぶんと千切れんばかりに振り続けているワンガルドの子供がいた。


こいつにはホントに手を焼かされたものだ。


顔を洗ったと思えば全力で舐めてきてを何度も繰り返され、「やめろォォォォ」と叫んでは「キャンキャン」と喜び鳴かれて舐められた。


最終的に近くで実っていた木の実を囮にする事でなんとか乗り切れたが、もう朝から疲れたぞ。


しかし、先に来ていたハズのルイスとは合わなかったな。入違いだったのだろうか?


そうして帰ってきた野営地には予想通りルイスがおり、リースと共に朝食の準備をしているようであった。


「 えっと……おはよう。ルイス 」


「 えぇ、おはよう 」


昨夜のこともあって気まずいのを危惧していたが、どうやらルイスは気にしていないようで、変わらずの笑顔を向けてくれる。


それに胸を撫で下ろし、俺も準備の手伝いに入る。


今日の朝食は昨日作った野菜のスープと旅に出る前イヴリンさんが作ってくれた絶品の特製スパイスをふんだんに使ったサンドイッチだ。

昨夜のもそうであったが、団長殿が俺たちの為に用意してくれたいくつかの食材や食べ物はどれもが素晴らしく最高そのものであった。


ウィルキーに帰ったら全力でお礼を言わなければ、気が済まない。マジ感謝、です。


「 よし、それじゃあ頂きますか 」


完成した朝食を並べ焚き火を囲う。起きてからずっとついてきていた毛玉はどうやら両親に回収されたようで首を甘噛みされ森の奥へと帰っていった。


しかし、最高のサンドイッチを手にそれらを口に入れようとする俺たちの前に三匹のワンガルドがやってきては「ワン」と吠えてくる。


その顔付きはなにかを伝えたいといった深刻なものであり、それを目にルイスは手にした朝食を戻しては直様、森心術グランドローグを発動した。


「 ……なるほど、分かったわ。ありがとう 」


対話の後、そう言葉を漏らしてはルイスは優しくワンガルド達を撫でる。そして俺たちに向き直った。


「 どうやら、この森を出て少しした廃村で20くらいの人間が待機しているらしいの。それもかなり騒がしく危険な事ばかり口にしているとか 」


荷物から取り出した地図を広げ場所を確認する。

話にあった廃村はここから目的地である【ランクール】に向かう為には必ず通過しなければならない。


となると、どうしても確認しておかなければならないことがある。

調理用に持ってきていた酒を小皿に取り、更に荷物からマッチを一本取り出してはその先端の火薬を切断すり潰して粉状にする。


「 ルイス。ワンガルドたちにこの酒と火薬の匂いに類似した匂いがその人間たちから感じられなかったから聞いてくれ 」


「 了解 」


もし俺の予想通りなら、少し厄介ではあるがまるで準備をしていないわけじゃない。


問題なくこれを突破できるハズだ。


「 この子達が似てる匂いを感じたって言ってるわ 」


「 となると……やっぱり銃を盗んだっていう野盗で確定だな 」


大きなため息をこぼしながも、我慢していたサンドイッチを一口齧る。

これはやはり、もう最高の味だ。


「 んじゃ、朝飯食べながら作戦会議としますか 」


悲しいかな、銃という大好きな武器を相手にしているからこそどうにか出来てしまうという現状。

素晴らしい朝食をわいわいと楽しみながらも、俺たちは今日の動きを話し合う。


そういえば、珍しい、というより変わった夢を見た気がするが……まぁ、いいか。


俺は思い出そうとしても何も浮かばない、簡単に忘れてしまったその夢に見切りをつけ今と向き合うのであった……ーーーー


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