024:未来に咲く安らぎ《ラブロメロン》


「 あははは、もう最ッッ高!!ねぇ、次はあの店見てみましょうよ!! 」

「 はいはい、姫様の仰せのままに 」


ルイスに手を引かれて店々を巡る。


この季節は趣味、というか植物達との対話を楽しんでいる彼女にとっては余程退屈なのだろう。それ故か普段見慣れない商品などにはしゃぐ幼馴染の姿は、なんだか可愛らしく思えた。


本来なら俺自身気になる販売があるのだが、例年なら雪と共に院に閉じこもっているハズであるルイスのあまりお目にかかれない表情たちが予想以上に面白く、それに付き合うことにしてみたのであった。


見たことも無い野菜を試食で口にしてみては、苦い甘いとコロコロと顔色を変え、どのような用途で使うかも分からない商品を手に取っては色んな角度から覗き込み顔を顰めるその姿は隣で見ていて飽きない。いやそれ所か楽しくて仕方ない時間が流れていく。

こんな事ならリースも連れてきてやるべきだったかなと罪悪感のようなものが少しぎるが、あいつは直ぐに食べ物を強請ねだってくるからダメだ、と冷静に切り捨てた。


そして今俺たちは、エンデルから来た商人ではなく、この朝市の為に他所から訪れたという装飾品アクセサリーを扱う出張店の商品列を眺めていた。

店主が言うには地元ではそこそこ人気を誇る店であるらしく、その言葉通り装飾品アクセサリーという事で少し値は張るがどの商品も思わず魅入ってしまう仕上がりの物ばかりだ。


ここばかりは先程まで幼児のようにはしゃいでいたルイスも大人しくなり「綺麗」とそれらを手に惚けている。その様を見ると、やはりこの幼馴染も年頃の女性なんだなと実感してしまう。


「 あっ……アレって 」


ルイスが何かを見つけたのか、商品列とは分けられ丁寧に飾られている一つのネックレスへと視線を向ける。


「 お、なんだいお客さん。このの事をお存じで? 」


店主が幼馴染に好奇の目を向ける。


俺にはさっぱりだが、中々に有名な装飾品アクセサリーなのだろうか?


するとルイスは店主へと視線を移し、感動しているといった声色で言葉を紡ぐ。


「 はい。私花を育てたりするの大好きなんで、本で見た事あります。まさか、本物を見れるだなんて、感激です 」

「 おぉ、そうかい。まぁ、値が値だから買うのは難しいと思うけどやっぱり価値の分かるお客さんと出会えるのは嬉しいねぇぇ 」


その言葉を耳に、下げられている値札を見てみるとそこには【金貨15】と書かれている。成る程、これはかなり高額だ。


それからある程度話をして満足したのか店主は他の作業に戻り、それを確認しルイスに耳打ちしてみる。


「 なぁ、あの装飾品アクセサリーはそんなに有名なものなのか? 」

「 えぇ、アレは【未来に咲く安らぎラブロメロン】って言ってね。大事に育てたい、大好きな花の種を入れて大切に身につけるものなの 」


高額商品である為手に取ることは出来ず遠目で見てみると、宝石などは付いていないが、これもまた魅入ってしまう程の綺麗な紋様が全体へ奔っている。

それらの中心には何か入れられるような小さな卵を連想させる包みの装飾が付けられており、ルイスの言葉通りならそこに花の種を入れるのであろう、確かにそれくらいの大きさなら入りそうではあるが、その造りを見るに中に入れた種は外からは姿を確認する事が出来ないものとなっていた。


「 つまり、種を入れれるネックレスって事か?それってそんなに……本に載るようなものなのか? 」


素直に気になった事なのだが、そんな俺の問いにルイスは少し頬を赤らめると先程よりもまた小さく言葉を続ける。


「 その……良い言い伝えみたいなのがあってね。あ〜あ、欲しかったんだけど、仕方ないな 」

「 ……… 」


口調こそ諦めがついているといたった明るいものだが、これまでの付き合いからその顔に哀しみのような感情が隠されているのは容易に理解出来る。

そんなルイスは「行きましょう」とまた俺の手を取ろうとするのだが……上手く表現出来ないが、それはなんだか心がモヤモヤした。

そしてそのモヤが掛かったよく分からない思いを放っておくのがなんだか癪だった、だから……


「 すみません、その【未来に咲く安らぎラブロメロン】買わせて貰えませんか? 」


「 ちょッ!!カイル!!? 」


「 おぉ、坊主。漢気はあるなぁぁ!! 」


年超えで余った金はあまりにもあるし、まぁこれがホントの感謝の印って事にしておこう。

少しパニック気味になっている幼馴染は俺の背をポカポカと叩きながら色々と小うるさく静止をかけてくるが、お構い無しに金貨15枚を確かに店主へと渡す。

そして受け取ったネックレスを、俺は迷いなくルイスへと差し出した。


「 ほら、やるよ 」


背後でなにやらニヤニヤとしている店主が気になるが、目の前の幼馴染はさっきまでの勢いを無くし今度は何故か完全に固まってしまっている。


「 なんだよ、欲しかったんだろ?遠慮するなって 」

「 そんな……こんな高いもの、貰えないわよ 」


ほんと、手のかかるお姫様な事で……


顔を下に隠しどうにか言葉を出しているそんなルイスを前に、俺は未だニヤニヤとする年配の商売人とアイコンタクトを取る。するとそれに応えてくれた店主は直ぐ様「返品は無理だからな」と言葉を口にしてくれた。


それに続いて、言葉を投げる。


「 だってさ。だから俺なんかが持つより、プレゼントさせてくれないか?ルイス 」


そう言い放ちいつも通りの豪快なニカッとした笑顔を向けてやった。

それから数秒はまた固まっていたのだが、いよいよ観念したのか幼馴染はもじもじと身体を揺らした後、何かを決心したように俺の手を取る。


「 あっ……あの、それじゃあ 」


そこまで言うとルイスは再び別の店へと進み始める。しかし、これまでとは違い強引にというよりは、何処か辿々しいというか、大人しい歩みであった。


「 次は何処に行くんだ? 」

「 い、いいから。直ぐそこだから 」


こちらへは一切視線を合わさず耳まで真っ赤にしながら小さく呟くルイスに「やれやれ」と溢しながらも誘導させる。


そうして到着した目的地であったそこは、エンデルで育てられた今の季節ウィルキーの町ではまず見れない色とりどりの美しい花々が扱われる出張店であった。

しかしルイスが求めているものは花ではなかったようで、それらが並べられたものとは別の商品列の前まで連れられる。


「 【未来に咲く安らぎラブロメロン】に入れる種は、カイルに選んで欲しいの 」

「 えぇ!?俺が? 」


突然の提案に驚愕の声が出る。

目の前に並べられているのは小皿に乗せられた様々な種であった。

その意図は分からないが、俺の返答にルイスは先程から変わらず頬を赤らめて首を縦に振ってくる。


こんなにも赤面が続いてるなんて、風邪でも引いてるんじゃないか?

しかし、種を選んでくれと言われても……


「 俺、花の事なんてなんも知らないぞ? 」


並べられた種を乗せる小皿達の側には芸達者な店主が直接ペンをとったのだろうか、それぞれが成長した姿を描いた白黒の花が描かれた紙が立てかけられてはいるのだが、菜園の素人である俺からすれば、花弁の色を想像する事も出来ないうえ、どれも同じような形に見えてしまう。


「 あんたの気になった花とか……好きな花でいいから 」


そこまで言うとルイスは自分が見ないようにする為か、俺に対して背を向ける。

よく分からないが、それも言い伝え?とやらに関係するのだろう。


さて、まさかこんな事になるとは……しかし、時間がかかると思われたこの選別は、首を少しスライドさせるとすぐに視界に入った紙に描かれた花の姿を目に、意外にもあっさり終わる事になった。


「 おぉ、この花って……よし。すみません、この種もらえますか? 」


ってちょっと待て、なんか成り行きで種代まで払ってないか俺?


ま、まぁいいと切り替え、買った種をネックレスへと入れてみる。そしてそれをルイスへと改めて差し出した。


「 これで宜しいですか?お姫様 」

「 ………ありがとう、カイル。わ、ワタシ!!絶対大事にするから!! 」


受け取った【未来に咲く安らぎラブロメロン】を胸に押し付けるようにし、なにやら熱狂的に礼を口にする幼馴染だが、なんだかそれが面白くて、可愛いくて、俺は笑みを返す。


さて、気を取り直して……今度はこちらの要望を口にしてみる。


「 それじゃあちょっと悪いんだが、俺も見たい店あるんだけど行ってもいいか? 」

「 うん……ついてく 」


了承を得た事で目的の店へと足を進めようとするのだが、そんな俺の背に直ぐ様「あぅぅ」と鳴き声か、とツッコミたくなるような気の抜けた声がかけられる。

振り返ると、もじもじと身体を揺らす幼馴染の姿が目につく。


トイレか?と反射的に無神経な声をかけそうになるが、奇跡的に発動した危機回避能力がそれを阻止した。


「 どうした?まだ寄りたい所あるのか? 」

「 いや……その 」


言葉を言い切る事はせず、ルイスは俺へと手を出す。


「 手……繋ぎたい、です 」

「 へ?なんで?? 」


またしてもの突然の提案に、今度は驚愕ではなく呆けたような声が出てしまう。


いや、手を繋ぐ必要はないだろう。さっきまではルイスが強引に手を取っていたからなすがままにされていたが、今回は俺が先導するのだからわざわざ手を引く意味はない……子供か?


するとそんな心を見透かされたかのように幼馴染の顔はまたみるみると赤くなってゆきその全身はぶるぶると震えだす。


あっ、これさっきのと同じだ!!マズイこんな場所で有る事無い事叫ばれてはかなわん!!


「 わ、分かった分かった!!ほら、それじゃあ行くぞッ 」


ルイスがそうしていたように、今度は俺の方から強引にその白く細い手を取る。


この幼馴染とは同じ冒険者としてパーティーを組み長年一緒に色んな所を巡った仲だ。当然危機を乗り切る為に手を取り合ったり、それこそ手を繋ぐなんて事当たり前にやってきた。


他の異性ならともかく、今更こいつの手をこっちから握ったくらいで緊張なんてしない……と思っていたのだが、今日は何故かそうもいかないようだ。


よく分からない小恥ずかしいような感情と心臓の高鳴りを無視しようと努めながらも、俺はルイスの手を取りこの朝市で最後となるであろう店へと向かうのであった……ーーー



ーーー



そうして辿り着いたのは俺がこの朝市で注目していた店。それは中央都市ルドアガスに工房を構える火砲鍛治士ガンスミスが開く【ガルグイユ】という現代において最も発展しているが不人気マイナーである武器【銃】を扱う出張店であった。


【銃】と総称されているこの武器たちは、火薬を用いて加工された弾丸と名付けられる鉄塊を高速で発砲する事で離れた相手を仕留める事が出来るという、これまで比較的使い易い為に理想的とされていた遠距離武器であるボウガンを更に発展させた近代兵器であり、これらは全て弓などと比べ低い練度でも十分に取り扱えるのが特徴の一つとされている。


ここ数年で次々と改良が加えられ続けているこの武器は、非力な者や女子供でさえも扱えるうえ、種類こそあれど、携帯が容易で自衛能力に優れた兵器と言う事で一度は注目されたのだが、多くの壁を未だ乗り越える事が出来ずそれは次第に世間の目から薄れ続けているのが現状であった。


まず前提として現代において脅威とされている魔物に対してこの武器は大した威力を発揮しない。

何故ならこれはあくまで火薬によって小さな弾丸を飛翔させるものであるため、それによって穿った傷も必然指先ほどの大きさでしか発生しないからだ。


現存する全ての魔物には大小様々ではあるが人よりも優れた自己治癒力が備わっている。故にそれらを撃退するには剣など鋭利な武器による切断や刺突。打撃による圧砕など、その再生力を上回るダメージを与える事が必須なのだが、銃により生み出せる点の損傷では直ぐに回復されて恐れがあるのだ。


例え運良く弾丸が貫いた肉の先に内蔵器官があり、それを出血させる事が出来たとしても瞬殺には至らないとされており、むしろ下手をすればその傷さえも再生される可能性がある。


そういった多くの検証で得られた情報を踏まえた結果、騎士団に配備されている剣などとは違いこれらは都市を持っての大量生産が行われず、現状この銃という分類カテゴリーの武器は専門の資格を取得した火砲鍛治士ガンスミスが自らの工房で全て手作業で製作するものとなっている。となると一丁の値もかなりの高額となってしまうのも、世間の認識に良く根付かない理由の一つだ。


そんな不人気マイナーとされる品を扱うこの店にはガラスケース型で横に長い棚が並べられており、その中に様々な形状をした銃が置かれている。

どうやら今回は狙撃銃ライフルなどといった長物は持ってこられなかったようで、販売されているのは全て拳銃とされていた。


世間の声が良くなくても、俺はこの銃という武器は素晴らしいものだと常々思っている。


騎士団や冒険者たちが装備する従来の武器と違い、これらには様々な機構が施されている。

勿論、鋳型式ではなく直接剣を打つ鍛治士たちによる継承される技術によって造られる技物は芸術的かつ強力だ。

それは理解しているが、いわば俺たちはその完成された武器を授かり戦うだけであり、簡単なメンテナンスこそ出来ても修理などは到底出来るものではない。


その点、この銃という武器は幾つかの部品によって組まれている機構上、その造りさえ理解できていれば変えの部品による修理が可能であるのだ。


更に老若男女に関わらず、手がある者なら誰でもでも十分に扱えるという利点もあるこの武器は、いわば現代の技術の集大成と言えるものであると俺は自負している。


と、このような自論を常々持っているのが功を刺したのかこの【ガルグイユ】の店主は去年初めてこのウィルキーの町に来てくれた時から俺の事を気に入ってくれているようで、今まさに確実に購入する訳でもないのに、食い入るようにガラスケースを凝視しているのに文句一つ言われないのはその為であった。


「 前に市へ来てくれた時よりも種類がかなり増えてますね。オススメとかってありますか? 」

「 そんな事聞いてくれるのはカイル君くらいだよ。そうだな……これとか、魅力的だよ 」


他の店とは違い、いかにも好青年とばかりの20代であろう若い店主はガラスケースから一丁の銃を取り出すと、それを俺へと差し出してくれる。

受け取ったそれには他のもの同様、鉄製である為にズッシリとした重みが感じられ、その上に被せるように付けられた木製の持ち手グリップは中々に握りやすい。


一目で分かる特徴と言えば、やはりその銃に付けられた円形の部品、5つの何かを込めるのであろう穴がある特殊な形状をしたそれは他の品物にはない歪な造りであった。


「 これは【回転式拳銃リボルバー】と言ってね。つい最近出来たばかりの新作だよ。これまでの燧発フリントロック式の銃とは一線を画す素晴らしいものなんだよ 」


そこまで言うと店主は俺から回転式拳銃リボルバーを回収すると、他の従業員にその場を任し「おいで」と裏に置いてある荷馬車へ来るように促す。

しかし、ルイスはあまりこれに興味がないようで「私はいい」と言うので俺一人でついて行く事にした。


裏にある荷車に入ってみると、そこはよく見る商人のものとは違い奥までがかなり長い造りとなっており、中にはいくつかの銃が置かれており、他にも的なども置かれている。


「 この荷馬車は特殊な造りにしていてね。防音の他にも耐衝撃加工を施していて銃の試し撃ちが出来るようにしているんだ 」


「 今更ですけど、俺なんかが入ってもいいんですか?確実に買えるとかじゃないんですけど 」


「 いいよいいよ。銃は高いからね。ただ、君はこの町以外にも他の場所に足を運ぶ機会が多いみたいだから、気が向いた時に少しこのたちの宣伝をしてくれたら、有り難いかな? 」


その言葉に「任せて下さい」と勢いよく返す。

それを聞き大きく頷くと余程銃に対する思い入れが強いのだろう、店主は目を輝かせ続けては、店から持ってきた回転式拳銃リボルバーについて熱演を始めた。


「 今までの拳銃は銃口から装薬と弾丸を込める必要があったけど、これにはそんな面倒が工程が必要ないんだ 」


店主は棚から手に取った箱を開けると、そこから鉄で作られた子供の指ほどであろう長さをしたナニカを取り出し、それを展開した先程目についた円状の部品へと嵌め込んでゆく。


「 これがこの銃に使用する新しい弾丸でね。この回転式拳銃リボルバーは他のモノとは違い銃身内部に螺旋溝ライフリングが彫られている事で、弾丸に回転を加えてその命中精度を上げる事に成功しているのさ 」


弾を全て込め終わると、店主はそれを的へと構える。そしてなんの迷いもなくその引き金を弾いた。


それによって瞬時に発生する、耳を劈く轟音と鼻につく硝煙。


突然のことだった為に、咄嗟に両手で耳を塞ぐがそれが遅れた為にキーンという不快な耳鳴りが脳裏に響く。

これは流石に文句の一つでも言おうかと思ったが、それを行うよりも先に続け様に巻き起こるは4つの銃声。


耳を押さえつつも、俺はその驚愕の光景に口をあんぐりと開け呆然としてしまう。


これまでの造りであるならまずありえないその連撃。目の前の銃はまさに今まで難点であった次弾の再装填リロードに時間がかかる、という問題を見事に解決してみせたのである。


更に驚く事に視線を奥へと向けると、放たれた弾丸は確かに五つの跡を残しながら的を射抜いているのだが、その誤差が殆どないのだ。


狙撃銃ライフルなどの銃身バレル内側には遠距離での命中精度を上げる為、念密な螺旋溝ライフリングが彫られているのだが、携行用である拳銃には手間コスト面や、そもそもサイズ的に加工を施す事事態が難しいという理由で、従来ならその行程は実施されていなかった。


結果、携行する拳銃が発揮する命中精度はかなり劣悪なものとなってしまい、3発撃てば一回は明後日の方向に弾丸が飛んでいってしまうという構造的欠陥は大きな問題とされていた。


遥か昔から愛用され続けている完成された武器である弓などとは違い、銃という産まれて間もない未熟児といっても過言ないモノであるが故の難題、壁。

しかしこの回転式拳銃リボルバーが持つ潜在能力ポテンシャルは、その問題を見事に打ち壊し新たなる一歩を踏み締めた形と言えるだろう。


「 中央都市ルドアガスの工房の方では、これと同じくらいの精度を保ちつつ装弾数を増やし、連射速度を向上させた試作型の拳銃もあるんだけど、あれはまだ発砲後に空となった薬莢を自動排出する機構が不安定でね。たまに弾が詰まってしまう問題があるんだが、この回転式拳銃リボルバーにはそれがない。だから僕としてもこれは新作の品としては中々にオススメなのさ 」


店主は満足といった笑顔で円状の部品を展開し、役目を終えた薬莢を取り出し終わるとその新作品をこちらへと差し出してくれる。

この回転式拳銃リボルバーの性能を実際にこの目で見た後だと先ほど触った時よりも、その好奇心は更に高まり俺は色んな角度から受け取った銃を凝視してみた。


それを目に店主は「うんうん」と満足気に首を縦に振っている。


「 今度中央都市ルドアガスに来る事があったら是非ウチの工房によっておくれよ。つい先日出来上がったばかりの金貨800枚の価値がある最高傑作を君に見せてあげよう 」


「 金貨800枚の銃ッ!!?い、いいんですか!!? 」


「 あぁ、ウチの銃に興味を持ってくれたカイル君なら、大歓迎さッ 」


とんでもない約束をさせてもらった。直ぐにでも中央都市ルドアガスに向かいたい所だが、流石にウィルキーからだと移動費だけでもかなり掛かってしまう……丁度いい依頼でも来ないものだろうか……


その後店主は回転式拳銃リボルバーの試し撃ちを提案してくれるが、流石にそれは遠慮した。何故ならその快感を覚えてしまったら、後戻り出来なくなりそうだったからだ。


俺は恐る恐る、最も聞かなければならない質問を口にする。


「 ちなみに……この回転式拳銃リボルバーって、お幾らになるんでしょうか? 」


店主は満面の笑みで指を三つ立てる。


金貨30枚ッ!!?それなら……ッ


「 お値段なんと、金貨300枚 」

「 ぐふぇあッッ!!!? 」


まぁ……そうですよね。

俺は泣く泣く店主に回転式拳銃リボルバーを返す。


以前、この出張店がウィルキーに来てくれた時は持ち合わせがなく購入には至らなかったが、今回は年超えで余った資金があるから買えると思っていたのだが……とほほ


従来のモノを手にするのであれば金に余裕はあるが、あの素晴らしい最新の性能を前に今更旧式の銃を買う気にはならない。


持ち帰って一度自分の手で分解、機構の解析をしてみたかったのだが……残念だ。


「 まぁ、君がこのたちを買えるくらいに有名な冒険者になれる事を祈っているよ。ハハハ 」

「 はい、ありがとうございます 」


そしてとぼとぼと荷車を出ようとするのだが、何かを思い出したかのような「そうだ」という声が背にかけられ足を止めて振り返る。


「 騎士団や自警団にはもう通報済みらしいのだが、実は知り合いの火砲鍛治士ガンスミスがこの近くで野盗に襲われたらしくてね。手元にあった通貨全てと商品をのせた荷車ごと奪われたと嘆いていたよ。まぁ、命まで取られなかったのは幸いだったが…… 」


そんな情報は初耳であった。となると、近くといってもウィルキー周辺というよりはこの一帯のどこかで起こったという事だろう。


「 荷車には何が乗ってたんですか? 」


「 装薬に弾丸。それから拳銃が20丁はあったそうだ。まぁ、全て旧式のだから最悪の損失って程ではなかったらしいが……まさか今の時代にそんな輩が出てくるとはねぇぇ。君も依頼クエスト等で他の町に行くなら十分に気を付けるんだよ 」


その忠告に「気を付けます」と返し、今度こそ荷車を後にしルイスの元へ向かう。


( 野盗か、もしかしたら捕縛依頼でもくるかもな。いや、一昔前ならともかく、騎士団が機能している今では俺たちの出る幕はないか…… )


などと考えていると、店から少し離れた所で俺がプレゼントした【未来に咲く安らぎラブロメロン】を首に下げ、それをまじまじと見つめている幼馴染の姿が目についた。


「 おぉぉ、似合ってるじゃんか 」


まるで初めから着けていたのではないかと思える程に違和感がなく、元よりの美麗を更に引き立てているそのネックレスを首に下げたルイスは、お世辞抜きで、俺が知るどの女性よりもとても輝いているかのように見えた。


「 えへへ、ありがとう 」


プレゼントが余程嬉しかったか、こっちまで笑いたくなる程に無邪気な表情で赤面する幼馴染に……少し心がドキッとしてしまう。ま、まぁ俺も男だし?異性の仕草に緊張する事もあるさ……うん。


ぎこちない雰囲気にしないよう、何かたわいもない会話を口にしようと努めるが、緊張からか中々上手くいかない。

しかし、次の瞬間。そんな俺に助け舟を出すかのように一帯に鐘の音が響き渡る。


朝市の終わりを示す合図の鐘だ。


この催しは太陽が上がる少し前からその日の正午までと開催の際に時間が決められており、それからは広場の清掃や商人たちの解散などが手早く行われる。


「 ……終わっちゃったわね 」

「 そ、そうだな。それじゃあ俺達も帰るか 」


周囲の店々が撤退作業を開始し始めるのを目に、踵を返し孤児院への帰路につこうとするが、そんな俺たちの背へ不意に見知った声がかけられた。


「 探したよ。カイル君 」


振り返るとそこには数人の団員を引き連れた団長こと、イヴリンさんが目につく。

何故か満面の笑みを浮かべている今の彼女にどこか不気味さのようなものが感じられるのは気のせいだろうか……


「 イヴリンさん?探したって……なん 」


瞬間、口から出す言葉の並びを言い終わるよりも先に俺の目は確かにそれを捉えた。

騎士団団長が隠すように後ろへ回している片手に、確かに握られている緑色の封筒。

通常のものとは違う特殊な便り、それがなんなのかなどの見当は直ぐにつく。そもそも緑色を扱う封の送り元など一つしか無いのだ。


しかし……俺を、!!?

そんな……嘘、だろ??


絶望が心を埋め尽くす。気がつくと身体は勝手に後退りを開始している、そして……


「 いぃぃぃッッやァァァァァァ!!!! 」


俺は周りの目など気にもせず、喉が裂けんばかりの絶叫を天へと吠えるのであった……ーーー

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