023:朝市での散財?
この世界の一年は大陸によって様々ではあるが、基本的にそれぞれ30日で構成させる
ウィルキーを含む数多くの町や都市がある【カイドライン大陸】であるのなら、ここには……
【花の季節】
【熱の季節】
【雪の季節】
の三つがあり、それぞれに愛称や他の呼び名はあるものの、季節によって自然はその顔色を緩やかに変える。
そして今日は【雪の
今年は幸いな事に去年ほど粉雪が降ることもなく、建物の屋根などには多く積もるものの、道に載るそれら冷たい白粉はせいぜい靴が軽く沈む程度であった。
この季節は気温が極端に下がる為に森は深い眠りにつき、青空の下で農作物を育てる事は叶わない。山から延びる川を泳ぐ魚なども立派な食糧ではあるが、町に住む者達の空腹を満たす為だけに乱獲しようものなら、本来生命溢れるハズのその美しい流水は立ち所に枯れ尽き、取り返しの付かない悲劇を生んでしまう事になるだろう。
そんな自然の脅威を強制させられる季節であるにも関わらず、大陸に住む人々が温順に毎日を過ごす事が出来ているのは、ひとえに500年もの歴史が連綿と続いている町【エンデル】があるからだ。
そこは遥か昔【
季節に左右されず一年を通して豊作が約束されているこの山里による食糧生産がなければ、雪は死を誘いカイドライン大陸全土に自然の猛威からくる様々な悲劇を巻き起こしていた事だろう。
普段は各町の商会が馬車を出し直接エンデルに赴いては売買を行う。そして持ち帰った食品をそれぞれの店で販売するといった形なのだが、ウィルキーではこの季節、8日に一度のペースで朝市というものが開かれている。
これはエンデルの商人達がこちらへと足を運び、町による許可の元商会を通さずして公開販売を行うといった
商会を通さないという特徴状、通常よりも安い価格で食品を買い取れる他、店では置けないような珍しいものなども合わせて販売されることもある為、この朝市には多くの住民たちが足を運んでは目を輝かせ商品を吟味しているのであった。
そんな騒がしさに包まれながらも、俺たちは店で買ったばかりのヨンギーと名付けられる、蜂蜜が内包された一口サイズのパンをカリッと揚げては三つずつ串に刺さされて販売されていたウィルキーでは見られない珍しい菓子を手に周遊していた。
全くもって不服だが、俺の捏造性癖を叫ぼうとするルイスを買収するためにわざわざこの菓子の値段である銀貨1.2枚を支払わされる事になったのだ。
一体俺が何をしたっていうんだ?
理不尽にため息を溢しながらも、串から一つを食べ取る。
するとそれを口に入れた途端、作りたてという事もあり優しい暖かさ、そして植物油の香ばしい風味が心を満たす。
噛み締めるとサクッという心地よい食感に音色が楽しく、内包されていた蜂蜜の
幸福が心を満たし、もうずっとこれを噛み締めていたいとさえ思うが、寂しい事に口内で開かれていた演奏会もすぐにお開きとなる。しかし、別れを惜しみつつも咀嚼していたそれらを呑み込むと彼らは最後まで俺を喜ばそうと素晴らしい旨味を心に届けてくれるのである。
串一本で銅貨6枚。うむ、それに見合ったとてつもなく美味い菓子だ。
視線をスライドさせると、どうやらルイスも俺同様に大満足であったようで、菓子を口にしながら、まるで無邪気な子供のように満面の笑顔を浮かべている。
隣にいるこっちまで心和やかになるようなそんな表情を見れたなら……まぁ、奢った価値があったってもんか……
串から更にまた一つを口に運び「うめぇぇ」と感動を溢しつつも市の様子を視察する。
親に菓子をねだる子供達や、店主との交渉でひたすら値切りに励む大人達。
町の住民全てが来ているのではないかと思える程の人の群が一帯に詰め込まれていた。
そんな中をルイスと共に進み続けると、少しして俺の名を呼ぶ声。そちらを見ると、その主は顔見知りである野菜などの販売を行う年配の男店主であった。
「 おぉ、カイル君じゃないか!!久しぶりだな 」
「 お久しぶりです。前にエンデルであったぶりですね 」
俺の対応に隣のルイスも軽くお辞儀をしている。
確かこの店主とは商会の護衛
流石は客商売のベテランといったところか。
確かこの
「 なんだい、可愛いお嬢さん連れちゃってまぁ、若いっていいねぇ 」
「 なっ!!か、カイルとはそういう仲じゃありませんッッ!!?……その、…… 」
最後になんか一言付け加えられていた気がするが、相変わらず今日のルイスは語尾の声量が小さすぎて聴こえない。气流力で強化すれば簡単に聴き取れるだろうが、そこまでする事でもないし、まぁ大事な言葉でもなさそうだしいいか
しかしそんな俺とは対照的に店主には最後の一言が理解出来たようで、なにやら「青春だねぇ」と感慨深いといった顔つきをしている。
え?気づいてないの俺だけ?
「 それはそうとカイル君。確かこれ大好物って言ってたよね 」
仕切り直しと、店主は荷物の中から小さな小箱を取り出し俺へと向けてくれる。
その箱を開けてみると、眼前に現れた珍しい果実たちに思わず歓声をあげてしまう。
「 これ、ドッキリベリーじゃないですか!!?凄い、手に入ったんですか!!? 」
「 稀にだけど、エンデルでも実ることがあるんだよ。とは言ってもすぐに売れちゃうんだが、運良くこの市の前日に見つかってね。どうだい?値は金貨3枚と張るが、ここいらでは中々お目にかかれないものだよ 」
すぐに手持ちの通貨を確認する。
下水産ではない、本物のドッキリベリー。これを買わない手はない!!
幸いな事に年超えで余った金がかなりあるので、問題なく購入出来そうなことに心は躍った。
「 買います!!ありがとうございますッ 」
「 まいどッ 」
「 あんたってホントにその果物好きね 」
果実の入った箱を受け取り、歩みを再開する。
今回の朝市は大当たりだ!!それにまだまだ朝は長い。
踊る心をそのままに周遊は続く……ーーー
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