012:拾われた生命
「 はぁ、はぁ……なんとかなった。これで一安心か 」
呼吸は相変わらず絶え絶えだが、腹部の痛みは段々と薄れてゆき、先程まで心を満たしていた焦燥は消えつつある。
今回ばっかりはもうダメかと思った、ここまでの危機は数えるほどしかないだろう。
しかし、どうにか乗り切った。もう安心のはずだ。
後は二人と合流し、得た情報を共有。総力を持って魔物がいるであろう場所に乗り込み、倒す。
それで終いだ。
赤の液体をそのままにした拳へ力を込め問題なく動く事を確認。その後先程まで激しい痛みを放っていた腹部へと手を這わせ、今だ違和感こそ僅かに残るが戦闘などを行うにおいて支障とならないかを触診。
大丈夫、これならまだ動ける。
全身の掌握を完了し、次の行動を取ろう視線を移したその刹那。消え去っていたハズの焦燥は強大な絶望。そこから発せられる恐怖を伴い破裂してもおかしくない程過剰に心を埋め尽くす。
全身から汗が噴き出ているのがわかる。抑える事のできない恐れ、動揺は止める事の出来ない震えとして表れ始める。
「 な、なんで!!こんな事ってあるかよ!!! 」
震える手で周囲の壁を勢いよく殴り付けるが、乾いた重い音が鳴るだけで絶望と対峙しているという現実は変わらない。
どうしようもないこの状況を受け入れざるを得ない事が何よりも恐ろしく、気がつくと目からは涙が零れ落ちていた。
……俺は、ここで終わりなのか?
焦燥、恐れ、動揺は虚無へと変わり、絶望だけが心を支配する。
もう少しだった、後少しで先に進む事が出来たのに!!……ここまでか…
諦めから全身に脱力がかかる。しかし……女神というものは存在しているらしい。
「 カイル君!!大丈夫!!!? 」
耳に入るメリッサさんの叫び!!
それを認識すると共に俺は喉が張り裂けんばかりの咆哮を上げた。
「 助けてくださぁぁぁぁぁぁいぃぃ!!! 」
先程まで絶望に支配されていた男の叫びが、トイレットペーパーが用意されていなかった大便用個室の中から大音量で発せられるのであった……ーーー
ーーーーーーー
「 あははははは!!!!もう、もうダメ!!笑いすぎて死んじゃうよぉぉ!!!あははは!!! 」
「 その……災難だったな。カイル君 」
同情の苦笑いを向けるイヴリンさんに、周辺で寝ているご家庭の皆様が起きてしまうのではないかと心配になる程にお腹を抱えて大爆笑を繰り返すメリッサさん。
笑えよ…もう、笑ってくれよ。
今なら最近都会の方で人気が出てきたという、リースの持っていた
「 それにしても、君大丈夫なのかい?全身、血塗れじゃない!! 」
「 あははははは!!やっばいい息吸えないよぉぉ!!あははは!! 」
「 あっ、大丈夫です。これ血じゃなくて果汁なんで 」
「 あははは!!! 」
「「 ちょっと黙ってもらっていいですかね? 」」
いつまでも笑い転げているメリッサさんを他所にイヴリンさんと話を続ける。というより、本題に入ろう。
「 この服についてるのは血とかじゃないんで、それは大丈夫なんですが……やりましたよ、魔物の場所を特定出来ました!! 」
「 なんだって!!それはお手柄だよカイル君!! 」
「 あははは!!!……カハハハ、ほ、ほんとに死んじゃう 」
もはや笑い死にそうなってる人が一人いるのだが……
とりあえずとどめをさしておこうと、盛大に「ぶっ!!」という屁を決めてみた結果、彼女は本当に笑いすぎて意識を失ってしまったのであった……ーーー
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