013:身体を張った名推理


メリッサさんが気を失って暫く、目を覚ました彼女とイヴリンさんを連れて俺は忌まわしき罠が仕掛けられている場所。町おこしの一環として作られた、今や多くの住民にこよなく愛される自然公園【美しの庭】と名付けられたそこに来ていた。


立派かつ雄々しくも美しい木々が立ち並び、雇われの専用庭師によって管理、育成させる花壇にはどの季節でも満開の花々が咲き誇る。それらを満喫する事が出来る遊歩道も綺麗に舗装、清掃されているといった、訪れる者に際限ない癒しを与えてくれる素晴らしい場所スポット。それがこの【美しの庭】だ。最近の記憶では、孤児院の子供達を連れてピクニックなどを行ったこともある。


そんな決して汚してはならない場所。そこに今や恐ろしい脅威が仕掛け潜められている事に憤りを抑えきれない。

公園の一角、背の小さな正にこれから町の発展に合わせて立派になるであろう木々たちが並ぶそこで俺たちは足を止める。


そしてその一つ、ビー玉程の赤い果実を数多く実らせる罠を鋭く睨みつけた。対して、イヴリンさんは訝しそうな視線をそれへと向けている。


「 これが君の言っていた『ドッキリベリー』の木だね?……つまり君は私たちと別れて索敵をしていた最中、この果実の甘い匂いに気づき、特定。そして空腹を我慢できず果実を食べまくりお腹を壊した、という事で間違いないかな? 」

「 間違いないです!!俺はこれにやられたんです!! 」


恨みの籠った言葉を吐くが、それにイヴリンさんはため息を溢す。そして「すまないが」と付け加えた後……


「 馬鹿じゃないの? 」


と普段男気の強い彼女からは想像の難しい、どストレートな罵倒による一撃をお見舞いしてくださった。騎士団の中でひっそりと結成されている『イヴリン親衛隊』とかいうファン団体のものであるなら「ありがとうございます!!」と歓喜していたであろう。

もちろんこれにメリッサさんは大爆笑である。


「 違うんです!!?一応『ドッキリベリー』自体はちゃんと食用で食べても問題ないんです!!寧ろ栄養価も高くて都会で出回った際は良い値段で取引きされてるくらいなんですよ!! 」

「 でも、君はお腹を壊したのだろう? 」

「 あははは!!ばぁぁぁかぁぁ!!! 」


大爆笑に紛れて来るとんでもない罵声に「はぁぁぁぁん!!」と食いつくも、まぁ腹を壊したことは確かだ。ここはグッと堪える。


初めてこれを食べた者が、あまりの美味しさにすぐさま仲間たちに知らせにいくが、血を思わせる果汁を衣服に溢していた為それ見た周りの者が驚き気絶したという逸話から『ドッキリベリー』と命名されたこの果物は一般流通されない、いわば冒険者たちの珍味とされている。


俺自身これを見つけたのは久しぶりで、思わず汚れなど気にせず貪り尽くしてしまった為に手や衣服は果汁により無惨なものになってしまっていた。

一応水道で洗いはしたのだが、この果実に宿る珍味は高い粘度と糖度を持つ為中々に落ちない。これは帰ったら院長に服を汚した事を謝らないといけないな……とほほ


しかし、問題は果汁などではない。

これがここにある事自体がおかしいのだ。


どうやらそれに気付いていないのであろう二人は、やれやれと呆れ、片や爆笑を続けているが、そんな彼女達に俺はたどり着いた答えを口にする。


「 これが魔物の居場所を特定するに至ったヒントなんです 」

「 ドッキリベリーが?これが一体何に繋がるというんだい? 」


メリッサさんも笑いをどうにか止め、真剣といった雰囲気を出した所で話を続ける。


「 ドッキリベリーが一般流通されていないのはご存知ですよね?それはこの果実がからなんです 」

「 ……そうか!!これは魔素が特に多く漂っている環境、つまり魔物が巣食う森などにしか生らない果実。それがここにあるという事は、この近くに魔素を放つモノがいるってことね!! 」

「 流石はメリッサさんです。もうちょっと笑うの我慢してください、話進まないんで 」

「 笑わせにきてるのはカイル君の方でしょう!! 」


そう食いかかる彼女に、またしてもトリガーである屁を「ぶっ」とこく。すると何度でも巻き起こる爆笑。


もはやメリッサさんの笑いツボは俺の手の中だ。


「 俺の勝ち、なんで負けたか、明日までに考えといて下さい 」

「 ……君はいつもこんなにふざけた感じでやってるのか? 」


拳をワナワナと震わせ、今にも殴りかかってきそうなイヴリンさんに恐怖を感じ、そろそろ真面目にやろうと心にする。

咳払いを一つ、笑い転げるメリッサさんを無視しドッキリベリーの木へと手を這わせた。


「 俺が見つけた事実は『近くにいる』なんて漠然としたものじゃないですよ。なにより『腹を壊した』事が原因なんです。まぁ、正直考えたくは……ないんですけど 」

「 すまない、私にはまださっぱりだ 」


自分が辿り着いた答えに思わず苦笑がもれる。まぁでも、腹に入ってしまったものは仕方ない。なにも出ないのは承知で「おぇぇ」とリアクションをしてみた。


「 この公園の植物達は管理人の人たちの水やりや雨などで成長しますよね?だとすればちゃんとした食用のドッキリベリーならいくら食べてもお腹を下したりしないハズなんです。なのにそうなったのなら、環境が悪いという事。具体的にいうならんです 」


そこまで口にすると短剣を一つ抜き取り、地面の中にあるであろう根へと突き刺す。そしてテコの容量で木自体を引き抜き切断、更にソレが続いていた場所の土を掘り起こす事によって、あらわになった光景を見るように促した。


初めは今だなにもわからないといった顔つきであったイヴリンさんはしかし、それを目に驚愕の後勝気のある力強い笑みを浮かべた。


「 ……成る程、下水道!!通りでメリーの索敵にも反応しないわけだ!! 」


本来なら深い土の先、レンガによって封じられているハズの下水道への壁。しかしそれは大きく穴が開けられており、この木がそこを通じて身体を伸ばし下水道の水を吸い込んでいたのが容易にみてとれる。


目を凝らすと、普通なら目を向けたくない汚れで満たされているであろうハズのそこは、まるで秘密の花園のように無数の草花。そこから伸びる蔦で満たされており、それは一目でである事が分かる。


この先に魔物はいる。確実だ……


「 下水道に入る事が出来る場所なら私が案内する、急ごう!! 」

「 ほらっ、メリッサさん。行きますよ 」

「 ちょっと、あははは!!待って、あはははは!! 」


この人はまだ笑ってるのか……

俺たちはこの問題に終止符を打つ為、走り始めるのであった……ーーー



ーーーーー



薄らと陽は上がりつつある。

もうそんなに時間が経ったのか、緊張がなければぐっすり眠れるであろうが、その為にもここからが本番。


イヴリンさんの案内の元辿り着いた下水道への入り口。躊躇いなく突入すると、そこではその名に似合わない幻想的でありまた、歪な光景が作り出されていた。


本来なら光源を用いなければ何も見えないであろう暗闇は、生えた月光草と呼ばれる闇を吸い発光する。ドッキリベリー同様に魔物の巣窟でしか成長する事が出来ない植物達によって薄く照らされている。加えて依頼クエストで危険な森に入った際よく見る類の草花達は周囲の悪臭を吸い清めており、俺のような未熟な气流力りゅうりょく使いでもここなら問題なく力を発揮できるだろう環境であった。


危険度ランクゴールド。その中でも巣を作る存在は珍しく、また脅威的とされている。少なくとも無策でそこに飛び込んでゆくなど自殺行為だ。


目の前に広がる創られた世界がまさにそれを物語っている。


汚水とそこに巣食うネズミなどといった小動物だけがいた空間を、森と同様の姿に変え、環境自体を変化させる。おそらくこの場は魔物が力を発揮するのに最も適した姿をしているのであろう。罠の一つや二つあるのが当然と踏むべきだ。


そんな場に足を踏み入れてなお、傍で立つ二人は堂々と構えており、その様は頼りになると言わざるを得ない。


しかし、俺には一つ懸念点があった。


「 メリッサさん。索敵の為にずっと【魂を誘いし蠢きシュリーカー】を使ってましたよね?もう魔力殆ど残ってないんじゃないですか?ここは俺たちに任せて引いてもらったほうが…… 」

「 心配ありがとうね。けど、大丈夫よ 」


そう笑顔を返すと共に彼女は片手の指を魔冠號器アゲートであるネックレスへと付ける。すると始まる眩い閃光。

それを発していたのはその手に付けられていた一つの指輪であった。紫色しんしょくの石が込められた装身具アクセサリー

成る程、それも魔冠號器クラウン•アゲートの一つであったのだと理解する。彼女は初めから二つの絶対兵器を身につけていたのだ。


「 指輪型の【魔冠號器クラウン•アゲート底なしの洞窟グローツラング】。保有する大量の魔力を譲渡する力を持つわ。まぁ、他にもメインの能力もあるけど、それはまた今度ね 」


指輪から放たれる閃光は【魂を誘いし蠢きシュリーカー】が持つ翠色りょくしょくの魔石へと吸い込まれ、その輝きをさらに際立たせる。そうして数秒、彼女はそれから手を離し、綺麗な笑顔と共にサムズアップを向けてくる。


補充が完了し、準備万端という事だろう。

そういうことなら……


「 それじゃあ、気合い入れて行きますか!! 」


己に喝を入れ直し、脅威に向けて足を踏み出すのであった……ーーー

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