006:かみを統べる者

500年前の話。


それが確かなのかは分からない。しかし残された手記によると各種族が【神となる権利】を巡り、血で血を洗う惨憺さんたんたる戦いがあった。

それは何年も続き、屍の山がそらをつき、そこから溢れる流血の河は大地をけがす。世界は呪いで満ちていたという。


誰もが神への昇華を目指し、力を行使した。


世界で初めての【魔物】が生まれたのも、この頃だという。

それを生み出したのは大地との絆を持ち、生命の誕生すら掌握していたという、古代【エルフ族】であった。


彼らは長寿であるが故にその個体数は決して多くなく、生命を操る魔を持ってしても多種族との戦力差を埋めるには至らなかった。故に生み出したのだ。


自らの駒となり優れた繁殖能力を有する凶悪な生命体、魔を用いて生まれたモノ、後の世代に【魔物】と呼ばれるその存在を……


しかし、それらは戦いに決着がつき、人の型を持つ全てのモノたちから【魔力】が失われた事でその楔から解き放たれた。


独自の進化を遂げ繁殖を繰り返す、全ての存在にとっての脅威となったのだ。


【魔力】を失い人に総括された人類はあまりにも無力であり、戦いが終わりそこからまた数10年。

暴虐の為に生み出したその魔物たちは、自らの主人であったソレらで嬉々として屍の山を作り続けた。


そんな魔物たちに対抗する為に人類は再び【魔力】を求める。そうして生み出されたのが、人が"神に最も近づける武器手段"。【魔冠號器クラウン・アゲート】である。


それが今この手に握られている。


展開された巻物状の書類。そこに記載された三つの武器。

これこそが俺たちの"奥の手"であった。


「 お前ら、準備はいいか? 」


仲間たちはそれぞれに喝を入れ直し覚悟を決める。対して俺は……あまり乗り気ではない。


「 ……ホントにやる?ちょっと、ちょっと待ってくれない? 」

「 おまっ、カイル!!いい加減慣れろって、解放するのにちょっとお前の血使うだけじゃん!! 」

「 いや、敵に傷付けられるならいいんだよ?けど、自分で血出すってなんか嫌じゃん!!怖いし!! 」


国によって厳格に管理され、認められた【有資格者】にしか携帯を許可されていない【魔冠號器クラウン・アゲート】という絶対兵器。

その力を封じたこの書類を解放する為には【資格者】の血を持って許可を施す必要がある。

しかし、自ら手の平を切りつけ少量でいいとはいえ流血するのには毎回抵抗がある。


痛いのは嫌いだからだ。誰だってそうだろう?


陽の国の【有資格者】たちは片手の親指、その一部を歯で噛み流血させ許可を施していると聞いた事ある。


それを思い出す度に思う……嘘だろ?痛すぎないかそれ!?


そうこうしているうちに痺れを切らしたのか、リースは先程納刀したばかりの俺の短剣を抜き取ると、強引に手を取りその先端を向けてくる。


止めろ馬鹿、怖いだろ!!


全力で抵抗した。


「 ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから!!先っちょだけ!!先っちょだけでいいの!!! 」

「 いやァァァァ!!やめて、やめてぇぇぇぇ!! 」


何度でも言おう、痛いのは嫌なんだ。


「 はいはい、痛くない。痛くないからね〜 」


そう言葉を吐く笑顔のルイス。だがその瞬間「サクッ」という音と刺激。気がつくと彼女が手にする矢の先端が手の平に突き刺さっていた。


「 いてぇぇぇよぉぉぉぉ!!!あぁぁんまりだぁぁぁ!! 」

「 いいからさっさと解放しなさい、馬鹿たれ!! 」


女の人怖い。

いや、めっちゃ血出てるよ。ちょっとでいいのに!!


そんな躊躇いだらけの心であるが、眼前の魔物から放たれる咆哮によってそれは正される。

深く深呼吸。思考を切り替え許可を施す。


リースから短剣を奪い返しつつ、流血を紙に落とした。


「 【資格者】カイル•ダルチの名を持って、ここに力を行使する。 」


言葉、そして血に呼応し書類に記載された三つの武器、その絵柄がそれぞれに光を放ち始める。

その一つ、双のガントレットへ手を這わせ、その煌めきを手中にした。


「 いくぞ、リース!! 」

「 よっしゃ、来い!!! 」


合図と共にをリースの両腕に装備された、書類に記載される絵柄と同じ姿をした武器へと手に宿したその力を放つ。


瞬間、音もなく飛翔するその輝きは辿り着いた元となる姿、その美しい黄橙おうとう色の魔石へと浸透すると、思わず目を細めてしまう程の光を放った。

しかし、悠長に準備することを魔物は許しはしない。突進の如く距離を詰めたソレは再びリースへとその禍々しい妖光を放つ爪拳を振り下ろす。


「 カイル•ダルチの名を持って【魔冠號器アゲート双頭の神喰らいオルトロス】の行使を許可する 」


言葉を残しルイスと共にその場から離れる。


そして降りかかる、大木をいとも容易く薙ぎ倒すその強力な一撃。先程人体を軽く吹き飛ばす程の脅威を露わにしたそれはしかし、眩い光を放つガントレットが付けられた片腕一本で受け止められる。


よほどの威力であったのであろう、衝撃の余波が周囲の木々を揺らし、地面の草地を吹き飛ばす。しかし、それを受けてなお意地の悪い笑みを浮かべるリースの全身はピクリとも動かない。驚愕を浮かべ更に力を込める魔物であるが、それでもなお微動だにしていないのだ。


「 いくぜ熊野郎、とりあえずさっきのお返しだ!! 」


リースは雄叫びと共に硬く握られた拳を、鉄製の棍棒ですら効果を表さなかった最硬の装甲へと全力で解き放つ。

そんな一撃など容易に耐えられると踏んだのだろう、すかさず追撃の爪拳を振りかざす魔物。


そして衝撃インパクトの瞬間。


周囲一帯を激震させ、耐える姿勢を取らなければ立っている事さえ難しい程の風圧が生まれると共に遥か遠方へ吹き飛ばされたのは、超重量の巨体を持ちあらゆる打撃を無効とするハズの魔物であった。


轟音をたて、いくつもの大木を折りつつも、どうにか停止のかかったそれが持つ装甲には拳状の跡が残っており、内臓にダメージを与えられたのか、はたまた口内を切っただけなのか詳細は不明だが、その口からは多量の吐血が溢れている。


一つ言える事は、確実にダメージを与えられたという事だ。


「 よっしゃぁぁ!!ざまぁみやがれ!! 」


歓喜の叫びを上げながら意味もなく両腕を振り回すリースを横目に更なる解放に移る。

次に手を這わせたのはバングルの形状を持つ【魔冠號器アゲート】。その煌めきをルイスへと放つ。


そうしてリースの時と同様に彼女が身に付けるその絶対兵器。そこにはめ込まれたりょく色の魔石が息吹を取り戻し、鼓動を始める。


「 カイル•ダルチの名を持って【魔冠號器アゲート創造者の腕アゾットメイク】の行使を許可する 」


怒りを露わに、体勢を立て直した魔物の強襲を矢面に立つリースは一人で捌いて見せる。

音を立て空気の壁を裂きながら振り下ろされる、ただの人であれば一撃で絶命に至るであろう爪拳を拳で叩き伏せ、隙の出来た装甲ボディーにその脅威を更に上回る威力を持つ殴打を何度も打ち込む。

その様は【魔冠號器アゲート】を身につけた事により、一見では優勢に立ち回れているようにも見えるが標的には高い治癒能力がある。

確かにリースの戦闘力は何10倍にも飛躍した。しかし、それでも足りないのだ。

決定打となる一撃にはまだ足りない!!


創造クリエイション】 


リースが魔物の足止めをし時間を稼いでいる間に、装備を身に付けた片腕を前方に突き出し、ルイスは起動言語キーを口にする。

それにより魔石は活性化。輝きと共に内部より高純度の魔力を放出、物質の形成を始めた。


500年前、人類は魔力を失った。しかしそれは、【世界】からその力が無くなったという訳ではなかったのだ。

それに気付いた者たちは必死に考えだした。大気に漂う視えないこの力を以下に駆使するか。

そうして辿り着いたのが、周囲を取り囲むソレを超高圧縮する事により生み出される魔石を用いる事で実現する、失われた魔力を再び行使する術。


リースの所持する【魔冠號器アゲート双頭の神喰らいオルトロス】。これは【巨人ギガント族】が用いる事で真の力を発揮するものであり、装着者に魔力を用いた身体強化。特に腕力を限定的に上昇させる事でその力を何10倍にも飛躍させる能力を持つ。

装着者の拳には常に魔力が展開されている為、周囲の風に干渉し新たなる技を生み出す事も可能であり、使い手次第で底の見えない計り知れない武器だ。


リースが拳を振るい魔物の殻に衝撃を与える度に周囲には激震の波動が巡り続け、その一撃は標的の巨体を後退させる程に強力だが、それも魔石に込められた魔力が尽きてしまえば失われてしまう。

それを理解しているからこその策だ。


時間にして20秒といったくらいか、ルイスの手には魔力により再現、形成された彼女が思う【最強の弓】。

続いて、それを構えながら更なる【創造クリエイション】により矢の具現化を開始する。


「 この手に宿るはマナより汲みし生命の波、思い願うは最強の力。混ざり溶けその姿を表せ!黄金へと至ーー 」


あっ、ヤバい。いつものだ。


「 馬鹿野郎!!さっさとその矢、放て!! 」


改めて実感する。こいつはバカだ。

俺はこの力を使う為に国より【資格】を得ている。故に確実に言おう、この武器に詠唱などいらない。


何度もこいつには教えている。

!!!


「 ちょっと待ちなさいよ!!詠唱を入れた方がカッコい……威力が向上するの!!絶対強くなるの!!! 」

「 お前今カッコいいって言おうとしたよな!!絶対言いかけたよな!!良いから出来てんならさっさと、放て!! 」


そんな俺の叱責に口を尖らせ文句をぶつぶつ唱えながらも完成した矢。

そして弓を通じルイスの手から放たれたソレは、まるでその姿を消失させたかのように一瞬にして見えなくなると魔物の咆哮と共にその殻にリースの強力な一撃でさえ叶わなかった確かな空洞を作り出した。


再び驚愕の咆哮を上げる魔物、それを目に野郎二人して「よしっ」とガッツポーズをとってしまう。


行けるッそのまま押し切れる!!


ルイスに渡した【魔冠號器アゲート創造者の腕アゾットメイク】。これは魔石から湧き出る魔力を用いて装着者の思い浮かべる物質を再現、形成する能力を持つ。

使用者の構築イメージが的確なほど再現されるものは強力になり、やろうと思えば伝説上の武具なども創造出来るといった代物だ。

ルイスが再現した弓と矢は彼女が古くから好む伝記で登場する、古代【エルフ族】で最強の名を冠した戦士。それが用いたという、放つ矢全てに神速を付加し、ありとあらゆるものを貫いたと言われる、名のない最強の武器であった。


故に最硬を誇る殻であろうとその一撃を止める事は出来なかった。唯一その背まで貫くことが出来なかったのは彼女の構築イメージがまだ未熟であったからだろう。


しかし、穴が開かれればそれで十分だ。


「 ね!!見たでしょ!!!詠唱入れたからあの威力なの!! 」


この馬鹿は……


「 はぁ?バカ言ってんじゃないよ。元々そういう威力なんです〜性能なんです〜!! 」

「 も"う"や"め"ま"しょ"う"よぉぉぉぉ!!! 」


いつになく噛み付いてくるルイスだが、そろそろリースもヤバいらしい。

必死の懇願に「全く」と愚痴りながらも、彼女は続け様に再現した三つの矢を手に、放つ。

そうして飛翔する、神速を纏うその防ぐことの出来ない猛攻は初撃で穿った空洞を中心に三角形の支点を描くように更なる穴を創り出す。


これが【魔冠號器クラウン・アゲート】を用いた戦闘。その力の源、魔力を神が奪ったのはこの為だという。


圧倒的な力を作り出す魔力。それは正しく扱えば世界を良い方向へと導くのかもしれない。しかし、悪しきモノがそれを使役すれば、未曾有の破滅は間を置かずして訪れる。


なら、そんなものなど無い方がいいと、新たに君臨した神は願った。そして今の世界がある。


「 後は任せたわよ、二人とも 」


そのルイスの言葉を待っていたとばかりに一帯に影響を及ぼす、何かに引き寄せられるような強力な引力。その力を生み出しているのはリースが手にする【魔冠號器アゲート】であった。


それは周辺に漂う視えない力。魔力を急速に取り込んでいることによる反応。その強力な一撃を【神をも穿つ神撃】へ昇華する為の手段。


肉体にかかる衝動に歯を噛み締め耐えるリース。魔石を用いる事でその力を使用出来るようになったとはいえ、肉体自体は魔力を激しく拒絶しているのだ。

それにより発するダメージは人体を蝕むが、故に辿り着ける境地。その力を宿す拳はもはや直視出来ない程の輝きを放っていた。


「 うおぉぉぉぉ!!行くぜこの野郎!!! 」


痛みによる激動を雄叫びに乗せ、まるで魔物の咆哮と張り合うような叫びを上げると、リースは跳躍による高速を纏いその拳に全力を込め、三角形の支点の如く穴の空いた殻。その中心に【神へと届きうる】猛威を解き放った。


最硬と最強による衝突。


幾度となく巻き起こり続ける激震の波動にいよいよ耐えられなくなった木々はその風圧により抉れ飛び、一帯を完全な空き地へも変えてしまう。


そしてその襲い来る暴風が止むと同時に耳へ届くのは「パキッ」という心地の良い音色。視線を向けるとその最硬にヒビが入り、力強い笑みを浮かべるリースがその突き刺さった拳を抜き取ると同時にそこは三角状に砕け散る。


それにより上げられるのは、今までの驚愕によるものではない恐怖の籠った咆哮。


リースの一撃だけでは最硬は砕けない、しかしそれに綻びがあればどうだ?空けられた空洞。その周囲は既に本来の硬度を失っていたのだ。結果一部とはいえ、その装甲は人類の力によって砕かれる。


「 後は任せたぜ、カイル 」


魔物から離れた後、全ての力を出し切った事により脱力。その身を地面へと沈めるリースへ「任された」と返す。


書類から取り出す最後の煌めきをその手に短剣を構える。

この戦闘で幾つもの刃こぼれを起こし、ボロボロとなったそれの柄を輝きをそのままに両手で力強く握り締め、深呼吸。


これで終わりだ。決着をつける!!


終結の覚悟を心に魔物へと一直線に駆け出す。


対してそれは、眼前の人類が自らを屠るに足る存在であると認識した為か、闇雲に暴れ回るがその猛攻を掻い潜り距離をひたすらに詰める。


通常であれば、この戦況は未だ佳境であり決着は遥か彼方。どちらが勝利を手にするか定かでは無い事だろう。


最硬を砕く事に成功したとはいえ、それは僅か一部だ。加えて何度も出来る訳ではなく、既にリースはその力を使い切りもう戦線に戻れる事は出来ない。

そんな俺たちに比べ魔物には未だ脅威的な自己治癒能力がある。唯一救いなのは、装甲にその能力は付加されていないという所だろう。


しかし、それだけだ。


ルイスの穿った殻の奥、そこから溢れていた血肉は既に塞がっている。それを考慮するに、寧ろ長期戦になれば敗北を迎えるのは俺たちのほうだろう。


けど、そうはならない。

俺の持つ【魔冠號器クラウン・アゲート】がそうはさせない。ここで、確実に終わるんだ。


リースのような高速かつ、距離のある跳躍は出来ない。故に十分な距離まで接近。そこに辿り着くと同時に足に力を溜め瞬発した。


「 おりゃぁぁぁぁ!!! 」


雄叫びと共に力強く握りしめた短剣を突き出し、装甲の砕けた箇所。露わとなったその肉に深々と刀身を沈ませてゆく。


柄を通じ、刃が肉を裂く感触が伝わってくる。しかし、それは途中で堅い地面に突き立てたスコップのように重く、動かなくなる。脅威的な治癒力が裂かれた肉をすぐさま再生する事によりその刀身を完全に捕らえたのだ。


だから、どうした!!


「 カイル•ダルチの名を持って、ここに【魔冠號器アゲート終焉の刻ラグナロク】を行使する 」


血を思わせる紅き煌めきを宿す手を空へと掲げる。俺が手にする【魔冠號器アゲート】。それは短剣などではなく、それを握る手。そこにつけられた手甲グローブ型の絶対兵器であった。


終焉の呼び声インジェクション


終結の咆哮を叫び、手にする光を短剣の柄へと押し込める。

それにより煌めきは柄、刀身、そして魔物の内部へと高速で浸透。二人の【魔冠號器アゲート】が見せた眩い輝きなどはない。ただ後にあるのは沈黙のみ。


終焉とは無。


誰も、何も話さない。耳が捉えるのは風の吹く細やかな音。

役目を終えた短剣から手を離し、硬直した魔物を背にその場を後にする。


「 ……そいつはくれてやるよ。せめてもの手向けだ 」


動かないソレは応えない。何故ならその生命は既にこの世にはないからだ。

瞬間、まるで初めから魂など宿っていなかったかのように、糸の切れた操り人形の如くズシンという轟音を発しその巨大は地面に沈んでゆく。


決着は一瞬にして確実。

内に溜まった熱い息を大きく吐き出し、ようやっと身体に脱力を巡らせる……終わったんだ。


決別を奪い取った力を宿すそれが創られたのは遥か昔、まだ【有資格者】という概念もなくそれら全てが管理さえされていなかった頃。

最も凶悪であり、その危険性から一度は封印されたという禁じられたという逸話を持つ恐ろしいモノ。それが俺の持つ【魔冠號器アゲート終焉の刻ラグナロク】である。


人間族ヒューマン】以外が使用すれば、その者は猶予さえ与えられず生涯を終える事となるのが確定しているこの絶対兵器。

それが宿す能力。それは500年前に失われたこの世界において最古にして最凶と言われる『神すらも殺す毒』。

神殺しの血ゴルゴーン•ブラッド】を魔力によって再現する、あらゆるモノを『殺す』事に特化した凶器武器であった。


神が奪い、封じた力。その意思を真っ向から否定し、殺しの力を再現した魔力が生み出した呪われし汚物。

しかし、生きる為なら俺はそれを躊躇いなく振るおう。いつか払うかもしれないツケの覚悟など等に出来ている。


「 おっっつかれ〜〜い!!! 」


歓喜の叫びと共に飛びかかってくるリースの顔面に「うぇぇい」と言いながら軽いカウンターを決める。


「 うげぇ。え?なんで!!?なんで俺殴られたの? 」


安心しろ、なんとなくだ。

とりあえず俺たちは生きてる。今はそれだけを実感していればいいだろう。


再び集まった3人。皆疲労からその呼吸は乱れているが、心は圧倒的な達成感で満たされていた。

脅威は去った。それを理解した【ワンガルド】達はルイスの元に集まり感謝を述べているのか様々な声色の咆哮を吠えている。


「 カイル。私はちょっとこの森で色々やらないといけないから、先に帰ってて 」


片手をひらひらと振り「了解」と短く呟く。後は事後処理だ。

事後……処理?あっ……


忘れていた災厄。それを脳裏に浮かべると共に深い絶望は俺を支配し、その心を堕としてゆく。


「 リース、君。この魔物の死体は町の研究所まで運んでくれるかい? 」

「 は!?この重いのを町まで俺一人で運べってか!!? 」

「 帰る途中で騎士団のみんなにも協力頼んどくから。よろしく……頼んだよ〜 」


肩に手を置き、今出せる最大の笑顔を向けた。すると、今まで見た事がないほどに引き攣った顔つきをするリース。そんな彼は「わ、わかりました」と了承を口にしてくれた。


それを目に、スキップで帰路に着く。


書類だ、書類の山が"僕"を待ってる。昨日残したのが約50枚。今回増えた枚数は【魔冠號器クラウン・アゲート】を持ち出した事で30枚。それを行使した事で更に、なんと更に30枚!!WA〜Oなんと合計100枚超えちゃったぜ!!


最高記録突破だ!!暫く寝れないぞ〜俺死ぬか〜〜!!


もはや笑うしか無い。

気のせいか頬が暖かい、泣いてるのかいカイル•ダルチ。


さぁ、Let's Go 社畜 LIFE !!


夕陽に顔色を変えた空は明るく"僕"を照らしてくれる。

ひたすらに笑い続けスキップスキップ、るんるんで孤児院へ向かうのであったーーー



ーーーー


後に、ディーロン•リースは語る。

無事依頼クエストを終えた一行であるが、それにより発生した必要書類の山はリーダーであるカイルの精神を激しく蝕み。それを終わらすのに彼は四日に渡り寝ずの作業に取り掛かったという。

そうしてようやっと全てを終え床につくカイルだが、なんと彼は目を開けたまま狂った笑みを浮かべ寝ていた。

時折り「おれは、おれは『紙を統べるもの』カイル•ダルチだ!!全てを書類は俺がハンコ押してやる!!」


という寝言を叫ぶその友人は見るに耐えなかったいう。


ディーロン•リースはそんな彼を静かに休ませてやった……

ついでに取られてたエロ本禁書もちゃっかり回収したのであったーーー



第一章 『 かみを統べる者 』  完 


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