最下層の悲劇

 学校という形態も大きくかわる。現存の学校は一斉閉鎖。かわりに魔導界が設立した学校に全員が通うことになる。私立も公立もなく、偏差値のようなものもなくなり、それぞれが自分の住んでいる地区の学校に通う。だから、同じ学校に、金持ちも貧乏人もごちゃまぜになって通うのだ。貴族も平民も奴隷も、全員ひとつの教室に集まる。だから、ABCの全ランク者が一つの教室に混在することになる。

 


 新世界憲法施行から三ヶ月が経過した。施行直後は、反発する者がたくさんいて、出動した魔導ポリスの姿を街のいたるところで見かけたが、この頃はめっきり見なくなった。いきのいい者はことごとく刑務所に転送されたのと、その光景を目の当たりにするうちに、反抗しないほうが身の為だとみな学習したのとで、妙な静けさが街を支配するようになった。

 新憲法施行後から、街にはあることが立て続けに起きていた。これは、いびつな刑罰のシステムが引き起こしていたものだった。

 ある日の夜、あるCランクの女がひとけのない路地を歩いていた。もちろん青ずくめだ。

 Cには労働が義務付けられている。彼女は、新憲法のもとに設立された新政府によって決定された職場でヘトヘトになるまで働いた帰りだった。

 歩いていると、一層ひとけのない公園の前に差し掛かった。すると、真っ暗な公園の中から、数人の、見るからに品のない男がそろそろと出てきて、女をとり囲んだ。

「おい、ちょっと来いよ」 

 一人の男が女の手をつかんで、公園の暗がりに引っ張りこんだ。女は、声を上げようとしたが、ハッとした様子で手で口を塞いだ。相手は、普通の服を着ている。ということはBランク以上。今声を出せば違憲発声になる。彼女にはそれがわかっていたから、声を出すわけにはいかなかった。力で対抗しようとしたが、かなうはずもなく、あっけなく暗がりに押し倒されて、地べたに押さえつけられた。

 男たちは、女のマスクと頭を覆っていた青いフードを引き剥がした。ノーメイクの女の素顔がさらけ出された。Cのマネーキャパシティーではメイク道具など手が届かない。Cはみなすっぴんだ。

「おぉ、美人じゃんか」

「やめてっ」 

 女はとっさに声を上げてしまった。男たちが何を企んでいるのかは一目瞭然だ。おそろしくて、本能的に発声してしまった。

「あーあ。だめじゃんか。今のは違憲発言だぜ。しかも、Aランクの俺たちの前でマスクとフードを取っちゃったから、もう刑務所行きだ。魔法のリボンでぐるぐる巻きだ」

 男たちが一斉に下衆な笑いを笑った。

「でも安心しろよ、通報したりしねぇからな。その変わり、ちょっとの間だけデリシャスタイムを堪能させてくれよ」

 女にのしかかっていた男が、ベルトを外し、ズボンのチャックを下げ始めた。抵抗しても敵わないと悟った女は、もう何も言わずに、ただ静かに涙を流し続けた。

 ズボンを脱ぎ捨てた男は、女の青装束を乱暴に脱がせた。気味の悪い鼻息を響かせながら、露わになった豊かに実った胸をねぶり始めた。

 と、その時であった。

「何をしている」

 地底から聞こえてきたかと思うような低い男の声が背後から聞こえてきた。男たちはギョッとして、一斉に後ろを振り返った。そこには、闇よりも黒い鎧をまとった魔導ポリスの兵隊が立っていた。

「やべぇ!」

 一人が飛んで逃げようとすると、もうひとりが腕を掴んで、

「待てよ!」と怒鳴って引き止めた。

 兵士は黙ってその場に直立している。

 強姦魔の一人が兵隊にたずねた。

「もしかして、おれたちはしょっぴかれるのか?」

「なぜだ? なぜお前たちが罰を受ける?」

 強姦の現場に出くわしておいて、この兵隊は一体何を言っているんだ?と、新憲法の前なら誰もが思っていたに違いない。しかし、今は違う。

「だよなぁ! ハハハハハ」

 男の一人が嬉しそうに叫んでから、連れの男たちにこんなことを説明した。

「新憲法では、Aランクの俺らがCランクのこいつを乱暴しても罪にならないんだよ」

「マジか?」

「本当なのか?」

 みんな半信半疑だ。歓喜していた男が兵隊にたずねた。

「な? そうだよな? 俺たち無罪だよな」

「あぁ。有罪なのはこっちに寝ている女の方だ。違憲発言と、他ランク者の目前で肌を露わにしたわいせつ罪と、決められた服を勝手に脱いだことによる反逆罪だ」

 女は絶望の目になった。

 ひどい目にあっているのは女の方だ。そして、罰を受けるのは彼女なのだ。これが新しい世界の新しい秩序だ。

 兵士はレンズを取り出し、女に向けた。黙刑の罰をあたえるための呪文を唱えようとした。すると、男の一人が「待ってくれよ!」といって兵隊をとめた。

「ムショに転送するまえに、ちょっとだけ時間をくれよ」

 兵士はため息をつき、 

「俺は忙しい。五分で済ませろ」

 男たちは、喜びの声をあげて、われ先にと裸の女に飛びかかった。

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