新世界憲法
「われわれは魔導界から来た。魔導界とは魔法使いが住む異界だ。ある理由があって、たいへん申し訳ないが、地球を侵略・支配させてもらうことにした。侵略作戦は三日前から開始され、昨晩を以て全工程が完了した。あらゆる武力は無効化されていて、地球は完全にわれわれに制圧されている。
つまり、君たちはすでに魔導界の支配下にあり、われわれが制定した新世界憲法に従って生活しなければならない。新世界憲法に違反した者は厳しく罰せられ、死刑になることもある。安全に暮らしたければ、新世界憲法を正しく理解し、遵守することだ。
では、さっそく憲法の説明に移ろう。
われわれはオセロという黒い巨塔を世界中に建設した。その塔にはわれわれの世界の魔法技術をふんだんに使った装置が組み込まれていて、君たちひとりひとりの脳波を受信できるようになっている。さらにオセロには専属の魔導士が配置されていて、受信された脳波を解析し、君たちの幸福度を数値化する作業に当たっている。つまり、君たちはオセロによって幸福度を監視されているということだ。
これを踏まえて憲法の説明に入る。
新世界憲法では、オセロで計測された幸福度をもとに、君たちを三つのランクに分ける。ABCの三つだ。
そして、それぞれのランクには、幸福度の制限『ハッピーキャパシティー』と、使用できるお金の制限『マネーキャパシティー』が設定されている。
ランクによって、幸福とお金が制限されるんだ。だから、自分のランクの制限内の幸福しか味わえないし、お金を使えない。もし制限を超えた場合、憲法違反によるペナルティーが課せられる。死刑もありうる。
新世界憲法では給料という概念がない。毎月、ランクに応じたお金が政府から支給させる。貨幣制度も廃止。あとで配布するパーソナルカードをつかってすべての決済を行う。
では、それぞれのランクのキャパシティーを説明する。
ランクAの該当者は幸せ者だ。
ハッピーキャパシティーに上限なし。
マネーキャパシティーは月額1000万ポイント。
その他の制限について。
服装は自由。
発言規制なし。
労働義務なし。
参政権あり。
ランクBはごく普通の中級層といった感じだ。
ハッピーキャパシティーは40hpy以下だ。
このhpyという単位にはなかなかピンと来ないかもしれないから、例え話で説明すると、A5ランクの黒毛和牛サーロインステーキを一口食べたときの幸福感がちょうど39hpyだから、Bランク者は残念ながら極上の霜降りステーキを一枚平らげると刑務所行きだ。
マネーキャパシティーは30万ポイント。
まぁ月三十万が働かずに支給されるんだから、生活に大した不満はないだろう。
他、服装には一部規制がある。極端に派手な服は禁止。
労働義務あり。ただし職業選択権あり。
発言に一部規制がある。
参政権に関しては、立候補の権利はないが、投票権はある。
政治家はAランクのみで構成されることになるが、その政治家の前では発言は禁止される。それ以外ではとくに自由に会話していい。
そして、いよいよCランクだ。Cは地獄だ。
ハッピーキャパシティーは5hpy以下。
卵ぐらいなら食べても問題ないが、肉は少し危ない。
マネーキャパシティーは8万ポイント。
労働義務あり。職種選択権なし。
Cはみな、新政府によって決定された仕事をしなければならない。
服装に自由なし。
憲法で指定されたCランク用の服を着用しなければならない。
発言規制あり。
他ランク者の前では一切の発言・発声禁止。会話が許されるのは同ランク者間のみ。
その他、ランク規制の詳細は、リーフレットにしてあとで渡すから、各個よく目を通しておくように。知らなかったは通用しない。
新世界憲法によって新設された新世界政府には警察も裁判もない。警察の代わりになるあらたな組織「魔導ポリス」が組織され、その組織があらゆる違反を取り締まる。
死刑に該当する憲法違反を行った場合は、その場で死刑が執行される」
ローブ男の説明が終わった。説明を聞いているあいだ、誰も物を言わなかった。教室には生き物のいる気配すら感じないほど静かだった。生き生きしているのはローブ男のみだ。
彼は喜々として言った。
「では、これよりランクを発表する」
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