サイコな魔導士

「僕が魔法使いであることをまだ疑っているのは誰だい?」 

 彼はレンズを生徒たちに向けた。生徒はみな悲鳴を上げて逃げた。銃口から逃げ惑うような雰囲気であった。ローブはそれを見てケラケラと笑っていた。

 しばらく経って、ローブ男は、全員に席につくように促した。口ごたえするものは一人もいなかった。

 多くの生徒が席につこうとしたが、教壇の周囲には大怪我をしている男子生徒を介抱する教師と生徒が残っていた。

「おい、席に戻れと言っているんだ」

 ローブが言っても、みな素直には従わなかった。

 ローブ男が「リキッド・ジェッ」と言いかけると、みな悲鳴をあげて飛び退いた。

 ローブは満足そうに笑った。

 茜が泣きながら懇願する。

「お願いだから、傷の手当てぐらいはやらせて」

 ローブは少し考えたあとに、「君だけならいい。他は席につけ」と言った。

 全員がおとなしく座った。女子生徒の多くは、怖さのあまり泣いていた。

 茜は気の強い活発な女だったが、それでもボロボロと涙をこぼした。怖い……。

 制服のリボンをほどき、男子生徒の手首を縛って止血した。彼は、泣きながら痛い痛いと訴えた。

「ねぇ、彼だけは病院に連れて行ってあげて」

 茜がローブにお願いした。

「病院? 無駄だよ。病院だって結局はここと同じ状況さ。病院だけじゃない、世界中すべての場所で同じことが起きている」

 茜は恐ろしくて息を飲んだ。

 学校の近所の大病院も、魔導界からの使者に占拠されていた。

 その病院では、勘のいい者がいて、魔導士からうまくレンズを奪ったものもいたが、逆転の突破口にはならなかった。抵抗者は、見せしめとして、部屋に集められた大勢の前で虐殺された。

 世界各地で、勇敢な者ほど無残に命を奪われていった。

「傷の手当ては済んだみたいだね。席に戻ろうか」 

 ローブがいうと、茜は怖々ながらも反抗した。目に涙を浮かべ、キッと相手を睨み、

「止血しただけじゃ手当てとは言えないわ。はやく医者に見せないと手遅れになる!」

 ローブは小首をかしげて、不気味な無表情になった。しばらく謎な沈黙を続けたあとに、レンズで茜を覗いてリキッド・ジェットを唱えた。

 白い水の糸が茜の耳たぶを掠めて、微かな傷をつけた。

 茜の背筋が凍った。

 怖い……でも、屈するのが悔しい。葛藤していると、大怪我の男子生徒が彼女の腕をつかんだ。

「俺は大丈夫だ。席に戻ろう」

 茜は、心がひどく傷んだが、いいなりになるより他ない状況だったので、席に戻った。

 教室は墓場のように静まり返った。

「ようやく説明を始めるにふさわしい空気になったね。じゃあ始めるよ」

 血まみれの床の上で、ローブが得意そうに喋り始めた。

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