不信な巨塔
お話の舞台を地球にうつす。
茜は物質的にも精神的にも充実した幼少期を過ごし、磐石な土台の上に、明るい未来を切り開こうとしている時期であった。
彼女は幸せだった。
〇月○日。彼女が地球に起きた異変を感じたのはこの日であった。あまりも突然で、あまりにも理不尽な出来事であった。
朝八時。彼女は家を出て登校した。道の途中、仲のいい友達・佐藤晴加と落ち合った。
「おはよう」
お互いの元気のいい声がぶつかった。抱き合ってじゃれあった。
茜はセミロングの赤毛だ。染めたわけではなく、生来の色である。顔は小さくどちらかというと面長で、歯は真っ白に輝いている。肌は桜色で、炊きたてご飯のように艶やかで美しかった。
晴加は美人系の茜に対して、可愛らい印象の娘だ。ポニーテールが、健康的にピョンピョンと可愛く跳ねていた。
二人とも楽しそうに、元気いっぱいに、晴れた朝日に負けないぐらいキラキラを振りまきながら校門をくぐった。
教室は、華やかな制服をまとった若き花たちが談笑し、健やかな熱気が充満している。茜と晴加もその中に混じっておしゃべりを楽しんだ。
晴加がスマホを見ながら茜にたずねた。
「ねぇ、知ってる? 謎の黒い巨塔」
「なにそれ」
茜は晴加のスマホを覗いた。ネットニュースが表示されている。
「昨日、東京のど真ん中に、一夜のうちにしてとつぜん黒い巨塔が現れたんだって。スカイツリーよりもずっと高いらしいわよ」晴加がいうと、
「そんなのフェイクニュースに決まってるでしょ? そんなに高い建造物を一晩で建築するなんて無理よ」茜がからかった。
ところが、茜はすぐに異様な空気を感じ取った。教室中、みんながそのニュースのことについて話しているのだ。フェイクニュースは、一部のモノ好きにしか通用しない。ところが、教室中のみんながみんな反応していた。みんなが、黒い巨塔の話をしているのだ。その光景をみると、ただのフェイクニュースだと流せなくなった。
茜は、不穏な気分になり、眉を歪めた。
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