オーロラの雨

 あたしは精霊のニナ。

 あのね、オーロラが見えたから、あたしたち急いでオーロラの泉に向かっているのよ。

「ねえ、こっちでいいの?」アオが言う。

 あたしの定位置はアオの頭の上なんだ。アオの青いふわふわした髪の中、大好き! アオも大好き! アオは素敵な雷なのよ。


「うん、たぶん!」とあたしが言うと、地獄の小鬼のレイが「たぶん、じゃねーよ」と言った。

 あたしたち三人はとっても仲良しなの。

「だって、あたし、精霊だもん! ちっちゃいのよ!」

「それと、場所がわからねーのと、なんか関係があるのかよ」

「ニナちゃん、いじめちゃ、だめ!」アオはきっとレイをにらみつけた。

 アオはいつもあたしの味方なんだ。えへへ。


「あーもう、はいはい。あっ、ちょっとおれの隠れ家寄ってくれる?」

「隠れ家?」

「おう。最近天界に出張で来ることが多いから、隠れ家つくったんだ」

「えー、なんで教えてくれないの?」とあたしが言うと「だってお前に教えると、めんどくさいだろ?」とレイが言って、アオが「ごめん、ニナちゃん、ぼくは知っていたんだ……」と言って、ぽろって涙を流した。 

 あん、アオ、泣かなくていいのよ? あたしはアオの涙をそっと触った。


 ぽん!


 あたしはまた大きくなった! 

「ニナちゃん!」アオはあたしをぎゅってした。

 あたしもアオをぎゅっとする。大きくなると、ぎゅっと出来て、いいね!

「あー、もしもし、おふたりさん。おれ、隠れ家からオーロラの糸を入れるいれもの持ってきたいんだけど?」

 レイがそう言った瞬間、あたしはもとの手のひらサイズに戻り、アオの上に戻った。


 あたしたちはレイの家から大きな布袋をとり、オーロラの泉へ急いだ。


 天界の空には、七色に光るオーロラが輝いていた。

 なんて、きれい。

 群青色からライラック色へグラデーション変化する夜空に、美しくひかっている。オーロラの七色の光は混ざり合いながら、上から降り注ぎ流れるようなドレープをつくり、幻想的な光景を天界の夜空に映し出していた。


 オーロラの泉に着くと、空が泣き出しそうになっていた。

「間に合った!」とレイが言って、あたしもアオもうなずいた。


 オーロラが滲んで、オーロラの雨が、霧雨のような七色の雨が、やわらかく降り注いできた。

「あたし、初めて見た。オーロラの雨」

「ぼくも」

「おれも」

 あたしたちはしばらくの間、オーロラの雨を眺めた。

 オーロラの雨はやさしいシャワーのように降り注ぎ、オーロラの泉に集まっていった。


「きれいね」

「うん、でも早くオーロラの雨を集めないと!」

 レイが言って、レイはアオといっしょに袋の口を広げて、オーロラの雨つぶを拾った。


 言い伝えがあるの。

 オーロラの雨つぶからとった糸で織った、オーロラの布のドレスを着て結婚式をした花嫁は幸せになれると。


「ねえねえ、拾えた?」

「うん! 見て、ニナちゃん!」アオは袋の口を、あたしの方に見せてくれた。

 オーロラが滲んで、雨みたいに、オーロラの泉に降り注ぐ。泉に吸い込まれる直前に集めると、雨つぶは水の筋をきらきらとした糸に変えるの。


 あのね、あたしたち、この間スパイごっこをしていて神さまの書斎に入ったの。

 神さまにすっごく怒られちゃったんだけど、結局みんなで神さまとお茶しておしゃべりして、教えてもらったの。

 人間界にいる、神さまの娘さん、リリー・ホワイトの子孫たちのこと。虹の境の中に住んでいるんだって。

 それでね、こないだ見つけちゃったの。

 リリー・ホワイトの子孫のモーブが、人間の女の子のライラと結婚しようとしているのを。ふたりだけの結婚式を。


 モーブもライラも、とってもかわいいのよ。

 あたしはアオとレイと相談して、プレゼントを贈ることにしたの。

 オーロラの布でつくったドレスを。

 幸せにしあわせになってほしくて!


 あたしたちはオーロラの雨つぶからとった、オーロラの糸が入った袋をかかえて、レイの隠れ家に行った。

「急いで布にしてね、レイ! アオ!」

「時間軸をさ、変えられるとはいえ、大変だよ、これ」とレイ。

「ううん、でもさ、ぜったいにあげたいの! 神さま、よろこぶよ!」

「布にして、それからドレスにするんだろ?」

「うん! あたしはね、ちっちゃいから、応援する係なの!」

「ニナちゃん、ぼく、がんばるよ!」とアオ。

「ありがと!」


 アオとレイがうんとがんばって、素敵なドレスが完成した!

「うわあ、かわいい! リボンもお花もいっぱいついてる!」

「でしょー」とアオは得意そうに言った。

「それでね、これ、ニナちゃんの」

 アオとレイは、精霊サイズのドレスをあたしに差し出した。

「きゃー、かわいい! ありがとう、アオ、レイ!」

 白地なんだけど、角度によってオーロラ色に輝くドレス! ひらひらしていてすっごくかわいくて、あたしに似合うの!

「モーブに、ライラのドレス、届けに行こうぜ」

「うん!」


 あたしたちは虹のふもとへ向かう。

 銀色の髪と紫の瞳をした男の子に会うために。

 よろこんでくれるといいなっ。

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