スパイごっこと神さまの書斎

 あたしはレイとアオといっしょに神殿の奥に忍び込んだ。

 うふふ。

 あのね、いまね、みんなで神さまの書斎を探しているの。スパイごっこなんだから!

 あ、あたしは精霊のニナ。レイは地獄の小鬼で、いま仕事で天界に来ているんだよ。それで天界に住んでいるの。アオは七代目のセント・エルモの雷で、天界で雷修業しているんだ。あたしたち三人は仲良しなの! みんないっしょで嬉しいな。


「おい、おれを巻き込むのはやめてくれよ」

 レイが困ったように言った。

「だって、約束したじゃない! スパイごっこしよって!」とあたしが言うと

「ニナちゃんが言うんだから、間違いない!」ってアオが言う。

 あたしはアオの頭の上で、アオの青い髪をもしゃもしゃして笑うと、レイは「もうしょうがないなあ」って言って笑った。


「ねえねえ、どうやったら虹の森に行けるかなあ」

「それを探しに、神様の書斎に行くんだろ?」

「ぼく、ニナちゃんと虹で囲まれた森の国に行きたいなあ」

「前さ、蓮の葉っぱから、ぴゅーんと人間界に行ったことがあったのよ。青い実からぽんって出たの。レイに会ったよね?」

「ああ、それ、イレギュラーだから。……あんときはほんと、迷惑だったぞ」

「ぼくの知らないとこで、ニナちゃんに会わないで!」

 アオの手からぱちぱちと雷の光が出た。

「お、お前、それやめろ! そもそも、アオに出会う前のことだからっ」


「うふふ、アオ、だいすき!」

「ほんと?」

「うんっ」

「あーあ、もうやってらんね」

「レイも好きよ?」

「ニナちゃんはぼくのっ……!」

「うわっ、やめろっ!」


 アオの小さな雷撃から逃げて、レイが走って行った先に重厚な扉があった。蓮の花の飾り彫りがある、美しい白い扉。レイの角がその扉の鍵穴に刺さって、白い大きな扉がぎいと開いた。

「……ここ、もしかして、神さまの書斎?」辺りを見回して、レイがそう言った。「そうかも」とアオが言う。

 これまでこっそり見て来た部屋とは全然違う、雰囲気。

 なんかね、とってもやさしいの。 

 神さまの銀色の髪の輝きが、紫色の光が、そこここに落ちているような気がした。室内はたくさんの本や書類がありつつも、気持ちよく整えられていた。大きな本棚に、使い込んだ古い机。壁には様々な絵がかかっていた。


「あっ」

 あたしたちは部屋に飾られている絵の一つから目が離せなくなった。

「神さまにそっくりな女の子……」

 あたしはアオの頭からふわりと飛んで、絵に近づいた――と思ったら、ひょいっとつまみ上げられた。

「ニナ!」

「神さま!」

「勝手に書斎に入ってはいけません!」

「ああん、だってえ」

「レイもアオも!」神さまはめってした。

 それから、あたしを見て、それから神さまにそっくりな女の子の絵を見て、少しさみしそうにわらった。


「ねえ、神さま。虹の森に行きたいの、あたし」

「自分の力で行く道を探してごらん?」

「ヒント! ねえ、ヒント教えて?」

 神さまは、今度は面白そうに笑って、「虹はどんなときに出来るのか、考えてごらん?」と言った。

「えー、わかんないよう」とあたしは言ったけれど、神さまはそれ以上言わずに、おいしいクッキーとお茶を出してくれて、みんなでお茶会をした。

 

 すごくすごくおいしくて、なんだかとてもしあわせな気持ちになった。

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